僕と父は家に帰る途中で妊娠した電柱を見つける。
電柱を覆っている縞模様のカバーが異様なほど膨れ上がっている。
そろそろ出産が近いのか小刻みに震えて切なげに鳴いている。
「いい機会だ。見ておきなさい」
と父はそう言って僕の肩をたたく。
僕は仕方がなく頷く。
電柱が唸りながら身をよじらせると彼女の根元のひび割れた部分から
大人と同じ位の大きさの電柱がゆっくりと出てくる。
「生命の神秘だな・・・これは」
と父は感嘆した声で言う。
生まれたての電柱は耳障りな鳴き声を発しながら体を震わせている。
僕は早く電線が生えてきて動けなくなってしまえばいいのになと
のろのろと這いずり回る幼い電柱を見てそう思う。