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箸休め

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生き物だから


 最近分かり始めたことがある。
 どうやらボクは彼らの家族ではないらしい、と言っても彼等はボクに住む場所もご飯もくれるので不満はない。
 でも、話が通じないのだけは寂しいと思う。
 彼等は巨人だった。
 大きな体で、毎日違う形や色の毛皮に変わる。
 ボクにはちょっと出来ない。
 でもみんながボクを好きで居てくれるのはとても分かる。彼らの足元で、
「おなかが減ったよ」って言えば言葉は通じなくても彼等はボクの為にご飯を用意してくれる。
 大好きなボクの家族。
 外に出た時はびっくりした、大きな早い何かがすごく煩くて、そしてとても怖くて
 近くで寝ていた三つも色が付いたお洒落なおばさんに慰めてもらった。
「坊や、一人で外に出たら危ないでしょう、早くお母さんの所に帰ったらどう」
「ボク分からないんだ、どこがボクのウチなのか」
 おばさんは困った顔をして、
「困ったね、でもおばさんも私の坊や達の近くから出るわけに行かないから・・・そうね、ここの塀の上をずっと進んでいくと黒の親分さんが居るからその人に助けてもらったらどうかしら」

 ボクはお礼を言って塀の上になんとかよじ登って歩き出した。
 とても風が気持ちいい、あの巨人達でさえ僕より下にいるよ。
 ボクは帰ることを忘れてウキウキしていた。

 そんな時、ボクのお腹を大きな手が掴んだ。
 あっという間に見知らぬ巨人がボクを抱きかかえている。
 ボクは震えた、怖くて丸くなって大きな声で叫んだ。
 その瞬間、巨人は奥の頭を叩いた、頭がくらくら来るような強い衝撃で目から涙が涙が出たけど、それよりもこの巨人が怖くなって大声で泣いた。
 巨人はもう一度さっきより強くボクを叩いた。
 その後も、ボクが泣き止むまで叩いて叩いて叩きまくった。
 ボクはもう声すら出すことを許されていなかった。
 巨人は残酷そうな目でボクを見ると、満足げに見つめてと頭から大きな袋のなかに入れて僕を閉じ込めた。

 ボクは狂いそうだった・・泣いても、帰って来るのは袋の外から来る巨人のコブシだけ
 体中が痛くて孤独で、とても不安だった。
 外になんか出るんじゃなかった、家に帰ってみんなに会いたいよ、こんな意地悪な巨人じゃなくて、温かいみんなの下へ・・


 少しして、巨人の動きが止まった。
「帰れるのかな・・」
 ボクは密かに願った、「神様、ボクははやく帰りたいです。こんな意地悪な巨人から逃がしてください」

 するとボクの体は急に宙と持ち上がり・・何と言うか地面が天井になったみたいに、そのまま急加速で地面に叩きつけられた。
「(ウソ・・)」
 地面には堅い岩があったみたいで体中から変な割れる音がした。
 痛みは無いけど、急に体中の力が抜けたみたいに涙があふれた。
 直ぐ後に、頭をかき乱されるような強い痛みがやってきた、体が動かされる度に頭が焼け付くような痛み。
 声は自然に漏れていた、涙は止まらなかった、痛みも止まらなかった。
 巨人は笑っていた。
 袋の中はすでにボクの血でいっぱいで、お腹は裂けて色んな物がボクの顔に乗ってきた。
 
(かえりたい・・・かえりたい・・かえりたい)



「うわぁぁぁ」
 少年は涙が止まらなかった、失禁すらしていた。
 体は小刻みに震え、罪悪感からか人の目を見ること出来なくなっていた。
 
 ・・それとも恐怖か。

 拘束具を外し、椅子から下ろしてやると彼は猫のように、白い部屋の隅で丸くなって恐怖の色を私達に見せた。
「君にも何か悩みがあったのかもしれない、しかし命を奪う行為を行うのは罪だ。それは猫でも同じことだと分かったか」
 彼は何も言えず震えていた。
 弱いものを苛めて喜んでいた連続小動物殺害犯は十代の少年だった。
 彼のストレス発散は猫などの弱者に対する悲惨な拷問殺害。

 だが彼も無抵抗に殺される痛みを理解してくれただろう。

 彼が先ほどまで付けていた仮想現実体験機器はNASAと日本の技術者で共同開発された宇宙空間での生活を仮想的に行うイメージ増幅装置だ。
 この機器を使うと、使用者はそのイメージの登場人物になりきってしまう。
 つまりこの少年は仮想空間で自分の手で一度殺されているのだ。
 これは相次ぐ少年犯罪を防止する為に今年から採用されたシステムで、強姦犯や、悪質ないじめを行ったものにそれ以上の同じ苦しみを味合わせて、再犯を防止するのを目的としている。


 先ほど話しかけた管理者と思われる男は少年に近ずき、
「怖かっただろう、君が殺してしまった動物たちも同じ気持ちだったんだよ。私達と彼等は話すことは出来ないけど、同じように痛みも恐怖も感じるんだよ」
 少年は彼の顔を見た、管理者の男は彼が十分反省したと考え、彼に優しく一言言った。


「さあ、お家へ帰りなさい」






--猫との取引にはお気をつけて--


 ある所に魔女と、その僕の黒猫が居ました。
「ご主人様、お腹が空きました」黒猫は彼女の足元に行き、急かすように
 にゃんにゃん、と鳴いた。
「お黙り、このごく潰し。今わしは一番いい所なのよ」
 彼女は、煮え立った緑色の液体の中に、チコリー、ペッパーミント、白樺の葉を擂粉木で潰して丸めた物を鍋の中に入れる。
 鍋の中の色が薄く変化し、少しずつ青くなる。
「ヒヒヒっ、成功だよ。夢の続きが見れる薬が完成したんじゃあ」
 大声で実験の成功を喜ぶ笑い声を上げた。

 この秘薬は、王様が魔女に注文したもので、
「この前、見知らぬ女と食事を取った夢を見たのだが、もう一度その続きが見たくて仕方が無い」
「(何とか余の悩みを解決してくれ)」魔女は王様との会話を思い出し、今度は思い出し笑い。
(やれやれ、王様も暇なお人よ)
 とは言え、これを渡せば金貨3枚。服用し続けてくれれば・・・ウヒヒ
 下品と知りつつも、だらしなく広がった唇から涎が溢れた。

「ねぇーねぇー、ご主人様ぁ」黒猫はしつこく魔女に縋った。
 何せ、もう長い間も食事にありつけていない。
 魔法でベーコンエッグを作っても、黒猫の口の中には一口も入らず、彼はじっと我慢した。
 最後に食事にありつけたのは何時だっただろう・・・、覚えているのは、戯れに食べてみた蛙が以外に美味しかった事。
 今日食事を貰えなかったら
(こんな家、出て行ってやる)
 そんなのは無理だ、彼は魔女に召喚されて契約した使い魔。
 確かに使い魔として召喚されて、言葉がしゃべれるし話も聞ける様にはなったが、彼女は黒猫を利用するばかりでご飯もろくにくれず、彼は彼なりに腹を立てていた。
(契約さえ解除できたらなぁ)
 そんな事を願いつつもむなしく毎日彼女からの仕事をこなしてきた。

 今日はほんとに天気がいい、王様からの仕事は完成した。時期にこの甘美な夢の続きを見れる薬は、魔女に莫大な財産を築かせてくれるだろう。
 ようやくにして運を掴んだ魔女。仕事も終わり、もう時期貧乏生活も終わることを考えると、彼女はまた
「イヒヒヒ」と気持ち悪い笑い声を出す。
 その下を懇願するように黒猫はニャンニャン鳴いて回っている。
 魔女は少し考え、
「よし、今日は奮発して町で美味しいものでも食べようかね」
「ええ!」これには黒猫も驚いた
 あのドケチで、人嫌いで、傲慢で、節約が三度のメシより好きな、この魔女がそんな事を言うとは。
「・・・雪でも降りますかね・・・」
「あんた・・・、を馬鹿にしてるのかえ」

 
 町に着いた一人と一匹は、洒落たレストランに入った。
 魔女は自分の姿を見て、
「はぁ、わしがもっと美しかったら、毎日町にでも下りてやるのに」
 ちょっと自分が、みすぼらしく汚らしい事を意識してモジモジした。
「(御主人様御主人様、ボクこれがいい)」人前では絶対に人の言葉を話すなと強く念を押されていたので、小声で魔女に話しかけた。
 猫は無邪気だ、悩みは無いのかねぇ、と忌々しく見つめた。
 猫が指したのは海魚をトマトとクリームで甘辛く煮たものでマカロニが皿の端に乗っているものだ。
 恥ずかしがっていた魔女だが、魔法で合成した食べ物の素っ気無い味より本物の食べ物が美味しいに決まっている。
 また、だらしなく涎がテーブルにこぼれた。

「ごく潰しの猫よ、そいつは洒落てるじゃないか。でもワシはこっちもいいと思うんだが」
 指差したのはブタの背中の肉を丸々油で揚げたこれまた量が半端なく多そうな一品だ。
「さすが御主人様、最高ですよ。両方食べましょうよ」
 乗りに乗った魔女は金貨一枚をテーブルに置き(破格の額である)、ウェイターにこの2品の料理と、前菜に”枝豆と大豆をトマトソースで絡め、中にソーセージを刻んだサラダ”、そしてジョッキで冷えたビールを注文した。

 なぁに金ならもう直ぐ手に入る。
 魔女と猫は、大はしゃぎで料理とビールを楽しんだ。

 始めは気味が悪いと回りも避けていたが、次第に魔女の本当に旨そうな食べっぷりを聴衆が集まりだした。
「魔女は儲かるのかい」と言う質問もあれば
「その鼻は付け鼻なのかい」
 と言う失礼なものまで、まさに無礼講で普段から聞きたかった質問や話をどんどん魔女に聞いてきた。
 その中でレストランのウェイターがこう言った。

「どうだい旨いだろう、魔女にはこんな旨い食事を作ることは出来ないだろう」
 聴衆は囃し立てる。
「当たり前なことを聞くなよ、魔女ってもんはメシくらい魔法で作り出すもんさ」
「それか、鍋に煮込んだイモリのスープくらいなもんだろう」
 当たってはいるが、彼らの偏見にいい気がしない魔女はこう回答した。

「バカだね、魔女だって料理の一つや二つぐらい出来るもんさ。それとも何かい、お前さん方は魔女は魔法で食べ物を足していると思っているのかい」
 聴衆達は思い思いに魔女の料理する姿を想像しましたが、どうしてもイモリや馬の精液を鍋に入れて煮え立たせる、典型的な(魔女)の姿しか想像出来ません。
「魔女の婆さんよぉ、あんたにゃあ悪いが、あんたが料理している所を全く想像も出来ないや」
 農夫に連れられた幼い少年が囃し立てた。
「じゃあ、お婆ちゃんの得意な料理はなぁに」
「なんでも出来るさ、自慢じゃあないが、この数十年女手一人で生きて来たんだからね。
 黒猫は、久しぶりに満腹のお腹を押さえて、
「(大見得張らなくてもいいんじゃないですか?御主人様が台所に立つ所なんか想像出来ませんよ)」
 黒猫は馬鹿にしたように、魔女に囁く
「(この無駄飯食らいのバカ猫、良くお聞き。あんたちょっと満腹で気が抜けたからと言って人の言葉を喋るんじゃないよ。あんたが喋ると色んな魔法が解けちゃうからね)」
 忘れてた、ボクが話せるのも魔女が魔法を使えるのも”秘密の力”があるからで、約束を破ると全部無くなっちゃうんだった。

 
 魔女は立ち上がり「厨房をお借りしますよ」と言うと、汚れた服を引きずって厨房に入る。
 コック達はすごく嫌な顔をした。
 魔女はそんな事を気にせずに、鍋に水を張り、湯を沸かし始める。
「このカブは旨そうだね、借りるよ」
「(返すつもりなんか無いくせに)」黒猫は呆れながら大あくび
 魔女は、手際よくカブを洗い、誰の目にも見えないほどのスピードでカブを薄く切って行く。 
 黒猫は目を細めて魔女の手を見る。 手が動いているのでなく、ナイフが自動的動くように魔法が掛けられ、むしろ手が動かされているのだった。
(まったく、力の無駄使いばっかりして)
 料理の魔法を掛ける危険性をこの黒猫は良く知っていたが、気持ちが良かったので、つまらない事で怒られるのが嫌だなぁと寝た振りをすることに決め込んだ。

 魔女は精力的に魔法を料理に注ぎ込んだ、自分が酔っ払ってなかったらどこかでブレーキが掛る所だが、ビールをたらふく飲んで完全に出来上がっていた。
 魔女は最後に取って置きの魔法を塩と共にスープにふり掛けて料理を完成させた。
 猫は寝息を立ててぐっすり寝ていた。


 完成したスープを聴衆にくばり皆が一啜りして言った。
「うん、まずい」
 言葉を発したと思ったら、皆の体に異変が起きた。
 体が急に熱くなって、体毛が濃くなり、体は縮んでいった。
「あれ、あれれ」
 魔女も真っ青、スープを飲んだ人々はあっと言う間に猫になってしまった。

「うわぁ、何をした貴様」辺りで見ていた人々は、大慌て。
 自分の子供が、奥さんが、お爺さんが、みんな猫になってしまったのだから。
 
「魔女め、俺達に何をするつもりだったんだ」
 魔女は皆に責め立てられた。魔女の顔も真っ青、
「(しまった、適当に魔法を唱えたら猫になる魔法だったか)」
 後悔してももう遅い、村の若い者は槍を持ってきて魔女を脅した
「汚らしい魔女め、今すぐに皆を戻せ」
 誰もが血気だって居る。嫌でも酔いは冷めた。

 黒猫が目を覚まし魔女に囁く
「(馬鹿だなぁ御主人様。やったことも無い料理を魔法で旨くしようとしたりするからですよ)」
「(忌々しい猫だ、しかし今更どうにもならん。一体どうやればいいんじゃ)」
 魔女は頭を抱えてしまった。
 冷や汗をダラダラ流して、彼女からは異臭の如き不快な匂いがする。

 黒猫は魔女にこう言いました。
「(元に戻す魔法を忘れちゃってるんなら、いい方法があるよ)」
「(本当かえ)」今の魔女の顔は気持ち悪いほど歪んで見える。
「(魔法を取り消せばいいんだよ、つまりボクとの契約解除。貴方が許してくれるなら、僕が魔法を解除するよ)」 
「(そりゃあだめだよ、家の中の薬まで力を無くしちゃうじゃないか)」
 魔女は大慌てて拒否した。
「(じゃあ御主人様の好きなようにすればいいさぁ、ボクただの猫だし)」
「(きいい、この恩知らずのクソ猫、今すぐ殺してやろうか)」
「(ボクを殺してもどちらにしろ魔法は解けるけどね)」
 魔女には次の言葉が出ない、
「わかった・・・契約は解除だ。どこへでもいきやがれ・・・」
 黒猫はニヤリと笑い、一番目立つテーブルの上に乗って二本足で立った。

「えー、皆々様、大変ご迷惑をお掛けして申し訳ない。これより魔法の解除を行います」
 周りに居た全員が、目を丸くして絶句した。
 と、次の瞬間
 猫になってしまった人々はビデオの逆再生の様に元の人の姿に戻っていった。

 周りの人々があっけに取られている中、黒猫は気味の悪い笑い声を上げながら何処かへ駆け去っていった。




 小さな農家の暖炉脇で、お爺さんは孫娘に絵本を読み聞かせていた。
「ねぇ、お爺さん。その後、魔女はどうなったの」
 孫娘は、興味深いと物を言う、その黒くて大きな目をお爺さんに向ける。
「ああ、魔女は何とか無事に家に帰れたが、王様への薬は台無しになっていて、いつの間にかその住処を捨てて引っ越したみたいだね」
「黒猫はどうなったの」孫娘はお爺さんに聞く
「その後のことは伝わってないみたいだね。何処か遠くに逃げたんだと思うよ」
 孫娘は納得行かないような顔をして、お爺さんに聞いた。
「ねぇ、このお話しは一体何が言いたいの」
 おじいさんは少し黙って考えてこう言った。


「猫を信じるなって事だな」


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--小さな家族--
 
 僕の名前はミケ。三毛猫だからミケ。単純な名前だけど気に入っている。名前は、飼い主の真一が付けてくれた。
 本当は猫が飼えないアパートなんだけど、ペットショップで僕を見つけて、どうしても飼いたいと、大家さんに頼み込んだそうだ。
 古いアパートで住民も少ないし、大家さんが凄く猫好きだったので、許可をもらえたそうだ。

 ペットショップから外に出た時は、少し怖かった。
 僕は外に出るのは初めてで、どんな所に連れて行かれるのかとても不安だった。
 でも真一は、とても優しかった。小さい頃からずっと、猫を飼いたいと思っていたらしい。

 真一が仕事に行くととても暇なので、ウトウトするか、部屋の中を意味もなく走り回ったりしている。 
 たまに部屋をグチャグチャにしてしまって怒られることもあるけど、なんだか楽しくて、やめられないんだ。 
 一人だと退屈だから。
 仕事から帰ってくるといつもボールで遊んでくれるのが嬉しい。
 帰ってくるのが待ち遠しい。
 たまに大家さんが、真一と僕に差し入れを持ってきてくれる。
 僕には、たいていマグロの缶詰なんだけどね。

 半年ぐらいした頃、大家さんが申し訳なさそうに、
「猫を飼うのをやめて欲しい」
 と言ってきた。
 理由は、とても動物嫌いの人が引越ししてきたらしく、早く追い出せと大家さんに文句を言うから。
 しかたないよね、世の中には色んな人がいるんだから。
 
 僕はダンボール箱に入れられて、久しぶりに外に出た。
 春風が心地よく、ちょっぴり嬉しい。
 だいぶ時間が経つと河原に着いた。
 高架の下に真一が、ダンボール箱を置いた。
 僕が何だろうと不思議に思っていると、
「ごめんな。もう家で飼えなくなったんだ。飼い主見つけようとしたけど断られてばっかりで・・・」
 少し涙ぐんでいるようだった。
 僕は「ニャア」と首をかしげて鳴いてみた。
「早く、いい人に拾われるんだぞ」
 と言い残し、真一は遠くへ行ってしまった。

 僕は急に不安になった。
 独りぼっちになってしまったから。
 お腹もすいてきた。
 どうしよう、周りに食べるものなんてないし。
 不安な気持ちでいっぱいになっていると、キャッチボールをしていた男の子二人が僕に近づいてきた。
 背が低いから小学生ぐらいかな。
「この猫可愛いなぁ」
 と一人の子が僕を触ろうとすると、もう一人の子が
「野良猫って触っちゃいけないんだぜ。バイキンいっぱいなんだってさ」と言ってきた。
 僕は野良猫なんかじゃないのに・・・と思ったけど、人から見ればそう見えるんだろうな。
「えーでも可愛いのになぁ」
 と言いながらションボリとした表情で何処かへ行ってしまった。
 周りもだんだん暗くなってきて、お腹もすいてることもあり眠くなってきた。
 もう寝ようかな…
 電車の音がウルサイし、少し冷えるので寝にくかった。
 
 太陽の光で目が覚めた。
 とても眩しい。
 とにかくお腹がすいた。
 早く何か食べたい。
 でも体が重いし眠い。
 しばらくウトウトしていると、昨日の小学生が一人でやってきた。
 「昨日はごめんな。」と言ってパンとミルクを僕の前に置いてくれた。
「これ、少しだけどあげるよ。ウチで飼えればいいんだけど、おかぁさんがどうしてもダメって言うんだ。だからパンとミルク貰ってきたんだ。」
 僕は、ありがとうの代わりに「ニャア」と鳴いて、パンをムシャムシャ食べた。
 お腹がすいていたので、とても美味しかった。
「じゃあ僕は学校行ってくるね。また来るからね」
 と言って、僕の頭を頭を優しく撫でてから、元気に走って行った。

 パンを食べてミルクを飲んだら、なんか元気になってきた。
 ちょっと冒険しようと思って、ダンボールから出てみた。少しフラフラするけど大丈夫。
 土手を登って歩いていくと、土手のすぐ横にある公園に出た。
 そこで可愛い猫に出会った。
 話がしたいなと思って近くによってみたけど、すぐに逃げてしまった。
 嫌われたかな。

 少し疲れたので今日はこの公園にいようかな。
 ずっと家の中に居たから、あまり長く歩けない。
 ベンチでウトウトしてたら1日が終わった。
 ニャーという鳴き声で目が覚めた。
 辺りはまだ暗かった。
 先ほど逃げていった猫だ。
 僕も「ニャー」と返す。
 魚を持ってきてくれたみたいだ。おいしかった。
 食べ終わってから、いろいろと話をした。
 それからは、この猫とずっと一緒に居るようになり、子どもが産まれた。
 今は、とても幸せな時間を過ごしている。
 辺りは、初夏の匂いに包まれていた。


作:AIBOU
      自来也盗物帳


 華人の星の繁華街では窃盗が多く、元々治安は決して良いものではなかった。
 しかし、ここ数週間の間、良くも悪くも話題を集めた賊がいた。

 その賊は決して貧乏人の家は襲わず、人を殺さず、女に暴行を行う訳でなく、特に警戒の厳しい並の賊であれば遠慮したいような富豪だけを狙った。
 そして彼は盗み取った家の壁には白粉で、我来也(我、来たる也)と書き記し去るのである。
 そこから、華人達はこの賊の事を
「我来也」と呼び、関係のない貧乏な民衆は彼の盗み働きを面白おかしく話し合った。

 他人の不幸は甘い蜜、特に嫌な金貸しや、裏で悪事を働く商人の家が賊にやられた時は
「いやぁー、気持のいいやつが現れたもんだ」
 と、別段恩恵を受けた訳でもないのに、彼は一躍ヒーローと成って行った。

 その話題に気分を良くしたのか、更に警備を増した屋人の家や、どんなに優秀な警備を四六時中警戒させた商人の家でも、それこそ「あっ」と言う間に金品奪ってしまうのだ。
 まるで、その盗みの腕を世間に披露する為に行っているようでもあった。
 
 これに対し、商人達の組合は役人に届け出を出した。
 当然、警察役所も面子を潰されているので、これを快諾し、星を挙げて賊を狩り出す事となった。
 星で我来也一人の為に動き出した役所の兵の数、一万人。
 どれだけ役人達や王宮の高官達が彼に驚異を抱いていたか分かるだろうか。


 それから数日後、見かけぬ若い兵が一人の賊を引連れて
「こいつが我来也であります」
 と派手な格好をした三十半ばの男を引いてきた。
「本当に其の者が我来也であるのか」
 役人はその若い兵に聞いた。
「間違いありません、この者が壁に我来也と描いていた所を捕まえたのです」
 役人はこの若い兵に少しの金を掴ませて、役人はすぐさま役所に引き立てられ拷問にかけられた。

 数刻の間、我来也と言われ連れて来られた男は竹竿で体を打たれていたが、彼は同じ言葉しか繰り返さない。
「ワシは我来也ではない。確かに盗みは行ったが、本物の我来也を真似しただけだ」
 なにぶん証拠とすべきものが何もない、用意に判決を下す事が出来ない。
 役人も疲れ、彼を牢にぶち込んだ後、獄卒に後を任せその場を去った。


 その夜、賊の男は獄卒を手招きして呼び
「おいおい、そこの色男さん。ちょいとおれの話を聞いてくれないか」
 獄卒は”ばかばかしい”と思いながらも笑いながら近くによる。

「ワシは盗賊には違いない、それは認めるが我来也ではない。しかしのぅ、捕まってしまった以上しょうがない。般若湯(酒)を一杯貰えたらこれまで貯めた金品の一部をあんたにやろう」
 獄卒は再び苦笑した、そんなに酒が飲みたいのなら少しばかり与えてやろうか。
 暇なこの仕事の中で、少しばかり面白い話を聞いてやろう
 獄卒は湯飲み一杯のぬるい酒を与えると、その賊は話をしだした
「今までワシも我来也ほど派手にではないが盗みを続けて溜め込みがあるんだがその一部を町はずれの供養塔の中に隠してあるんだよ」
 詳しい場所を賊から聞き出したが、塔の中には上り下りの人も多い、そこに隠してあるとは疑わしい。
 こいつは自分を担いでいるんじゃなかろうかと思っていると
「まぁまぁ、何だかんだでやってみなよ。何かの仏事があるとか言って灯篭に火をつけて回るうちに機会を得られようさ」


 次の日、仕事帰りに”ばかばかしい”とか思いながらも、獄卒がその通りに行うと確かに見たこと無いような大金が入っていた。
 彼は大喜びで帰り、次の仕事の時に酒と肉を持ってきた。
「その調子じゃあ上手くいったようだな」
「ああ、とんでもない額だったよ、他の奴に言ってないんだろうな」
「当然、話す相手は選んでいるさ。こんな事言って役所に話されちゃあまずいからな」
 二人はこっそり酒と肉でささやかな酒宴を行うと、獄卒は賊に話しかけた。
「昨日、一部と話していたが、他にもあるのかい」
「ああ、当然。金はいくつか隠してある」
「なぁ、他にもあるんなら教えてくれよ」
「ええぞ、じゃあ情報交換だ。ワシを捕まえた奴は今どこに居るのか知ってるか」
「おいおい、何だよ復讐でもしたいのか」
 賊はニヤリと笑い
「やられっぱなしじゃあ気持ちよくないでのう。色男よ知っとるか」
「明日調べておくよ、分り次第教えてやろう。で、次はどこに隠したんだ」
 彼は、次郎橋と言う橋の下に壺を隠していてその中に入っているとの事だった。
 しかしそこは人足が絶えない場所だし怪しまれるだろうと獄卒は言う。
 賊はこう言った。

「竹籠に洗濯物を入れて行って洗濯すりゃあいい。そして壺を見つけたら、周りから見えないように洗濯物で隠して帰りな」
 賊は詳しい壺の隠し場所を教えてやった。


 次の日、獄卒は言われたとおりに次郎橋の下で洗濯をしながら壺を探し、首尾良く持ち帰る事が出来た。
「最高だよあんた」
 獄卒は気分よく肉と魚、それにいつもより多くの酒を持ち込み、再び酒宴を開いた。
「そうそう、あんたの探していた男は町はずれの林の中に住んでいて、変な乗り物に住んで居るようじゃ」
 賊はうまそうに一啜りした
「煙草もらえねぇか」
 獄卒は賊に煙草を一本渡し、賊は煙を旨そうに吐き出した。
 魚を骨までしゃぶり、平らげた後、賊は煙草をふかしながら獄卒に言った。

「悪いがもう一つ頼まれてくれんか」
「ええぜ、ええぜ。何でも頼んでくれ」
 酒も入り酔っていた獄卒は軽く請け負う
「ワシちょいと表に出たいんだよ。今が二更(午後九時から十一時)だろ、四更(午前一時から三時)までに帰ってくるから何とかしてくんねぇかな」
 さすがの獄卒の酔いも覚めた。
「いやぁ、あんたの願いでもそればっかりは」
 当然である。自分の仕事を放棄しろと言っているのだから。
「心配するな、お前さんには迷惑を掛けんよ。万一ワシが戻ってこなくてお前さんが罰せられたとしても流罪ってとこだろう。いままで与えた金で死ぬまでゆっくり暮らせるだろ」
 獄卒は腕を組み少し考えてみた。
 確かに生きるのには問題ないほどの金はある。それに彼が気を悪くして、今までの事を彼の口からばらされたら、それこそ罪は大きくなる。
 獄卒は
「…いくら出すよ」
 賊はニヤリと笑い酒を一息に飲み、獄卒に次の宝のありかを教えた。
 一通り伝えて、獄卒が満足すると、彼は牢を開き、賊を見送った。
 獄卒も多少心配になり、何度も入口を見回ったり牢の中で頭を抱えたり、落ち着きが無かった。
 何より、先ほど伝えた賊を捕らえた男を殺しに行ったのでは無いかと…、嫌な妄想ばかりが出てくる。

 しかし、何の事か。
 賊はきっちり時間になると、ひょいと牢に戻ってきた。
 彼の体からは血の匂いも、血痕の後も無く。何事も無かったかのように牢の中に入ると、一言二言話した後、いびきを立てて寝入った。



 夜が明けると、久しぶりに役人が牢に入ってきた。
 賊がいる牢まで行くと
「危なく判断を誤る処であった。お前が白状しないのも無理は無い。我来也は別にいたのだ」
 獄卒は驚き、賊を見ると、ニコニコと早く出してくれと役人に頼んでいた。
「バカを申すな。そちは我来也では無いが盗人ぞ。貴様が外に出るのは百叩きの後じゃ」


 獄卒が家に帰ると、彼の妻が
「今朝、起きるとあなたの枕元にこんな物が…」
 彼がそれを確認すると、”それ”とは絹で出来た袋の中に金銀真珠などの宝石が入っていた。
(やりおったな、あやつ)
 獄卒はニヤリと笑い、妻の顔を見て大笑いをした。



 その頃、当の賊の男は、町はずれの林の中に行き不思議な乗り物をドンドン叩いて中にいる男を呼び出していた。

「よう、ガマ吉ぃ。守備はどうじゃ」
「私はガマ吉ではありません。いい加減やめてください」
「ハッハっ。そう言うな、王宮の様子は」
「丁度今、気付いたみたいですよ」
 そう言うとガマ吉と呼ばれた男はモニターにて王宮の様子を映している。
 皇帝と呼ばれる偉そうな男は、あたふたしているし、多くの高官は顔が青冷めていた。

「ハッハっ。さぁて、仕上げに行くぞ飛べるか」
「問題ないですよ。本物の”ガマ吉”の調整も終わってます。いい加減、私を船と同じ名前で呼ばないでくださいよ」
「わかったわかった。さぁ、王宮まで飛んでくれや」
 ガマ吉と言う名の宇宙船は空を飛び、王宮へ向かった。

 王宮の天まで届きそうなほど高い白壁の所まで行くと自来也と呼ばれた男は船の上に立ち
「ハッハっあ。お前さん方が探している俸(リスト)はここにあるぞぉ」
 拡声器を最大音量で地上に向かって叫んだ。

「あっあの男は」
 一人の役人が声を上げる。そう、今朝方解放した賊だ。

「我が名は自来也。華人の国の機密棒(リスト)は、しかと頂いたぞ」
 そう言うとガマ吉は火を噴き、壁を焼いた。
 焼いた先から白壁に文字が浮かび上がる。

     ”自来也”

「ハッハっ。もはや華人の言葉で書く必要あるまい。最後はしっかりワシの名前じゃ。しっかり覚えておれ」
 そう言うと自来也はガマ吉の中に入り高速で華人の星から離れた。


「まったく、自来也様は相変わらず派手好きなんだから」
 焙り出しか?にしてもいつのまに書いたのだろう。
「いいでは無いかガマ吉よぉ」
「紛らわしいから止めてください。処でそのリストはどんだけの価値があるんですか」
「リストってのはなぁ、知る人が知ると無限の価値になるんじゃよ。ワシが使えば星一個買えるようになるかもな」
 自来也は大笑いで酒を飲む
「まぁ、上手く行ったから良かったですけど。わざわざ捕まる必要はあったんですか」
「もちろん。あのリストは国家機密じゃからのう、普段の警備体制ではワシも入れなかったんじゃ。じゃがな、目の前に大きな害虫が暴れていて、そいつを潰したとしたら安心するだろ。人間の心理って奴だ。普段厳しい警備でも緩くなるもんだ」
 何と言う曖昧な作戦…
「で…どうしましょ。どこ行きます」
「そうさなぁ、久しぶりに綱手姫にでも会いに行くかぁ」
「大蛇丸様は」
「気が向いたらな」
「相変わらず仲が悪いんですね」
 自来也はプイっと向こうを向いて横になった。
 ガマ吉と呼ばれる男は笑って二人は華人の星を後にした。



参考文献(元ネタ?)
岡本綺堂  中国怪奇小説集  異聞総録 「我来也」より
48, 47

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