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Phase03.暗殺

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 夕方、特にやることも無く、ニュース番組を見ていた。突如画面に「社会党党首暗殺」の速報が流れ、画面が切り替わった。周囲があわただしく動く中、キャスターが緊迫した表情で「たった今入った情報です」と言った。
 「社会党の党首、海部彰浩党首がたった今、暗殺されました。繰り返します。社会党の党首、海部彰浩党首がたった今、暗殺されました。え? あ、はい。情報が入りました。犯人は社会党の施設に立ちこもり、職員を人質に立てこもっているそうです。あ、はい。ここで社会党施設の中継です」
 画面が切り替わり、社会党と書かれた看板が見える建物が写った。マイクをもったレポーターが興奮気味に叫ぶ。
 「社会党の前に来ています。犯人は、そうですね、玄関に立てこもり、人質をとっています。なにか叫んでますね」声がする。「集音、早く!」雑音が一瞬流れた後、犯人の叫び声が流れた。「俺じゃない、嵌められたんだ。俺は、あの場所にあの場所で拳銃をもって、嵌められたんだ、嵌められたんだよ。俺じゃないんだ。海部を暗殺なんかするものか、俺は俺は、あの人を尊敬していたんだよ。嵌められたんだ、俺はあの男に拳銃を渡されて、そうだよ、あの場所で拳銃をもって待っておけばいいと、あの、そうだ、あの男は民主……」鋭い銃声が鳴り、犯人の頭が吹き飛んだ。眼窩から上の無い顔をこれでもかと画面に映し、体を二三痙攣させた後、倒れた。人質から叫び声があがる。私は顔を覆う。画面が切り替わり、嘔吐しているキャスターが写る。「おい、大丈夫か?」「カメラ止めろ、カメラ!」
 カラーバーと共に「しばらくお待ちください。」というテロップが流れた。ピーという音声。
 やはり青ざめた顔のキャスターが写り、「たいへんお見苦しいところを見せてしまいました。申し訳ございませんでした」と言った。「たった今、犯人が射殺されました。はい、情報入りました。犯人は広域指定暴力団組員の斉藤公浩、48才。もう一度繰り返します。犯人は、広域指定暴力団組員、斉藤公浩、48才です」
 画面が切り替わり、元のニュース番組に戻った。コメンテーターが言う。「私はね、犯人の行う云々よりもですね、あの男が言った、『民主』という言葉が問題だと思うんで」
 再度カラーバーが映し出され、合成音声でナレーションが流れる。「特例により、全放送局は、放送を、停止しました。特例により、全放送局は・・・」
 パソコンを付け、ニュース記事を探す。暗殺された、犯人は暴力団組員という情報だけがのり、ほかは乗っていなかった。2ちゃんねるを見る。ニュース速報、VIP。それぞれ共に暗殺事件についての書き込みは無かった。更新しているうちに、2分ぐらいだったか。404が表示された。LANや電話線を確認するが、異常はない。携帯でも見れないことを確認して、検閲だな、と思った。民主党、つまり現在の政権による妨害工作に違いない。


 翌、朝刊。「海部党首暗殺、犯人は暴力団」案の定、あの男の発言は無かったことにされた。いまだインターネットは遮断されており、見ることはできない。携帯電話の基地局も封鎖されてるようで、携帯の電波は常時圏外だった。
 テレビも未だに特例により、……だ。舌打ちする。やることがない。
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