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第二話「ネタが無いので修学旅行でも(前編)」

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 誰かが俺の名前を呼んでいる。肩を揺すっている。鳥の鳴き声。眩い朝日。そして、異常な程の寒さ。なるほど、朝か。
「お兄ちゃん早く起きて。修学旅行だよ、今日は。もみじお姉ちゃんも待っとるよ。」
我が麗しき妹よ、よくぞ起こしに来てくれた。昨日あんな事やこんな事で徹夜した疲れが一気に恢復した。
「分かったき。先ずは右手ん鉈ばどけちくりい。」
喘息もちの妹だが、時々ヤンデレになる。げに恐ろしい。因みに鉈は田舎なら何処にでもあるので簡単に手に入る。まあ、要するにその鉈は、我が家の翁が野山に混じりて、竹などを取りつつ、よろづの事に使いける時に用ゐる物である。
 寝呆けた顔を、顔を洗って覚醒させると、尿意を催したので、便所に行く。尿が泡立つのを確認する。血糖値が高いな…。母の料理をさっさと済ませ、制服に着替える。荷物を持って車に乗り込み、集合場所の役場裏駐車場へ出発。
 
 無事到着。出発式などというどうでも良いものが始まり、みんなも憤りを感じている様だ。そんな式も終わりを迎えた。それにしても寒い。雪が降っているだけならまだしも、中間服を着ている。目的地は沖縄なので学ランなど持って行ったら、荷物になるからだ。学年の半分位は上着を着ているが、残り、つまり男子の大半は馬鹿なので中間服だけしか着ていない。
 修学旅行は何年か前まで関西だったらしいが、なんとなく沖縄で良いんじゃないか、という事で沖縄に決まったらしい。おまけに二泊三日でタダだが、来年からは一泊二日になるという。役場関係者から話が洩れてきた。田舎は直ぐに噂が広まってしまう。特高やゲシュタポ並、いやそれ以上に恐ろしいかも知れない。来年の修学旅行では暴動が起きそうだ。
 出発したはいいものの、空港までが長い。一時間掛け山を下ったりし、漸く空港に着いた。誰も吐瀉しなくて良かったが。
 なんやかんやあって、飛行機に乗り、周りの席に先生が居ない事を確認して、くつろぐ。ふと隣の加藤慧輔君を見るとモンハンをしているではないか。
「お客様間も無く離陸致しますのので、モンハンをお止め下さい。さもなくばシベリア送りにします。」
「ソレナンテ・ソ・レン。…ぐっさん、今日もどう突っ込んでいいか分からんよ。」と眼鏡を上げながら言う。
「スマソ。」
そうやって注意をしたが、実際最近の飛行機の機械は高性能らしいので、電磁波の影響は殆んどと言って良い程無いらしい。ペースメーカーも同じだ。単に、携帯やゲームを公共の場所でするのは、見苦しいという事か。 
 窓際の席からはとても眺めの良い景色が見られる。汚染された海や空気の汚れた市街地も、この時ばかりは美しく見えるものだから性質が悪い。そんな事を考えていたら突然眠気に襲われた。
「ぐっさん、ぐっさん。」
「よう、慧輔くん。もう着いたと。」
「うん。もう那覇。」
「あー、きちい。」
 
 飛行機から出るとそこは南国であった、と言っても流石にこの時期はそこまで暑くはない。気温は20度程度なので涼しく感じる。それから間も無く、今回の旅行の一番の目的である平和学習である。ひめゆりの塔や平和記念公園の平和の礎の見学、沖縄戦を経験したひめゆり学徒隊の方の講話などがあった。内容が濃かったので詳しい事は割愛するが、簡単に纏めると三点言いたい事がある。
 一、この様に多くの被害を出した戦争を風化させてはいけない。また、二度と起こしてはならない。
 一、「沖縄県民斯ク戦ヘリ 県民ニ対シ後世特別ノ御高配ヲ賜ランコトヲ」という有名な電報があったが、それを無視する今の日本政府は屑だ。
 一、亡くなった全ての英霊に敬礼!
という右翼か左翼か市民団体か良く分からない事を言いかけた。中二病に感染すると碌な志も持っていないのにこの様な事を考えてしまう。自嘲しつつ自重した。
 
 夕方になり無事ホテルに到着。今頃町内放送で到着の知らせが流れているだろう。流石田舎だ。琉球料理のバイキングを楽しみ、お待ちかねの風呂だ。風呂には沖縄らしさが全く無いのだが。それはそうとうちの男子は女の裸には興味が無い連中ばかりだ(実際は興味があるらしいが…)。寧ろ男同士で裸踊りをして、それを五感だけでなく第六感まで動員して楽しむ変態共だ。一時期「やらないか」が流行った事もあったがな。何故か説教されなかった。
 さっきから視線を感じると思ったら、誰かがカメラ撮影をしているじゃないか。あれはかっちゃんこと、野田勝史君だ。
「ちょっと、かっちゃんあんた何しよるつな。」
「何か、カメラ撮りよるだけたい。」
「ちゃんとモザイクかけな捕まるぞ。猥褻図書何とか法か児童ポルノ法で。」
「大丈夫ち。捕まりゃせん。ほら、皆来たじゃねえな。」
そこには四人の漢、もとい四人の露出狂がいた。
右から天才コメディアンこと河﨑喬太朗。通称喬ちゃん。
二番目が熱血変態エースの異名を持つ佐藤慶護。
その次がソーラービーム(頭部)の使い手と畏れられる村澤良助。通称むらりょう。
そして最後に不思議系バント職人の二つ名を持つ本田涼介。通称ほんりょう。
全員うちの野球部だ。こいつらと同じ部活である事を光栄に思う。
間も無く、「ウィー」「そんなの関係ねぇ」などと急に騒ぎ始めた。あれか、沖縄だけに小島か。皆が喜び始めるから止めろ。
 一応騒ぎは収まったが、今度は女風呂を覗きに行こうとしたので、
「よい、女風呂覗きに行くな。うちの女子は凶暴じゃき、マーシー師匠んごつなるぞ。」と忠告した。もし、皆が俺の忠告に対して『見ざる、言わざる、着飾る』を実行していたならば、(検閲により削除されました)な状況になっていただろう。そう思うと背筋に寒気を覚える。
 そういえば、誰かのパンツが落し物として届いていたが誰だろうか。その事を考えると背筋に寒気を覚える。

 面倒臭いミーティングや班長会議などが終わり、やっと部屋に戻ってきた。勿論の事ミーティングでパンツの落とし主を探していたが、あれは公開処刑だった。落とし主が誰だったかなどと野暮な事は言わないでおこう。でだ、修学旅行の夜と言えば枕投げだ。と思ったが、流石に障子が破れるのでやらなかった。
「ねえ、ぐっさん。12時迄何すっと。」と喬ちゃんが訊く。
「もう、10時半じゃき消灯じゃもんねえ。」
「先生が見回りするのが12時迄だけん、布団の中に入って何か話しよこうや。」と慶護。
「翔もやっちゃんもそれで良かろう。まず、そんゲーム直せ。12時になってから。」
 一応就寝。修学旅行の夜と言えば、所謂恋バナと言うヤツだ。早速、
「ぐっさん、誰が好きなと?」と喬ちゃんが聞いてきた。
「いや、まず最初はリア充の喬太朗先生からどうぞ。」
「な、な、な、なし俺が話さなならんと。」
「いや~、まずは恋愛の先輩の話ば聴かなならんもんな。で、A・B・Cどれまでやったつや。」
「A迄しかまだしちょらん。」
「結構奥手なったいねえ。」慶護も話に入ってきた。
「何や、唯花ちゃんに拒否られたつや。」
「いや、まー、俺と唯花は愛さえあれば別にキスとかせんでも良いもんねえ…」と俺の問いに言葉を濁す。
「そげ言いよるけどたい、喬ちゃんの財布には入っとったよね。例のアレ。」
「やっちゃん起きちょったとね。たまがる、もう。そそそそそそん前になし知っちょったとね。」
「禁則事項です。」
「そげいや、靖は百合奈ちゃんが好きち言よったもんね。」
「黙れ、山口。たかが山口の分際で。」大当たりか。これ以上言うとアレだな。
「翔は──」「二次元」
「流石。二次元を極めし者。」
「じゃあ山口お前は誰や。言え。5秒以内に言わんと、後日お前のパソコンにウイルス送るぞ。」
「わかった。話せば(ry、じゃねえ、アレ、二次元、もといエロゲ。」
「黙れ。まずお前青少年保護育成条例違反だろ。県庁に行って金払って来い。あと、肛門科と泌尿器科と精神科に行け。おまけにロボトミー手術受けて来い。」
「いや、山口(ぐっさん)はモミが好きだろ。」と慶護と靖が異口同音に横槍を入れてくる。
「やっぱり山口お前はもみじちゃんが好きだったか。」
「翔、幼馴染は萌えんぞ。俺は。」
「アレ~、この前幼馴染萌え~とか言ってたの誰かな~。」
「ぐっさん告れよー。」喬ちゃんまでもが俺を苛める。もう、知った事か。
「もういい、否定も肯定もせん。」
 幸い先生に怒られずに済み、只今11時30分頃だ。
「まだ12時にならんとー」靖が呟く。
「なら、今から百合奈ちゃんの部屋さん行て、夜這いしてくりゃ良いが。」
「よし、分かった行ってくる。」やっぱり百合奈ちゃんの事が好きなのか。
靖が戸を開け、外に出て行った。と、思ったら帰ってきた。
「先生来た。」
「敵が来た。直ちに各員防禦体制に入れ。」
 漸く12時を過ぎ、本当の自由時間がやって来た。今から幾つかの班に別れ、持参したゲームをするのである。Wiiの会場とPS2の会場、マリカー(DS)の会場が一つずつ。モンハンの会場が三つである。俺はマリカーでもするか。
 1時、2時と時間が過ぎ、5時には皆寝てしまった。ということで朝まで起きていたのは、俺一人である。全く寝ていない。
 

 今日は一日予定が詰まっているから、かなり大変そうだ。



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