サンタ革命
~サンタ革命~
皆さんはサンタクロースという単語を聞いたらまず何を思い浮かべますか?
『プレゼントを配って歩く優しいおじいさん』
こんなことを思い浮かべたのならおめでとうございます。
それは貴方が平和な生活を送れている証拠です。
ですから、そんな皆さんにはこの先を読み進めることはオススメしかねます。
何故なら貴方のその幸せな生活がガラガラと音を立てて崩れ落ちる可能性があるからです。
……そうですか。覚悟がおありになるのですね。
それならば、私が知る得る限りですがお話しましょう。
サンタクロース物語の裏側を――
サンタクロースの起源は四世紀。
キリスト教教父『聖ニコラウス』の伝説が始まりとされています。
ある日ニコラウスは家が貧しいがために三人の娘を嫁がせることができない家庭があることを知りました。
それを知った彼は真夜中にその家を訪れ、屋根の上にある煙突から硬貨を投げ入れたとされています。
そのとき暖炉の下には靴下が吊るされており、その中に硬貨が入っていたことからプレゼントは靴下の中にという風潮が広まったのです。
ニコラウスのおかげでこの家は三人の娘を嫁がせることができたというのが一般的なお話です。
しかし今から私がお話するのはこれよりもより残酷でより残忍なお話です。
そしてその全てが嘘偽りのない事実ということを心にとめていてください。
四世紀、ニコラウスはキリスト教司教をしていました。
町の人々からは慕われ、町一番と評される美人な嫁を貰い、二人の子宝にも恵まれました。
そんな順風満帆な生活を送っていたニコラウスにも一つ大きな悩みがあったのです。
それは殺人願望です。
生きとし生ける者への神の教えを説き広める司教という職の傍ら、
死という甘い果実の誘惑と殺人という他人を征服する快感を求めていたのです。しかし、司教をしているニコラウスには人並み以上の良識がありました。
というよりは、良識を手に入れるために司教になったというべきでしょうね。
彼の殺人願望は幼い頃からのものでした。
幼少時の彼の記録は殆んど残っていませんが、僅かに残されていたものにはこう記されていました。
――五歳の時、バッタや蝶、カブトムシといった虫を殺して集めていた。
七歳の時、自分より大きな犬を針金で絞め殺した――
流石に犬を殺した時は両親も焦ったのでしょうね。
両親は彼をキリスト学校に入れ、外界との接触を断ち神の教えだけを学ばせるようにしました。
そこで今の良識を手に入れ自分の欲望を押さえ込んできたのです。
しかし、ニコラウスの願望は自分自身が幸せになればなるほど強く激しくなっていったのです。
妻が料理中誤って指を切ってしまった時、彼は妻の心配をするより先にこう思ったのです。
『あの指を切断し、傷口から指を突っ込んでやったらこの女はどんな声をあげるだろう』
と。
更に下の子供が五歳になる誕生日の時には
『こんなにも弱い生き物。首を捻ってやれば……』
彼は無意識的に五歳の子供の首に手を伸ばし、掴もうとした瞬間我に返り思い止まりました。
この時から彼は自分の家に寄り付かなくなりました。
このままだと確実に家族の誰かを殺してしまうと思ったのでしょう。
朝早く教会に行き、仕事が終わっても家には帰らず友人宅を渡り歩き、家族が寝静まった頃を見計らって帰るようになりました。
勿論、妻は疑問に思います。
「何故急にこんなになってしまったの?」
しかし、ニコラウスは答えませんでした。
本当の事を言えば妻は子供を連れて逃げてしまうでしょう。
ニコラウスは妻を、子供達を愛していました、愛していたからこそ自分の欲望に打ち克ち思い止まれてきたのです。
その最愛の家族がいなくなれば自分は何をするかわからない、彼はそう自覚していたのです。
しかし、妻は答えないことで更に不安になりました。
「他に女の人ができた?何か悪いことにかかわっているんじゃないの?」
そして、ニコラウスが家に寄り付かなくなってから三ヶ月がたった冬のある日、とうとう妻は子供を連れどこかにいってしまったのです。
ニコラウスは絶望しました。
最も恐れていたことが現実になったからです。
その日を境にニコラウスは酒に溺れるようになり朝から晩まで酒場に入り浸るようになったのです。
そこで三人の娘を持つ男と知り合ったのです。
男とニコラウスはすっかり意気投合して毎晩のように酒を酌み交わしました。
男はニコラウスと親密になるにつれ愚痴を溢すようになりました。
「俺には三人の娘がいるんよぉ。だが、ウチは不幸なことに貧乏でのぉ。
娘を嫁がせてやるどころかぁ、身売りせんといけんかもしれんのよぉ
一人くらいならなんとかぁなるかもしれんけどなぁ、三人となるとぉ………」
男の家の貧乏の一端は男の酒癖にあるのは明白でしたが、ニコラウスは何も言わず男の言葉を思い出していました。
『三人の娘。貧乏。不幸……不幸?
不幸なのか?私は家族の為を思い行動していたのに家族に逃げられた。
それに比べこの男は自分の為に行動している癖に妻も子供もいる。
それが不幸なのか?いいや、違う。
本当に不幸なのはこの私だ』
ニコラウスは男に聞いた。
「娘を嫁がせられれば幸せですか?」
男は答える
「そりゃあもちろんだ。娘の晴れ姿を見るのが夢じゃけぇのぉ」
「なら、私が叶えてあげましょう」
男は大笑いしたことでしょうね。
こんな飲んだくれの司教様に何ができるんだと。
だから、男はこう答えました。
「やれるもんならやってみろってんだ。ガッハッハッ」
それを聞いてニコラウスは不気味な笑みを残しその場を後にしました。
「準備があるので失礼します」
この日は雪の降り積もる十二月二十四日のことでした。
つまり、今でいうクリスマスの前日。
遥か極東の島国の猿共がちちくり合う日に相当するんです。
さてその猿共の何人がクリスマスの本当の意味を知っているんでしょうかね?
さてさてお話を戻しましょう。
ニコラウスは自宅に戻り準備を済ませ、その日のうちに男の家に向かいました。
ニコラウスが男の家の扉をノックすると男の奥さんが出てきました。
奥さんは訪問者がニコラウスと分かると心良く家に招き入れました。
主人と飲み直しに来たとでも思ったんでしょうかね。
家の中では酔っ払いの男に絡まれている三人の娘がいました。
娘達はニコラウスを見ると、
「こんにちは!ニコラウスさん」
「こんばんはじゃないの?お姉ちゃん」
「あんたはいちいちそうゆうの気にしないの」
と次女、三女、長女の順に挨拶をしました。
「こんばんは。また来ちゃったよ」
とニコラウスは三人に笑いかけました。
が、この時心の中ではどう思ってたんでしょうね?
あくまでも私の私見ですがニコラウスはわくわくしていたんじゃないでしょうか。これから自分がすることが楽しみで楽しみで仕方がないって感じで
簡単な挨拶を済ますとニコラウスは男と晩酌を始めました。
「でぇよぉ司教様ぁ、約束のほうはいつ頃叶えてくれんだぁ?」
べろんべろんに酔っ払った男がニコラウスに聞きました。
ニコラウスが答えるより早く奥さんが口を開きます。
「約束ってなんのことだい!あんたっ
またニコラウスさんに迷惑かけてんじゃないだろうねぇ!」
男はびくつきながら言いました。
「ちげぇよぉ。ニコラウスがうちの娘を嫁に行かせてやるって自分から言ったんだよ」
「そうですよ、奥さん。だから叱らないであげてくださいね」
とニコラウス。
この一家はどうやら典型的なかかあ天下らしく、男は奥さんには逆らえないようでした。
「でぇ、首尾のほうはどうなんでぇ?」
「順調ですよ。それで娘さん達とお話したいんですけど良いですか?四人だけで」
「いいとも!いいとも!話してくだせぇ司教様っ」
ありがとうございますと一言言うとニコラウスは席を外し、娘達の部屋である二階に向かいました。
この時丁度零時を回ったときでした。
部屋の扉をコンコンとノックして中に入ります。
娘達にどうしたんですか?と聞かれると彼はこう答えました。
「君たちと話したくてね。
大事な話だから順番に。悪いけど他の二人はいったん部屋の外にでてくれるかな?」
娘達はハ~イと返事をし次女と三女が部屋を後にしニコラウスと長女だけが残りました。
「どうしたんですか?ニコラウスさん」
と長女。
ニコラウスは男と約束したことを話した後、長女に聞きました。
「結婚したいかい?」
その質問に長女がハイと答えました。
「そうか。じゃあ次の人とかわってくれるかい?」
とニコラウスは言いました。
長女に代わり次女が現れると同じ質問をし、次女もまた長女と同じように答えました。
三女にも同じように質問すると三女は前の二人とは違いイイエと答えました。
ニコラウスはどうしてだい?と聞き返します。
「家が貧乏で結婚するのが難しいのは知ってます。
もし結婚できるとするんだとしても私はお姉ちゃん達に結婚して欲しいです」
三女の答えにニコラウスは感動しました。
こんな優しい心を持った娘がいるなんてって感じでしょうか?いえ、違います。
『あぁ、やっと「いいえ」と答えてくれたよ』
とです。
「ちょっと近くにきてくれる?」
とニコラウスは手招きしました。
三女は小首を傾げながらも言われた通りに近づいた瞬間、スッと伸びてきたニコラウスの腕に口元を押さえつけられそのまま押し倒されました―――
部屋の前では長女と次女が待っていました。
何の話をしたのかとお互いに聞き合いお互い同じ答えを返しました。
三女が部屋に入っていってから五分程が経ちました。
三女も同じ話をしているとするなら少し長いんじゃないかと次女が口を開くと、長女はそうねぇと答えましたが
ニコラウスに大事な話だから話が終わるまで他の人は入らないで欲しいと言われていたので二人共動こうとはしませんでした。
それから更に十分後。
三女が部屋に入っていってから十五分が経ちました。
流石におかしいと思った長女が立ち上がりノックしますが返事がありませんでした。
「おかしいねぇ」と次女と顔を見合せ、
「入りますよ~」
と扉を開けた長女の目に飛び込んで来た光景は凄まじいものでした。
――刃物が刺さった胸から血を長し左手首から下が無くなっていて動かなくなっている三女とそれに馬乗りになり洋服を返り血で赤く染め三女の手の無くなった手首に指を突っ込みながら恍惚の表情のニコラウス――
言葉で言われれば恐怖なんて感じませんが、実際にそんな光景が飛び込んで来たらと思うと寒気がしませんか?
長女はその場で腰を抜かして動けなくなってしまいました。
『なあんだ……もう終わりかぁ。人間の中は暖かかったんだけどなぁ』
次女も姉の様子を不審に思い部屋を覗くと同じように座り込み甲高い悲鳴をあげました。
その悲鳴を聴き下から駆け付けてきた両親が見たものは先程の光景。
男の酔いなど一発で冷めたことでしょうね。
「な……にをしてるんだ?」
「見ての通りだが?」
ニコラウスは恍惚の表情のまま三女から刃物を引き抜き投げつけた。
投げた刃物は長女の喉元に突き刺さり噴水のように血を噴き出させた。
「ニコ……ニコラウスぅ。貴様ぁっ!」
男の怒号が夜の町に響き渡ると共にニコラウスは二階の娘達の部屋の窓から飛び降りていた。
しかし、何事かと飛び出してきた近所の住民達にあっけなく捕まえられてしまった。
おそらく初めから捕まる気だったんでしょうね。
それが十二月二十五日午前一時頃の出来事でした。
ニコラウスはその翌日、男の手により首を切り落とされ死にました。
『お前が言ったんだろう?
娘を嫁がせられれば幸せだ。一人だけならなんとかなるって。
だから、幸せにしてやるために殺してやったんだろう!?邪魔な娘二人を!
どうだ?幸せかっ!これで残った一人を嫁にやれるぞ!』
そう言いながら―――
どうでしたか?お楽しみいただけたでしょうか?
こうしてニコラウスは生涯を終えたわけですが、その後どうしてニコラウスサンタクロース伝説が産まれたかというのはまた別の機会に………