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第十八章 宿命の決戦

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第18章 宿命の決戦

両者は剣を構えたままお互いに睨みあっていた。周りの空間には張り詰めたような緊張感が漂う。不思議なことに、風の揺らす木々の音すら聞こえなかった。まるで時が止まっているかのようだ。
そして、一片の落ち葉の音が静寂を破った瞬間、鋭い金属音が響いた。両者の剣が交わった時、空気を揺らすかのような衝撃が伝わり、空間は静から動へと変わった。

「腕を上げたな、マーク。」

ロイドは聖剣を介して、マークの剣の重みを感じた。

「貴様もな、ロイド。これは久々に面白い勝負ができそうだ。」

マークは不敵な笑みを浮かべた。

両者は鍔迫り合いから一旦離れた。今度はマークが上段から斬りかかって来る。

「その程度の太刀筋では見切られるぞ。」

ロイドは下段から擦り上げるようにマークの剣をはじき返し、返す剣でイングラクトを振り下ろした。

「やるな、だが詰めが甘い。」

マークは聖剣の一撃を左手の大きな騎士盾(カイトシールド)で受け止めた。

「貰ったーーー!!」

間髪いれず、がら空きになったロイドの胸目掛けてティルヴィンクを突いた。

「まずい、盾に阻まれて剣を降ろせない。これでは突きを防ぐことが・・・。」

ロイドは咄嗟に機転を利かせて、身体をひねりながらイングラクトを横になぎ払った。これにより盾から剣が外れ、マークの突きを相殺した。

「ぐわあ!!」

遠心力により剣の威力が増していたため、マークは吹っ飛ばされたが受身を取って着地した。再び、両者の距離が離れた。戦いは仕切り直しである。

「やはり正攻法では無理か。だが、今の俺にはティルヴィンクがある。魔剣の力を使えば、例えばこんなこともできる。」

マークは魔剣を持っている腕を縦に回転させた。すると剣の軌跡に従い炎の輪が現われる。

「ファイアウィール!!」

マークの生み出す炎の輪は、回転しながら次々とロイドに迫っていく。

「くっ・・・。」

ロイドは炎の輪を横に飛んでかわした。炎は後ろの木々に直撃し、激しく燃え出した。

「ティルヴィンクの纏う炎は、使用者の意思に応じて自在に姿を変えることができる。」

そう言って、マークは再び炎の輪を作り出した。

「もう一発いくぞ。」

マークが炎の輪を放った、その瞬間

「セイントアロー!!」

ロイドが光の矢を放った。衝突した炎と光は激しい閃光を放ちながら打ち消しあった。

「くそ、眩しくて何も見えん。」

マークが目を開けたときには、宙に舞うロイドの姿があった。

「パーディションブレード!!」

ロイドは目をくらましている隙に、空中から奇襲をかけたのだ。

「しまった・・・。」

マークは間一髪、ロイドの一撃を後ろに跳んで避けた。

「やるな、ロイド。しかし、お前は俺の罠に陥った。」

マークが地面に突きたてたティルヴィンクに力を込めると、

「イクスプロードソード!!」

不意にロイドの着地した足元が爆発したのだ。

「ぐあああああ!!」

完全に不意をつかれたロイドは、爆発をまともに受けてしまった。

「予め地面に炎の力を宿しておき、貴様が来た瞬間にその力を解放したという訳だ。いわば、魔法の地雷。変幻自在なティルヴィンクの攻撃の前に、貴様に勝ち目はない。」

マークは高笑いした。

「一つ問おう・・・。お前は何故王国を裏切った? 共に切磋琢磨した王立士官学校を卒業し、お前はガストラングの近衛部隊に入った。何故だ!!」

ロイドは地面に膝をつき、肩で息をしながら尋ねた。

「俺は・・・。俺の一族は元々はガストラング人だったんだ!!俺の先祖は終末戦争で捕虜としてエルロードに連れて行かれ、戦争終結後も両国の確執が続き、帰れることはなかった。士官学校に入れば帝国軍に所属するという名目で故郷に帰れると思った。
俺から故郷を奪った王国騎士の育成機関になんて入りたくはなかったが、それでも耐え続けた。ガストラングに帰るため、憎きエルロードに復讐するためにだ。俺はお前達エルロード人が憎い!!」

マークはそう叫んで、ロイドの喉元に魔剣を突きつけた。

「気持ちは分かるが、だからといって武力をもって武力に対抗しても憎しみの連鎖は消えない。ただ、悲しみが増すだけだ。」

「黙れ!!」

マークは突きつけた剣をさらに喉元に近づけた。剣の纏う炎の熱を、ロイドは喉に感じた。

「お前はさぞ自分が正義かのように言っている。だが、俺からすれば俺が正義で貴様が悪だ!!この世に絶対の正義なんて存在しないんだよ!!」

マークの言葉にロイドは鈍器で叩かれたような衝撃を受けた。今まで自分が信じてきた正義を否定されたのだ。

「このままひと思いにお前の喉を貫き、殺すことなら簡単にできる。だが、そんなことはしない。」

マークはティルヴィンクを天高く掲げると、今までに感じたことの無いような強い魔力を発した。

「このティルヴィンクの炎で、お前を跡形もなく消し去ってやる!!」

驚いたことに、魔剣の炎はマークの全身を包み込み始めた。その状態で天高く跳躍すると、炎はあるものを形作った。まさしく、その姿は伝説の不死鳥、「フェニックス」であった。

「究極奥義、フェニックスソード!!」

不死鳥と化したマークは、気合と共に天空からロイドに突撃をした。

「あれだけの炎をくらえば、俺は間違いなく消し炭になるだろう。俺の体力も限界、チャンスは後一撃だ・・・。」

ロイドはイングラクトを支えに立ち上がると、そのまま剣で地面を擦りながら走った。

「来い、マーク!! 俺がお前の憎しみの炎を迎え撃ってやる!!」

ロイドは足と剣の両方で地面を蹴り上げ、跳躍するとその勢いを利用し剣を振り上げた。

「クレセントスライサー!!」

光り輝くイングラクトの軌跡が三日月を描くと、斬撃をまともに受けたマークは地面に墜落した。

「馬鹿な・・・。俺の技が・・・破られる・・・とは。」

マークは地面に仰向けになり、息も絶え絶えに言った。

「憎しみの力というものは人を強くするが、脆く崩れやすい。お前の負けだ、マーク。」

ロイドはマークのもとへ歩み寄った。

「黙れ!!貴様に説教される覚えは無い!!」

マークは立ち上がると、剣を鞘に収めた。

「今回は見逃してやる、どこへなりと行くがいい。だが、貴様は帝都に不法侵入した上に、王石まで奪っていった!!必ず捕まえて王石を取り戻し、お前は民衆の前で公開処刑してやる!!」

そう言い残し、マークは去っていった。

「城に潜入した今、もはや立派な犯罪者か・・・。奴とは再び剣を交えることになりそうだ。」

そして、ロイドはトランシーバーをおもむろに取り出した。

宿屋「兵士の詰め所」

「ロイドから着信だ。」

ワトソンは叫んだ。

「なんですって、ロイドは無事ですの?」

ジョアンは急かしながら、ワトソンに尋ねた。

「今どこにいるの? 無事に脱出できた?」

ワトソンは尋ねた。

「ああ、なんとか王石を奪還できた。しかし、諸事情があって二度と帝都に入れそうに無い。今は外壁にいる、最初来た所だ。こっちへ来てくれ。」

「良かった。無事だったみたいですわね。」

ジョアンはロイドの声を聞き、安堵のあまりその場に泣き崩れた。

「大丈夫よ、いくつもの修羅場を潜り抜けてきたロイドだもん。」

ユリアはジョアンを励ました。

「しかし、このまま捕まってしまうんではないかと心配で・・・。」

ジョアンは涙声で言った。

「よし、そうと決まればここには用はねえ。ロイドのところに向かおうぜ。」

マルスは平然と言った。

「ちょっと、ジョアンのことも考えなさいよ。デリカシーの無い男ね。」

ユリアが腰に手を当てて、非難した。

「私は大丈夫ですわ。」

ジョアンはユリアの肩につかまり立ち上がった。

「それじゃあ、ロイドの所へ行こうか。」

ワトソンたちは宿を出て行った。

帝都ガストラング 外壁

「ああ、居た居た。ロイド~。」

ワトソンはロイドを見つけると手を振った。

「お前なら生きて帰ってくると思ってたぜ。」

マルスはロイドの肩を軽く叩いた。

「皆が無事を祈ってくれていたお陰だ。すまない・・・。」

ロイドは感謝の意を述べた。

「それで、次の王石の在り処は分かった?」

ワトソンは尋ねた。

「『フォービドゥンタワー』だ。おそらくあれの事だろう。」

ロイドは外壁のの西に聳える巨大な等を指差した。

「でっけえ塔だな~、あれに登るのか? 嫌だな~、疲れそうだぜ。」

ラッドは弱音を吐いた。

「ぐずぐずしている暇はない、フォービドゥンタワーに向かうぞ。」

一行は次の目的地、フォービドゥンタワーを目指した。

「『魔術士が役に立たない』か、何か引っかかるな。」

ロイドはふと帝国兵の言葉を思い出していた。
しかし、この塔が恐るべき力を秘めていることは、まだ知る由も無かった・・・。

                                              第18章 完


















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