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日常ノ一日

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 支度を終えて外にでる。腕時計で時間を確認すると、八時十五分。いつも通りだ。
「信也、お前確か、今日も仕事だったな」
「バイトな。帰りはいつも通り、八時過ぎになると思うから、夕飯先に食ってて」
「心得ておる。しっかり稼いでこい。あと夜道には気をつけろ」
「わぁってる」
 この家に車庫はあるが、車はない。端の方は半ば物置と化していて、開けた中央に二台の自転車が並んでいた。真新しい方に跨る。鞄をカゴに突っ込んで鍵を外す。
「じゃあ、いってくるわ」
「うむ、いってこい」
『――――――――』
 朝はいつも、玄関先に立つじーちゃんと、クロが見送ってくれる。自転車のペダルを踏みこんで、家を出た。
 
 空は晴れているのに、風が冷たい。路に生えた木々の葉は、紅葉しているか、地面に落ちているかだった。
 高校に着くまであと数分。最後の交差点にさしかかった時、目の前の信号が点滅した。黒い制服を着た波が、綺麗に二つに分かれていく。
(渡れそうにない、かな)
 微妙だが、時間には余裕があるから急ぐこともない。歩道の手前、ブレーキをかけて、アスファルトの上に足をついた時だった。後ろから一台、髪を金髪に染めた制服が横切っていった。
 信号は既に赤。止まっていた車は動きだしていた。
 車のクラクション。同時に急ブレーキ。
 脳裏に浮かびあがった、十年前の光景。
「―――っせーんだよッ! ボケッ!」
 金髪の制服は勢いそのまま、斜めになったカーブを曲がって消えていく。あの時の再現は起こらなかった。
「……うわー、なにあれー」
「あれって、一年のなんとかいう奴でしょ」
「迷惑だよね、あぁいうの。なんでウチの高校入れたんだろ」
「だよねぇ。まぁ、ここの信号、すっごい長いけどね」
「遅刻しそうな時は焦るよねー」
 そんな会話が聞こえてきた。同じ学年という共通点だけで、俺もそいつの顔と名前ぐらいは知っていた。
(……まぁ、それよりも)
 信号が変わるまでの待ち時間、手を静かに胸に添えてみた。
 変わらない心臓の鼓動が聞こえてくる。
(平気だ)
 十年前は、自動車という物を見るだけで吐き気がしていた。
 軽々しくヒトを殺せる物が、当然のように走っているのを見て、あり得ないと思っていた。自分の身に、不幸が起きて初めて、それを実感した。
 俺達は、簡単にヒトを殺せる。簡単に殺される世界に生きている。
 
 外の世界が怖かった。
 田畑が広がり、田舎と呼べるこの場所でも、車という物はどこにでもあった。目にしない一日などなかった。両親を失ったあの事故は、完全に相手側の過失だったと、じーちゃんから聞かされている。
 事故の後の経過は詳しく知らない。あえて尋ねることはしなかったが、じーちゃんからも、俺が高校を卒業するまで、一切語るつもりはないと言われた。それでも時折届く分厚い封筒や、家に来る親族がもたらした言葉を耳にした。
『――事故の原因を起こした運転手は今も服役中。一家は離散し、当時中学生だったあの女の子は、今年、結婚したそうだ』
 それを聞いた時、じーちゃんはどう思ったんだろう。
 俺はもう、十年前のことについて激しく怒ったり、恨んだりすることはできなくなった。どうしても許せないという感情が、湧き上がらなくなっていた。
『――えぇか、信也。相手を怨んじゃいかん。怨むより悲しめ。悲しんで、これ以上泣けんいうぐらい、泣け。お前はもう父さんと母さんには二度と会えん。だがの、お前にはまだじーちゃんが残っとるし、ワシにもお前が残っとる。
 二十年前、妻に先立たれてしもうた時は、ワシもお先真っ暗に思ったもんだ。お前の親父の陶也がおらんかったら、どうなっとったかわからん。あぁこら、そんな顔すんな。安心せい。じーちゃんは百二十まで生きる。お前の子供、曾孫のさらに孫を見るまで、よー死なんわ』
 冷たい風に吹かれて、いろいろ思い返していた。
 信号が再び、点滅しはじめた。
「あぁもう、やっぱりここの信号長いよー!」
「待ってる間は、寒くなるから嫌だよねぇ」
 信号が赤から青に変わる。
 そうだなと一人頷いて、前に進んだ。
 
 高校は、小高い丘の上にある。正門前の急な坂が、地味に辛かった。
「おはよう、信也」
「よう」
 聞きなれた声。振り返れば思った通り、昔馴染みの竜二が、同じように自転車を押していた。追いつくのを待ってから、並んで上る。
「今朝は寒いねぇ」
「最近いきなり寒くなったよな。うちは昨日こたつ出したけど、じーちゃんがうるせぇんだよ」
「なんで?」
「まだ全然寒くねぇとか言いやがる。今朝も半袖だったしな。信じられるか? 今、十一月だぜ」
「相変わらずタフだなぁ」
「あの極道ジジィ、百歳超える気満々だかんな」
「普通に超えるだろうねぇ」
 竜二がくつくつ笑う。男にしては線の薄い印象だが、意外と肝が据わっていたりする。竜二だけが唯一、小学生当時、じーちゃんに平然と挨拶をした。しかもその後笑顔で、「小指があったねぇ」とか言いやがるので、腹を抱えて爆笑した記憶がある。
「竜二、明日の放課後、どっか遊びに行かね?」
「今日じゃなくて?」
「今日は俺がバイト入ってるから無理」
「そっか、ごめん。明日は僕も先約があるんだ。先輩と、ちょっとね」
「彼女だっけ」
「うん。素敵な人だよ」
「さらっと惚気んな」
「信也も彼女作ればわかるよ」
「うわ、うぜぇ」
 幸せ絶頂ですといわんばかりの腐れ縁を、脳内で坂の下まで蹴り転がす。気が収まらず、実際に一発蹴っといた。
「そのぐらいなら許してあげるよ」
「ほう」
 顔面に軽く裏拳を入れてから、正門を抜けた。

 自転車を停めて校舎に入る。廊下を進めば、ハリボテの看板や、大工道具を運ぶ生徒が見えた。
「文化祭の準備かな?」
「だろうな、ウチのクラスもそろそろ買いだし行かないと、マズいんじゃねーの」
「今日の午後にでも分担決めるんじゃないの。担任の科学があるしね」
「授業が潰れりゃいいよな」
「そうだねぇ」
 適当に期待しつつ、渡り廊下を進む。
 正直、自分のクラスの出し物については、そこまで関心がなかった。飲食店をやるのはいいと思うんだが、
「……メイド喫茶、なぁ」
「あれ、不満?」
「べつに。ただ、余計なとこに金かけなくてもいいだろ。女子は制服汚れないように、エプロンだけつけてりゃいいじゃん」
「そっか。信也はメイド服より、裸エプロン派なんだね。マニアックな趣味だなぁ」
「なに言ってんだお前は」
 
「ヘンタイ」

 訂正するのも面倒くせぇ。適当に流しとけと思っていた。思っていたら、いきなり後ろから、氷のように冷たい声が飛んできた。
「猪口って、そういう趣味があったんだ」
 振り返った。少し離れたところから、射抜くように睨みつけてくる、同じクラスの女子がいた。高校名が刺繍された袴を着て、片手には何故か竹刀を握っている。
「穴吹?」
「軽々しく呼ばないで」
 一蹴。視線は原因を作った竜二でなく、俺に向けられている。いつものことだった。
「あの、穴吹さん」
「なによ岡野」
「穴吹さんって、剣道部だったよね? その格好、部活の朝練でもやってたの?」
「……うん」
「なんでここにいるんだ?」
「うるさい」
「剣道部の練習場って、運動場の向こう側だよね」
「……うん」
「抜け出してきたのかよ」
「うるさい。猪口は黙って」
「……」
 いつも思う。なんで俺、ここまで嫌われてんだ。同じクラスの穴吹とは、顔を合わせる度にこんな感じだった。
「猪口は話かけてこないで。前からそう言ってるでしょ」
 なにか言い返す前に、走り去っていく。
 いつものように、一瞬の出来事だった。
8, 7

  


 同じクラスにいる穴吹優花は、顔は美人だが、男嫌いで有名な女子だった。聞いた話にすぎないが、告白してきた男にたいして「ふざけてるの?」と言って両断したと聞く。とは言え、
「……俺が、なんかした覚えはねーんだけど」
「さぁね、僕にはなんとも」
 教室に入って、ホームルームが始まるまでの間、竜二とさっきのことを話していた。
「あいつ、部活の途中だったんだろ。なんであそこにいたのか、普通は気になるじゃねーか」
 二階の教室。その窓から見える武道場までの距離は、さほどでもない。目を凝らせば、人の顔も判別できないことはなかった。
「そうだねぇ、もしかしたら信也を見つけて、急いで追いかけてきたんじゃないの?」
「……どんだけ嫌われてんだよ、俺」
「いや別に、そういうわけじゃなくて」
 竜二が苦笑する。
「なにがおかしいんだよ」
「竹刀持ってたからね。決闘でも申し込みにきてたんじゃないの?」
「冗談よせよ。あいつ確か、夏の全国でるぐらいの腕前だろ」
「信也だって、有段者のお爺さんに、小学生の頃からずっと稽古つけてもらってるんでしょ?」
「毎日真面目にやってる奴と一緒にすんな。俺のは稽古っつーよか、ジジィの憂さ晴らしの相手だしな」
「じゃ、穴吹さんの憂さ晴らしにも付き合ってあげなよ」
「お前な、人事だと思って……」
「うん。傍から見てると楽しいよ」
 笑って言いやがった。
 竜二は頭がいいし、面倒見がよく、頼りになる奴だと思っている。けど穴吹のことに関しては、自分は単なる外野ですと言わんばかりの態度だった。携帯を開いて、画面を見ながら呟いた。
「――あっ、先輩からメールだ」
「彼女?」
「そうそう」
 言いながら、心底嬉しそうに携帯を操作していく。彼女ねぇ。
 竜二から目を逸らして、教室の入り口を見た時だった。
「ゆーか、おはよー」
「おはよう」
 制服に着替えていた穴吹が、教室に入ってきた。
「今日の午後の授業ねぇ、文化祭の事について相談するらしいよー」
「そろそろだもんね」
「うん、ゆーかのメイドさん、楽しみー」
「当日はみんなで写真とろうね」
「メイド大集合だねぇ」
「そうそう」
 同じクラスの女子とは、笑って話をしている。遠目に見ていると、やっぱ綺麗だなと思う。ただ、うっかり視線が会うと、
「…………!」
 その目が、急に細くなる。美人がそういう顔をすると迫力も増す。お互いにとって不幸なことに、穴吹の座る席は、窓際にある俺の斜め後ろだった。
「猪口」
「おはよ」
「……」
 無言だった。無理に好かれたいとも思わないが、理由もなく毛嫌いされるのは、やっぱキツい。穴吹は立ったまま、こっちを見下ろしてくる。
「ねぇ、さっき」
「殺気?」
「そう。さっきの、廊下」
「……あぁ、さっきのことな」
「うん」
 あまりに険しい顔をしているせいで、ありえない勘違いをしてしまう。
 居心地が悪い。穴吹と会話をしていると、理由のわからない緊張感に襲われる。それとなく竜二の助けを期待するも、変わらず携帯をいじっていた。メールでもしてんのか。
「さっきね」
「なんだ」
「猪口に、ヘンタイって、怒鳴ったでしょ」
「……」
 まて、ちょっとまて。
 元凶である竜二が、声を忍ばせて笑いだす。穴吹の言葉が届いたところにいた連中も、こっちを注目しはじめた。
「穴吹、頼むから、俺の平穏な高校生活を乱さないでくれ」
「わ、わかってるわよ! 話の途中で口を挟まないで! ややこしくなるでしょ!」
「……」
 俺が悪いのか。仕方なく押し黙る。
「私、さっき、用事があって、だから、その、急いでたのよ。でも気がついたら、竹刀持ってるし。持ったでしょ?」
「……おう」
 既に意味がわからん。わからんが、一応頷いておく。
「でも、なんとかして……なんとかしようと思ったの! でもそうしたら、猪口は裸エプロンだって言ってるし! もうわけわかんない!」
「……」
 俺も訳がわからない。お前はなにを言ってんだ。
 相変わらず黙って聞いていたら、竜二が腹を押さえて小刻みに震えていた。よし、あとで蹴りとばしておこう。
「……裸エプロン?」
「裸エプロン、だと……?」
 しかもクラスの男子連中が、その単語にだけ過剰反応している。
 視線が突き刺さる。朝から地味に胃が痛い。
「ちょっと猪口! 話聞いてるのっ!?」
「聞いてるよ、つまり誰かに用事があって、あそこにきたんだろ」
「それなら返事しなさいよっ!」
「お前が口挟むなって言ったんだろ」
「そっちじゃなくて!」
「は? そっち?」
「~~~~ッ!」
 穴吹の顔が赤く染まる。
 原因はさっぱり分からないが、怒らせてしまったことだけは分かった。分かった時には、いつも遅い。
「猪口の、バカ」
 最後にそれだけ言って、背を向けられた。
 
 午前中の授業が終われば、昼休みは四人で賭けポーカーに興じていた。賭ける対象は学食の菓子パンだ。
 ワンコイン百円の「ジャムパン」「チョココロネ」「クリームパン」「メロンパン」が、今日も仲良く並んでいた。それを取り囲む俺達四人。メンツは大抵変わらず、竜二と、高校に入って知り合った二人組、村田と法隆寺だった。
「んー、いまひとつパッとせぇへんなー。なぁなぁ、ハートの7か8もってたら、誰かカード交換せぇへん?」
「村田殿、それは掟違反であります」
「たまにはええやん、気楽にいこやー。竜二はどや?」
「僕も下手すると、役なしになりそうだからパス」
「ほな信也、ちょっとお前のラブ貸してーな」
「クローバー持ってるか?」
「あるであるで。幸運のクローバー」
「ほら」
「おおきにー!」
 もう一度、山札からカードを入れ替え、手札を揃えた。さて一勝負。投げるように表にしたのは、カードを交換したばかりの村田だった。
「あかんわ、結局ワンペアやん」
「僕も同じ」
「では、ジャムパンたんは私の物ですな。――ストレート」
「えぇ手やん。信也は?」
「……俺は」
 今日は朝から地味に、手痛いことが続いていた気がする。ただ、ようやく運が向いてきたかもしれない。
「村田、ありがとな」
 カードを五枚、机の中央に投げた。絵柄がクローバーマークで統一。
「なんと……」
「わぉ、フラッシュかいな」
「悪いな法隆寺。ジャムパン貰うぜ」
「……無念です」
 机の中央からパンを取り上げる。早速袋を開けて一口。あまい香りが口の中に広がっていく。美味い。
「次どれいくよ」
「メロンパンがええなぁ。コロネだけは最後まで取っときたいしー」
「いいですとも。次こそはメロンパンたんに、私の愛が届くことを証明してみせましょう」
 相変わらず大げさに物事を表し、何故か菓子パンの語尾に「たん」をつける法隆寺。村田がニヤついた顔で指差した。
「お前、そんなやけんオタク言われるんやで。せっかくのイケメンが台無しやん」
「私はオタクですから、構わないのですよ。むしろオタクだからと敬遠して、好きな物を好きだと言えない方が寂しい」
 法隆寺が、人差し指で眼鏡を押し上げる。確かに村田の言う通り、テレビの芸能人なんかと並んでも、見劣りしない顔立ちだと思う。冷やかな目線と、落ちついた表情が絵になる奴だ。
「まっ、確かにそうやなぁ。ほな、第二試合始めよか。竜二、カード任せたで」
「うん、オッケ」
 トランプをシャッフル。上から一枚ずつ、順にカードを配っていく。手元に来た五枚を表にすると、早速ワンペア完成だ。さてここからどうするか。

「――猪口」

 冷たくて鋭い声。考えるまでもなく、一人しか心当たりがいなかった。ジャムパンを食いつつ振り返ると、予想通り穴吹が立っていた。
「好きなんだ、イチゴ」
「は?」
 いきなりそれだ。穴吹なので驚きはしないが、相変わらず意味が分からない。
「そのパンのジャム。苺なんじゃないの」 
「今、俺が食ってるやつのこと?」
「そうよ」
「いや、まぁ、そうだけど」
「ほらね」
 何故か腕を組まれて、得意げに言われてしまう。一体なんなんだ。思った時、穴吹も眉を顰めていた。
「――だからどうしたっていうのよ」
「それ、俺のセリフだろ」
「うるさい。猪口うるさい」
「……」
 誰か助けてくれ。通訳求む。三人の方を振り返ると、
「今度はどや、ツーペアやで」
「残念だけど、スリーカードだよ」
「あれ、そっちが上やったっけ?」
「スリーカードの方が強者でありますな。こちらは役無し。無念です」
「じゃあ、メロンパンは貰うよ」
「ちっくしょ~、ほな次はクリームパンいこかー」
「……お前ら」
 無視して勝負を進めてんじゃねぇ。
 村田がニヤついた顔を浮かべ、カードを切りつつ言った。
「二人とも、痴話喧嘩すんなら余所行ってやれや」
「バ、バカじゃないのっ、誰と誰の話してんのよっ!」
「ひっひっひ。わざわざ言わんでも―――おぐふっ!?」
 村田が席から吹っ飛んだ。
 綺麗なストレートだ。女子が男子をグーで殴り飛ばす光景なんて、初めて見たぜ。思わず拍手を送りたくなった。
「うぅ……伝説の芸人になる夢が、こんなとこでついえてしまうとは……さ、最後に、チョココロネ、腹一杯、食べたかっ……た……」
「今日は競争率が減っていいね。はい、ワンペア」
「私はツーペアです。クリームパン頂きます」
「じゃ、次で最後の勝負だね。さくさく行こうか」
「了解であります」
「チョ、チョココロネぇ……!」
 気がつけば三戦目も流れてしまった。隣で穴吹が呆れたように溜息を零す。
「……あんた達って、いっつもこんな感じなの?」
「大体な。穴吹も一勝負やってくか? 次でラストだぜ」
「わ、私は別に……」
「無理にとは言わねーよ。それよかお前、なんか俺に用があるんじゃねーの」
「えっ!」
「いや、なんとなく、そう思っただけなんだけど。違ったらスマン」
 下手すりゃ俺まで殴られて吹っ飛ぶかと思ったが、幸運にもグーパンチは飛んでこなかった。
「あ、あの……」
「うん?」
「放課後っ、帰宅部なんだから暇でしょ。だから……」
「いや、今日はバイト入ってるから」
「え……?」
「駅前から少し離れたとこに、昔からあるスーパー知ってるか? 俺そこでバイトしてて、放課後は直行で行かないといけねぇの」
「な、なんでバイトしてんのよ……」
「なんでって言われても。自由にできる金はあった方がいいだろ」
「――信也は偉いよ。進学先のこと考えて、今から貯金してるからね」
 横から竜二が笑いつつ、口を挟んだ。
「お爺さんと二人暮らしだからね。自分の将来考えてるし、お金の大切さと価値も知ってるから、勉強とバイトが両立できてるんだと思う」
「おっ、ベタ褒めやなぁ。でもまー、確かに俺らまだ一年やのに、先のこと考えてるんは、実際立派やと思うでー」
「同感ですね。猪口殿はしっかりなさっている。友人の一人として見習いたく思いますよ」
 一様に、菩薩のような表情になって笑う三人の姿。
 普段は冗談をまじえつつ、罵倒しあうのが当然なのに、突然掌を返したようで、気味が悪い。
「……どうしたんだお前ら、なんか企んでんのか」
「んなことあらへん、あらへんて」
「そうそう。僕らは信也の友人として、素直に君のいいところを褒めてるだけだよ」
「まったくもって、その通り」
 一同に頷いた。何も言えず様子を窺っていると、
「……猪口」
 隣からは、厳しい顔で穴吹が睨んでくる。お前はお前で、なんでそんな表情してんだよ。
「偉いんだね」
「べつに、そんな大袈裟に考えてねぇから」
「……猪口、放課後、五分だけなら、時間、もらえる?」
「五分? それぐらいなら、まぁ。つーか昼休みもあと五分ちょい残ってるけど」
「……今はちょっと、無理……」
「じゃ、放課後な。また後で声かけるわ」
「お願い」
 言って、穴吹がやっぱり険しい顔のまま、駆け足で離れていった。
 よかった。事情はよく分からないが、殴られなかっただけ、よしとしよう。
「じゃあ最後の菓子パン賭けて、終わらせようぜ」
 今度こそ机に向き合った。そしたら何故か、三人が揃って溜息を零した。哀れむように、俺をじっと見た。
「……なんだよ?」
「信也ってさ。本当に昔から、そういうところ変わらないよねぇ」
「マジでぇ、昔からあんな感じなんや?」
「実際に言われるまで、さっぱり気がつかないんだよね」
「……まるでギャルゲーの主人公でありますな」
「ド天然なんやなぁ。それとも身近に激しくアピールする奴がおって、そういうの疎くなってしもうた感じー?」
「なんの話だよ?」
「いやー、なんかもーええですわー。お腹一杯や」
「だねぇ、せっかくフォロー入れてみたのに、本人が気がついてないし」
「まったく張り合いが無さ過ぎますな。お開きとしましょうか」
「おい、まてよ!」
 意味わからん。俺が悪いのか?
「次の時間は、文化祭の取り決めでしたか」
「メイド喫茶の役割分担、細かいこと決める言うてたなー」
「穴吹さんのメイド姿、きっと凄く可愛いと思うよ、ねっ、信也?」
「いや、俺に振られても困る。つーか、いきなりどうしたんだよ」
「その言葉、そっくり返したるわ。気づけよアホが」
「なんだよ。アホ言うな」
「いいや、お前はアホや、二人とも異論は?」
「ないよ」
「ありませんな」
「はい決定ー、ほな教室戻るでぇー」
「ちょっと待てよ、このパンどうすんだよ」
「お前にやるわ。後で三倍にして返すんやでー」
 さっさと席を立ち、引き上げて行く三人。
 意味がさっぱり分からない。
「……なんなんだ」
 最後に残った菓子パンの袋を開ける。
 ひどく甘いチョコレートを口に押し込んで、三人の後を追いかけた。
10, 9

  

 
 五限目は授業の代わりに、文化祭の準備について相談する時間になっていた。授業がなくなって、少し浮ついた空気の中で、二人の男女が前に立つ。
「それではこれより、来週の日曜、我らが学び舎の文化祭についての話し合いを始めます」
 学級委員でもある法隆寺が、まとめていたらしい紙片を手に取り、女子の宇和がチョークを手に取って、黒板に向かう。

『メイド喫茶 Love_Kisimine』 当日準備物について。

「質問がありましたら、挙手の上、お願い致します」
「おいっ! 法隆寺っ!」
「我等が担任、岸峰先生。発言を許可します」
「店名を変えてくれ! 頼む!」
「いいでしょう。では、民主主義らしい方法で可決致しましょう――店名変更について同意ある者は、挙手をお願いいたします」
『…………』
 結果は、ゼロだった。法隆寺が腕時計を確認。恐らく十秒ほど経ったところで否決が言い渡された。岸峰先生が、脱力したように放心しかけていた。
「あぁ……また、PTAのやり玉にあげられる……」
「昨今、教職員も多方面から非難の的にされ、いささか大変でありますな。お気持ちお察しいたしますぞ」
「そう思うなら店名変えんかいっ!!」
「ふむ、そこまで言うのでしたら……宇和さん、少しチョークをお貸し頂けますかな?」
「(こくこく)」

 カッ、カッ、カッ!
 
『メイド喫茶 Love_kisimine(35) 恋人募集中だよ♪』

「異議なーし!」「すげーいいじゃん!」「賛成!」「満場一致で文句ありませんっ!」「先生、ウチの姉紹介しましょうか!」「ちょっと男子! 先生は今、ようやく遅まきの春が来てんのよ!」「なにそれ初耳!!」「先週のお見合いパーティでしょー?」「お見合いパーティ!?」「結果はどうだったんですかー」「やっぱりスーツ着用ですよねーっ!」「わ、わたし、七番の彼女と交際始めたって小耳に挟みましたっ!」「そんなっ! 私達の岸峰先生が知らない女に取られちゃうっ!」「むしろ私は応援してますっ! 上手く行ったらケーキ奢ってください!!」「私はむしろストーキングしてます! 先生大好き!!」「なんで知ってるんだ貴様等ぁっ!? そして貴様、俺を追い詰めてなんの得があるんだ畜生!!」「うわぁ、女子って怖い」

 場がこれ以上ないほど盛り上がる。怒号が駆け巡る中を、
「一同、静粛に!」
 普段とは異なる、法隆寺の声が響き渡った。誰かが感嘆の声をあげ、「大佐だ……」「大佐の声と瓜二つだ……」一部で密かに広まっている。誰だよ、大佐って。
「諸君! 我らが担任、岸峰先生の恋人については、後ほど情報交換をすればよろしい! 今は、話し合いを進めるといたしましょうぞ!」
「貴様は鬼か。せめて店名を元に戻せ。頼むから」
「では最初の店名で異論ありませんな、先生?」
「……認める」
「はい決定。では肝心のメイド服についての議題に参りましょう。これについては先日、我の方にて秘策があるとお伝えしておりましたな」
 言葉を区切り、ぱちん、と指を打ち鳴らす。すかさずクラスの扉が開いた。
「ヘイ毎度! メイド服お持ちぃー!」
『おぉーー!?』
 そこには何故か、妙なポーズを決めた村田の姿があった。片手に持って、高々と掲げられたメイド服。しっかりとハンガーにかけられて、その威容を晒していた。
「……あ、あれが噂の……!」
「メイド服……!」
 クラスの全員が目を丸くする。メイド服はともかく、何故お前がそこにいる。確かさっきの休み時間「ちょっと便所行ってくる」と言って、そのまま戻ってこなかったお前が。
「はっはっはぁー! 何事においても、演出ってのは大事やねんなー!」
「……村田、遅刻と……。残念だが、今この瞬間、貴様の皆勤が水の泡と消えたぞ」
「あっーーー!!」
「……バカだ」
 全員が、かわいそうな人を見るように、奴を見る。なにやら「タイム! タイム! ワンモアチャンスプリーズ!」と、英語らしからぬ言語で必死に訴えているようだ。
「発音がなっとらんな。内申下げるぞ村田」
「ノーーー! ワイの人生、ジ・エンドーォォ!! か、かくなる上はっ! このメイド服を着て! 貴様等にご奉仕してやるーーっ!!」
「やめろバカ!」「変態!」「全裸で死ね!!」「メイド服に謝れ!」「海に沈め!」「月へ還れ!」「原子分解しろ!」「コロネ食うな!」
 入り混じる男女の悲鳴。非難轟々。シャーペンが、消しゴムが、ボールペンが、ノートが、丸めたルーズリーフが、村田に向かって一斉に飛来する。
「おぅっ!?」
 上手い具合に、ノートの角が額に的中。ダウン。手から離れたメイド服。法隆寺がすかさず拾い上げて宣言する。
「ふぅ、危ないところでした。……本音を言えば、もっと裾が短いコスチューム的な物の方が、エロくてよろしいと思うのですが。どうしても生徒会の方々に熱意が通らず、一般的なロングスカートタイプの物になってしまいました。実に遺憾です」
「いや、十分だ!」「テメェは実によくやった!」「努力を評する!」「メイド服の承認を通しただけでもたいしたもんだっ!」「お前が残念なイケメンで、本当に良かったっ!!」「法隆寺益孝、バンザイ!」
 野郎一同からの、拍手喝采。流れに沿って俺も混ざる。斜め後ろからの視線が痛い。
「……猪口、やっぱり好きなんだ……」
 誤解を招くような念を感じたが、それとなく無視した。別に嫌いじゃない。
「盛り上がってるとこ、ごめん。ちょっと質問」
「竜二殿。どうかされましたか」
「そのメイド服は、どこかで購入したの? そういう服って、需要が限られてる分、高いと思うんだけど」
「いえ、厳密にはレンタルという形になっております。文化祭の当日に限り、私の "理解ある知人" に頼んで、お借りしてきた次第です。レンタル出来るのは五着までと上限がありますが、サイズについては多少融通が効きます。費用は一着千円。合計五着なので五千円。前回決めて置いた通り、クラスの出しものですので、全員で割り勘するとして、衣装代については一人当たり、百六十円の出費になります」
「やっすっ!?」
「そんなんでいいのかよっ!?」
「クリーニング代の方が高くつくんじゃねーの!?」
「……お前の交友関係は、一体どうなってんだ……くそっ、羨ましい!」
「それについてはまた、機会がありましたら熱く語るとして。女子の皆様方は、当日は出来る限り、丁寧に着用してくださるよう、お願い申し上げます」
『はーい』 

 話が進み、カツカツ、と黒板に文字が追記されていく。法隆寺の司会進行は実に無駄がなく、展開が早かった。午前と午後組のローテーションがすぐに決まり、その他の約束事、写真についての是非など、細かいところもテキパキと纏まっていく。
「では、次はメニューについての取り決めですな。メイン商品となるコーヒーについての豆、およびそれを挽くミルについては、我が所持している物を提供します。豆についての料金は、やはり全員の協力をお願いしたい所存でありますが」
「……お前、本当に何者だよ……」
「行動力あるオタクってすげぇな……」
「オタク以前に、ただの高校生ですが。両親は "理解なき" 飲食業を営んでおります故に、機材、食材については融通が効くのです」
「はい、質問。結局全部で、合計いくらぐらいで収まりそう?」
「都合もつけやすいということで、一人あたり、千円の徴収を考えております。若干余分に見積もっていますので、恐らく不足はありません」
「安いなー」
「千円なら十分だよなぁ」
「あとは物販の運送についてですが、出来れば可能な限り、男子諸君のご協力をお願いしたいところです。保管については我が自宅にて、責任を持って預からせて頂きます故」
「おー、力仕事なら任せときー!」
「同じくっ!」
「はーい、法隆寺くん、質問でーす!」
「どうぞ」
「コーヒー以外の、食べ物についてのメニューは? 生クリームはやっぱり使っちゃダメだった?」
「えぇ。やはり生クリーム、生チョコレートについての要求は、残念ながら通りませんでした」
「クッキーは良かったんだよね?」
「ですな。当日の飲食については、コーヒーと焼き菓子、という当初の予定通りお願い致します。予算についての詳細は、後ほど宇和さんの方から説明して頂きますので」
「(こくこく)」
「了解っ! 頑張って作るよー!」
「では、残る物品についての買い出しですが、お客様に持ち帰りセットの販売をするか否かで、少々事情が変わってきます」
「ケーキの箱、百均に売ってるよねー」
「お持ち帰りしてもらうなら、ラッピングとかした方がいいよねー」
「どうせなら教室も、綺麗に飾り付けしたいよねぇ」
「やりたーい。看板作りは男子に任せるとしてー」
「食券作りもねー」
「後片付けもー」
 女子がにわかに活気づく。そういった事に俺達は疎く、口を挟んでは余計な事にしかならないと、本能的に悟っている。そこは任せる、好きにしてくれ。でもあまり無茶は言うなよ。といった風を装って、傍観者に徹していた。
 そんな時、ぽつんと手をあげた人物が一名。
「……店名は、どうしても変わらんか?」
「先生、諦め悪いでー。腹括って覚悟決めやー」
「そうですよ。もう満場一致で、Love_Kisimine(35)なんですから」
「(35)言うな! というかそこは除ける約束だろっ!?」
「岸峰先生、むしろ意外性がアピールできて、逆に高評価を得られるかもしれませんぞ」
「……マ、マジで?」
 残る希望に縋るようにして、顔を挙げる三十五歳。俺達は、その顔から目を逸らすようにして、互いの顔を見合わせた後、
「それは正直……難しいと……思います……なぁ?」
「うん……」
 実に模範的だと思われる、大人の解答を返したのだった。
 
 授業がすべて終わった放課後。帰りのホームルームの間中、『忘れてないでしょうね』という視線を、斜め後ろの席から感じとっていた。それだけ注視されたら、忘れようもねーよと心の中で言葉を返して、教室を後にした。
 屋上の扉を開けると、夕焼けに染まった景色で満ちていた。バイトに間に合うか腕時計で時間を確認。五分で話が終わるなら大丈夫そう。そう思った時、扉が閉開する音がして、振り返った。
「―――猪口ッ!!」
 振り返ったら、突然胸ぐらを掴まれた。反射的に、これが俗に言うカツアゲかと疑った。それ程、穴吹の表情は切羽詰まっていた。
「……お前、金に困ってるなら、最初から、」
「ふざけてんじゃないわよっ! バカァ!!」
「ぐっ!?」
 ふざけたつもりはなかったのに、逆鱗に触れたらしい。制服の襟元を掴まれて、フェンスのある部分まで押し寄せられる。背中の後ろで、金網が掠れた音を響かせた。
「いきなり、なにす……」
「うるさいっ!!」
 さすがに一年で全国に出場するだけあって、鍛え方が一味違う。やばいぞこれは。冗談にならない。覚悟を決めた時だった。

「猪口っっ!! 私と付き合えっっっ!!!」

 頭がくらくらした。酸素が足りなかった。理解が追いつかず、足が地面から微妙に離れていた。宙を漂う気分を味わいつつ、必死に今の状況を把握した。
「穴吹、とりあえず、手ぇはなせ。苦しい」
「わ、私だって苦しいんだからっ! は、恥ずかしいしっ!!」
「意味が……わからん……」
「だ、だからっ! さっきのは告白っ! 告白なのっ!!」
 どうにか両手の力が抜ける。顔を俯けながら、代わりに支えるものを求めるように、両肩を抑えてきた。
「……ごめん……」
 瞬間冷却したような声の音。か細くて、消えてしまいそうなその声を聞いて数秒、こっちの頭もどうにか回りだす。
「なぁ、穴吹」
「……うん」
「お前、俺の事、嫌ってたんじゃねーの?」
 顔を俯けたまま、ぶんぶんと、思いっきり首を左右に振る。
「……や、やっぱり、迷惑だった、よね……ごめん……」
 赤くなった顔が持ち上がる。涙混じりのその声に、すぐに返事をしようとして留まった。いつもと違う小動物のような仕草に、嗜虐心をそそられた。穴吹には悪いが、少しいじってみたい。
「ひぅっ!?」
 手始めに軽く、頬を引っ張ってみたり。
「ひゃ――なにすんのっ!!」
「今までの分、返すなら今しかないと思ってな」
「にゃ、にゃによっ!」
「だから、明日の放課後、どっか遊びに行こうぜ」
「…………ぇ?」
 頬から手を放して、数秒。
「予定、もう入ってたか?」
「えっと……と……とくには……」
「じゃ、俺のメールアドレス教えとく。行きたいとこあったら言え。携帯、今持ってるだろ?」
「う、うんっ!」
 制服の内側から出てきた、淡いピンク色の携帯を見て、やっぱ女子なんだなと、そんなことを思った。

 バイト中、今日はミスが多かった。誰かに指摘されることはなかったが、レジ打ちの際に処理を間違えたり、指示された物とは別の商品を並べかけて、慌てて元に戻したり。七時半を少し超えて、シフトの時間が終わった時も、どこか上の空だった。
「店長、お疲れ様でした。お先に失礼します」
「おー! 猪口くんおつかれ! って、なんか本当に疲れてるな?」
「いえ、大丈夫です」
「疲れてるなら遠慮なく言えよ。最近の若いのは、急にグダグダになってやめてくのが多いから。猪口君は大丈夫だと思うけど」
「すみません、気をつけます」
「うん。卒業するまでウチで働いて金貯めときな。進学するんだろ?」
「はい。つってもまだ、一年ですけど」
「あっという間だ。三年なんてな」
「そうですね。じゃ、最後に店で買い物させてもらって帰ります。お疲れ様でした」
「おう、お疲れさん!」
 もう一度頭を下げて、店のバックから店内に出る。パートのおばちゃん達にも挨拶したあとで、買い物カゴを手に取った。あらかじめ、携帯にメモしておいた内容を確かめながら、店内を回る。
「まずは、野菜から回ってと……」
 ここをバイト先に選んだのは、帰り道ということもあるが、翌日の食材が買えるのがいい。さすがに八時ともなれば品数が減り、鮮度も多少落ちているんだろうが、俺もじーちゃんも、飯の味については喧しく言う方ではない、と思う。
 家の飯を作るのは当番制になっているが、食材は俺の方で買っておかないと、後で過不足がでて面倒くさい。ウチのジジィは、買い物に関しては大雑把なのだ。
「……レシート、捨てやがるしなぁ……」
 そういうことを口にすると、同じクラスの連中から「お前は主婦か」と言われる。飯を作ってもらうのが当たり前の連中に対して、内心、僅かに苛立つこともある。しかし今日に限っては、別の意味で気が重い。つい三時間前のことが脳裏に浮かんできて、それを消し去るように、余計なことばかり考えていた。
「……実は間違いだった、ってことは……ないよな……」
 手に持った自分の携帯を操作する。つい三時間前に、赤外線通信で交換したものを見つめる。
『yu-ka@xxx-xxxx-xxxx』
 屋上で交換した、穴吹のメールアドレス。
 携帯が震えた。メールの受信を告げていた。
12, 11

五十五 先生に励ましのお便りを送ろう!!

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