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第十二話「和泉少年の事件簿」

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ある日の朝、僕は目覚めた。
僕はパジャマを脱ぎ捨てると、制服に着替え一階に降りた。

普段ならそのまま居間で食事を取るのだが、その日はいつもと様子が違った。
何だか生臭い臭いが、家中に広がっていたのだ。
その生臭い臭いにひかれ、父の書斎に向かった。

僕はドアを開けて、自分の目を疑った。
父が死んでいたのだ。

胸に突き刺さった出刃包丁。
滴る赤い血、部屋中に広がる血なまぐさい臭い。

僕はただ驚き、ただ立ち尽くすことしかできなかった。
意味がわからない。
昨日の夜まで、父は生きていたのだ。
夕食を一緒に取り、くだらない話で盛り上がり、夜の挨拶を交わし、互いに部屋に戻った。
それが、今父は僕の目の前で血まみれになって倒れているのだ。
一体何がどうなっているのか、父に何があったのか。

その時、僕は気づいた。
母はどうしているのだろう?
いつもなら僕を起こし、朝食を用意してくれる時間だ。
だが、今日はまだ母を見ていない。

まさか母も。

そう思うと僕は強烈な不安に居ても立ってもいられなくなり、
母が居るであろう台所へ走った。

するとそこには。

父と同じように胸を刺され、横たわっている母の姿があった。
母も死んでいたのである。
そこで僕はようやく現状を理解できた。

父と母が、僕の目の前で、死んでいる。
死んでいるんだ、死んでいる、死んでいる─────。

そう思った瞬間、僕は強烈な嘔吐感に見舞われた。

家族を失った。
誰かに殺された?
自殺?
あの父と母が自殺するとは思えない。
僕はただ立ち尽くし、嘔吐し続けた。

そんな中、机の上に置かれた紙に気づく。
チラシの裏で殴り書きされたその紙には、父のものでも、母のものでもない字で、

「終わりにしよう」

そう書かれていた。

一体何を意味するのかはわからない。
でも僕は何故か、学園へ行かなければならない、学園へ行けば何かがわかる。
そう思い、学園へと駆け出した。

学園へ向かう道の中、異変に気づく。
人が居ない。
いくら田舎だといっても平日の朝のこの時間、昨日までは学園へ向かう途中、少数ではあるが人とすれ違っていた。
だが、今日は人っ子一人どこにも居ない。
それどころか町中には"あの生臭い臭い"が充満している。

これはもしかしたら、最悪の事態なのかもしれない。
でも、とにかく学園へ行けば何かが進展する、そう思い走り続けた。

学園に到着すると、やはりここにも人の気配はしなかった。
それどころか校内には、やはりあの臭いが広がっている。
またも僕は嘔吐感を堪えながらも、教室へ向かった。

教室へ向かう階段で、僕はまた我が目を疑った。
階段には、幾人もの生徒が積み上げられていた。
皆、胸から血を流し、死んでいるのである。
積み上げられた生徒たちは、高さ数メートルにも及び、僕の行く手を遮っている。

一体何が?どうしてこんなことに?
何故僕だけ生きている?皆、死んでいるのに。

僕は無我夢中で死体の山を掻き分け、教室へ向かった。

教室の前の廊下には、また多くの生徒が横たわっていた。
そこには、春日、明、朽木、神無さんも並べられていた。
皆、死んでいる。

僕はその場で腰を抜かし、立ち上がることができなくなった。
昨日まで一緒に居た四人が今目の前で死んでいる。
体育祭の班決めをし、一緒に優勝しようと誓った四人が死んでいるのだ。
皆苦しそうな表情で死んでいるのである。
いっその事、僕も死んでいれば良かったのに。
そう思ってしまった。

だが、僕は生きている。
理由はわからない、でも僕だけが生きているらしい。
神様が僕だけを生かした理由はわからない。
だからこそ、僕がこの謎を解明しなければいけない、そう思った。

僕が教室のドアをあけると、そこにはやはり生徒が積み上げられていた。
そして積み上げられた生徒たちの上に、人が座っていた。

「徹・・」

そこには探検部の後輩、郷田徹が座っていたのだ。
血まみれの手で、血まみれの包丁を握り、静かに微笑んだ徹が。

「お前が、やったのか・・?」
「先輩、来てしまったんですね。」
「お前が犯人なんだな・・?」

僕の質問に答えないまま、徹は僕に包丁を向けた。

「あなたさえ来なければ、こんなことにはならなかった。
 全部、あなたが悪いんです。」

それだけ言うと、徹は僕に向かって包丁を振りかざし、僕の右手を落とした。

「っ・・・!」

声にならない痛みとともに、右手から血が噴出す。
それと同時に床に落ちた自分の右手が見える。
徹の包丁で切り落とされ、僕は右手を失ったのだ。

「徹・・どうして・・!」

もはや動くこともできない僕は精一杯の力を振り絞り、徹にそう言った。
だが徹は表情ひとつ変えることなく、今度は僕の喉を切った。

血が吹き出る。
息が出来ない、体が痺れる、喉が熱い。
ここで僕は死ぬ、それがわかった。

あんまりだ、こんなの。
何がなんだかわからないし、こんな形で死ぬなんて。
僕が死ねば全てが終わる、だからってこんな終わり方は無い。



僕は全てを呪い、その場で息絶えた。



「ってな夢を見たんだけど。」

夕方の公園で、僕がそう言うと呆れた声で春日は言った。

「あのなぁ、他人の夢ほどどうでも良いことはねぇんだよ!長々と語ってんじゃねえよ!
 そういうことはチラシの裏にでも書いとけ!」
「そ、そんな言い方ないだろ、ちょっと怖い夢だったんだから。」

僕らがそんな会話をしていると、泣きながら徹が話してきた。

「先輩、ひどいですよ・・どうして僕が敵キャラになってるんですか・・?」
「え、いや、それは・・やっぱりあれじゃない?
 徹出番少ないし、ストーリーにも絡みづらいから、こういう所しか無いんじゃないかな、出番。」
「何訳のわかんないこと言ってるんですか・・ひどいですよ・・。」
「ご、ごめんって・・夢だし、僕が考えたわけじゃないんだから。」

泣き止まない徹には悪いが、僕が考えたわけじゃないし。
まぁ、これからも出番が少なそうな徹のために用意された舞台だったのかもな。
夢の中でも徹が全然発言してないのは、きっと仕様なんだと思う。

「たまには、こういう良くわからないのでも、いいよな?」

僕はそう笑うと、春日と徹に非難されたが、僕自身は楽しめたので良しとしよう。

それはそうと、土日が開ければ体育祭である。
神無さんのことは少し不安だが、暗いムードにしないためにも、楽しんで参加することを心に決めていた。

「春日、体育祭頑張ろうな。」
「本当、珍しく気合入ってるな~、お前。」
「たまには良いだろ?」
「ま、俺もやる気満々だから嬉しいけどな。」

春日はニッと笑ってみせる。
笑うといつもより不細工である。

「徹も学年は違うけど、体育祭頑張ってね。」
「・・はい。どうせ僕は運動音痴ですけどね。」

まだ拗ねている徹にそれだけ声を掛けると、僕はブランコに腰掛け、グっと伸びをした。

「よ~し、楽しむぞ・・。」

僕は夕日に照らされながら、体育祭への意気込みを入れていた。
この時は前向きな僕だったが、例によって体育祭が始まると悪夢を見ることになる。
いや、悪夢を見ずにはいられなくなるのだ。
何故ならば、来週始まる体育祭はまさに地獄と呼ぶのに相応しい。
そう、まさに地獄の体育祭だったのだ─────。
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