まとめて読む
僕の目から見える世界はいつも、どこかで何かが欠けていた。しかし、何が欠損しているの
かは自分でも分からなかった。精一杯、頭を使って振り絞り、やっと他人と自分の違いが分か
る程度だった。
障害では、ない。むしろこの考えが隔たりだった。
長袖から腕時計を這い出させる。今の、時刻は八時四十分。今日も、来る。そう予想した通り、
けたたましい騒音と共に息をつかせぬスピードで目の前を貨物列車が横切った。この貨物列車と
同じように、僕の毎日も予定通り続いていくのだろう。
面白くない毎日だ。
「世界」。
その言葉はかくも多義で曖昧で、どうしようもいほど壮大な言葉だった。大空を渡るツルが
大地を鳥瞰するように、宇宙飛行士が月から地球を俯瞰するように、希望や絶望に満ち溢れ、
とにかくドラマチックな展望が期待された。
しかし、どうだろうか。人間の手、足、目。どれも対として二つしか無い。そんなことは、
分かりきっていて誰だってそうだ。その限られた範囲で見えてくるものは限られてくる。
予定通り、2両編成の電車がブオッと音を立ててやってきた。休みの日ということもあって、
しわがれた老人からスーツを纏った社会人、頭ひとつ分たりない小学生がきちんと行儀よく、
順番を守りながら電車が来るのを待っている。
ここにいる人たちもみんな、似たり寄ったりの「世界」を持っているのだろう。しかし、
誰も「戦争」だとか「テロリズム」を味わったことは無いはずだ。「世界」なんて言葉は結局、
国を動かす人間の便宜な言葉なのかな、そこで結論が出た。
平凡だった。凡百の理論を重ねても、なにも変わらなかった。