【灰】
太陽が生き返り夜が死に絶えると、私は黄金の砂漠から灰色の現実へと戻ってくる。
居間でじっと私を待つ父は、新聞からひょいと眼を上げただけで何も言わない。
寡黙な人だった。
その削り取られたような痩せた顔に、うっすらと、ページの向こう側の文字のように。
花冠を頂いた老戦士の横顔が透けている。
どうかしたのか、と父が言う。戦士の像もつられて私を見る。
答えなんて作ってあげなかった。
どうせ信じてもらえないから。
誰も私と同じものは見えないから。
それでいい。それでいいんだ。
だって私だって、誰のこともわかってあげられないから。
だから、これでおあいこだ。
誰も私のことをわかってくれないから。
私だけは、私を信じてあげたい。
そう思った。
父は新聞をめくり、戦士だけがまだ対面の私を見ていた。
モノクロの新聞は、さかさまだった。