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・空から落ちた女の子 作:ロリ童貞
きゃぁぁ――。
遥か頭上から、女の子の声がする。
ぁぁあああ――。
その声が、急激に近づいてくる。
ドン。
小春日和の青空を見上げたぼくの視線とすれ違い、女の子が落ちてきた。彼女はぼくの足元でアスファルトの地面に衝突、真っ二つに砕け、上半身と下半身に分かれた。地震で本棚が倒れたときのような鈍い音もした。
「いっったーーーーい!!」
「痛い……」
幅の広い襟付きのノースリーブに紐ネクタイを結んだ上半身が、それ程痛くもなかったように聞こえる陽気な叫び声をあげる。そして膝上のミニスカートにローファーを履いた下半身もまた、あまり痛くなさそうな感じで静かにつぶやく。女の子の顔を見ると、輪郭のはっきりした大きな目からは確固たる意志が伝わってくるが、その一方で、濡れたまつ毛と潤んだ瞳は甘えるように艶(あで)やかだ。
――空から降ってくる人。女の子。しかも、美少女!
これはまさしく、ぼくにもやっと春が巡ってきたということではないだろうか? こんな恋愛シュミレーションゲームそのままのシチュエーションになんて、滅多に遭遇できるものではない。彼女は見たところピンピンしているので命に別条は無いとは思ったが、紳士のたしなみとして一応心配そうな顔をして声を掛けてみる。
「あの、だいじょうぶですか?」
「『だいじょうぶか?』ですって? だいじょぶなわけないでしょ! そんなの見ればわかるじゃない。あいたたた……。ちょっとあんた、ボケーっとしてないでなんとかしなさいよ!」
「……お気遣い本当に有難う御座います。幸い怪我等はしていないようですので、今のところは大丈夫なのですが、念の為に手当てなどして頂けますと大変助かります」
うわ、何この上半身の反応。ツンデレキャラなのか? それに比べて下半身のなんと上品で礼儀正しいこと! 将来お嫁さんにするならこんな人がいいなあ。
強面の上半身にすいませんすいませんと平謝りしてからぼくは、救急車を呼ぶ為に携帯電話を取り出す。確か119番だったはず。1、1、あ。ぼくの手の中が空っぽになった。ふと顔を上げて見ると、美少女の上半身が、取り上げたぼくの携帯電話を握って偉そうにふんぞり返っている。
「あのねえ、私は助けを呼べなんて一言も言ってないのよ。それくらいどうしてわかんないの? あんたは他人に頼らないと何にもできないんだ。へー。それでも男なのかしら?」
「救急車をお呼びするのは緊急の患者様へのご迷惑になりますから、私どもは遠慮させて頂きたく存じます。あなた様に好くして頂けることが何より嬉しゅう御座います」
え、救急車がいらないっていうなら、じゃあどうすればいいんだろう……? この前クリアしたゲームではどういう展開だったっけな。あ、そうだ、知り合った女の子を自宅で介抱するんだ。ちょうど、うちの両親も長期海外出張中で、家にはしばらく帰ってこない。うん、条件もぴったり、これが正解の選択肢で間違いない。ぼくは自信たっぷりに、その旨伝えた。
「ば、ばか! 男女が一つ屋根の下で二人っきりになるなんて……。そ……んなのダメに決まってるでしょ! ……そうよ、ダメよ。汚らわしいわ、何考えてるのかしらまったく……」
「上は斯様に申しておりますが、お察しの通り、心の内では私同様あなた様の事をお慕いしているので御座います。上は中々素直になれぬ性格ゆえ、無礼のほど何とぞお許し下さいませ」
上の口は拒んでいても下の口は正直だな、とぼくは思った。これから始まる彼女たちとの暮らしが楽しみだ。
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