西日の差し込む教室の、廊下側に並べられた三十名弱の生徒たち。
その中には、長谷川の亡骸を呆然と見つめる生徒や、泣きながら慰めあい抱き合っている女子生徒、何も話さず俯く生徒など様々いた。
キタオが廊下からショッピングカートを引いて教室に入ってきた。
そこには袋入りのもやしが大量に積まれている。
「名前を呼ばれた者から順に前へ出て、もやしを受け取れ、そして速やかに教室を出ろ」
軍服の男が指示をした。
「飯田早苗」
男は名簿らしき紙を片手に言った。
生徒達は皆、周りの人間を見渡して飯田早苗を探した。
飯田早苗は早退の常連だった。
飯田早苗は極めて存在感の希薄な、影の薄い生徒だったため、彼女が一時間目の授業が終わって早々に早退していたという事実を知る生徒がいなかった。気まずい沈黙の時間。
軍服の男は出鼻を挫かれた思いがしたが、気を取り直して点呼を続けた。
「石井浩助」
下を向いていた石井浩助は頭を上げた。
石井浩助も飯田と同様に、早退の常連であることを知っている生徒達は、彼が、こんなことになるなら早退すればよかったと後悔しているだろうと、察することが容易に出来た。
6時間目、保健体育に予定されていた性教育の淫靡な授業展開を期待した、彼のスケベ心が仇となった。
こんな日に限って・・・。
重々しい足取りで前へ行く石井の背中、それは欲情に囚われた悲しき敗北者の背中、生徒達にはそう思えた。
キタオからもやしを受け取り、石井は教室から消えた。
「植田秀雄」
植田秀雄は男子生徒の中で唯一、さきほどの長谷川の凄惨な死を、好意的に受け入れた生徒だった。
彼は日頃、長谷川のストレス昇華のイジメの対象になっていて、長谷川を恨めしく思っていた。
もやしを受け取った彼は、長谷川の亡骸に唾を吐きかけてから、教室を出た。