視界が白く染まった。
不純物などはない、荘厳なまでの真白。
この感覚を例えるならば、天にでも昇るかの様な浮遊感。
そう、ナイトウの御魂は天に召されたのだ。
その頂の主である、神の坐へと。
ナイトウは、神のカードを引いたのだった。
(まじかよ……)
沈痛な面持ちでうなだれる。滲んでいた視界は次第にグニャグニャと歪み始めた。
胃が爛れ焼けるような感覚と強く催される吐き気をナイトウは必至に堪える。
「はーいっ、では三回戦を始めたいと思いますので各々の席についてくださーい!」
ラルロの健康的で澄んだ声が皆の耳に響いた。
最終戦の始まりを告げる一声で皆が緊張の色を顕にしているのが分かる。その中でナイトウはその誰よりも緊張した表情で立ち竦んでいた。
「はやく所定の位置にきてくださーい!」
せきたてるそのラルロの声は、空虚なナイトウの頭の中で鐘の音の様に反響する。
茫然自失のまま神の席にのらりと歩を進め、ナイトウは自分の席の前にと立った。隣には背の小さな頼りない男が見える。だめだ、このままじゃ負ける。
基本的にポーカーフェイスを努めてきたナイトウだが、今はその表情を繕う事さえも忘れ、周囲にも明らかに分かるほどの気落ちムードを巻き散らかしていた。その異常に試験者の大半は気が付き、なんだろう? といった怪訝な表情を浮かべているのだが、そんな事にも気が付けない程ナイトウは自己というものを見失っていた。
「あれれ~? どうしたんですか、顔色が優れないですよ?」
けど、人を食ったようなその態度にナイトウは自己を取り戻す事に成功する。
ふざけた野郎、ラグノのが放ったその言葉によって。
「このやろぉ……」
ナイトウは頬を吊り上げて小さく呟いた。
しかし、ナイトウはその挑発的な言葉とは裏腹に、ラグノの言動や振る舞いを好意的に解釈していた。これは、『こんなところでくだばってんなよ』『僕をもっと楽しませろよ』といった叱咤であり、挑発的な激励なのだと。
(しっかりしろ、オレ!)
わき目もふらずにナイトウは両頬をパンッパンッと叩き、空っぽだった頭に一先ず『闘志』という炎を注入し、その器を満たした。諦める行為こそもっとも愚かな行為なのだと、ナイトウは心で体を奮い立たせる。
やると決めてからのナイトウの行動は早い。
とりあえず今の出来る事は唯一の味方であるチョコと言う男の性格の理解、不安定な足場に立たされているという現状の把握、そして未来を切り開く為の案を模索する知識の共有!
そう考えるや否やナイトウはチョコに声を掛けようと体の向きを変えた。瞬間、それと同じくしてチョコもナイトウの方を振り向いた。
「先ほどは顔色が悪かったように思えましたが大丈夫ですか?」
「あ、あぁもう大丈夫だ。心配には及ばない」
少し想定外の展開にナイトウは少し戸惑う。
今までゲームに参加していたのならば、ナイトウの事を煙たがるのが普通だと思うのだが……。
「そうですか、それなら良かったです」
とチョコは、それがあたかも自分の事かの様に微笑んで見せた。
「最後の最後で僕たち神になれてよかったですね。正直ニートらしいところをアピールって言われても気恥ずかしくて……けど、相手を褒めるっていう行為で点数が貰えるなら頑張れそうです! 神の役は本当に素晴らしいポジションですね、ナイトウさんっ」
無垢なその笑顔は童顔という事も相まって本当に子どもの様な印象を受ける。そんな協力者<チョコ>にナイトウのやる気で滾った脳裏に、再び暗雲が立ち込める気がした。
(…………こいつ、天然型か)