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『わた菓子とハイエナ』 作:橘圭郎
「わた菓子みたいな恋がしてみたいわ」
彼女はいつも、唐突にものを言う。
「きみの考えていることはよく分からないな。中身が無くてスカスカで、見た目だけ立派なくせに単調な味。最初こそ興奮してかぶり付くけど、後には口とか手とかにベタベタが残って不愉快。……そんな恋愛をしたいのかい?」
そして僕が返すと決まって「もう、そういうことじゃないわ」とむくれながら、あっかんべをするのだ。
「お姫様みたいな暮らしって、憧れちゃう」
彼女はいつも、唐突にものを言う。
「きみの考えていることはよく分からないな。いつでも世間から好奇の目で見られ、ちょっとでも目立った行動をすればすぐパパラッチどもの的にされる。世が世なら、顔も知らない男と政略結婚させられていたんだ。綺麗な服や美味しい料理には不足しないけど、理不尽に押し付けられる責任と比べたら明らかに釣り合いが取れていない。……そんな身分に憧れるのかい?」
そして僕が返すと決まって「もう、そういうことじゃないわ」とむくれながら、あっかんべをするのだ。
「いつか、おしどり夫婦って呼ばれるの。素敵じゃない?」
彼女はいつも、唐突にものを言う。
「きみの考えていることはよく分からないな。つがいが一緒にいるのは交尾のときと、せいぜい後は巣作りのときまで。卵が産まれれば別れて、雛を育てるのは完全に母親任せ。その間、父親は外で遊び呆けたり別のメスを探したりだ。そのカップルさえも毎年相手が違う。……そんな不実な結婚生活を素敵だと思うのかい?」
そして僕が返すと決まって「もう、そういうことじゃないわ」とむくれながら、あっかんべをするのだ。
僕は口下手だから信じてもらえないかもしれないけれど、きみのことが大好きなんだよ。
きみの微笑みは僕に力をくれる。それさえあれば、僕は他に何もいらないとさえ感じられる。かわいい顔に似合わず喧嘩っ早いところも、細い腕に似合わず腕っぷしが強いところも、すごく魅力的だ。
きみが周りの心無い人間から、不当に蔑まれていることを知っている。きみは何も悪くないのに。それでも気丈に振舞って、決して卑屈にならず堂々と自分を貫く姿は、とても尊くて美しいと思う。責任感も強いから、きっと将来は良い母親になれるだろうね。
きみといつまでも共にいたいと思うのは、僕のわがままかな。
どうすれば僕の気持ちが伝わるだろう。どうでもいい文句はいくらでも出てくるのに、肝心の言葉が……ああ、そうだ。きみはまるで……。
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「きみはまるで、ハイエナのようだ」
彼はいつも、唐突にものを言う。
「なにそれ、意味わかんない」
ううん、本当はよく分かってる。
だから私はこう返した後に必ず、とびっきりの笑顔と一緒に、あっかんべをしてやるのだ。
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