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そのに!

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 岸本は俺が歩いて移動してる間も背中や肩や頭をポカポカ叩き続けた。言うまでもなく可愛いのだ。
 岸本にポカポカ叩かれながら気付いた。親がいない。
 もちろん俺に親がいたから俺が生まれているわけだが。要するに今この家の中に居ないこと言う意味だ。
 少しホッとした。朝起きてみると体つきの良い可愛い女の子が息子に胸を揉まれていた。そんな状況に親が鉢合わせてしまったら最悪だ。次からは顔を合わせるたびにものすごく気まずい空気が流れるではないか!
 もしも気まずい空気が流れないように親が気を使ってくれたとしても、
「こないだの子とはどういう関係なの?あのあとヤッたの?」
 ぐらいのことしか聞いてこないだろ?いや、ここまでストレートに聞いてくるような清々しいほどの無神経で迷惑な親はさすがにいないか?いるとすればそれは物語の世界の中だけだ!とくにギャルゲーだな!ハーレム主人公の両親だけだ!俺もハーレム主人公になりたかった!そうすれば目の前に成長した初恋の人のおっぱいがあってもこのような過ちは犯さなかったであろう。俺はハーレム主人公としてこの世に生を授けてくれなかった両親を憎む!いや、本当のところは感謝でいっぱいですよ、こうやっておっぱい揉めたんですから。
 もちろんその両親は今この世界にはいない。それに気づくのにはそこから数時間かかってしまった。その時気付いていたら冗談でも両親を憎むなどというDQNでもなかなかしない非道で愚昧な思考は避けられていたであろう。

 そんな馬鹿馬鹿しい妄想をしながらも二人で状況確認を進めていた。
「お母さんに電話したけど全然出ないよ」
「TVは付くが…砂嵐だけみたいだな」
「水道から水も出るよ」
「パソコンも動くようだな」
「トイレの水も流れるよ。私トイレ借りるね。あ、のぞいたり音聞いたりしないでよね!」
「大丈夫だ、箱○を起動させて音消しをしておく」
 ブオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!
「ふむ、やはり新型を買わなくて正解だったな。基本PS3でこと足りるからな。」
 まさかこんなことで箱○が使える日が来るとは…持ってて良かったXBOX360!
「なんでさっきから遊びに使うものばっかり動くか確認してるのよ!」
「いや、俺の命を支えているものだからさ」
「命を支えてるのは食べ物でしょ!」
「いや、マジレスされても……」
「いや、日常生活でマジレスとか言われても……」
「いや、今どう考えても非日常なのに日常生活とか言われても……」
 我ながら実にアホな会話である。漫才かよ!しかし、これを初恋の相手の岸本をしてると思うと少なからず興奮してしまう……本当に少しだぞ!少しじゃないと変態だからな、少しでも変態だと思うやつは帰れ!




 朝起きると夢の中の続き状態で初恋の女の子が現れるし、親はいないし電話にも出ないし、TVは砂嵐だし、XBOX360はブオオオオオオオオオ!!!!!!!
 …………
 最後は普通のことだった。
しかし基本的には普通じゃない……何が起こってるのかのかはよく分からないが何かが起こってることだけは確かだ。まずは他の家がどうなっているか調べないと。
「よし、外の近所の状況でも確認するか。岸本もくるか?」
 一人にすると何が起こるか分からないので誘ってみた。
「でも、私の靴がないよ……」
「あ、」
 完全に忘れていた。岸本は気付いたら俺の家に飛ばされてた(?)わけであって自分の意思で来たわけではないのだ。
「じゃあ、俺のオカンの靴を貸してやるよ。んじゃ、外に出ようか」
「うん。ありがとう」

 まずは隣の山田さんの家のチャイムを押してみた。
キンコーン
「山田さ~ん。いますか~?」
……
「いない……みたいだね……」
 仕方がないのでその隣の小田さんの家のチャイムを押してみた。
ピン!ポン!
「小田さ~ん。いませんね……」
「みんなまだ寝てるのかもしれないよ?」
「いや、時計見ろよ。今はもう10時だぞ。しかも平日の」
 そう言いながら腕時計を見せる。
「本当だ。2010年6月18日月曜日9時57分って出てるよ」
「妙に説明臭いセリフだな。オイ。誰かに説明でもしてるのか?そういう口調は糞ラノベの中だけで十分だっての。」
「ん~。強いて言うなら自分かな?」
 岸本って天然だったのか?いや、元からおっとりした感じだったからこんなもんかもしれない。それにしてもかわいい。

「じゃあ次は車が走ってるか確認するか?」
 そう言って車の通りが多い道まで歩いていくことにした。
「ねぇ、2chって知ってる?」
 唐突に岸本が話しかけてきた。なんで?そういやさっきマジレスって単語の意味理解してたな。
「知ってるというか、俺もときどきやってるけど?」
「うん、私もときどきやってるんだよ。面白いこと書いてる人がいたり色々なことがわかるからね」
 岸本がねらーなのは意外だった。正直そんな風には見えない。俺のイメージだとぬいぐるみだらけの部屋にいるイメージだ。そしてそのぬいぐるみをモフモフやってるシーンが容易に脳裏に浮かぶ。そんな女の子らしいイメージで、人間のカスが大勢いる2chの2の字も知らないだろうと思いこんでいた。
 余談だが、クラスに「ねらー」のことを「ちゃねらー」とかいうおもしろいやつがいたのでそいつのあだ名を「ちゃねらー」にしてやった。そいつの名前は近森とかいったかな?下の名前は忘れた。
「それでね、昨日もやってんだけど、そこで何か『さばいばるっ!』ってゲームを紹介してるスレを見つけたんだ。で、そのゲームにメールアドレスを登録したんだけど何の返事も来なかったんだよ。これってどういうことだと思う?やっぱり釣りだったのかな?釣られたクマー」
「ッッッッッ!!!!!????」
 俺の頭に一瞬のひらめきと予感が走った。
 “クマー”ってオイ……
 それは普段から小説や漫画を読んでる人間ならではの思考だったのかもしれない。しかしここ12時間ほどの間に自分の身の回りに起こったことを総合してみるとそれが一番自然な答えなのだ。
 だから岸本に自分の推測を恐る恐る伝えてみる。
「あのさ、俺もそのサイトに登録したんだ……」
「え!?本当?すごい偶然だね!」
 岸本は無邪気に驚いている。お前は本当に17歳なのか?
 首筋に汗が垂れたのは熱さと緊張の両方が原因だろう。
「それでさ、思ったんだけど、もしかしてあのサイトに書いてたことは本当なんじゃないのか?『超リアルサバイバルゲーム』から『料金は参加者以外の全人類の命だけ』ってとこまで全部まるっきりの本当で今俺たちはまさにそのゲームに参加してるんじゃないのか?」
「え?よく…わからないよ…どういうことなの?つまり、お父さんもお母さんも友達も先生もみんな消えちゃったってこと?そんな……そんなのないよ……ひどすぎるよ………」
 岸本はその場にしゃがみこんで顔を伏せてしまった。
 その顔をのぞきこんだら水滴が見えた。それは宝石のように美しかったが俺には見ていられなくてすぐに顔をそむけた。
 俺は最低だ。岸本がこんなに悲しんで泣いているのにその姿を見て可愛いと思って興奮している。つまり下が反応しているのだ。このまま押し倒して抱きついてヤッてしまいたいという衝動に駆られる。
 しかしそんなことができるほどの肝が据わっているはずもなかった。だからと言って岸本を元気づける言葉も掛けてやれない。抱きしめてやることもできない。その涙を拭きとってやることもできない。
 すべては俺が臆病であり頭が悪いからだ。こんなときどうすればいいのか本当に分からないし、何かやってみる気にもならない。俺ができたことは立ちあがって上からそのうずくまってより小さくなってしまった背中を冷たく静かに見降ろすことだけだった。
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