「君が泣き止むまで僕は君の涙を舐め続けよう」(切ない系BL)
「好きだ」
「僕も」
というわけで僕らはセックスした。
なんやかんやの後、互いのペニスをずるずると吸引し、精液を絞り切って僕らのセックスは平凡に幕を閉じた。
「なあ」
「なんだい」
「セックスの時って、アナル舐めるのに抵抗ないじゃん」
「うん」
「でも日常生活において、『ちょっとそこの君、アナル舐めて!』ってお尻突き出されたら、引くよね」
「相手にもよるけど」
「もちろん好きな相手だったらいいけど」
「むしろ嫌いな相手だと興奮する」
「……」
「……」
「実は俺もちょっと興奮する。したことある」
「よね」
「でもさ、便所から出てきた相手に、『さっきこれでアナル拭いたんだー』て嬉しそうにトイレットペーパーを突き出されたら、それはもう気分悪いだけだよね」
「訴訟ものだよ」
「あと、同じアナルでも女の場合は別だよね」
「あんなのただの大便排泄器官でしかないよ」
「でも中には女のアナルだけでなく、ヴァギナまで舐める奴がいるんだぜ」
「変態だなそいつら」
「その舌ですぐにディープキスしたり」
「頭おかしいんじゃないか」
キスという単語が出て来ただけで僕らは再び燃え上がり、熱い口づけを交わした。夜になって伸びてきた互いの髭が擦れ、ザリザリと音を立てる。こうして舌を吸い合うだけでも幸せになれる。付き合いが長くなると次第にセックスの回数は減っていく。ただ傍にいるだけでも満ち足りるからだ。だけど僕らはまだ今日出会ったばかりなので、二回目のセックスへと移行した。
で、終わった。
「実は昨日恋人と別れたところなんだ」
「気にしないよ、そういうの」
「『君のアナルはうんこの味しかしなくなった』なんて言われたんだ」
「ああ」
「愛の終わりだよ。うんこの味がしたからなんだっていうんだ」
「さっきもしたよ」
「最近下痢気味なんだ」
「でも、うんこ以外の味もした。うまく口では言い表せないけれど、しょっぱくて、切なくて、そう、涙の味に似ていた気がする」
「アナルだって泣くさ」
さめざめと泣き始めた彼の頬を伝う涙を僕は舐めてあげた。それはアナルの味とはあまり似ていなかったけれど、僕は何も言わないでおいた。
結局彼とはその日だけの関係に終わった。彼の涙を流させたのは僕ではなかった。彼の心を占められるのは僕ではなかった。彼が肛門で締めつけたいペニスは別の男のものだった。
後日、幸せそうに男と歩く彼を一度見かけたことがある。相手が例の元恋人なのか、新しく出来た恋人なのか、僕と同じようにその日限りの関係の相手なのかは分からなかった。嫉妬心は湧いてこなかった。僕だってあの日以来、幾人もの男と寝たのだし、新しい恋人も出来ていた。
ただ、むらむらと、いきなり二人の前に出ていって尻を突き出し「ちょっと君達、アナル舐めて!」と言ってやりたくなってしまった。
そして実際やってみた。
(HAPPY***END)