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■ 虚構でなく、体験談でもない話。
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深夜、僕は自転車で街を行く。
寝静まった街。
酔っ払いも客待ちのタクシーも、みんなどこかに行ってしまったようだ。
街灯の明かりは月明かりをかき消す。
月はあんなに明るいのに。
人間は無駄が好きなんだろう。
15分前。
一通のメールを受け取る。
そのために僕は自転車で数十分をかけて、彼女の家に赴く羽目になった。
その時僕の部屋にいた男は
「うらやましい」
と言った。
代わりに行って欲しいくらいだ。そう告げると、
「いや、いいよ」
と言った。
恐らく本心だろう。
出掛けに彼は
「帰ってきたら感想を」
とニヤニヤしながら言った。
全く、世の中おかしいんじゃないか?
マンションの一室の扉の前。
僕は見慣れたその場所にたどり着いていた。
呼び鈴を鳴らすと彼女が出てきた。
相変わらずの可愛い見た目。
今日も夜の仕事を終えた後なのだろう。
店では人気なんだろうな。
そんなことを思いながら、僕は務めを始めることにした。
端的に言うと、彼女は変態の部類に入るのだろう。
何かしら気に喰わないこと、イライラしたときなどは僕を呼ぶ。
そして、恐らくお店でしていることと同じ事をする。
僕はただ、裸になり、立ち、果てるだけ。
それが僕の役割。
正直誰でもいいのだろう。
それがたまたま僕なだけだ。
僕の部屋にいたヘタレでも、眼鏡をかけたオタク野郎でも。
たまたま僕なだけ。
彼女は決して入れさせてはくれない。
「それはちょっと違うでしょ」と言う。
何が違うのか判らない。
「何で俺なの?」そう尋ねたことがある。
少なくとも、容姿だけ見れば男に不自由し無そうである。
答えは
「ちょうどいいサイズだから」
喜んでいいのか悪いのか。
僕は一体何なのか?
「俺と君の関係は何なの?セフレ?」と聞いてみた。
答えは
「セフレではないよね」
結局、何も判らずじまい。
世の中ってのは問うたら答えが得られる、と言うほど簡単なものではないらしい。
僕は果てた。
彼女は気が済んだのか、済んでいないのか、それは判らないがともかく僕は解放された。
明け方の街。
往く人、帰る人。
夜の街の住人が家路に着き、昼間の時間帯の住人とバトンタッチする。
昼と夜が入り混じる。
僕はこの時間帯が好きだ。
僕は夜の住人になりたい。
この時間に家路に着く人になりたい。
そんなことを考えながら、僕は自転車をこいだ。
もう月は見えなくなっていた。