「人が飛ぶ空の下でサッカーをしよう」(7/4 短すぎるのでsage更新)
コンビニ跡地に置き忘れられているゴミ箱に突っ込まれた女の人の顔が、笑顔のまま固まってこちらを向いている。蠅がたかり、カラスが目玉をつつきに来て、それでもしばらく彼女は笑っていた。
最近夢の中でセックスをする際、いつだって外に出し損ねてしまうのは、早い内に子供を残せという、イドからの指令なんだろう。
鳥男が今日も一人で空を飛んでいく。無邪気な振りした子供達が追いかけていくけれど、彼らには翼がないから、誰かにぶつかって止まる。そこで金をせびろうとして殴られている。
ラジオから爆撃情報が流れてきて、古い友人の住む町がやられたと教えてくれる。彼の生死を確かめる前に、とうとう一人になっちゃったな、と残念がっている。
廃ビルで昨晩冷たくなっていた浮浪者は、僕の父親だったと親切な人が教えてくれた。「ありがとうございます」とお礼を言った。とっくに知っていたことは言わずにおいた。
「腹が減りすぎるとな、逆に大丈夫になるんだ」
「寝ている間に冬は終わるさ」
父の言っていたことは全部間違いだった。
僕もこれから間違っていく。
一晩経つとゴミ箱の彼女はもう笑っていなかった。笑顔は首ごと持ち去られていた。
子供達がサッカーに興じている。頭上を飛ぶ鳥男にはもう目もくれずに。
(了)