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-Pulse

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 盛り上がりに欠ける曲を聴いているような、そんな気分だった。


 読んでいた本を閉じて窓の外を見た。雨はまだしとしとと降り注いでいる。暗い空を見ながら、彼女のことを思い出していた。
 「一人でそんなところに座って、何しているの?」校舎の屋上の貯水塔の上に座る私を見上げて、彼女はそう言った。
 「空を見ている」
 ぼそりと答えた私に、「へぇ」と漏らして、彼女は貯水塔のはしごに足をかけた。カンカンと金属を踏むリズミカルな音が小気味良く響く。登りきった彼女は、私の隣に腰掛けた。
 「空ってさ、怖いよな。果てがない」
 真昼の空は青く澄んでいる。吸い込まれそうだった。
 「空、ね」彼女は笑った。「私は空より雲が怖い」
 「なぜ?」
 「白いから」
 「雨雲は黒いけど?」
 「それは例外」ムスッと頬を膨らませて言った。
 「なんていうかね、現実味が無いじゃない。空に大きくぽかーんってさ。だけど、あんなに高いところにあるのに、テレビじゃ見下ろしてる。すごく中途半端」
 「空は怖いものばかりだ」
 「怖いもの見たさで見ているの?」大きく息を吐いて彼女は上半身を倒し、寝転んだ。「怖いなら見なければいいのに」
 「君、君は……」
 「坂本」私の顔を見て言った。「私は、坂本瑞樹。坂本、でいいよ」
 「坂本は怖いもの見たさじゃないのか?」
 「怖いもの見たさだよ。怖いけど、けど面白い」
 
 三年後、彼女は死んだ。下校中だった彼女の自転車に信号無視したライトバンが突っ込んで。即死だった。
 「人間、死ぬときは死ぬ」彼女は常日頃そう言っていた。
 「死ぬときは死ぬんだから、死んだときのことを考えたってしょうがないじゃない」
 
 こんなことを思い出したところで何になるのだろうか。閉じた本に落ちた水滴を服の袖で拭いた。
 彼女が死んでからもう一年経つ。私は、大学を卒業してシステムエンジニアの職についた。空を見ると、必ずと言っていいほど彼女のことを思い出した。
 「坂本、君のせいだぞ」
 暗い空を見上げて私は呟いた。
 彼女と出会って四年。いまだに私は立ち直っていない。
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