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ラルロの願望

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 ニー島中央区タイダ一丁目タイマン城敷地内南西部の地下一階に位置する勾留を目的とした地下室、別名、審神者による監獄<アルカトラズ・ヘル>、その名がここ、ナイトウ達が面接を受けている会場の本当の名である。
 アルカトラズ・ヘルでは、その名の通りに神を宿す人間を『選別』する為の施設であり、それはこの面接会場に相応しい名だった。
 しかし、この部屋の本当の目的は同じく『選別』なわけなのだが、中身は少し異なる。
 三〇年前までここは、ヌロツ派敗残兵の処刑場だった。
 ヌロツ派の宗旨はバロヌ派と同じで世界創生を司る両性具備のニンパルス神を主宰神としているのだが、教理や儀礼は大きく異なる。故にバロヌ派内では主宰神を陰陽で例え、バロヌ派が崇拝するニンパルスは陽の神、ヌロツ派が崇拝するニンパルスを陰の神だと唱えた。
 陰と陽、平たく言うとこの二つの宗派は正義と悪に分けられ、陽、つまり正義であるヌロツ派は悪神である陰のニンパルスを追い払おうと聖戦<ジハード>を起こした、それがニーの涙と呼ばれる戦争なわけなのだが、ジェノサイドを敢行した彼らの教義にはこう書いてあった。

 ――悪神の子なる者達は、皆、悪の欠片を有する。故に滅せよ。一つの欠片<きぼう>を残せば再びこの世に影は姿を現し、世界は闇に覆われるであろう。故に滅せよ。

 つまり、このアルカトラズ・ヘルの役割は今でこそ異文化との交流を得て、教義の内容が変わり、多少なり丸くなったわけなのだが、昔、この場所は陰の悪『神』である人間を選別し処刑する場所であり、現在の賛美的な意味の比喩である『神』と人間の選別する場所とでは同じ『神』でも内包する意味は全く異なっていた。
 そのような歴史が存在するこの場でナイトウ達は面接ゲームなる試験を受けている。神と、平民とを分かつ、面接試験を。
 ラルロはその白い腕と足を組み、その道の果てがどうなるのか、一人勝手に思案していた。今回の試験、その神とはどちらの意味を有するのか。それは皮肉にも『神』のみぞ知る事実だとという事は、彼女も重々に理解していた。
 何はともかくとして、二回戦目の銀幕はすでに色彩を帯びている。
 二回戦目の神はスパタ(-10pt)とピザタ(0pt)に決まり、再びナイトウは神の座を逃す。しかし、そんなハンディは物ともせずにナイトウ(10pt)、ラグノ(20pt)は独走状態を維持していた。それは何故か、答えはナイトウもこの面接を始める際に気にしていた『被り』というファクターである。
 ラルロは言った。『面接官はとりあえず試験者を褒めて殺しなさい、試験者はとりあえず自分がニートの王に相応しい事をアピールしなさい』、と。
 暴力の前には従順な彼らは無駄に賢しい犬の様にそれらを言われたそのままに実行し、そこで、『被り』が生まれた。
 物凄くキョドり、ドジな性格はラグノが、狂暴で狡猾な態度はナイトウが先行している。これに代わってニートらしい態度と言えばせいぜいダラダラとした態度を見せるぐらいなもので、残りの皆はその枠を必至に奪い合い、溢れた者はナイトウとラグノの態度と似たようなスタイルで面接を受けていた。
 それは、異物が混沌とした泥沼の印象を受ける。
 そうなると当然、時化た海の様に淀み、目まぐるしく渦巻く者達と比べてナイトウとラグノの純真たる輝きは、海割れの奇跡をみているかの様で神々しい。
 だから、ラルロは、この二人が交錯し合う末の果てが見たかった。
 だから、そっと、誰にも聞こえぬ声量で小さく呟いた。

 ――あぁ、早く、気付いて?
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