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Phase 4

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INSIDE(4)

『属性つきノベルジャンキーたちは明日を夢見ることができるか?』
 Act4. ヒナとアキラ


~日向子の場合 <金曜日、土曜日>~

 あたしが到着すると、すでにミカは準備万端、といった様子だった。
「ごめん、早くなかった?」
「だいじょぶ、コメなかったから」
 そういいながら、ミカは落ち込んでいる様子でもない。
「それじゃーごはんにする? お風呂にする? それとも」
「それじゃ新婚夫婦だってば(笑)」
「DVDって選択肢はスルーすか(笑)」
 ひさびさのダブルボケ突っ込みをかましてあたしたちは笑いあった。

 飲んだら確実に、お風呂のことは失念する。ということでまず交代でお風呂に入った。
 髪を乾かしたら、パジャマに着替えてDVDをセット。料理(スミマセン八割仕出しデスハイ)とお酒をオープン。
 ミカの祝・初固定客様の宴はぶじ始まった。

 日付が変わる頃、さすがに酔いがまわってきたあたしは、一足先にベッドにお邪魔した。
 こうして一緒に寝るのもひさしぶり。
 ミカはというと、すぐそばの机でノートパソコンを開け、サイトチェックを始めたようだ。
「あれ? アキラアップしてないや。めずらしい」
「それじゃー寝よう~。もーヒナ眠い~」
「はいはいわかったわかった。
 まったく、ヒナはおこちゃまでちゅね~。こんな時間でもうねむZzzz」
「どっちがか!!」
 ミカはしゃべりながらベッドに突っ伏して眠ってしまった。なんて王道な酔っ払いぶり。
 でもその寝顔は幸せそう。
 そんなミカに布団をかけて、あたしも布団にもぐりこんだ。


 どのくらい眠ったころだろう。
 あたしは何かを感じ、目を覚ました。
 光が見える。右側、机があるとこ。
 首をひねると、開いているノートパソコンと、その前でちょっと背中を丸め、猛烈な勢いでキーボードを打っている人影が見えた。
「……ミカ?」
 呼びかけると人影は、びく、と身体をこわばらせた。
 そしてゆっくりとこちらを振り向き、言った。
「お、まえ……誰?」


 ちょっと低いけれどその声はたぶん、ミカのものだ。
「まさか、姉さん、なのか?」
 けれどしゃべり方は、明らかにミカのものじゃなかった。

 ミカにはきょうだいはいない。一緒に暮らしてる人もいない。
 だから今このうちにはミカとあたししかいない、はずだ。
 つまりここであたしを警戒してる人物は、普通だったらミカ以外にありえない。
 なのに、この子はミカとは思えない――

 どうなってるんだろう。お酒のせい?
 でもまえ一緒に飲んだときはこんなふうにはならなかった。
 まさか小説にハマりすぎて(というか悩みすぎて)どっか壊れちゃったんだろうか……
 きくしかない。聞かなきゃ怖いし、不思議だし、これは聞くしか選択肢ない。
 あたしは大きく息を吸い込んだ。

「あなた、誰?
 ミカじゃないの?」
 はたしてその子は戸惑った様子ながらも答えてくれた。
「俺は、アキラ。水晶の晶って書く。
 このうちで姉さんに養われて生活してる……
 お前は?」
「あたしは、……ヒナだよ。ミカの幼馴染。
 さっきまでミカとホームパーティーしてたの」
「“ヒナ”………
 その名前、聞いたことある。
 昼間のやつと親しくしてるんだな」
「……昼間?」
 その子は人差し指でこつこつ、と自分のこめかみを叩く(その仕草はやっぱりミカっぽくなかった)。
「俺は意識障害があるんだ。二重人格、てカンジかな。
 昼間は、たとえ意識があってもまったく身体の自由が利かない。別のヤツ――俺は“姉さん”て呼んでんだけど、が身体動かしてる。
 俺が俺として動けるのは、この真夜中の数時間だけ。
 むかつくから昼間、おきてる間はひたすら小説考えてんだ。だから昼間の出来事はほとんどスルーだけど、さすがに毎日つるんでる女の名前くらいは記憶に残ったみたいだな。
 ふーん。お前がね……
 って暗くてなんも見えないし!」
「今気づくか!」
 ぼけつっこみを交わしてわたしは感じた。なんというか、この子は“大丈夫”だ。
 そして、ミカとは別人なのだ、と。
「電気つける?」
「いや……いい。
 俺には時間がないから」
 そういいながらアキラちゃんはノートパソコンに向き直った。
「時間がない?」
「俺が俺として動けるのは、この真夜中の数時間だけなんだ。
 その間に小説書いて投稿してコメレスして、ミカの小説読まなきゃなんない。
 昨日はいろいろあってアップできなかったしな。
 つーわけで悪いが勝手に寝ててくれ。相手は“姉さん”にしてもらえ」
「ミカの……
 あなたミカの小説のファンなの?!」
「……そうだが、何か?」
「ありがとおおう!! あんたはミカの救世主だよお!!」



~アキラの場合~

「おい、ちょ、やめっ、何」
 ――俺のベッドに突如女が現れた。
 と言っても話をしてみればなんということもない、そいつは俺の意識がない間にウチにきて、“姉さん”とホームパーティーをしていたダチだ、ということだった。
“ヒナ”という呼び名のそいつは、最初は微妙におびえた様子だったがぼけつっこみをかわしてからはいきなりオープンな態度になり、しまいには思いっきり抱きついてきた。
 これじゃあ執筆どころじゃない、っていうか、何なんだ?!
「うわあああん!
 ミカはね、ミカはね……」

 そして泣き出したヤツは、要領を得ない様子で“ミカ”のことを語りだした。
 長いので詳細は割愛するがつまり、“ミカ”は自分の文才にほぼ絶望して毎日泣き暮らしていたというのだ。
「悪いがちょっと待ってくれ。
 俺の“姉さん”であんたのダチであるところの“ミカ”も、小説書いてるのか?」
 しかし俺は混乱していた。
 俺にとっては、ミカと言ったらイコールMI/KAだ。
“姉さん”の名前がミカであることは、正直俺にはどうでもいいことなので忘れていた。
 しかしそれが――イコール、かもしれないと?
「ええ。『MeetNovel』に投稿してる。もう一年くらい経つみたい」
 ヒナはぐすっと鼻をすすり上げつつ答える。
「コメ数もおんなじ位で、でも実際は全然うまいっていうひとがいて。
 そういえばその作者さんの名前もたしかアキラっていってたっけ」
「そのアキラってのはなに書いてんだ」
「SF、とかいってたかな」
 おいおい、おいおい。
 ミノベでSF書いてるアキラってったら俺しかいない。
 で、そのオレと同程度のコメ数てったら。


『“姉さん”=MI/KA。なおかつ俺の作品に圧倒されている』


 俺は左手からマウスを取り落としていた。
 やっとのことで言葉をしぼりだす。
「冗談、だろ。圧倒されてんのは俺のほうだぞ。
 こんな文章俺にはかけない。シットしていたのは俺のほうだ」
「それミカに伝えてあげて!
 今日だってあなたからのコメントみていきなりテンションアップで絶好調になっちゃって」
「………マジかよ」
 MI/KAの『サスペンド・エンド』のページを開ける。今回分のリンクをクリック。
 はたして文章量は平均の1.5倍、前回比三倍の快挙だった。
 しかも、表現のさえはいつも以上でミスも少なく筋運びも軽快だ。
 昨日まで、投げるかも、投げるかもと危惧していたのがウソのようだ。
「よかった……『ミカ』……」
 胸の中に、じんわりとこみあげるものがあった。
「アキラくん、ほんとに好きなんだね、ミカの小説……」
「ああ。
 なんかちょっとオレに似ててさ。でもホントはそれ以上で、いつもいい意味で期待を裏切ってくれてさ。でもどっか似てるからうれしいってのもある。
 どうやったらこんなの書けるんだろうな……」
「あたしにもわかんない。あたしはミカと違って、文章能力まったくないからさ。
 でもさ、ミカのことだったら話してあげられるよ」
「ちょっと待っててくれ、今コメ入れるから。
 きかせてくれ、ヒナ。ミカのこと」

OUTSIDE(3.5)

***ミサキ:@自宅パソ前 なう***

 わたしの友達と友達なの? とわたしはアキに聞いた。
 帰ってきた返事はごまかしめいたものだった。
 やつがまた来たらきいとく、て。

 でもわたしは直感してた。
 この会話は、わたしとヒカリの会話がベースだ。
 アキはヒカリと合作してる。

 直感を裏付けるべくわたしは考えてみた――

 ミカのパートはアキが書いたものとは思えない。
 まず文体。
 アキはとにかく無駄のない文章を書く。だからアキラのパートは確実に、アキの文章といえるけどこっちは違う。
 それに題材。
 アキは、身体は女性と言っていたけれど、精神は男性だ(と言っていたし、わたしもそう思う)。
 しかも、意識障害によって一日わずかな時間しか、自分(アキの人格)の意志で身体を動かすことが出来ないという。
 その時間に取材したり小説読んだりしてるとしても……
 今までだって、主人公や語り手は男性だった。コスメとかの話題なんかも、一度も出たことはない。

 ひょっとしてこれは、もうひとつの人格――“姉さん”の記憶を使ってるのか?
 そうだとしたら、アキはもしかして……
 いや、ヒカリではない。だってそしたらこの会話が成り立たない。


 ということはまさか。


 わたしは恐ろしい推測をしてしまった。
 ちがう、それはありえない。
 違うといって、アキ。
 違うよねアキ。アキは違うんだよね。


 アキは、
 わたしのふたつめの人格なんかじゃないよね??


 探る方法はある。いますぐ、Dドライブの中味を片っ端から調べること。
 そこからアキの書いた小説のファイルが見つかれば、ビンゴだ。

 わたしはマイコンピュータのアイコンをクリックしようとした。
 手が震える。
 手が震える。
 ダメだ。手が動かない。
 わたしにはそんなこと出来ない。
 たとえばそれが真実だとしても――


 どんでん返しがあるんだよね、続きに。
 はやく投稿してね、アキ。
 そしたら、わたし、言えるから。


 あなたがすき、といえるから。
10, 9

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