俺は帰る家など無い、話をする友も無い、家族さえも無い・・・
在るのはこの力だけだ。
「ここがこの西の国最大の闘技場か・・・」
身長160cmの小柄で細身な少年が鎧も付けずに闘技場の選手受付所に入っていく姿は奇妙な光景だった。
闘技場というものは戦うことと力自慢しか取得の無いような大男ばかりが集まってくるものだ。その中では小さくて目立たないはずの少年が目立ってしまっていた。
「おいおいボウズ・・・ここはサーカスじゃないんだぜ。男がお互いの力を競って戦う闘技場だぜ?時には命だって落とすこともあるんだ。悪いことは言わねぇから早く親のところへ帰ぇりな!」
少年は話しかけてきた男を睨み付けて怒鳴りつけた。
「俺に親などいない!とうの昔に死んだ!」
「おいおい、怒鳴るようなことじゃねぇだろ。俺は親切心で言ってやってるのによ、早くうせろ!」
すると少年はニヤリと笑った。
「お前俺に帰れ帰れって、もしかして闘技場で俺と当たるのが怖いんじゃないのか?」
「なっ!ばかなっ!」
「みんな聞けよ!ここの大男はこの小く非力な俺が怖いんだとよ!体は大きいのに度胸の小さいこと小さいこと・・・」
少年は周りの人間に言いふらした。
「おい!ガキ!調子に乗るのもいいかげんにしな!そこまで俺のことをコケにされちゃあこっちも引けねぇよ、ちっとお前が可哀想だが受けてやるぜ!」
「どっちが可哀想なんだか・・・」
闘技場では本来、参加者からランダムに対戦相手が決定するのだが、お互いが合意した場合はその組み合わせで試合が執り行われる。そのためしばしば受付所まえで人に喧嘩をふっかけてくる輩がいるのだ。
「おい!受付員!俺とこの少年で指名試合だ!」
「そちらの方は同意してますか?」
「ああ、しているさ」
「では二人ともお名前を」
「山崎武だ!」
「・・・ザイル・・・」
「ボウズ!その名前本当の名前なんだろうな?」
「ああ、何か問題でも?」
「いや、それが本当ならお前・・・ゴッドアイランドの住人なのか?」
「さぁな、戦えばわかるさ」
ゴッドアイランド、それは人が住むところではなく、この世のどこかに存在する神が住む島と考えられている島である。また、そこにたどり着き、住み着けば特殊な力をひとつ手に入れられるといわれているのである(神はいくつも力を持つと思われている)
名前でそこの者と特定できたのは苗字が無く、片仮名表記と思われる名前だったからである。
「へんっ!冷静に考えてみりゃそんなわけがねぇ。最初にちょっかい出してきたときといい、やつは俺を動揺させるためにやってるだけさ。偽名なんてよくある話だ」
大男は大またで、バトルフィールドへと出て行った。
少年もフィールドへ出ると審判による今回のルールの説明が始まった。
「今回のルールを説明します。武器の使用は自由、いかなる攻撃も認められる。勝利条件は相手の太ももより上の手のひら以外の部分を地面につける、もしくは審判が骨折と判断する怪我をさせること。当然のように相手に試合放棄をさせても試合終了だ。」
このように試合終了の判断基準が厳しいのは西の国だからである。上品であることを表向きのお国柄としているのであまりひどい戦いは公にできないのだ。
武が選択した武器はハンマー。それを持つとただえさえ大きな体が一回りも、二回りも大きく見えた。
一方、ザイルが選択したのは2mほどの長い棒。それは細いザイルを表現しているようでもあり、弱弱しく見えた。
試合開始の合図がなるまで、ザイルのマントと長めの髪は歓声と風に波打ち続けた。
「始めっ!」
審判の鋭い掛け声とともに武は飛び出してきた。
「さっきの借りは~、ここで返してやるぜ~!!!!」
ハンマーを大きく振りかぶったまま、熊が迫ってくるような勢いと気迫で迫ってきた。
「ぐるおああああ!!!!!!」
しかし、武は足を止めた。
「ブフッ!」
武の腹筋に痛みが走り、数歩さがった。
「なんだ?俺は攻撃されたのか?いや、それはないボウズとの距離はかるく5mはある。じゃあなぜ?」
しかし腹筋への痛みはやまなかった。連続で何度も何度も何かで突かれるような痛みが走った。
「くっ、くっ、くそおおおお!!」
ガキン!
武は腹筋をハンマーでガードして痛みを与えるものの正体を確認した。
「棒?これはボウズの持ってた棒?でもボウズとの距離は・・・えああ!!!???」
武は棒をたどって見て気づいた。
「棒が延びてる・・・5いや、6mはある。なん・・・ブハッ!」
そうこう考えている間に伸びてきた棒が顔面に直撃した。
「そうか・・・やはり・・・お前は本当にゴッドアイランドの住人だったんだな・・・・・・」
ドシン!
武の大きな体が地響きと共に倒れた。
観客は総立ちで驚きの声や歓声を贈っていた。