1日目
よお、元気!?
俺?俺は元気だけど今やっべえんだわ!
つー訳で自己紹介は後に送るな。
―そう、猛烈にヤバイのである。
大学1年生、初めての1人暮らし。
何が無くとも心を躍らせ毎日家事をこなすだけで楽しくて仕方が無かった。
朝カーテンを開けて日差しを浴びるだけで嬉しかった。
料理の腕がメキメキ上達して行くのが楽しかった。
TVを見たり音楽を聴きながら洗い物を片付けたり洗濯をするだけで面白かった。
昼間からビールをかっ食らう事もあった。
部屋で読書に耽って1日過ごす事もあった。
キャンバスに向かい絵を描いたり、粘土を捏ね回してみたり、とにかく制作作業に没頭する事も多かった。
きっちりコーヒーブレイクやティータイムも楽しんだ。
夜には友達と飲み歩き体が動かなくなるまで遊び歩いては泥のように眠る日々。
欠けていたのである。
一応大学生。
つまり大学に通わなければならない。
俺が住むのは大学から徒歩1分という奇跡的な立地の良さを誇る学生御用達のボロアパート。
こんな所に住んでいる癖に俺は全く大学に行かずに1年の前期を終えようとしていた。
現実に引き戻された理由は詳細には覚えていない。
とにかくある日、今自分は1年生前期にして早くも崖っぷちに立っているんだと悟った。
慌てて大学に向かい大勢の教授達に頭を下げた。
せめてもの救いが芸術学部に進学し、通学をサボっている間にも部屋で作品を作り溜めていた事である。
とにかく頭を下げた、下げまくった。
昔から年中怒られてばかりいたけれど、こんなに頭を下げて歩いたのは生まれて初めてだったように思う。
必死の悪足掻きが功を奏し、一応進級が見える位になった時ある教授から1つの課題を出された。
厳格な事で知られるデッサンの教授、その教授が最後のチャンスをくれるとは夢にも思わなかった。
部屋で作り溜めていた作品群が眼鏡に適ったと思うのは自分を高く値踏みしすぎだろうか。
まぁ兎に角一筋の光明ってやつが見えてきた訳だ。
威圧感を放つ教授に、「やって来なければ落とすがどうする?」と問われた際、内容も聞かずに答えてしまったのだ。
「やります!やらせて下さい!!」
課せられた課題は1週間で10枚のデッサンを完璧に仕上げて持っていく事。
教授の言う完璧とは今の俺のレベルで出しうる最大限のものを持って来いという意味であり、その点に関して言えばまぁ優しいといえば優しいのかもしれない。
部屋で作り溜めていた全ての手札は既に開示してしまったから使いまわしは一切利かない、そしてレベルの程もバレバレてしまったが故に手抜きも勿論出来ない。
真面目にこなせば普通に突破出来る関門。
問題は………
夏休みを間近に開放感に酔いしれる連中からの誘いを蹴って作業に専念出来るか、この1点に尽きる。
結果から言えば出来なかった。
連日連夜飲み歩き気が付けば提出4日前。
流石に俺も青くなった。(髪はフェラーリも逃げ出す位真っ赤なのにね!)
ケータイの電源を落として布団に放り投げ、アパートに篭り切りで作業に没頭した。
焦っては全てが台無しになる、慎重に、確実に、油断無く、しかし無駄無く手早く仕上げねばならない。
焦っちゃいけないのは経験で分かってる、それでも叫びたい。
やっべぇええええええええええええええええ!!!!!!!!
睡眠は勿論の事食事も碌に取らずに4日間フル稼働で作業に傾注した。
特に最後の2日間は完全に徹夜仕事だった。
そして提出期日の昼、遂に作業を終える。
提出作品を手に立ち上がる、も頭がふらつき満足に歩けやしない。
よたよたと年寄りの様に歩き教授に提出、この瞬間遅れ馳せながら晴れて俺も夏休みを迎えたって訳だ!
近場のコンビニで買った鮭おにぎりを頬張り伊右衛門で喉を潤す。
だらだらと歩きながらアパートを目指す俺、自然と緩む頬。
王道的な不審者であったが移動距離の短さが幸いしてか警察官の手を煩わせる事なく帰宅出来た。
駄目だ、もう限界。
「クク…フフ………ハッーハッハッハッハッハッハッハッハッハッ!!!!」
壁の薄いボロアパートで人目も憚らず高笑い。
やったぜ、これでなんとかなった、よく頑張った俺!!
偉い、天才、グッジョブすぎるぜっ!!!!
開放感を全身で味わった俺が夏休みに突入してまず取った行動。
それは…
「寝るっ!!!!」
布団気持ち良い!最高!!
俺、お前となら結婚出来るぜ!!!!
ヘラヘラとにやけながら布団の中でモゾモゾとポジションを替えベストなポイントを探る。
後はもう寝るだけ………
……………
………………
…………………
ミーンミンミンミンミンミンミンミンミンミン!!!!!!!!
ミーンミンミンミンミンミン!!!!!!
ツクツクホーシツクツクホーシア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!!!!!
「うるっせぇえええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!」
世間様では既に夏休み。
当然の事ながら風物詩として蝉が大活躍する時期。
普段ならパチンコ屋の休憩所でも爆睡可能な俺だけど、長い間集中して気が張った所為か全く寝付けない。
一応布団で耳を塞ぎ込み必死に目を瞑り涙ぐましい抵抗は試みた。
…………駄目か。
諦めは悪い方だけど、今回限りはこの際もうなんかしてやろう、そんな気持ちになってきた。
―良し、せっかくだ冒険に出よう。
ここらでいい加減俺の自己紹介をしておこうか。
俺の名前は手塚大輝。
親しい奴にはヒロさん、ヒロなんて呼ばれる事もある。
年齢は18歳、バリバリのティーンエイジャー!
趣味は、読書、芸術鑑賞、制作、飲み歩き、ギャンブル、etc、etc………割かし多趣味な方だけど表向きにはこの辺にしておく。
性格は好奇心旺盛で悪戯好き。(自己申告)
誇れる事は友達に面白い奴が多い事!
好きな色は赤!!
運動神経、体力には自信無し!(クラスに必ずいた何やらせても動けない奴、そんなポジションを小中高とこなしてきた)
ついでに方向音痴!
野望は世界1周!!!!
うん、こんだけ知ってりゃ今日から俺の事を語ってもいいぞ!
さてさて、こんな形で夏休み初日にしてテンションだけで旅立ちを決意した俺。
一応車の免許位は持っているもののマイカーなんて持ってないし単車に至っては免許すら持ってない、、欲しいけど。
残された手段は電車、バス等を乗り継ぐか、ヒッチハイカーとなるか、徒歩で行くか、はたまた駐輪所に停めてあるホームセンターで買い叩いたボロ自転車を使うか…
結局俺は所謂シティサイクルタイプの自転車を足として採用。
一応3段変速。
ペダルを金属製に変更、サイコン装備とそれなりに愛着ある自慢の相棒である。
ノリと勢いだけで出発したから目的地は特に無し、取り敢えずアパートの前の道をひたすら突き進んでみるぜっ!
俺?俺は元気だけど今やっべえんだわ!
つー訳で自己紹介は後に送るな。
―そう、猛烈にヤバイのである。
大学1年生、初めての1人暮らし。
何が無くとも心を躍らせ毎日家事をこなすだけで楽しくて仕方が無かった。
朝カーテンを開けて日差しを浴びるだけで嬉しかった。
料理の腕がメキメキ上達して行くのが楽しかった。
TVを見たり音楽を聴きながら洗い物を片付けたり洗濯をするだけで面白かった。
昼間からビールをかっ食らう事もあった。
部屋で読書に耽って1日過ごす事もあった。
キャンバスに向かい絵を描いたり、粘土を捏ね回してみたり、とにかく制作作業に没頭する事も多かった。
きっちりコーヒーブレイクやティータイムも楽しんだ。
夜には友達と飲み歩き体が動かなくなるまで遊び歩いては泥のように眠る日々。
欠けていたのである。
一応大学生。
つまり大学に通わなければならない。
俺が住むのは大学から徒歩1分という奇跡的な立地の良さを誇る学生御用達のボロアパート。
こんな所に住んでいる癖に俺は全く大学に行かずに1年の前期を終えようとしていた。
現実に引き戻された理由は詳細には覚えていない。
とにかくある日、今自分は1年生前期にして早くも崖っぷちに立っているんだと悟った。
慌てて大学に向かい大勢の教授達に頭を下げた。
せめてもの救いが芸術学部に進学し、通学をサボっている間にも部屋で作品を作り溜めていた事である。
とにかく頭を下げた、下げまくった。
昔から年中怒られてばかりいたけれど、こんなに頭を下げて歩いたのは生まれて初めてだったように思う。
必死の悪足掻きが功を奏し、一応進級が見える位になった時ある教授から1つの課題を出された。
厳格な事で知られるデッサンの教授、その教授が最後のチャンスをくれるとは夢にも思わなかった。
部屋で作り溜めていた作品群が眼鏡に適ったと思うのは自分を高く値踏みしすぎだろうか。
まぁ兎に角一筋の光明ってやつが見えてきた訳だ。
威圧感を放つ教授に、「やって来なければ落とすがどうする?」と問われた際、内容も聞かずに答えてしまったのだ。
「やります!やらせて下さい!!」
課せられた課題は1週間で10枚のデッサンを完璧に仕上げて持っていく事。
教授の言う完璧とは今の俺のレベルで出しうる最大限のものを持って来いという意味であり、その点に関して言えばまぁ優しいといえば優しいのかもしれない。
部屋で作り溜めていた全ての手札は既に開示してしまったから使いまわしは一切利かない、そしてレベルの程もバレバレてしまったが故に手抜きも勿論出来ない。
真面目にこなせば普通に突破出来る関門。
問題は………
夏休みを間近に開放感に酔いしれる連中からの誘いを蹴って作業に専念出来るか、この1点に尽きる。
結果から言えば出来なかった。
連日連夜飲み歩き気が付けば提出4日前。
流石に俺も青くなった。(髪はフェラーリも逃げ出す位真っ赤なのにね!)
ケータイの電源を落として布団に放り投げ、アパートに篭り切りで作業に没頭した。
焦っては全てが台無しになる、慎重に、確実に、油断無く、しかし無駄無く手早く仕上げねばならない。
焦っちゃいけないのは経験で分かってる、それでも叫びたい。
やっべぇええええええええええええええええ!!!!!!!!
睡眠は勿論の事食事も碌に取らずに4日間フル稼働で作業に傾注した。
特に最後の2日間は完全に徹夜仕事だった。
そして提出期日の昼、遂に作業を終える。
提出作品を手に立ち上がる、も頭がふらつき満足に歩けやしない。
よたよたと年寄りの様に歩き教授に提出、この瞬間遅れ馳せながら晴れて俺も夏休みを迎えたって訳だ!
近場のコンビニで買った鮭おにぎりを頬張り伊右衛門で喉を潤す。
だらだらと歩きながらアパートを目指す俺、自然と緩む頬。
王道的な不審者であったが移動距離の短さが幸いしてか警察官の手を煩わせる事なく帰宅出来た。
駄目だ、もう限界。
「クク…フフ………ハッーハッハッハッハッハッハッハッハッハッ!!!!」
壁の薄いボロアパートで人目も憚らず高笑い。
やったぜ、これでなんとかなった、よく頑張った俺!!
偉い、天才、グッジョブすぎるぜっ!!!!
開放感を全身で味わった俺が夏休みに突入してまず取った行動。
それは…
「寝るっ!!!!」
布団気持ち良い!最高!!
俺、お前となら結婚出来るぜ!!!!
ヘラヘラとにやけながら布団の中でモゾモゾとポジションを替えベストなポイントを探る。
後はもう寝るだけ………
……………
………………
…………………
ミーンミンミンミンミンミンミンミンミンミン!!!!!!!!
ミーンミンミンミンミンミン!!!!!!
ツクツクホーシツクツクホーシア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!!!!!
「うるっせぇえええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!」
世間様では既に夏休み。
当然の事ながら風物詩として蝉が大活躍する時期。
普段ならパチンコ屋の休憩所でも爆睡可能な俺だけど、長い間集中して気が張った所為か全く寝付けない。
一応布団で耳を塞ぎ込み必死に目を瞑り涙ぐましい抵抗は試みた。
…………駄目か。
諦めは悪い方だけど、今回限りはこの際もうなんかしてやろう、そんな気持ちになってきた。
―良し、せっかくだ冒険に出よう。
ここらでいい加減俺の自己紹介をしておこうか。
俺の名前は手塚大輝。
親しい奴にはヒロさん、ヒロなんて呼ばれる事もある。
年齢は18歳、バリバリのティーンエイジャー!
趣味は、読書、芸術鑑賞、制作、飲み歩き、ギャンブル、etc、etc………割かし多趣味な方だけど表向きにはこの辺にしておく。
性格は好奇心旺盛で悪戯好き。(自己申告)
誇れる事は友達に面白い奴が多い事!
好きな色は赤!!
運動神経、体力には自信無し!(クラスに必ずいた何やらせても動けない奴、そんなポジションを小中高とこなしてきた)
ついでに方向音痴!
野望は世界1周!!!!
うん、こんだけ知ってりゃ今日から俺の事を語ってもいいぞ!
さてさて、こんな形で夏休み初日にしてテンションだけで旅立ちを決意した俺。
一応車の免許位は持っているもののマイカーなんて持ってないし単車に至っては免許すら持ってない、、欲しいけど。
残された手段は電車、バス等を乗り継ぐか、ヒッチハイカーとなるか、徒歩で行くか、はたまた駐輪所に停めてあるホームセンターで買い叩いたボロ自転車を使うか…
結局俺は所謂シティサイクルタイプの自転車を足として採用。
一応3段変速。
ペダルを金属製に変更、サイコン装備とそれなりに愛着ある自慢の相棒である。
ノリと勢いだけで出発したから目的地は特に無し、取り敢えずアパートの前の道をひたすら突き進んでみるぜっ!
ノリと勢いだけで旅立ちを決意した俺。
適当に着替えなんかを詰め込んで自転車の荷台に大雑把にゴム紐で固定。
部屋着の甚平のまま外に飛び出し思いっきり背伸び。
準備おっけぇ、いざ出発!!
出発地点は神奈川県厚木市!
俺の冒険が今始まるっ!!
ハハッ、テンションたっけええええええ!!!!
取り敢えず分岐が迫ったらデカイ道を選択!
大体の道をひたすらひたすら真っ直ぐ走る、そんな感じでとんでもなく適当に進む。
天気良し、気分良し、文句な~し!
さっきまで眠気でフラフラしてたのが嘘みたいに体が軽い。
俺の体め、サボってやがったな!?
ジリジリ肌を焼く日差し、アホみたいに流れる汗、疲れてない訳が無いのにテンションが高いせいか全部ヘッチャラだ。
今俺は絶対無敵!そんな事考えならご機嫌に快走。
ただただ自転車を漕いでるだけなのに何処へ向かうか分からない先の無さと初めての体験からくる未知のワクワク感に心が躍って仕方がない!
―迷った。
いきなり迷った。
目的地も無いのに迷ったというのも可笑しな話だけどとにかく出発して1時間も立たない内に同じ風景を4度ばかり見ている。
無限ループって怖くね?そんなフレーズが脳裏をよぎる。
じっとり濡れる体、刺すような夏の日差し。
方向音痴の俺には最早来た道を戻る事すら適わない…
そして目的地が無いから人に尋ねるのにも困る。
そもそも今自分が居る所が何処でどの位の場所を言えば現実的な回答が得られるのか、全くピンと来ない。
ぴ~んち。
一先ず道路工事に励む兄ちゃんに道を尋ねる事に。
「本厚木の方から走ってきたんですけど、この道を抜けて大きな道に出るまでの順路を教えて下さい。」
我ながら今思うと随分な質問だ…
やっぱり睡眠不足で脳の稼動が落ち込んでいたんだろう。
工事現場の兄ちゃんも明確な目的地無きこの問いに困惑したようで
「ん~俺らもこの辺詳しい訳じゃあねえかんな~。取り敢えず―――」
「ありがとうございますっ!!」
「お~う気ィつけてなぁ~!」
そんなこんなで聞いた道を辿り再出発を果たす俺!
…………あれ?
この糞熱い中工事現場に集中してらっしゃるのはひょっとしてさっきのお兄さん方??
無限ループって(以下略)
ヤバイ。
中学生の時には競歩大会で友達と2人揃って迷子になるという偉業を達成した俺だが(翌年からルートが変更になった)ここまで方向感覚が無いとは…
あの時はふざけてお互い騙し合いをしていたら何時の間にか2人とも正しい道順を失念していたというどうしようもない落ちだったけど今回はガチで迷子になってる…
取り敢えずさっきアレほど元気良く飛び出した手前彼らの前を再び通過するのはかなり恥かしい。
そんな下らない事を考え、まぁ取り敢えず一休みするかなぁと木陰に自転車を停めてぼけ~っと呆けてみる。
不味いな、これは不味い。
想定外の事態。
一先ず目的地を定めてみよう。
神奈川かぁ…
本厚木がどの辺りに位置しているか考えた事もないけど取り敢えず海が見たいな。
湘南、そうだ湘南だ!
俺は湘南を目指す!!!!
うっはー燃えてきたぜぇっ!!
そんな訳で木陰で1人熱血していると…
声をかけられた。
警官じゃあない、何処からどう見ても一般人の爺さん。
「おめ、すげえ荷物だなぁ。どっから来たの?」
「押忍!本厚木から来ました。湘南目指してます!!ちなみに道に迷ってます!」
俺なりに敬老精神を発揮し努めて爽やかに挨拶をしたつもりだったのに、何故か哀れむような目で見られた。
「おめ、湘南は遠いぞ。無理だぞ?」
「若いですから!気合いで何とかします!!(マジかよ…遠いのかよ?そろそろ我に返った体が悲鳴を上げようとしてるぞおいっ!)」
「ん~む、それじゃあちょっとだけ案内してやるよぉ。ここらの道は分かり難いからなぁ。」
!!
天恵!
渡りに船!
迷い人に爺様!!
いやいや、天というよりこの爺さんに感謝だ、大感謝!!
「ありがとうございます!実はすっごい困ってました!!」
うひひと笑う爺さんの後を再び自転車で走り出す。
案外、何とかなるもんだ。
感謝感激雨あられとばかりに満面の笑みで爺さんの後を走る俺。
まぁ天気は快晴だけどねっ!
10分程後を走り高速道路との分岐路で別れる事になった。
「危ないから気を付けていけよ。この先の道ま~っすぐ走ったらいいんだ。困ったらまた人に聞けばいい。」
「ハイッ!ありがとうございますっ!!絶対辿り付きます!!!!」
後の事まで慮ってくれるなんて…
なんていい人なんだ………
なんかちょっとジーンとしていると…
「おぉそうだ、おめ荷物の固定が緩いよ。フラッコして走りにくいべ?」
そう指摘されて荷台に目を向けてみる。
何分初めての事だから勝手も分からず、確かに走りにくいけどまぁこんなもんだろうと思っていた。
「んむぅ、締まってはいるなぁ。足りねえか…んだ、これ使え!」
そういうと爺さんは自分の自転車の空になった荷台に縛り付けてあった荷紐を解いて俺に渡してくれた。
「そんな、そこまでしてもらっちゃあ悪いです!後で買いに行きますよ!!」
いきなりの事に慌てて謙遜してしまう。
「若いのが遠慮なんかするんじゃねぇっ!」
怒られた。
「…俺もよぉ、昔は旅ぃしたんだ。だからおめみてえな奴見ると応援したくなるんだぁ。こいつも一緒に連れてってくんなよ。」
………
ありがとう、ございます。
言葉に、ならない。
不思議な気持ちが胸に広がった。
「ありがとうございますっ!あのっ、俺絶対!これからもこいつを連れて色々な所に旅に出かけます!!本当に、本当にありがとうございますっ!!」
少し大きな俺の声に驚いた道行く人達の目が少しこそばゆい。
でも、でもなんかっ、凄く清清しい気持ちで、俺馬鹿だけど、まだ全然進んでないけどっ、旅に出て良かった、そう思った。
「うししし、行って来い、坊主。」
「ハイッ!!」
戴いた青い荷紐を自前の赤い荷紐の上から更にしっかりと巻きつける。
目の前に広がる高速道路行きの道路の通行が途切れた。
後ろを振り返ってお互いに目配せして頷く。
もう言葉は無かった。
せめて、せめて言葉の代わりにと全力でペダルを踏み出した。
違う、安定感がまるで違う。
高揚感が胸一杯に広がって、グイグイと前に進めた。
今なら本当に何処にだって行ける、そんな気がした。
適当に着替えなんかを詰め込んで自転車の荷台に大雑把にゴム紐で固定。
部屋着の甚平のまま外に飛び出し思いっきり背伸び。
準備おっけぇ、いざ出発!!
出発地点は神奈川県厚木市!
俺の冒険が今始まるっ!!
ハハッ、テンションたっけええええええ!!!!
取り敢えず分岐が迫ったらデカイ道を選択!
大体の道をひたすらひたすら真っ直ぐ走る、そんな感じでとんでもなく適当に進む。
天気良し、気分良し、文句な~し!
さっきまで眠気でフラフラしてたのが嘘みたいに体が軽い。
俺の体め、サボってやがったな!?
ジリジリ肌を焼く日差し、アホみたいに流れる汗、疲れてない訳が無いのにテンションが高いせいか全部ヘッチャラだ。
今俺は絶対無敵!そんな事考えならご機嫌に快走。
ただただ自転車を漕いでるだけなのに何処へ向かうか分からない先の無さと初めての体験からくる未知のワクワク感に心が躍って仕方がない!
―迷った。
いきなり迷った。
目的地も無いのに迷ったというのも可笑しな話だけどとにかく出発して1時間も立たない内に同じ風景を4度ばかり見ている。
無限ループって怖くね?そんなフレーズが脳裏をよぎる。
じっとり濡れる体、刺すような夏の日差し。
方向音痴の俺には最早来た道を戻る事すら適わない…
そして目的地が無いから人に尋ねるのにも困る。
そもそも今自分が居る所が何処でどの位の場所を言えば現実的な回答が得られるのか、全くピンと来ない。
ぴ~んち。
一先ず道路工事に励む兄ちゃんに道を尋ねる事に。
「本厚木の方から走ってきたんですけど、この道を抜けて大きな道に出るまでの順路を教えて下さい。」
我ながら今思うと随分な質問だ…
やっぱり睡眠不足で脳の稼動が落ち込んでいたんだろう。
工事現場の兄ちゃんも明確な目的地無きこの問いに困惑したようで
「ん~俺らもこの辺詳しい訳じゃあねえかんな~。取り敢えず―――」
「ありがとうございますっ!!」
「お~う気ィつけてなぁ~!」
そんなこんなで聞いた道を辿り再出発を果たす俺!
…………あれ?
この糞熱い中工事現場に集中してらっしゃるのはひょっとしてさっきのお兄さん方??
無限ループって(以下略)
ヤバイ。
中学生の時には競歩大会で友達と2人揃って迷子になるという偉業を達成した俺だが(翌年からルートが変更になった)ここまで方向感覚が無いとは…
あの時はふざけてお互い騙し合いをしていたら何時の間にか2人とも正しい道順を失念していたというどうしようもない落ちだったけど今回はガチで迷子になってる…
取り敢えずさっきアレほど元気良く飛び出した手前彼らの前を再び通過するのはかなり恥かしい。
そんな下らない事を考え、まぁ取り敢えず一休みするかなぁと木陰に自転車を停めてぼけ~っと呆けてみる。
不味いな、これは不味い。
想定外の事態。
一先ず目的地を定めてみよう。
神奈川かぁ…
本厚木がどの辺りに位置しているか考えた事もないけど取り敢えず海が見たいな。
湘南、そうだ湘南だ!
俺は湘南を目指す!!!!
うっはー燃えてきたぜぇっ!!
そんな訳で木陰で1人熱血していると…
声をかけられた。
警官じゃあない、何処からどう見ても一般人の爺さん。
「おめ、すげえ荷物だなぁ。どっから来たの?」
「押忍!本厚木から来ました。湘南目指してます!!ちなみに道に迷ってます!」
俺なりに敬老精神を発揮し努めて爽やかに挨拶をしたつもりだったのに、何故か哀れむような目で見られた。
「おめ、湘南は遠いぞ。無理だぞ?」
「若いですから!気合いで何とかします!!(マジかよ…遠いのかよ?そろそろ我に返った体が悲鳴を上げようとしてるぞおいっ!)」
「ん~む、それじゃあちょっとだけ案内してやるよぉ。ここらの道は分かり難いからなぁ。」
!!
天恵!
渡りに船!
迷い人に爺様!!
いやいや、天というよりこの爺さんに感謝だ、大感謝!!
「ありがとうございます!実はすっごい困ってました!!」
うひひと笑う爺さんの後を再び自転車で走り出す。
案外、何とかなるもんだ。
感謝感激雨あられとばかりに満面の笑みで爺さんの後を走る俺。
まぁ天気は快晴だけどねっ!
10分程後を走り高速道路との分岐路で別れる事になった。
「危ないから気を付けていけよ。この先の道ま~っすぐ走ったらいいんだ。困ったらまた人に聞けばいい。」
「ハイッ!ありがとうございますっ!!絶対辿り付きます!!!!」
後の事まで慮ってくれるなんて…
なんていい人なんだ………
なんかちょっとジーンとしていると…
「おぉそうだ、おめ荷物の固定が緩いよ。フラッコして走りにくいべ?」
そう指摘されて荷台に目を向けてみる。
何分初めての事だから勝手も分からず、確かに走りにくいけどまぁこんなもんだろうと思っていた。
「んむぅ、締まってはいるなぁ。足りねえか…んだ、これ使え!」
そういうと爺さんは自分の自転車の空になった荷台に縛り付けてあった荷紐を解いて俺に渡してくれた。
「そんな、そこまでしてもらっちゃあ悪いです!後で買いに行きますよ!!」
いきなりの事に慌てて謙遜してしまう。
「若いのが遠慮なんかするんじゃねぇっ!」
怒られた。
「…俺もよぉ、昔は旅ぃしたんだ。だからおめみてえな奴見ると応援したくなるんだぁ。こいつも一緒に連れてってくんなよ。」
………
ありがとう、ございます。
言葉に、ならない。
不思議な気持ちが胸に広がった。
「ありがとうございますっ!あのっ、俺絶対!これからもこいつを連れて色々な所に旅に出かけます!!本当に、本当にありがとうございますっ!!」
少し大きな俺の声に驚いた道行く人達の目が少しこそばゆい。
でも、でもなんかっ、凄く清清しい気持ちで、俺馬鹿だけど、まだ全然進んでないけどっ、旅に出て良かった、そう思った。
「うししし、行って来い、坊主。」
「ハイッ!!」
戴いた青い荷紐を自前の赤い荷紐の上から更にしっかりと巻きつける。
目の前に広がる高速道路行きの道路の通行が途切れた。
後ろを振り返ってお互いに目配せして頷く。
もう言葉は無かった。
せめて、せめて言葉の代わりにと全力でペダルを踏み出した。
違う、安定感がまるで違う。
高揚感が胸一杯に広がって、グイグイと前に進めた。
今なら本当に何処にだって行ける、そんな気がした。
胸に広がる無敵感、何処までも広がる真っ青な青空、心地良い風。
今、俺は湘南を目指して真っ直ぐに直走っている。
真っ直ぐに突き進むのはいい。
ただ真っ直ぐ進む、これだけ分かり易くやり甲斐のある目標というのは平時中々巡り会えるものでもない。
その事に感謝を感じつつペダルを漕いでは直走る。
ところどころで展開される道路工事の現場を抜けては遇に現場の兄ちゃんにエールを送ってもらい、ハイテンションに駆け抜ける。
汗だくになって走って走って、あっという間にボトルの中の水を空にしてはコンビニで水を補充してもらう。
序でにコンビニではかなり頻繁に道を訪ねた。
そこはやはり方向音痴。
自分の走る道について頭では常に自問自答、下半身はフル稼働なのである。
しかしまぁ頭で自問自答をしたところで出来の悪いこのお脳は明瞭な回答をくれたりはしないから、自然コンビニに足が向かうのはある意味順当なところなのかもしれない。
日射に揺らぐ景色をに目を細め、汗を拭っては色々な事を考えながら走った。
正直、ペダルを延々漕ぎ続けては自分の行く道は正しいのか気にする位しかする事もないのでまぁ当然だ。
大体は本当に取り留めも無い事。
空を飛ぶ鳥を見ては飛びてぇ~と思ったり、爆音で抜き去っていくバイクを見ては単車欲しい~と思ったり、そんな事が殆ど。
単純に移ろう景色にはしゃいだり関心したり、ほんの少し迷ってドキドキしたり、素直に非日常を楽しんだ。
1人旅といいつつあまり1人になる事は無いもんだな、ぼんやりそんな事を考えてペダルを回す事もあった。
ペダルを一押しする度にほんの少しかもしれないけど前に進む。
それは俺が如何に体力が無くても筋肉が無くても同じ事で、心さえ折れなければ何れは目的地に着く。
初めは何の目的も無く出発して、降って沸いたように頭に浮かんだ目的地湘南。
沢山の、本当に沢山の人達に助けられて、少しずつ少しずつ前進を続けた。
進み続けた。
だから、だから遂に、T字路の突き当たりのその向こうに海が、海が見えたんだ。
「うっおぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」
叫んだ、声の限りそれはもう叫んだ。
正直、俺にこんなところまで来れる訳が無いと思ってた。
咳込んで咽て、ちょっぴり涙が出た。
時間はまだおやつ時前。
大した時間は立っていないのに、本当に随分の事があった気がする。
自転車を海辺に寄せて波打ち際でぼんやりまったり。
こんな風に時間を使えるのはきっととても贅沢な事なんだろうな、そんな事を頭の片隅で考えながら寝転んで少し休んだ。
一休みをしたところで沸々と湧き上がる喜びは、際限無く高まっていくテンションはそう簡単に落ち着いたりはしない。
海辺からは遠くに島も見える。
あぁ、なんていうか、凄い!!
この喜びを誰かに伝えてみたくて、友達に電話をかけてみる事にした。
「もしもし!?おい、せいたろーっ!!海だ!海なんだ!!海じゃああああああああ!!!!!!!!!」
「………は?」
「たっぷり間を取っては?とか淋しくなるだろー!今日から夏休みで自転車で走ってたら何時の間にか海なんだよ!海が見える!!どうしよう!?」
「そのまま埼玉まで帰ってくるの?」
「おっ!?おう!!勿論だぜこのまま埼玉まで帰るに決まってる!!!!」
「死ぬなよ~。つーか馬鹿だろお前…」
「うっせうっせ!海だし!海なんだぜっ!!じゃ、またなっ!!」
今思い返すと飛んでもなく頭の悪い会話だったけどこの会話でまた1つ、新しい目的地が定まった。
このまま埼玉の実家まで帰っちゃえ☆
湘南の海沿いにはサイクリングロードが在る。
潮風を浴びながら真っ直ぐ伸びていく道ひたすらに走る。
うん、良い!!
この道を抜けて埼玉に近づくのか離れるのかはよく分からないけど、走ってみよう!!
そんな訳でサイクリングロードに飛び込んだ。
海岸とサイクリングロードにはかなりの高低差があるのにも関わらず、サイクリングロードには結構な砂が積もっていた。
風に運ばれてきたのかな?
とにかくこの砂が中々厄介で幾度かタイヤを取られ冷やりとさせられた。
でも、断然気持ちが良い!!
もしまだ海沿いのサイクリングロードを走った事が無い人がいるのなら、是非とも走ってみてほしい!
自信を持ってオススメ出来る程、それは気持ちの良い道だった。
海を眺め、空を眺め、鳥を眺め、波の音が耳を打ち、風の音が耳を擽り、日差しがサンサンと照りつける道。
こんな道を走れる機会はそうあるものじゃあないと思う。
ロケーションに合わせて甚平の上を脱いで走った。
そうそう、特に考え無しに部屋着の甚平のまま外に飛び出してしまったのだけれどこれは大正解だったように思う。
ただでさえ風通しの良い甚平は自転車を漕いで風を浴びる事によって、夏の暑さの中にあって尚俺を快適に過ごさせてくれた。
ともあれ上半身裸で元気に海沿いを走るティーンエイジャーの姿がそこにはあった。
うんまぁ俺だけどっ!
サイクリングロードともなると流石に色んなチャリダーに出会った。
すれ違う度挨拶を交わし走り去っていく。
ロードレーサーの細いタイヤで砂地の上を走破するのは傍目に中々大変そうだった。
サイクリングロードと言いつつマラソンに励むランナーもちらほらといて、和気藹々、通る人間皆兄弟!みたいな雰囲気漂う良い道だ!
うん、何度も言うけど良い道だ!!
遥か遠くに見えていた島がすぐ近くまで迫ってくる感覚。
実際迫っているのは俺の方なのだけれども、そんな事はさて置きこれは言葉にし難いけれどもとても気分の良い感覚だった。
遂にはサイクリングロードを走りきった。
ゴォオオオオオオル!!
なんとなく嬉しい瞬間で、やっぱり自画自賛しておいた。
その後当所なく海沿いの街並みを気ままに散策してみる事にした。
のんびりアイスクリームを堪能。
そろそろ何処で寝るか考えなくっちゃあなぁ…
あっその前に地図だよ地図!
いい加減地図がないとヤバイ、あってもヤバイかもしれないけどっ!
そんな訳でアイスクリームショップの兄ちゃんに良さ気な寝床と本屋を尋ねてみた。
丁寧に道を教えて貰い(ありがとう兄ちゃん!)忘れちゃ適わないと早速本屋に向かいツーリングマップルを入手!
これで一先ず一安心、かな?
地図の確認もそこそこに教えて貰った寝床、所謂ネットカフェに向かう事に。
幸いにもなんとか空きは見つかった。
ネットカフェのブースの中でどでんとシートに寝転がりながら地図を広げてみる。
鎌倉が目と鼻の先にある!
これを捨て置くにはあまりに惜しい。
最短ルートかどうかはさて置き明日はまず鎌倉に向かおう!!
明日は何が起こるんだろうか!?
ワクワクしながらカレーを頬張った。
食べ終わって横になるとドッと疲れが押寄せてきて、気が付いた時には既に眠りに落ちていた。
明日は…何処まで行けるんだろう。
2007/7/31
1日目終了
走行距離43.06km 消費カロリー407.4kcal
今、俺は湘南を目指して真っ直ぐに直走っている。
真っ直ぐに突き進むのはいい。
ただ真っ直ぐ進む、これだけ分かり易くやり甲斐のある目標というのは平時中々巡り会えるものでもない。
その事に感謝を感じつつペダルを漕いでは直走る。
ところどころで展開される道路工事の現場を抜けては遇に現場の兄ちゃんにエールを送ってもらい、ハイテンションに駆け抜ける。
汗だくになって走って走って、あっという間にボトルの中の水を空にしてはコンビニで水を補充してもらう。
序でにコンビニではかなり頻繁に道を訪ねた。
そこはやはり方向音痴。
自分の走る道について頭では常に自問自答、下半身はフル稼働なのである。
しかしまぁ頭で自問自答をしたところで出来の悪いこのお脳は明瞭な回答をくれたりはしないから、自然コンビニに足が向かうのはある意味順当なところなのかもしれない。
日射に揺らぐ景色をに目を細め、汗を拭っては色々な事を考えながら走った。
正直、ペダルを延々漕ぎ続けては自分の行く道は正しいのか気にする位しかする事もないのでまぁ当然だ。
大体は本当に取り留めも無い事。
空を飛ぶ鳥を見ては飛びてぇ~と思ったり、爆音で抜き去っていくバイクを見ては単車欲しい~と思ったり、そんな事が殆ど。
単純に移ろう景色にはしゃいだり関心したり、ほんの少し迷ってドキドキしたり、素直に非日常を楽しんだ。
1人旅といいつつあまり1人になる事は無いもんだな、ぼんやりそんな事を考えてペダルを回す事もあった。
ペダルを一押しする度にほんの少しかもしれないけど前に進む。
それは俺が如何に体力が無くても筋肉が無くても同じ事で、心さえ折れなければ何れは目的地に着く。
初めは何の目的も無く出発して、降って沸いたように頭に浮かんだ目的地湘南。
沢山の、本当に沢山の人達に助けられて、少しずつ少しずつ前進を続けた。
進み続けた。
だから、だから遂に、T字路の突き当たりのその向こうに海が、海が見えたんだ。
「うっおぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」
叫んだ、声の限りそれはもう叫んだ。
正直、俺にこんなところまで来れる訳が無いと思ってた。
咳込んで咽て、ちょっぴり涙が出た。
時間はまだおやつ時前。
大した時間は立っていないのに、本当に随分の事があった気がする。
自転車を海辺に寄せて波打ち際でぼんやりまったり。
こんな風に時間を使えるのはきっととても贅沢な事なんだろうな、そんな事を頭の片隅で考えながら寝転んで少し休んだ。
一休みをしたところで沸々と湧き上がる喜びは、際限無く高まっていくテンションはそう簡単に落ち着いたりはしない。
海辺からは遠くに島も見える。
あぁ、なんていうか、凄い!!
この喜びを誰かに伝えてみたくて、友達に電話をかけてみる事にした。
「もしもし!?おい、せいたろーっ!!海だ!海なんだ!!海じゃああああああああ!!!!!!!!!」
「………は?」
「たっぷり間を取っては?とか淋しくなるだろー!今日から夏休みで自転車で走ってたら何時の間にか海なんだよ!海が見える!!どうしよう!?」
「そのまま埼玉まで帰ってくるの?」
「おっ!?おう!!勿論だぜこのまま埼玉まで帰るに決まってる!!!!」
「死ぬなよ~。つーか馬鹿だろお前…」
「うっせうっせ!海だし!海なんだぜっ!!じゃ、またなっ!!」
今思い返すと飛んでもなく頭の悪い会話だったけどこの会話でまた1つ、新しい目的地が定まった。
このまま埼玉の実家まで帰っちゃえ☆
湘南の海沿いにはサイクリングロードが在る。
潮風を浴びながら真っ直ぐ伸びていく道ひたすらに走る。
うん、良い!!
この道を抜けて埼玉に近づくのか離れるのかはよく分からないけど、走ってみよう!!
そんな訳でサイクリングロードに飛び込んだ。
海岸とサイクリングロードにはかなりの高低差があるのにも関わらず、サイクリングロードには結構な砂が積もっていた。
風に運ばれてきたのかな?
とにかくこの砂が中々厄介で幾度かタイヤを取られ冷やりとさせられた。
でも、断然気持ちが良い!!
もしまだ海沿いのサイクリングロードを走った事が無い人がいるのなら、是非とも走ってみてほしい!
自信を持ってオススメ出来る程、それは気持ちの良い道だった。
海を眺め、空を眺め、鳥を眺め、波の音が耳を打ち、風の音が耳を擽り、日差しがサンサンと照りつける道。
こんな道を走れる機会はそうあるものじゃあないと思う。
ロケーションに合わせて甚平の上を脱いで走った。
そうそう、特に考え無しに部屋着の甚平のまま外に飛び出してしまったのだけれどこれは大正解だったように思う。
ただでさえ風通しの良い甚平は自転車を漕いで風を浴びる事によって、夏の暑さの中にあって尚俺を快適に過ごさせてくれた。
ともあれ上半身裸で元気に海沿いを走るティーンエイジャーの姿がそこにはあった。
うんまぁ俺だけどっ!
サイクリングロードともなると流石に色んなチャリダーに出会った。
すれ違う度挨拶を交わし走り去っていく。
ロードレーサーの細いタイヤで砂地の上を走破するのは傍目に中々大変そうだった。
サイクリングロードと言いつつマラソンに励むランナーもちらほらといて、和気藹々、通る人間皆兄弟!みたいな雰囲気漂う良い道だ!
うん、何度も言うけど良い道だ!!
遥か遠くに見えていた島がすぐ近くまで迫ってくる感覚。
実際迫っているのは俺の方なのだけれども、そんな事はさて置きこれは言葉にし難いけれどもとても気分の良い感覚だった。
遂にはサイクリングロードを走りきった。
ゴォオオオオオオル!!
なんとなく嬉しい瞬間で、やっぱり自画自賛しておいた。
その後当所なく海沿いの街並みを気ままに散策してみる事にした。
のんびりアイスクリームを堪能。
そろそろ何処で寝るか考えなくっちゃあなぁ…
あっその前に地図だよ地図!
いい加減地図がないとヤバイ、あってもヤバイかもしれないけどっ!
そんな訳でアイスクリームショップの兄ちゃんに良さ気な寝床と本屋を尋ねてみた。
丁寧に道を教えて貰い(ありがとう兄ちゃん!)忘れちゃ適わないと早速本屋に向かいツーリングマップルを入手!
これで一先ず一安心、かな?
地図の確認もそこそこに教えて貰った寝床、所謂ネットカフェに向かう事に。
幸いにもなんとか空きは見つかった。
ネットカフェのブースの中でどでんとシートに寝転がりながら地図を広げてみる。
鎌倉が目と鼻の先にある!
これを捨て置くにはあまりに惜しい。
最短ルートかどうかはさて置き明日はまず鎌倉に向かおう!!
明日は何が起こるんだろうか!?
ワクワクしながらカレーを頬張った。
食べ終わって横になるとドッと疲れが押寄せてきて、気が付いた時には既に眠りに落ちていた。
明日は…何処まで行けるんだろう。
2007/7/31
1日目終了
走行距離43.06km 消費カロリー407.4kcal