ゲームの開始を告げる声が高々と上げられる。
各々はそれに従い着席すると、前例に倣ってだらしのないポーズを決める。いい歳した大人達がこれ見よがしにと、揃いも揃って情けない格好をしている異常にももう慣れたもので、誰もがその光景に一抹たりとも疑問を浮かべてはいなかった。
「それではどっちから質問を出しましょう?」
チョコが話しかける。
「……オレから行こう」
逡巡した後、ナイトウはその言葉と共に椅子から立ち上がる。
「えー……ではこちらの方から自分の長所と短所を、お願いします」
「はぁい」
ミートが返事をして席を立つ。その寸胴体型から出た声は、まるで炭酸が抜け切ったサイダーの様な、そんな甘ったるさを感じさせる。
「えーとぉ、わたしの長所は――」
ミートが自己アピールを始めると同時にナイトウは席に座り、すばやく小言でチョコに話しかけた。
《いいか、何があっても驚く素振りを見せるな。そしてオレの言う事を信じろ》
試験最中に突然声を掛けられ、チョコは一瞬、吃驚した表情を見せるもすぐにその意を汲んで無表情を繕った。
《まず、この面接ゲーム。神を嵌める手段が存在する》
《えっ!》
ナイトウの言葉に、思わずチョコはナイトウの方を振り向いた。
《だから驚く素振りを見せるな!》
《ご、ごめんなさい》
《……まあ問題ない。それでその神を殺す方法を知ってるヤツが平民グループに存在する》
《ほ、ほんとですか……?》
《あぁ》
ナイトウは静かに頷く。
《簡潔に説明するとだな、多分、いや十中八九ラグノの番に回ってきたらヤツは神を褒めだす。そしてどういう策を用いてくるか、それはオレの知るところではないが、とにかく平民全員が神を褒めだしたらオレ達の点数は際限なく落ちていくと思え》
《皆が褒めだしたら僕達の負け……って事ですか?》
チョコはナイトウの言葉に対してにわかに信じ難い、といった表情をする。
《そんな事ってありえるんでしょうか?》
《信じられないって気持ちは分かる。だからラグノの出番が回ってきて、それでヤツが褒めたらオレの事を信じてくれ、頼む》
《…………》
ナイトウの小さな懇願に、チョコは眉根を顰めた。恐らく、この提案が自分を嵌める罠なのかもと、そう考えているのかもしれない。
(……当たり前、だよな。一、二回戦を見てたらオレの言動を素直に信じるヤツもいないだろう……)
ナイトウは今更選択した自己演出<キャラクター>に後悔を抱いた。しかし、今は何としてでも味方が欲しい。ただでさえ少数という立場に立たされているのに唯一の味方にも信用されなかったら……そう思うと再び胃液がせり上がるのが分かる。
後悔先に立たず、ならば今、立てるべきは希望への架け橋。
だからナイトウは歯を食いしばると、周りを気にせずにチョコへと深く頭を下げた。
《ナイトウさん……》
その行動にチョコはなんともいたたまれない、といった表情を浮かべ、
《…………分かりました》
了承する。
《すまない……》
《いえいえ、その代わりラグノさんが私達を褒めたら信じるって事でいいですね?》
《あぁ、それで構わない》
これで唯一の味方であるチョコからの信頼を獲得できる、とナイトウは安堵の表情を浮かべた。しかし、全ての問題はまだ解決してはいない。乗り越える壁はいくつも立ちふさがっている。
(さて、ここからだ。相手を崩す方法を模索すべきか、自分を昇華すべき方法を思案すべきか……)
そんな事を考慮していると、ミートの自己アピールは終盤に差し掛かっていた。
「…………ですのでぇ、短所はぁ、この足の短さとぉ、気の短い所ですぅ」
ミートは相変わらずその独特な語感のままアピールを終了する。
得意気な顔をして席に座るミートを確認すると、ナイトウは次の試験者であるドシャへと手を翳した。
「では、次の――」
方どうぞ、ナイトウがまさにそう言おうとしたその時、終了したと思っていたミートの口から予想外の言葉が飛び出した。
「いやぁ、こんなに面接官らしい質問考えれるなんて、『貴方やっぱりすごいなぁ!』」
「「 ! 」」
その発言にナイトウとチョコは体を一瞬硬直させる。
ミートはそんな二人を見てなのか、すばやく二の矢を放った。
「ねぇ、みんなもすごいと思うよねぇ!?」
そのミートの言葉に他の民たちは「思う思う!」「ナイトウって凄くね?」「まじやべぇえええ」などの賛同をあらわに答えた。
再び視界が霞む。
胃酸がせり上がる。
額の奥が熱くなる。
「ラグノォ……てめぇ……」
もう仕掛けてやがったのか…………!