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宣告

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 で、そんな仕事をしていると安くするから飲みに来てくれだとか誘われるのも当然の事。
俺は帳面に誰から稼いだ金が幾らかを詳細にメモしているのだけれども、それの金額が一定以上になると飲みに行ってある程度は金を使ってやる事にしている。
遅い時間に行けば延長にも限界があるのでそれ程金を使わないし、他の女の子を紹介してくれたりもするのである。
これは俺の中では接待なんだけれども、俺は女も酒も好きだし、こっちが客としてお金を使っているので接待しつつも接待されて良い気分になれるのだ。全く損はしない。グッドだ。
ベラドンナというキャバクラに在籍する女の殆どは俺の客で、一番長く働いているお局的な女が他の女の商品もまとめて持ち込んだりもしていたので俺は機嫌を取ってやる為に飲みにいく事にした。
そのベラドンナのキャバ嬢の一人があの女、カエデだったのだ。
カエデは黒の別珍のような色気がある女だった。
斜視気味の目、細い体、低い声、気だるげな雰囲気は馬鹿騒ぎをしたい他の客には人気が無かったが、俺の様に違いの判る男にはそれは合成樹脂の派手な茶碗の中に紛れ込んでいる黒焼きの名器の様に思えた。

 ベラドンナで一番商品を持ち込んだのはそのお局の女だったが、カエデの事が気になった俺は「他のお客さん優先でいいからな。ほら、俺はいつもみんなと喋れるし」みたいな事を言って人気のあるキャバ嬢を追っ払い、カエデと会うのは初めてだからと言う事で指名をした。
カエデは俺の中の男性的な部分をくすぐりまくった。矢場いくらいに。
カエデの接客はこんな塩梅だった。
「恥ずかしいのであまり顔は見ないで頂けると嬉しいです・・・・。斜視なので・・・・」
「こういう話をするのもあれかもしれませんが、昔付き合っていた人が暴力を振るう人で・・・・。そのせいで・・・・」
どうしようもない暗い接客で、店の方針からしたらかなりまずいのかもしれないけれど、俺はなんと云うか雄として頼られている感で満たされてしまい、カエデを目当てにベラドンナに、しかしカエデ目当てと気付かれないように他の女を指名しまくったりして気を遣いまくったりして店に通いまくりまくったりしまくった。
そして他の女に気付かれない様にカエデとアフターでうまい料理を出す店、つっても中区の店だから大した事は無いんだけど、カエデの趣味を聞いた上で一番合っていると思われる店に行って飯を食い、酒を飲み、酒を飲み、酒を飲み、甘い言葉を囁き、唇を覆い、ホテルに向かい、ああ、あの夜は最高だった。どれだけ最高だったかは言葉では表せないし、表してあげたくもないくらいヤバかった。マジ。
最高だっただけに、こんな、こんな今の状況が辛い。辛いのです。

 俺はカエデに所帯を持とうとかカップルになろうとか付き合っちゃおっかとかそんな事は言わず、大人の恋愛?みたいな?のを楽しもうと思っていたりしたのだけど?そんな甘い予定は1週間ほどして完全にぶち壊された。
いつもの様に朝起きてEメールチェックの後に出勤、携帯電話を売りながら2流3流のキャバ嬢やホストからバッグやアクセサリーを受け取ったりしていたら、ベラドンナのお局が深刻な顔をして俺を呼び出してきた。
店を若い者に任せてお局を昼間は定食を食わせる飲み屋に誘って昼飯を食う事にしたのだが、俺は殆どオーダーしたサバ煮込み定食を食えなかった。
「キタちゃんさぁ、やばいかもしんないよ」
「え?なんで?」
「カエデとホテル行ったよね?」
「え、いや、いやいやいやいやいや。そんな。で、で、カエデちゃんがどうしたの」
「カエデとさぁ、キタちゃんがさぁ、ホテル入ってってるのをさぁ、ナツキが見てんだよね。まぁそれは置いといてさぁ」
「えっ、いっ、う、うん」
「カエデの男がすごいやばい奴でさぁ、なんでかわかんないけどさぁ、カエデが浮気したっつーのを知って相手を探しまくってるみたいなんだよね」
「・・・・マジで?」
「うんマジで」
「・・・・・・」
「カエデは男なんかいないっつってたんだけどさぁ。サメって人知ってる?」

 俺はその名前を聞いて、漫画みたいに口を開けたまま割り箸を落として固まった。
お局は眉をハの字にして阿呆みたいな俺を哀れむような目で見ている。
サメは本当に矢場い。マジでやべえ。マジで。うううう。






5, 4

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