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気づいたら私は森の中に居た。何故か私はこの突然の状況にも冷静でいられた。そして何も迷うことなくあたりを見渡した。その森はとても薄暗かった。けれども眩しい感じもした。ふと気がつくと、とても蒸し暑かったので上着を脱いだが途端にとても肌寒くなった。再び上着を着ても凍える程寒さが増していったが、しばらくすると再々度蒸し暑くなっていった。その後も温度は不定期に変化していった。ふと腕時計をしているのに気がつき、時間を確かめたら12時3分であった。

 時間を確かめてから、まず思ったのは何故ここに私がいるのか?という事であった。私は生まれてこのかた金銭、人間関係(異性問題についても)、あらゆる環境において何もトラブルは無かった。だからトラブルでここに来ている事は考えられなかった。そして今ここで起きている事は夢でもないという根拠のない自信があった。つまり現実にこの場所には自分自身で来たとしか考えられず、さらに物事を考えると雨が降ってきたので考えるのをやめた。すると雨は止んだようだった。

 何もする事が無く、私がここに来た手掛かりを少しでも探せると思い森を歩いてみることにした。この森の出口や方角は全くわからなかったのでとりあえず目の前の方角に向け歩き始めた。2、3分ほど経ったであろうか。まだ数百歩しか歩いてはいないが、森はいつまでも同じ風景であった。いくつもの木々の場所や本数、生い茂る雑草の位置など全て同じであった。同じ風景が続き、実際は歩いていないのだろうか?と感じたが、やはり体は歩いていた。何かおかしい、といろいろ考えているとまた雨が降ってきたので考えることはやめることにした。すると、やはり雨は止んだようだった。

しばらく歩いていると遠くで少年が家のようなものを造っているのを発見した。少年を見た途端に私は人と話しをしたくなったので少年に近づいていった。その途中、やはり同じ風景が続いたのは偶然だったのだろうと思い、これ以上深く考えると雨が降る予感がしたので何も考えなかった。

少年は10歳くらいであろうか。その少年はいきなり近づいてきた私に気づいても驚かず作業を続けていた。
『何を造っているんだい?』と私は少年に尋ねた。すると少年は
『家だよ。僕は生まれてこの方ずっとここで生活してきたんだ。寝る場所はこの近くの洞窟だったんだけど、最近崩れちゃってさ。だから家でも造ってここに落ち着こうと思ったんだ。』と私に笑みを浮かべながら言った。


私はこのまま森をさまようのは無意味と感じ少年の家造りを手伝おうと思った。
『今、私は何をすればよいか全くわからなくてね・・・。言っている意味も君にはわからないと思うが。君の作業を手伝ってもいいかい?』と私は尋ねた。
 『えっ?いや、いいよ。僕は一人でこの家を建てたい。一人で造らなければ意味がないんだ。特に意味は無いけど自分の中の決め事で自分だけで完成させようと決心したんだ。』と少年は私に断わりを入れた。
『わかった。では、此処で作業を見学してみてもいいかね?』
『勿論。立派な家を完成させるからね。』と少年は笑顔で語った。私は近くに座り見学することにした。

少年は小さな体でありながらも懸命に家を建てていった。少年が汗を流しながら自分の2倍以上ある木を細かくしていた。私は、ふとこの作業を見ている内にある事に気がついた。
(此処に私が来たのはこの家を完成させる前に壊してしまうためではないだろうか?)


そうなると私は居ても立ってもいられなくなった。破壊こそが正義に思えた。いや思えたのではない。破壊こそが現在の私の正義だった。

≪少年が一生懸命に建てた家は決して見栄えするものができないだろう。耐久性の面からすれば最悪な状態かもしれない。しかし少年からしたら,それでもいいのだ。何故なら少年は家というものが存在すればいいのだから。『家』こそが此処に住む少年にとって心の在り処なのだ≫

と私は仮定した。そんな少年の気持ちを考えると普段の私は絶対に破壊しようとは考えもしないだろう。いや、無理矢理建築の手伝いをするだろう。しかし何故だか今はこの家を破壊したい衝動にかられている。それも原型が跡形もなくなるほどに…。いや、少しの修繕で元に戻るくらいに中途半端に破壊しようか?そうすれば少年はまた家を修繕するための希望を持つだろう。そうすればまた私は破壊を行うことができる。私は何だか考えているだけで少年のような気持ちになりカラダがとても元気になったような気がした。

ところで何故私は破壊こそが正義に感じたのか?
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