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ラオール王国〜

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 ヒウロらは、ラオール王国の王と謁見を行っていた。先の戦闘の件である。結果としてラオール王国を守る事には成功したが、また別の悲惨な事が起きてしまっていた。それはファルス王国の滅亡だった。
 魔王ディスカルの側近の一人、ビエルの手により、ファルスは滅ぼされた。しかも映像として、人々が見ている中でそれをやったのだ。
「俺達は、魔界に行きます」
 ヒウロが言った。そして、これはメイジやオリアー、セシルの意志でもあった。魔界への行き方については、メイジがすでにルミナスでその情報を得ている。
「……あぁ。誠に情けない話だが、我々もお前達に頼るしかない」
 ラオール王はまだ若い王だった。
「まさか、我がラオール兵団が赤子扱いになるとは……」
 王が嘆く。ラオール王国の兵は、全世界でも最強を誇るのだ。その兵らが簡単に蹴散らされた。つまり、もはや魔族は普通の人間の手に負えるレベルでは無いという事だ。
「……ヒウロよ、お前達の助けになるかは分からんが、我が国宝を持って行ってくれ」
 王が手を叩く。臣下の者が、宝箱を持ってきた。王がその箱を開けた。
「ほしふる腕輪だ」
 王が言った。ほしふる腕輪。緑色の腕輪に青色の宝玉が、四つ等間隔にはめ込まれている。ほしふる腕輪は装備者の身体能力を爆発的に向上させ、その動きをとてつもなく俊敏にさせる効果を持っていた。
「この腕輪は、自らが装備者を選ぶと聞くが……」
 王が言う。すると、腕輪が宙に浮いた。淡い光を放っている。そして、ゆっくりと移動した。その移動先とは。
「わ、私?」
 セシルだった。
「ほう、音速の剣士とはな。なるほど。異名の通りと言うわけだな」
 王が笑う。セシルは戸惑いながらも、ほしふる腕輪を両手で包んだ。
「ありがとうございます、ラオール王」
 セシルが跪く。
「いや。勇者アレクの子孫、剣聖シリウスと魔人レオンの後継者。そして、音速の剣士。これだけの者らに我々の未来が託されるのだ。国宝の一つや二つ、惜しくはあるまい」
 王のこの言葉に、ヒウロ達も跪いた。
「所で、エミリア王女」
 ラオール王がエミリアに顔を向けた。
「早く国に帰った方が良いのではないか? ルミナス王は子煩悩な所がある、と聞いている。ラオールに長居していると分かったら、私は何を言われるか分からないぞ」
 ラオール王が笑う。王は独身だった。結婚を考えても良い年齢でもある。
「ご安心ください。父は私を信用しています。それに、私も魔界に行きます」
「えっ!?」
 ヒウロが思わず声を出してしまった。何を言ってるんだ? ヒウロはそう思った。
「……その事は、父上はご存じなのかな?」
「いえ。ですが、父は理解してくれるはずです」
「ならば、私からは何も言うまい。……決意も確かなようだ」
「もちろんです」
 このやり取りを聞きながら、ヒウロはどうするべきか考えていた。エミリアの事である。本人はあぁ言ったが、王が許すはずがない。エミリアは王女なのだ。そんな身分の人間が、旅に同行して良いのか。ましてや行き先は魔界である。エミリア本人の意志を尊重するとしても、本当に連れていくのか。
「ヒウロよ、とにかく今回の件、礼を言う。だからと言ってはなんだが、今日は我が国で宿を取ってくれ。すでに手配は済ませてある」
 王が言った。しかし、時間がない。ヒウロはそう思った。またあのビエルが出てくるかもしれないのだ。そして、父であるアレン。
「……ヒウロ、気負い過ぎだ。ここは王の言葉に甘えておけ」
 メイジが言った。
「決まりだな。宿まで案内を用意しよう。ゆっくりと疲れを取ってくれ」
 ヒウロ達はラオール王の厚意により、宿屋に泊る事になった。そして、その日の夜。
「それじゃ、始めようか」
 ヒウロ達は宿のロビーに集まっていた。話し合いをするのだ。これからの事、全員の決意の確認、そして、エミリアの件。
 ロビーにはヒウロら以外に人は居なかった。すでに時間帯は深夜で、空では星達が輝いている。外からは人の話し声が聞こえていた。酒場からの声のようだ。ロビーには壁のロウソクが数本あるだけで、どこか薄暗い。
「……まずは、エミリア姫の件から」
 ヒウロが言った。エミリアはラオール王に向かって、魔界に行くと言っていた。これにはヒウロも驚いた。元々、エミリアはラオール王国を救う、という目的で、ヒウロ達に同行してきたのだ。そして、ラオールを救った後にルミナスへ戻る。これはルミナス王とも約束を交わした事でもあった。
「ラオール王に言った通りです。私もヒウロさん達と一緒に行きます」
「ですが、魔界ですよ」
 ヒウロが言う。メイジは目を瞑っていた。眉間にシワを寄せている。何か考え事をしているのか。オリアーとセシルは黙ったままだ。
「存じています。そして、覚悟も出来ています。それにメイジさんから聞いたのです。私の、私の力は、神器を扱うにふさわしい力であったかもしれない、と」
 ヒウロの眉が少し動いた。メイジの神器、神の杖・スペルエンペラーは、選ばれし者となる人間を二人としていた。負の力の持ち主と、正の力の持ち主の二人である。つまり、メイジとエミリアの二人だ。結果としてはメイジが選ばれたわけだが、もし状況が今と違っていれば、エミリアが選ばれていた可能性もあった。
「しかし、エミリア姫は王族です」
 ヒウロはこう言いつつも、本当はエミリアに来て欲しい。そう思っていた。魔界では、エミリアの治癒呪文が絶対に必要になるだろう。そして何より、エミリアの想いとヒウロ達の想いは一緒だった。
「私は王族である前に人間です」
 ヒウロが黙り込む。正論だった。
「……ヒウロ、エミリア姫がここまで言ってるんだ。旅に同行してもらおう」
 メイジが目を開けて言った。
「俺も止めようかと迷っていたが、やはりエミリア姫の力無しで魔族に勝てるとは思えない。それに何より、本人が俺達と一緒に行く事を望んでいる」
 メイジのこの言葉に、エミリアが強く頷いた。
「……分かりました。それじゃ、エミリア姫、よろしくお願いします」
 ヒウロが手を差し出した。握手である。
「えぇ、こちらこそ」
 エミリアが微笑み、ヒウロの手を握った。その顔をロウソクの火が照らす。
「あ、ヒウロさん、お願いがあります」
「? なんでしょう」
「これで私も皆さんのパーティの一員になれました。ですから、敬語をやめて頂きたいのです」
 ヒウロらが顔を見合わせた。エミリアの言い分も一理あるが、王族である。普通なら許される事では無かった。
「ま、まぁ、エミリア姫がそう言うのなら」
 ヒウロが言った。表情が硬い。
「姫、もやめて欲しいのです。エミリアと呼び捨てにしてください」
「は、はぁ」
 ヒウロが頭を掻いた。やりにくい。そう感じたのだ。
「あ、オリアーさんだけは構いませんよ。だって、普段から敬語ですものね」
 エミリアがクスクスと笑った。それを見たオリアーの顔が紅潮する。
「ちょっと。何、赤くなってんの」
 隣に座っているセシルが、オリアーを肘で小突いた。
「……オリアー、今の内に何とかしておいた方が良いぞ。今のままじゃ、結婚してからもカカア天下だ」
 メイジが二ヤけながら言う。
「ハハ、確かに。このままだと、セシルの尻に敷かれるのがオチだ」
 ヒウロのこの言葉に、メイジとエミリアがドッと吹き出した。オリアーとセシルは顔が真っ赤である。
 こんなに楽しい仲間に出会えた。そして、今まで旅を続ける事が出来た。ヒウロは、ふとそれを思った。その旅も、ついに終着点を迎えようとしている。魔族を、魔王を倒すのだ。そして、父のアレン。全ては明日だ。ヒウロはそんな決意を胸に、自らの心を奮い立たせていた。
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