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第一話

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 俺は目を覚ました。ふと時計を見るともう午後三時だった。きのうは4時までネットをやっていたので別におかしくはない。体が猛烈にだるい。もしかしたらクーラーがききすぎているのかもしれないな。おれも32だからもう若くはない。体調には気をつけねば。とはいっても切れば8月なので当然暑い。そんな事を考えながらふと俺の体調が悪くなって誰も迷惑しないことに気づき自嘲した。もし親の遺産を食いつぶすニート生活をやっていなければたぶん会社でそこそこの地位を持ちそれなりの責任を持たされていたはずだ。もしかしたら結婚したかもしれない。子供がいたかもしれない。が、現実は違う。一日中パソコンの前にいる生活。ほとんど人と接触せず、いやネット上で沢山の人と接触しているか。同窓会には出られなかった。どんな生活をしているのかと聞かれるのが怖くて。俺は冷蔵庫からヤクルトを取り出し飲んだ。これが俺の7歳からの25年間続いてきた日課だ。

 俺は夜に久しぶりに外へ散歩に出かけた。月が奇麗だ。バックの中にはダガーナイフが入っている。馬鹿な連中のせいでこれを持つ事は禁止されてしまったがおかまいなしだ。これは俺の趣味なのだ。地方都市なので警察も甘く検挙された事はないし、されても没収されるだけですぐ帰れるだろう。何の問題も無い。自転車に乗って走るのはなかなか気分のいいものだ。公園に入ったそのとき何かにぶつかった。いてっという声が聞こえた。調子に乗って夜だというのに速く走りすぎたのが良くなかった。運の悪い事に俺がぶつかった人間は金髪でおそらくヤンキーだった。予想道理ヤンキーは喧嘩を売ってきた。
「てめえ。ふざけんなよ。金払え」
頭の悪そうな奴だ。俺は低姿勢につとめる。
「すいません。こちらの不注意でした」
「はあ?それで謝ってるつもりかよ。とりあえず金よこせ」
「今持ち合わせがありませんので」
「そうかじゃあ殴るだけで勘弁してやるよ」
ヤンキーは俺をぼこぼこに殴った。執拗に殴った。ついに俺はこういった。
「すいません。本当は金あります」
ヤンキー怒る。
「嘘ついてたのか。さっさと出せ」
「バ、バッグの中に」
「さっさととってこい!」
こうして俺はバッグの中からダガーナイフを取り出す事に成功した。俺はそれをヤンキーに向ける。さあこれだ形勢逆転だ。ざまあみろ。が、そうはいかなかった。ヤンキーはひるまなかった。
「そんなもんで俺がビビると思ってんのか」
「こっちにはナイフがあるんだぞ」
「てめえみたいな奴がナイフをふりかざしたってなたかが知れてるんだよ」
そんな事を数分続けているとヤンキーは俺の隙を付いて殴り掛かってきた。気が付くとヤンキーの胸にはダガーナイフが突き刺さっていた。助けを求めるヤンキーを無視した。やがてヤンキーの息は途絶えた。周りに誰もいないという事を確認すると俺はそこから逃げた。

 俺―杉山大紀が初めて人を殺そうと思ったのはいつのことだったろう。小学生の頃かな。分からない。だが、しかし本当に人を殺してしまうとは思わなかった。どうなる。どうなる。いったい俺はどうなる。刑務所送りか。何年間入らなくちゃいけないんだ。俺はこうパソコンで検索した「殺人 刑罰」すると死刑・無期懲役・5年以上の懲役と出てきた。死刑という文字が俺の心を動揺させた。死ぬという事は俺という存在が無くなるという事だ。俺は自分という存在がずっとあるのが当然として生きてきたそれがなくなる。ありえない。そんな事があっていいのか。俺はこれまで馬鹿にしてきた人権保護団体の連中を心底ありがたく思った。どうかもっと頑張ってください。死刑制度を廃止してくださいと。人の未来を奪っていいのか。ふと俺は馬鹿らしくなった。殺人を犯した俺が死刑を廃止してくれとは。ははははははは。馬鹿らしい。非常に馬鹿らしい。そうだあれは事故だ。つまりは過失致死だ。いや正当防衛だ。いやどうせあんなヤンキーが社会に出ても迷惑になるだけだ。どう考えても俺は悪くない。悪いのはあいつだ。

 ドアから何か物音が聞こえてきた。俺は心臓が止まりそうになった。警察か。早すぎるぞ。栃木県警優秀すぎ……。テレビでやってる裏金作りとか痴漢冤罪とかはどうしたんだ……。神は俺を見捨てたのか。が、それは俺の杞憂だった。刑事の「開けろ」という声はいつまでたっても聞こえてこなかった。俺は寝た。起きているのが怖くなったからだ。そしてこれが夢になってくれるのを信じて。
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