まとめて読む
私はネコだ
暇な時間を潰すために日記を書くことにした
え? ネコなのにどうやって日記を書くのかだって?
何を言っている
ネコだって日記くらい書けるさ
4月4日
先月まで私は野良ネコだった
だが、訳あってとある人間に拾われ、彼の家に住み着いている
その人間、ご主人はニューヨークのぼろいアパートに住む、三十代半ばの冴えないおっさんである
私はできれば二十代のお姉さんが良かったのだが、ぜいたくは言えない
なぜなら、私は以前のようにエサを探してゴミ箱をあさる必要もなく、ご主人に甘えれば、好きな時にエサを与えてくれる、とても楽な生活が続いているのだから
ただ、暮らしが楽なのは良いことなのだが、やたらとご主人が自分の頬を私の顔にすりよせる行為が鬱陶しいのだ
彼の硬くて、ぶつぶつの剃り残しが私の毛並みを乱してしまうことが、不愉快なことこの上ない
おまけに彼の息はとてつもなく臭い。
そのため、彼がスキンシップをとる時、私は彼の髭と口臭を呪わざるを得ない
しかし、私は居候の身ということもあって、彼の不快な面には目をつぶることにしている
4月5日
日記を書き始めたのは昨日からだったが、ご主人のスキンシップはかれこれ二カ月も続いている
拷問のような仕打ちと、地獄のような日々が続くのだが、安定した生活を保障されている以上、彼を拒絶するわけにはいかず、ひたすら耐え続けている
いつ終わるのだろうか
4月6日
以前からめまいや頭痛が酷かったが、ここ最近もっとひどくなってきている
外へ散歩しに行ったとき、つらそうなわたしの姿を見た、仲の良いネコが、
「めまい、頭痛の原因はストレスの場合がが多いらしいよ」、と教えてくれた
それを聞いて、ご主人の顔が頭に浮かんだ
4月7日
さらにめまいや頭痛が酷くなってきた
熱もあるようだ
しかも、吐いた毛玉に血が混じっていた
もうそろそろ、私も限界かもしれない
4月8日
いい加減耐えられなくなった私は、頬を擦りつけるために近寄ってきた、風呂上がりでパンツ一枚のご主人のキンタマを噛み砕いてやった
あたり一面に血をまき散らしながら悶絶するご主人
いい気味だ
ざまあ見やがれ
4月9日
その後、ご主人は救急車で病院まで運ばれた
私は家から追放される覚悟で、ご主人のキンタマを噛み砕いた
だからこそ、身を固くして、彼の帰りを待っていた
しかし、病院から帰ってきたご主人は私を追放するどころか私に感謝の言葉を投げかけてきた
良く覚えてないがご主人は、ありがとう、おかげで吹っ切れたよ、みたいなことを言っていた
その言葉の意味は良くわからなかったが、さらにあと二つ分からないことがあった
一つは、ご主人の本名は『ジャック』だったが、今では『ジェシカ』になっていること
もう一つは、彼が「スカート」を穿いていること
確かあれは、婦女子が穿くものであったような気がするが……
きっとご主人はスコットランドが好きになったのだろう