こんばんは。
千世子です。
今日のお昼休み前のことでした。
ぺこっ。
『お昼、同行しなさい』
この一言。私のお昼休みの予定は決定しました。
送り主は私の先輩……2つ年上の女性、桐子さん(仮名です)。入社したときからお世話になっていて、最も親しい先輩です。
桐子さんはキャリアウーマンのイメージそのままの人で、驚くぐらい仕事ができて(しかもスタイルも良くて)、竹を割ったような姉御気質な人です(ちょっと強気すぎて、男性相手でも物怖じしません)。
とにかく行動が早く、そのたびに揺れるポニーテイルが特徴です。
……それと、職場で唯一、私のお酒好きを知っている人です。
たまーにこんなメッセージが飛んできて、昼食をご一緒するわけですが……このメッセージはいかがなものでしょうか。まあ、いつもこんな感じです。
最近はそれぞれ別作業を担当するようになったので、あまり接点はなかったのですが……
『はい、わかりました』
どこにしますか? とかは訊きません。桐子さんの中で、もうお店は決まっているはずです。これもいつものことです。
そんなわけでお昼休み。桐子さんに連れられてピザ専門店に行きました。大きなかまどで焼いている本格的なところでした。
とりあえずランチセットを注文。私はボロネーゼ、桐子さんはマルゲリータです。
「いっしょにお昼ってひさしぶりですね」
「そう? 一ヶ月ぶりぐらいじゃない?」
「もっと前だった気がしますよ」
何てことのない話しをしながらピザを待ちます。
初めてピザ専門店に入りましたが、かまどが想像以上の大きさでちょっと驚きでした。あと、ピザ生地を頭の上でぐるんぐるんと回す職人技はやっていないようでした。少し残念です。
しばらくするとピザが届きました。焼きたてで良い香りがします。あとはサラダと食後のコーヒーで千円以下。ランチメニュー様様です。
「千世子、半分交換しましょう」
「別に断る気はないので、勝手に切らないで下さい」
こういうのは、注文した人が最初に手をつけるものではないのでしょうか……? まあ、こんな自由なところが桐子さんの良いところです。
……さっきから、桐子さんのフォローばっかりしている気がします。
さて、まずはボロネーゼをぱくりと一口。お肉がたっぷりで、じっくりと煮込んだトマトソース、そしてトロリとしたチーズ。
「おいしいっ……」
ピザと言えば、食パン、チーズ、ケチャップとオーブンで作るお手軽ピザですが……専門店がここまでおいしいなんてっ!
このボロネーゼならビールにぴったりです。
次は交換したマルゲリータをぱくり。トマトの自然なおいしさがわかるソースに、ちょっとしたアクセントのパジルの葉、かりかりチーズ。
「ん~っ」
これはちょっと強めにウィスキーのロックでしょうか。
サラダもドレッシングがオリジナルらしく、いくらでも食べれそうです。
と、いつものように舌つづみを打っていると、桐子さんがにやにやしながらこちらも見ていました。
「な、何か……?」
「んー、あいかわらず、おいしそうに食べるなぁと思ってね」
「……そうですか?」
うーん、あまり自覚はありませんが……『あいかわらず』と言うことは、普段からそうなのでしょうか。
「さて、千世子」
食後、のんびりコーヒーを飲んでいると、急に改まって言われました。
「あ、はい」
「初めての後輩はどうかな?」
「え、ええっ?」
突然そんな話になりました。初めての後輩……当然、山崎くんのことでしょう。
「どうって、普通ですよ? なかなか、がんばっているみたいです」
「ふうん、それなら良かった」
「いきなり、どうしたんですか?」
「あんまり興味はないけど、一応、千世子は私の後輩だから、気になってたの」
やや気になる箇所がありましたが、すごく嬉しい言葉でした。
思えば、新人のころの研修、そしてしばらく上位者は桐子さんでした。そのときの桐子さんのポジションに私がいて、私がいたポジションに山崎くんがいて。
「桐子さんっ……」
私は山崎くんほど優秀ではなかったので、桐子さんはすごく大変だったはずです……ちょっと感動してきました。
「あんたの後輩にゃ興味ないけど、先に男作るのは禁止だからっ……な?」
「……はい」
そうでした、こんな人でした。男性との口喧嘩と恋話関係になると、突然怖くなるんでした……
何もなかったとはいえ、先週山崎くんと晩御飯食べに行ったことを知られたらと思うと……もちろん言えません、黙っていました。
あと、このランチはごちそうしてもらいました。気前の良いところも素敵なところです。
……これはフォローではなく、素直に思っていることですよ?