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フサ1

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夢を見たあと目が覚めると、夢の世界に帰りたくなる。
それが懐かしければ、懐かしいほどに。


病院独特の、つんとしたアルコールの匂い。
そして、白い部屋の窓際にベッドが置かれている。

「ねぇ、お兄ちゃん。」
そのベッドの上にいる妹がささやく。

兄の俺が言うのもなんだが、よく出来た妹だ。
顔も俺に似ず美人で、明るかった。

正に完璧だ、足りないところなどない。

・・・足が無いことを除けば。

「どうした、シー?」

俺はりんごを剥いていた手を休め、妹の方に目をやる。
相も変わらず、太陽のような笑顔をしていた。

「いつか、風を切って飛び回りたいね。」

それが妹の口癖だった。

「ああ、きっと出来るようになるさ。」

俺はいつもの返事をして、またりんごを剥きはじめた

先の戦乱で、妹は足を失っていた。
キニト国とヴェポラ国は昔から小さな外交問題が絶えなかったが
浮力のAAが破壊された事により、飛行船、より巨大な船
つまり、海を隔てた国同士の戦争に「必要な物」が軒並みそろってしまった為

急速に論争は戦争へと変化していった。

飛行船による空襲。
それに伴う国の民への被害。

特に、両国の間にあるブンゲという島は戦争の拠点にされため
島民に多大なる死者が出た。

今でも戦争孤児や、戦争による心身的被害者など
大きな爪あとを残している。

だが、戦争はまだ終わったわけではない。
両国の技術は対等になってきたため、冷戦状態になっている。

新たなAAの捜索を余儀無くされている状況だ。

しかし、皮肉なものだ
AAによって科学技術の発展が抑えられているために
戦力バランスが保たれている。

「ねぇ、聞いてるの?」

シーが怪訝そうに聞いた。
どうやら、俺の手が止まってみたいだ。

「ああ、聞いてるよ。」

そういいながらりんごを見ると
もう何分も剥いてるのに・・・、一向に皮は剥けていない。
自分の不器用さに少し嫌気が差した。

「私がやってあげるよ。」
そういってシーが俺の方に手を差し出した。

シーにりんごとナイフを渡すと、器用にするすると
皮を剥き始めた。

俺はただ、その姿を見て・・・

・・・
・・・・・・

「・・・シー・・・」
手を伸ばすと、そこは見渡す限り水平線だった。
どうやら、うたた寝をしてしまったらしい。
船のゆれと、磯の匂いが俺を現実へと呼び戻した。

「おい、フサ、まだこんな所にいたのか。そろそろ到着だ。」
振り返るとギコが帽子を被りなおしていた。

「あ、ああ・・・」
急に涙が流れ出した。
「・・・すまん・・・」

「いいさ、だが部下には見せるな。」
といってギコが俺の隣に来て、手すりに手をやった。
俺はまた水平線の向こうに目をやる。

「シーちゃんのことか?」
ギコが率直に聞く。

「ああ。夢に出てきた。」
涙はもう止まっていた。

「まだ死ぬと決まってるわけじゃない。」
ギコがそういった。

足をなくした後、治療と同時にシーは原因不明の心臓病と診断された。
心筋症という奴らしい。

後、5年生きる確立は60%、10年はさらに低い。

あと少しで5年立つ・・・。
死ぬ確立は40%・・・決して低い数字ではなかった。

しばらく、二人で海を眺めていると
島が見えてきた。

「フサ少佐、ギコ大佐!まもなくブンゲに着港いたします。準備をお願いします。」
水兵の一人が来てそう告げた。

「ああ、わかった。今行く。」
ギコは水兵にそういうと、今度は俺の方に振り返った

「さぁ、行くぞ。時間が無い。俺にとっても、お前にとっても。」

ギコの言うとおりだった。
シーは、生きられないかもしれない。
なら、あいつの夢を叶えてやりたい。

俺は兄だから・・・

夢は儚いが、それにかける努力は尊い。
それが叶わない物としても。
4

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