暴走宇宙特急②
「おいおい、そんなもんどこの星で使えっていうんだ、この田舎野郎」
乗客が震える手の上に差し出した数枚のコイン型貨幣を見て、窃盗団のボスが言い放った。
コイン型貨幣は今となっては辺境の惑星でしか利用されておらず、現在の銀河系での主流はデータチップ型貨幣になっている。
「しかしボス、貨幣マニアには高く売りつけられんじゃないですかい」
手下の進言を聞きいれて、頭は納得した様子で布袋にコインを流し入れた。
「ゲロゲロゲロゲゲゲグァ(有り金全部出せオッサン)」
もう一人の団員の、カエル型宇宙人が光線銃を突きつけながら藤岡に命令した。
「その前にトイレへ行かせてもらいたい、コイツに飲まされすぎたんだ」
すでに酩酊しコクリコクリと眠りつつある隣の男を指差しながら藤岡は頼んだ。
「ゲロゲゲロ、ゲゲロゲゲロゲロ(漏らされても癪ですぜ、ボスどうします)」
座席下には大量のアルコール類のビンや缶が散乱している。
「見張りながら連れて行け」
ボスはそう指示するやいなや
「いや待て!・・・直感だが、その男何か企んでいる」
「ゲロ!ゲゲロロゲェ(貴様!何を企んでいる!)」
「こんな状況で誰が企みなんか・・・、も、もう我慢できん・・・漏れ・・・」
股間をギュッと鷲?んで、冷や汗をダラダラ垂らしながら藤岡は言った。
「・・・いや、俺の考え過ぎだろう、行かせてやれ、いい歳したオッサンの失禁なんか見たくねえからな」
トイレへと通じる長い廊下を、藤岡はカエル型宇宙人に付き添われながら歩いていた。
しばらくすると、カエル型宇宙人が深刻な面持ちでゲロゲロと蛙語で話し始めた
「俺、本当はこんな外道な真似したくないんだ・・・、実は妹が厄介な目の病気に罹っててさ、そのための手術費用、高級宇宙車3台分くらいの金が必要なんだ、それでこんなことしてんだ・・・、俺が働いて金出せれば良いんだけどさ・・・、何せ学歴は無いし、それにまだ種族差別が根強いからまともな仕事に就けないんだ・・・ほら、見てくれよこの手のひら、ヌメヌメしてるだろ、書類なんかは触れないんだ湿らせてしまうから・・・ハハ、笑えるよな・・・、でもこんな俺でも自慢はあるぜ、実はこの光線銃、誰にも使ったことは無いんだ、一度もね、それだけが俺の誇りかな。」
カエル型宇宙人は薄っすらと目に涙を浮かべている。
「でも、今回でやっとのこと目標金額に達成するから、窃盗団はこれを最後に辞めて足洗うつもりだよ、だからここでブタ箱に入れられるわけにはいかないんだ・・・、妹のためにも。ところでオッサン、俺すっかり話に夢中になっちまってトイレを通り過ぎちゃったよ、ハハ悪ぃな、あれ?オッサン、小便したかったんだろ?なんだか涼やかな顔してっけど、我慢出来ずに漏らしたんじゃないだろな?ハハ」
「長く話させておいてすまないが、僕はカエル語はひとつもわからないんだ」
その瞬間、藤岡は目に留まらぬ速さで光線銃を奪い、持ち主の頚椎部に弾倉を打ちつけた。
「務所に入ったらボスに伝えといてくれ、常に己の直感に従うべきだ、とな」
カエル型宇宙人はグエッと叫んで気絶し床に倒れた。
「尿意などまるで感じていなかったよ、あの酒は全部隣の男が飲んだものだ。どうやら僕の演技力はまだまだ顕在ということか」