「明後日振りだな……今岡ァ!!」
「誰だお前」
ファミマで買ったスパイシーチキンをパクつきながら帰ってる途中謎の男に話しかけられた。
日本語がおかしいからたぶん日本人じゃないと思う。
「俺だ……安原だ! お前に! 二日後!! 敗れたッ!!!」
「悪いんだけど未来完了形やめてくんない?」
安原と名乗る男は拳をわなわなと振るわせながら俺の行く手を遮る。
スパイシーチキンの食感をゆっくり味わいたいから絡まないで欲しいんだけど。
「俺を叩きのめした後に言ったのはお前だ! 『おとといきやがれ』と! だから俺は時を超えた!!」
すげぇ。
どうでもいいけどスパイシーチキンってファミチキより美味くね?
なんでみんなファミチキファミチキ言うんだろう。
「鍛え上げた俺の拳は自転を逆流しッ! 公転速度に乗っかり!! お前の顔面をぶち抜くッ!!!
時速10万kmの極超マッハパンチが! そして森部のじーさんの奥義がッ!
てめぇをブッつぶす!!」
ファミチキは確かに美味い。衣のサクッとした食感とボリューミーな肉。
フライドチキンは皮が命…その意見は大手を振って賛成はできないものの、気持ちはわからないでもない。
「ところでファミチキとスパイシーチキンどっちが美味いと思う?」
「ファミチキに決まってんだろォがよぉッ!! 死ぃねェァ!!!! へぶっ」
俺のパンチによって安原は外宇宙まで吹っ飛んでいった。
フライドチキンに何より大切なのは、油だ。
はむんと囓ればじゅわっと染み込む、あの熱こそが鶏肉を真に極上の贄と変えるのだ。
そして同時に名前に違わないスパイシーな風味が喉を通り抜けていく――
「やっぱり最高だな、スパイシーチキンは……」
空を見上げれば、月の輪郭が滲んでいた。
あまりの旨さに涙腺が緩んでいたことに、そこでようやく気がついたのだった。
(おわり)