少し前の話だ。
周りの声に耳を傾ける。
「昨日の心霊番組見た? チョー怖かったよね!」
周りの声に耳を傾ける。
「次の休みに肝試し行こうぜ?」
周りの声に耳を傾ける。
「うちの家系、代々霊感あるんだってぇ」
――うるさい……うるさい、うるさい!
初夏にもなるとこんな話で皆が賑わう。
心霊番組も肝試しも、視る事が無いから楽しめるんだ。
そんなの怖いだけでちっとも楽しくない。
――お前らに何が視えると言うんだっ!!
クラスの奴らには視えもしないし、聴こえもしない。だから触られもしない。
こんな奴らに俺の苦悩を打ち明けても、何の頼りにもならない。
だから誰とも親しくならない。
――『あははは、お前には友達が居ないのか?』
また『あいつら』が話しかけてくる。
遂には学校でまで話しかけられるようになった。
そろそろ俺は『こいつら』に喰われるのかもしれない。
――もう沢山だっ!!
だから俺は、真っ白い部屋に閉じ込められている。
ここは心地良い。自由に出入りは出来ないが、視える人が沢山居る。
しかし視えてるものは別なものらしく、人によって様々だ。きっと『あいつら』は人によって視え方が違うんだろう。
隣の部屋に居た男がここを出る事になったそうだ。俺の所に挨拶に来た。
「君も早くここを出れるといいね」
「俺は望んでここに居ますから」
「僕はもうこんな所はゴメンだなぁ。通院で十分だよ」
――通院?
「そろそろバスの時間だ。僕はもう行くね」
――待って……行かないでくれ。
「あなたには視る資格なんてなかったんだっ!!」
――そんなもの、誰も望んじゃいない。
男は振り返り哀れんだような、蔑んだような眼で僕見てからまた歩き出す。
――『お前は本当に面白いな』
また『あいつら』が蠢き出した。