むかし昔、ある小さな国にとても偉い王様がいました。どれだけ偉いかといえば、どうして王様が偉いのか誰も王様に訊ねることができないくらいです。他の国の王様も、この小さな国の王様の前では決して威張ったりはしません。きちんとあいさつをして、嫌なことなど何ひとつしないのです。なぜって、小さな国の王様はそれはそれは偉い方でしたし、誰に対してもきちんと挨拶をして、嫌なことなど何ひとつしませんでしたからね。
ところが、ある日のこと、大きな国の王様のごけらいが小さな国の王様のごけらいにこんな話をしました。
「きみの国の王様は、一体何がそんなに偉いんだね。誰もかれも偉い、偉いともてはやすが、きみの国ときたらわしの国の半分の大きさもないし、わしの国ほど金貨を持っているわけでもない。他の国の王様だって、何かを始める前にはへへえとわしの国の王様のご機嫌を伺うが、きみの国の王様のご機嫌を伺ったりはしないだろう。つまりだね、どこからどう見てもわしの国の王様の方がきみの国の王様より偉いのさ」
これを聞いて、小さな国の王様のごけらいは、ははあと納得しました。
「なるほどなるほど。確かにあなたの言うことは道理にかなっているようだ。はてさて、ではなぜ私の国の王様は偉い、偉いと言われているのだろう」
小さな国の王様のごけらいの言いように、大きな国の王様のごけらいは笑いました。
そして、
「ここはひとつ、わしの国の王様の方が小さな国の王様よりも偉いことを証明してやろう」
と、考えました。
さっそく、大きな国の王様のごけらいは、小さな国の王様が大きな国の王様より偉くないのだということを証明するために、小さな国の王様に会いに行くことにしました。小さな国の王様に会うためには、いくつかの手続きが必要でしたが、大きな国の王様のごけらいは、それを無視して宮殿に向かいました。
大きな国の王様のごけらいは、小さな国の王様を前にしても、きちんとあいさつをしませんでした。しかし、小さな国の王様は腹を立てる様子もなく、いつものようにきちんとあいさつをしました。
次に、大きな国の王様のごけらいは、小さな国の王様を馬鹿にするようなことをしました。しかし、それでも小さな国の王様は腹を立てたりしませんでした。
この出来事を知った人々は、小さな国の王様は、やっぱり偉いのだと思いました。