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フサ3

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強大な力は人を狂わせる。
戦争はそんな一端を見せてるだけなのかもしれない。

「…ブンゲか…」
海の上とはまた違う風が通り抜けた。

「ああ、13年前とまったく変わっていないな…」
ギコが少し目を伏せながらそう呟いた。

戦争で
「運悪く」拠点として
そして「運悪く」蹂躙され
さらに「運悪く」破壊された島。

運が悪い…
というのは、言い換えれば『力がなかった』という言葉に等しい。

ブンゲはあまり発達していなかったとはいえ、
当時まったくと言っていいほど外交に無関心だった。

それは人類が大手を振って海を渡れなかった事に起因するかもしれない。

「では、また1ヶ月後に向かえに上がります、ご武運を!」
そういって水兵が艦に戻って行った。

ご武運…か…
戦いには行きたくないな…
さて、これからは陸軍の仕事だ。

「…よし、行くぞ。」
ギコがそう言って歩き出した。
その後を俺と数名の部下が付いていく。

砂浜は少し歩きにくかった。
あの頃はそんな事思いもしなかったな…。
…13年前、俺はまだ20だった。
士官学校をでたばかりで戦線に投入され、何も分からず
ただ殺される恐怖と闘っていた。

後になってみれば、死を振りまいてただけだった。

そういえば…村が何個かあったな…
その中の一つは7歳の子供が一人生き残っただけらしい。
俺たちか、ヴェポラかのどちらの国がやった事には違いない。

だが、そこにいなかった事…それが俺の良心の呵責を抑えていた。

しばらく歩くと海岸から森の奥へとはいって行った。

「森か…いい思い出はないな。」
「ああ、此処は嫌な思い出ばかりだ…」
ギコが俺のつぶやきにそう答えた。

しばらく沈黙が続き、黙々と歩き続ける。

歩き続ける…自分の吐息すら聞こえなくなる…
鳥の声と、虫の羽音が一層際立つ。

「おい!何ボサッとしてる!」
隊長の声が俺の頭を覚醒させた。
「は、はい!すみません!」
あわてて、敬礼をする。

「こんな場所で一々敬礼なんてしないほうがいいすよ。」
後ろから若い男の声がした。
「あそこ辺りから狙い撃ちっすね。」
その男は軽い笑い声を上げながら、木の上の方を指差した

「は、はい…」
刹那、炸裂音と共にその男は倒れた。
「敵だ!!!!!!あの木からか!くそっ!!!!!!!!」
「はやく頭を下げろ!!!!」
数人の男の走る音、そして発砲音。
すべてがスローモーションのようだった。

倒れた顔の無い男が笑いながら、俺を見ていた。



「気をつけろ、落ちるぞ?」
「あ、ああ…」
ギコにそう言われて足を止める。
そこには数メートルほどの穴が開いていた。

「ここがその場所だ。確認してくれ。」
ギコが兵士にそう伝えると、兵士は地図を開き、コンパスと周りの地形を確認する。
「はい!間違いありません。」

「深いな…。」
穴はライトで照らしても底が見えなかった。

「ああ…ここを抜けられるのは小型の飛行艇か」
「『ブーン』か…。」
ギコの言葉をさえぎるようにして、言葉を発した。

「準備できました。」
さっきの兵士がそう報告する。穴に入る準備が整ったようだ。
「行きます!」

3人ほど外に残して
兵士たちは穴に入っていく。

「よし、俺たちも行くぞ。」
ギコの後を追って穴の中に入る。

…暗闇と思っていた穴も、目が慣れてくると
本当の暗闇で無かったと安心した。

ゴツゴツした岩肌が、時折体に当たって痛かった。

しばらくして、さらに大きな空洞に入った。

「こ、これは…?」
そこには3m程の石の塔が立っていた。
表面は滑らかな石の様な物で出来ているが、
ひび割れたように緑色の光を発していた。

まるで一種の芸術品のようだ。
見とれていると、足に地面の感触があった。

「フサ、なんだと思う?」
ギコが俺の方に歩いてきた。

「…確信はないが、これは古代文明の遺跡みたいだな。」
教科書で見たような装飾が石に施されていた。
これは明らかな人工物だ。
しかしこのような物は初めてみる。

「やっぱりか…。なんの為の装置だったんだろうな?」
古代文明が現代よりはるかに優れた技術を持っていたのは明白だが。
その多くは今の技術ではわかって無いものが多い。
AAもその中の一つだ。

「古代の覇者ヴィップ王が残した遺産か。」
ギコが額を押さえた。

…古代文明。
正確には今から一億年前の文明
そこから一億年経った現代ですら太刀打ちできない技術をもった国があった。
ヴィップ王が治めた国『パンゲア』。

今でこそ世界は色々な大陸に分かれたが、元は一つの大陸だったという。
つまり、この世界は一人の王によって一度支配された事があったのだ。

ヴィップ王が残した技術を解読する事は、各国が他の国を圧倒する事に他ならない。
だが、その偉大な遺産はほとんど解読されていない。

有益だったのは違いない。
だが、
なんの為に
どう使うのか

それすら分からなければ宝の持ち腐れにすぎない。

「また技術部が死ぬな。」
俺がそう呟いた。

「こんどこそ本当に死人が出かねんぞ…」
ギコはそうぼやく。
確かに、本当の全くの新発見であり、新しい法則を見つけなければならない。
これを使うようになるまでには、俺は爺さんになってるかもしれない。

兵士たちが一通りの採取を完了したようだ。
これ以上調べても、もはや何もできそうになかった。

「よし、とりあえず上にあがろう。」
AAに関する情報はまだ得られていない、
あと一か月で何か得られるいいが…

俺はそんな事を考えながらロープに掴まった。


穴から這い出ると、そとは薄暗かった。

「近くに町がある。そこにいくぞ。」
ギコがそういうと、歩きだした。

「なぁ、ギコ、お前ここら辺に詳しいな。」
少し疑問に思ってそう質問した。
「あ、…あぁ予習したんだ…。」
ギコはちょっと歯切れが悪そうにそういった。
たしかに予習は必要だが、ギコはそれでは説明できないような何かを感じた。

森を抜けると、一層ギコの動きに迷いがなくなる。
まるで地元を案内するように、俺達を先導している。
だが、疑うのも気分が良くないのでやめる事にした。

数十分歩くと、町の明かりが見えた。
「そういえば軍服は着替えた方がよくないか?」
戦争から8年たってるとは言え、この島の人間は軍人を快くは思っていない。
最初からそうなるくらいなら、身元を隠すのも重要だ。
「いや、あそこは移民が多いから平気だ。」
ギコが迷いなくそう答える。
「そ、そうなのか…だったらいいが…。」
一抹の不安を払拭し切れなかったが、ギコの自信を信じてみることにした。

町に入ると、宿はすぐに見つかった。

「じゃあ俺は寝るよ。」
俺はそういうと、さっさと部屋にこもった。

「ふぅ…やっと一人か…。」
ベッドに寝転がると、ドアの向こうから話声がきこえた。
どうやら若い男の声だ。

「…なぁ、知ってるか?」
「何がよ?」
「例の賞金稼ぎだよ。」
「ああ、噂のな。空飛ぶんだろ?」
「っぇ、なんだ知ってるのかよつまんねぇ。」

空を…飛ぶ…?

ベッドから飛び降りて、ドアを乱暴に開けた。
「おい!その話はどこで聞いた!?」

「な、なんだよ、軍人さん!こえぇな!」
小太りの若い男がそう叫んだ。

「す、すまん。その情報どこで知ったんだ?」

「あ、いやぁ…」
小太りの男は隣のメガネの男と顔を合わせる。
「っても、噂で…」
メガネの男がそう切り出した。

「20くらいの若い男と女の賞金稼ぎでね、若いのに結構有名すよ。」
「なんでも空を飛んで捕まえたとか、ヌイグルミが喋ったとか、まぁ結構気さくだから喋った奴多いらしいけど。」
メガネと小太りが交互にしゃべる。

「そうか。わかった、邪魔して悪かったな。」
俺は二人に10ドルほど渡すと、部屋に戻った。

「空を飛ぶ…か。」
天井を見上げながらそう呟いた
そのまま、眠りに落ちた。

朝起きると、普段着に着替えてギコの部屋に向かった。

朝食を食べている最中のようだった。
コーンフレークに目玉焼きが小さいテーブルに並んでいる。
目玉焼きからは湯気が立っていた。

「…空飛ぶ賞金稼ぎね。まぁ噂にすぎないだろうが、調べる必要があるな。」
ギコが朝食を食べながら言った。
「だが、穴の中もまだ何か見つかるかもしれないな。」
俺はクロワッサンを手に取ると口に放り込んだ。
「あ、俺のおやつ…」
ギコが残念のそうに呟いた。
「すまん。」

話合いの結果、ギコは昨日の穴へ、俺は噂の調査をすることにした。

「じゃあ行ってくる。」
俺は紺色の上着を羽織りながらそう言った。

「…クロワッサン。」
ギコが恨めしそうにつぶやく。
「あとで買ってくるよ…」

まず、宿の女将に聞いてみることにした。
「あー、あの子達かい?」
まるで周知の仲のようにそう言った。

すぐに見つかりそうだな。

「そういえば向こうから来たって言ってたけど…」
「あそこはねぇ…」
女将が含んだように、隣にいた男に話かけた。
「ああ、あれは神の裁きが落ちたんだよ。一度行ったがひどいもんさ。」

「どういうことだ?」

「5年前にあそこの村に大きな爆発音…いやありゃ爆発なんてもんじゃねぇな。」
「一瞬あたりがパッと明るくなったぜ?この数十キロ離れたこの街もだ。」
男は少し興奮したようにそう続けた。

「わかった、場所を教えてくれ。」

「行くのかい?運がいいね。つい最近バスが通るようになってね…。」
男はそう言いながら行き方を教えてくれた。

幸いにも、復興のためバスが走っているらしい。
バスに乗り込むと、スコップや大荷物を持った何人かの人間が乗っていた。

…大きな爆発か…


しばらく、外を眺めていると異様な光景が見え始めていた。
木が曲がりながら生え、馬?なのか
なんとも形容しがたい動物達が時折顔をみせた。

バスが止まると、バスに乗っていたっ人達が降りて行った。
どうやら、ここが村…
だったものらしい。


「なんだこれは…」

家屋は倒壊し、そのすべてが焼け焦げ、時折溶けたような所さえあった。
とても5年も前の物とは思えなかった。

「確かにひどいな…」

ただの爆発でここまでなるものなのか?
ふと、石になにか黒い墨のような焦げ跡が付いているのに気づいた。

「この黒い墨みたいのはなんだ?」

まるで人がそこに立っているような気味悪い焦げ跡だった。


更にすすむと、そこには大きなヘコミしかなかった…
「ここで、一体なにが起きたんだ…?」
しばらく茫然としていると
「あれ、ここで何をしてるんですか?」
後ろから、若い男の声が聞こえた。

強大な力は人を狂わせる。
それが強い力であればあるほど、人は人でなくなる。
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