ざ………ざ………
夏の海はぎらぎらと眩しかったが、相変わらず人気がない。
ただ、波の音と遠くからの祭囃子だけが湿った空気を震わせている。
(来てしまった…)
男は不安そうな顔で海岸をゆっくりと歩いていた。
時々無意味に振り返ってはため息をついている。
(いるわけ無いよな…)
冬に出会った少女の事を考える。
あの家族はどうなっただろう?
あれから、それだけをずっと考えていた。
(もし、会えたら…)
(全部話さなきゃ…)
風が吹いている。
沖では海鳥が騒がしく鳴いている。
(あ…)
果たして少女はそこにいた。
あの冬の夜に二人で腰掛けて語り合った、あの岩の上に。
「…こんにちは。」
おそるおそる男は声をかける。
その声に少女はゆっくりと振り向いた。
何だかグッと大人っぽくなった様だ。
「あの…前世ぶり。」
緊張をごまかす様に、思わずふざけた感じで話しかけてしまう。
「うん、おかえり。」
笑顔で応える少女を、男は不思議な気分で見つめていた。