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 僕はここ最近、ある悩みを抱えている。いや、悩みと言うには少し贅沢かもしれない。まぁ、とにもかくにもその悩みというのは、女の子に付きまとわれているということだ。
 その女の子の名前は、あまつかえる。『あまつか』ではなく『あまつ』である。天津かえる。ネーミングセンス的には美しくない、いや、その真のところはわからないけれども、少なくとも僕の感性には美しいと感じられない。それは僕の知識が貧困で学が浅いせいなのかもしれないけれども。かえるといえば蛙しか思いつくことのできない脆弱な思考回路では、やはり、娘の名前にかえるとつけるのはどうかと思う。
 その名前が壮大かつ遠大な伝説的逸話を基にしていたり、彼女の両親の博識高い想いが込められているとしても、僕にはそれをうかがい知ることが出来ないので、結局、微妙な名前なのである。
 とはいっても、人の名前を貶められるほど奇知をてらった名前を有しているわけでもないのでこの辺でやめておくことにする。
 その名前とは違い、天津の容姿は清らなり。万人共通の美しさかどうかは一個体としての生命体である僕にはわからないけれど、少なくとも、その美しさは僕の通う学校の中では共通している。その長く艶やかな黒髪だけで世の男ども虜にするには十分だ。いや、十二分だ。
 そんな女の子につきまとわれて何が悩みなどと非難轟々だろう。それは覚悟している。自分で最初に言った通りに贅沢だとも思う。そんなことは重々承知している。けれど、不気味なのだ。
 それは平凡なある日のことだ。僕は教室の片隅でいつも通り読書をしていた。友人はいない。知人はいなくもないけれど、わざわざ休み時間に群がって談笑するような間柄でもなければ、そういう人間でも僕はない。
 一匹狼というほど格好良くもなければ、村八分というわけでもない。人里離れた山奥か、どこか離島に一人で住んでいるといったふうな。別段、人嫌いというわけでもないのだけれど自然とそうなる。いるようでいない、いないようでいる、どこか中途半端な存在だ、僕は。
 いると思ってみればいるし、いないと思ってみればいない。とはいっても、れっきとした人間であり、妖の類ではないから、いつでもちゃんとそこに存在はある。
 うんぬんかんぬん述べたところで影が薄いの一言で済まされれば、それで終わりなのだけれども。
 まあ、これで僕がこれまで歩んできた道程とこれから歩むであろう道程が、学園のアイドルともする天津の道程と限りなく近づくことがあったとしても、交わることがないことはわかってもらえたと思う。どちらかがその道を意図的に曲げない限りは。
 余程残念な頭でない限り、ここまでくればその道が交わったことがわかるだろう。(こんな僕の語りを読むのは残念な頭しかいないだろうから何とも言い難いのだけれど)
 少し脱線してしまった。話をもどそう。
 いつも通り読書をしているとそいつはやってきた。教室の前のドアが開き、そいつが入ってきた。教室を埋め尽くしていた喧騒は消え失せ、そいつの歩く音だけがしている。歩くさまは自信に充ち溢れていて、まるで王かキングだ。その歩みは一直線に僕のもとへと伸びて、ここまでやってくると、まるで親しい友人か恋人にでも話しかけるようにごく自然に天津かえるは話を始めた。
 僕はこの会話の内容を全く、微塵も覚えていない。突然の出来事に頭真っ白だとか、天津に見蕩れて話を聞いていなかったとかじゃあなくて、あまりにくだらない、というより、あまりに意味のない雑談だったからだ。
 昨日見たテレビがどうとか、隣のクラスの誰それ君がとか、数学の教師がどうしたとか、僕に何の益ももたらさない類の話をしたような気がする。
 誰かと間違えて気付かないまま話し続けたボケなのか、それとも僕に用があったのか。そのところはわからない。
 けれど、それ一度きりというわけではなく、頻繁に、度々、暇を見つけては僕のところにやってくるといった感じなので前者を期待するのは、それこそボケだ。
 そして頻繁にというのは今現在も含まれていた。
 天津は話すのをやめじっと僕を見ている。僕を非難するでもなくただ見ている。
 僕はあまり天津の話を真剣に聞いたことがない。テレビはほとんど見ないし、学校の噂には疎いほうだ。しかし、天津はその類の話しかしない。よって、まったく話題ついていけず、聞く気が失せる。
 しかし、天津は話題を変えるでもなく、僕に文句を言うでもなく、単調に話を続けるだけだった。そう、だった。今日は珍しく黙っている。これは僕が話題を提供しろという意志表示と受け取るべきだろうか。
しばらく続いたにらめっこの後、僕は訊いてみることにした。
「僕に何か用があるのか?」
 結局、返ってきた言葉はいつものそれと大差のない友好的なものだった。
「会いに来るのに何か理由がいて? 私とあなたの仲でしょう。」
 どういう仲なのだろう。僕は天津と親しい間柄だとは思っていない。それは、天津も一緒なのだろうと思う。言葉こそ友好的であるのだけれど、顔はひきつり、台詞には感情がない。
 嫌々僕と一緒にいるといった感じなのだ。ならば何故、幾度となく僕を訪ねてくるのだろうか。その問いにも見当はずれな友愛的台詞しか返ってこなかった。
多少語弊はあるけれど、同じ人間同士なのにここまで意志の疎通ができないものなのだろうか。これなら、つい先日助けた宇宙人のほうがまだ、いや、遥かにましだった。

この日の放課後、僕は天津かえるについて調べてみることにした。
この世に偶然はなく、あるのは必然だけと考えるのならば、結果に至るまでには必ず原因が存在する。
つまり、天津かえるが僕につきまとう行為が必然とするならば、つきまとうという結果に至るまでのどこかにつきまとおうと行動する原因があるはずなのだ。
別にいつもこんな考え方をして生きているわけじゃない。むしろ、何も考えていないことの方が遥かに多い。
じゃあ、何故この考え方をするかと言えば、何か原因がなくては天津が僕に近づく理由がないといっていいほど住む世界が違うからだ。勝手に僕がそう思っているだけで、存外天津が僕と同じ世界に住んでいるのかもしれないけれど。
僕の天津に対する認識は美少女の学園アイドル。数多の男子生徒の夜のオカズ(天津の隠し撮り写真が流通している)。そして、つきまとわれてから得た情報、いやに友愛的であるということ。
そこに今の聞き込みで得た情報を足すとこうなる。
学園のアイドル。通称、姫。その容姿は男女問わず憧れの的であり、ファン数多、告白して沈んでいった勇者も数多。常にテストは学年トップクラスで、テニス部のエース。
容姿端麗、頭脳明晰、運動神経優良と外面は完璧に近いらしい。
のだが、自分が美少女だという自覚を持ち、その態度は高飛車、言動は辛辣と、内面の評価は外面に比べて、月とすっぽん、イチローとサブロー、アムロとハヤト、つまり著しく低かったらしいのだけれど、最近は内面に変化が見られ、株価は赤丸急上昇らしい。
で、急上昇の原因の友愛的天津になったのは僕につきまとい始めた時期と一致する。
これは何かある。というか、何かなかったらおかしい。経験上、こういった異変が僕に近づいてくるのはあいつのせいだ。

「ひどい言い草じゃあない? 私のせいだなんて」
 開口一番、留原(ととはら)茅草が言う。何故、僕が遥か彼方、それも心の内で考えたことをさも当たり前のようにしっているのか? なんて質問は意味を成さないだろう。
 茅草は僕が気兼ねなく話すことのできる数少ない人物の一人だ。それが彼女にとってもそうなのかは置いておくことにする。
 茅草は僕以上に、というか、比べること自体おこがましいほどに色々な物が見える。妖怪だの神様だの宇宙人だの、超常現象的、その他諸々不可思議なことが。
 が、見える癖になにもしない。更には人に押し付ける。
「まるで私が怠慢な人みたいにいうのね。釆女(うぬめ)くんがお節介なだけなのに。人づきあいは壊滅的なくせに変わった人だわ」
「余計なお世話だ」
 僕は大人気と書かれたポップの付いた商品を見て聞いた。熊の木彫りだった。別にここは北海道じゃあない。片田舎だけれども熊がいるという話を聞いたこともない。
「こんなの買うやつがいるのか?」
「まともな客なんてもうずっときてないわ」
「そんなんでどうやって生活してんだよ」
「釆女くんみたいな鴨からふんだくっているから心配してくれなくて結構よ」
「鴨言うな!」
「でも、本当のことでしょう」
 茅草は目を細めながら言った。
 留原茅草は街のはずれにある、やっているんだか、潰れているんだかわからないような雑貨屋に住んでいる。客は来ないが鴨は来る。僕みたいにみえるひとやみられる側相手に商売をしてぼろく稼いでいる。
 んで、どうでもいいような仕事は僕にやらせるのだ。職務怠慢だと思う。
「九桁近い借金のある釆女くんが文句を言える立場じゃないと思うのだけれど、違うかしら? どうしてもというならお金の代わりに私の性奴隷にしてあげてもいいけど?」
 アブノーマルなのが好きなのと茅草は付け加えた。
 茅草は年齢不詳(少なくとも僕よりは年が上)ではあるけれど、美人だ。そんな茅草と肉体関係を持つだけで、到底返せそうにない借金がなくなるのなら、それもよさそうなのだけれども、茅草の発言以上に僕の危機回避本能が猛烈なアラートを鳴らしているので、丁重にお断りしておく。実に残念だ。
「私とは雑談してくれるのに、どうして天津ちゃんとはしてあげないのかしら」
「やっぱりお前か!」
「体の関係のない女には冷たいのね、釆女くんって」
「まるで茅草とそういう関係みたいに言うな!」
「一辺倒なツッコミでつまらないわ。いいえ、ツッコミなんて呼ぶに値しない、怒鳴っているだけって感じ。釆女くんは芸人の道はあきらめたほうがいいわね――あきらめたほうがいいわね」
「念を押された!?」
 言われなくても自分が面白い人間ではないことわかっている。わかってはいるけれど人に言われると心にずっしりくるものだ。
「釆女くんは面白い人間よ。ただ笑いのセンスがないだけ」
 茅草がフォロー入れてくれた……いや、ただ馬鹿にされただけだった。
 茅草のペースに乗せられて、まるで話が進んでいない。茅草の白状により、天津が僕に近づいてきた理由はわかったけれど、天津がどういう状況なのかがわからないと助けてあげることができない。
 助けてあげる。なんとも傲慢な言い方だなと思いながらも他の言い方が思いつくほど優秀なBrainはつんでいない(残念な子が多そうなので補足すると脳のことだ)。
「天津ちゃんはうまく喋れないみたいだから気をつけてね」
 僕に茅草が言った。
2, 1

  


 翌日の昼休み。待てども、待てども天津はやってこなかった。いつもなら四限目が終わると五分とたたずに、非生産的なおしゃべりを一方的にしにくるのに、こちらが用のある時に限って現れないなんてひねくれているにも程がある。いや、この言い分もひどく一方的ではあるが。
 結局、この昼休みに天津がやってくることはなかった。
 そうすると考えてしまう。変な女(留原)の助言で、僕を訪ねたのはいいけれど、一向に何もしてくれないどころか、自分がどういった状況なのかも察してくれず、話をまともに聞こうともしない僕をとうとう見限った、と。
 だとすれば天津は気の長い方なのだろう。だって、二週間近い期間、無言の助けを、いや、色々と喋ってはいたから無言ではないのだけれど、とにかく明確な意思表示のない助けを求めていたのだ。
 まぁ、言い訳させてもらうならば、サトリでも開いていない限りすぐさま察することなんてできやしないんじゃないだろうか。むしろ、二週間程度で気づくことのできた僕を褒めてもらいたいくらいなのだけれど、それは結局言い訳でしかなく、結果として辛辣な姫は辛辣な姫であると思い知ることになったのはこのすぐ後だ。
 五限目の休み時間に天津のクラスを訪ねると欠席しているということがわかった。
 何かあったのだろうか。もちろん、風邪をひいたとか病気の類の心配ではなく、憑き物がどうにかなったのかという、のだ。
 茅草が言うにはとり殺されたりとかそういんじゃあないらしいけれど気になる。茅草の見立ては割と適当だからだ。そのせいで幾度か危ない目にあった僕が言うんだから間違いない。

 職員室はあまり好きじゃあない。ここの教師は人の顔を見る度に進路の話ばかりする。そして職員室は教師のすくつ、もとい、巣窟だ。うっとうしくてたまらない。
「天津かえるの自宅の住所がしりたいのですが」
 一番初めに目についた教師に声をかけた。名前がわからないから、先生と呼ぶ。代名詞って使い勝手がよくって好きだ。
「ん? あー」
 あいまいな返事。まぁ、個人情報がどうとかプライバシーがどうのの時代だ。そう簡単に教えてくれるとは思っていなかった。いなかったけれど、言い訳も考えていなかったから手詰まりだ。実にぬかりのある計画だな。
 がしかし、最近の僕と天津の事情、ここでいうのは生徒たちが噂する妙に仲のいい二人ということを知っていたのか、割とすんなり教えてくれた。
 礼を言い職員室を出ようとする僕の背中に教師が言った。
「担任の俺は勿論、学校もお前には期待しているんだからな」
 ……だから、職員室は嫌いなんだ。

 学校からそう離れた住所ではなかったけれど、あまり来ることのない場所だったので、道に迷いながら四〇分かけてようやくそこにたどり着いた。
 手ぶらで行くのも悪いかななんて思って、手土産といってもお菓子とジュースなわけだけど、それとスケッチブックとペンを買ったんだけど、そういうレベルではない、と家を見て思う。
 僕は思ったね、こんな家に住んでいりゃあ姫様気分にもなるってね。
 住所が高級住宅地のほうだったから薄々は感じていたけれど、豪華絢爛の建物の中でもひと際大きく、高そうな嫌みたらしい家だった。嫌みたらしいってのは中流階級のひがみでしかないのだけれど。
 しかし、ここまで大きいと引き返したくなる。妙な威圧感がある。
中流の息子が上流の娘に何用か、いや、正当な理由があろうとお前のような凡夫以下が訪問していい場所じゃあないんだよっ、と黒光りする大きな門が僕に告げている。ような気がする僕は被害妄想がひどいのだろうか。ひどいのであろうな。L5かもしれない。
なけなしの勇気を振りしぼってインターフォンを押す。すぐさま人のよさそうな男性の声がきこえる。六〇代くらいの毒気の抜けた優しそうな。
「天津さん――かえるさんのお宅でしょうか?」
「左様でございます。どちら様でしょうか?」
 ここで答えに詰まる。どちら様――名前なら答えることはできる。それだけ答えても「で?」である。
 ここでの質問は用事と関係を問われていると考えるべきだろう。とすると、僕と天津の関係だけれど何なのだろう。噂されるような恋人関係ではないのは勿論だし、友達というわけでもないと思う。クラスメイトですらない。同じ高校に通う同じ学年の男子生徒が妥当なのだけれど、家に訪ねてくる関係性としては弱い。用事だって言えるような用事ではない。
 こういう時にまわらない頭で本当に嫌になる。で、結局嘘。
「最近、天津さんと仲良くさせていただいている者なのですが、今日は学校を休まれたのでお見舞いにと伺ったのですが……」
 我ながら嘘くさい。いや、嘘くさくはない理由としては真っ当なのだけれど、こういう言い分は幾時考えてでてくるものではない。なのに、その幾時を経たせてしまったせいで嘘くさくなってしまったのだ。
 職員室の時もそうなのだけれど、対人交渉においての事前準備、経験値と言い換えてもいい、が全く足りなかった。本ばかり、漫画ばかり読んでいないで友達を作って経験値を稼いだ方がよさそうだとこの年にして痛感した。はぐれメタルでもいないだろうか。
 案の定というか、当然というか、人のよさそうなおじいさん(多分)はさっきから何も言わない。怪しまれたんだろうな。追い返されても致し方ないだろう。
「じいは……じいはうれしゅうございますっ」
 えぇー! 喜んでる!? しかも、泣くほど。いやいや、なんで必死に嗚咽こらえているんですかおじいさん。ないでしょう。どこにも泣く要素はなかったでしょう。
 あれですかね。死んだ孫に声がものすごく似ているとかそう理由ですかね。で、つい感傷に浸っちゃってとか。
 ツッコミ半分、動揺半分、混乱半分――マジで落ち着こう、僕。これじゃあ半分にできないぞ。吸って、吸って、吸って、吸って、苦しくなって、吐く。空気だよ。深く深呼吸する。
 平静を取り戻した僕に返ってきた台詞は意外なものだった。よく考えればそうではないのかもしれないのだけれど。
「お嬢様にご友人が訪ねてくるなんて」
 絶句。二の句が継げない。
 容姿がよくて、性格が悪い。味方も多いけど、敵も多いはずだ。女なら嫉妬、男なら逆恨み。まぁ、他にもいろいろあるだろう。――知らないことを勝手に理解した気になるのはよくないな。浮かんだ考えを頭の隅っこにおいやる。
 黒い門が唸りをあげて開く。自動だ。門くらい自分で開ければいいだろうに、何故こういう装置をつけるのだろう。多分、中流の僕には一生かけても理解できないだろう。クラスチェンジしないかぎりは。そういう隔たりのある感性だ。
 開いた門から中に入る。目の前には噴水がある。二人の天使が一つの丸盆を支えている。二つの天使の彫像、噴水の作り、門から家まで続く道、それを囲う生垣、咲く花。その全てが左右対称になっていた。
 玄関の前には男性が立っていた。おそらく先ほど会話した人だろう。
「よくきていただきました。ささ、お嬢様の部屋はこちらです」
 浮かれているおじいさんに連れられ、長い廊下を歩き、階段を上り、また歩き、階段を上り、歩き、ようやく部屋の前についた。
「いやぁ、最近、お嬢様は荒れ気味でお友達がいらっしゃって少しは落ち着けばいいんですが。あのようなこと言ったことはなかったのですが」
 なにやら話が噛み合わないのだけれど、天津はじい執事やメイドさんに暴言を吐くようになったらしい。それはもともとなのではと思いつつも、頭のもう半分ではメイド飼いたいなあ、と思っていた。留原なら頼めば着てくれるかも知れない。いや、着させられるかもしれない。
 補強
 その道中、というほどの道のりでもないけれど、あれやこれやと質問されたり話を聞かせられたりした。すれ違うメイド服を着た使用人らしき人々もすれ違う僕をみて口を開いていた。
 部屋に入る。想像していた女の子の部屋というものとは違った。
 まず目に入ったのは大きなガラスケース。その中にはプラモデルや模型が並べられていた。戦車。戦闘機。船。ガンプラ。ザク×四七機。城。ガンバスター。シズラーブラック、銀。ボットルシップ。
 さらにプラモデルの空き箱が床に散乱している。あやうく薄刃ニッパーを踏みそうになった。タミヤカラーの空き瓶も転がっている。しかも、いくつかは割れたまま放置してあった。
 プラモデルが趣味なんだろう。悪いとは言わない。僕だって素組だけれどたまに作る。けれど、女の子の趣味としては珍しいんじゃないだろうか。少なくとも僕が集めた情報の天津とは結び付かない趣味だった。
 その天津はというと大人四人が並んで眠れそうな大きさのベッドの真ん中に寝転がっていた。薄桃色のひらひらのパジャマを着ている。衣服は女の子らしかった。
 僕は窓際に倒れていた椅子をベッドの近く持っていき、そこに座った。
 天津は目をつむっている。寝てはいないはずだ。おじいさんが話は通してあると言っていたからだ。まあ、つまり歓迎されていないんだろう。が、
「よく来てくれたわね」
 歓迎の言葉。けれど、やっぱり表情は苦虫を噛み潰したような顔だ。
 僕は鞄からスケッチブックとマジックペンを取り出し、天津に渡して、言う。まあ、しゃべれないならしゃべらなければいいという子どもじみた単純明快な理論だ。
雑談
「助けてほしいか?」
 一瞬、固まる。遅れて理解。剣?な表情に変わる。スケッチブックを開き、ペンが走る。
『調子に乗らないでもらいたいわ。あなたのような日蔭者が私のように太陽みたいな美少女と話ができるだけでも奇跡だというのに、私の家に、部屋にまで来て、言うにことかいて助けてほしいかですって? まるであなたが上で私が下みたいな言い方ね。逆、逆なのよ。上は私。あなたみたいな低俗が私を助けるのは当然、いいえ、義務なのよ――』
 後半からはただの卑猥な言葉になっているのでこのあたりで読むのをやめておく。
 僕はいつの頃からか「助けてほしいか」を聞くことにしている。別に台詞はこれに限らない。「手助けが必要ですか」とか、なんだって。重要なのは僕が手を貸すことへの許可が相手からおりることだ。
 小さいころ、今よりずっと善良だったころ、迷子の女の子を助けた後にその娘に手痛い言葉を浴びたのが原因かもしれないし、そうじゃないかもしれない。そもそも、女の子じゃあないかもしれない。僕が記憶を改竄して女の子にしているだけの可能性だってある。だって、男に罵られたんじゃあやってられないだろう。だからって女の子に罵られて気持ちいいわけでもないことをここに表明しておく。
 で、この質問の答えは僕的には二択だと思っていたし、今まで助けた、または助けようとした人の答えも二択だったのだけれど、天津みたいな答えもあるとは頭の外だった。
 天津の言ったこと、いや、書いたことでわかったのは全然、まったく、微塵も不一致は一致してないということだ。

 ここでちょっとばかし回想。昨日、茅草の家を訪れた時の非雑談パート。
「彼女――天津さんに憑いているのは『言葉憑き』ね。ことばつき。ことのはつき。ま、名前なんてどれでもいいわ」
 聞いたことのない妖怪だった。いや、妖怪なのかもわからない。
「神様――とはちょっと違うか。精霊ね。言葉の精霊」
「で、そいつがどんな悪さをしているんだよ」
 僕の言葉に茅草は笑った。
「悪さなんてとんでもない。むしろ、いいことよ」
 茅草はなんだか楽しそうだ。
「でも、天津は性格が変わっているじゃあないか。本当のところは知らない、集めた情報によるとだけどさ」
「アンチは減ったのでしょう? ファンが増えた。暴言も吐かない。誰にでも友愛的な言葉で接する。これって悪いことかしら」
 僕は考えてしまう。悪いことなのだろうか。いや、いいことだろう。でも、それは。
「それは僕らに――天津の周りの奴らにとってだろう。少なくともいい台詞を言う時の天津は嫌な顔している」
「優しくないのね」
「何がだよ」
「天津さんには優しくても、他の大勢には全然優しくない選択ってこと」
「名前もない背景みたいなのにやさしくしたって意味ないだろう、僕も茅草も」
「……そうね。彼女、お金持ちらしいしね」
 いくらぶんどる気なのだろう。天津家が傾かない程度であることを願おう。
 茅草は右手を口元にそえ、わざとらしく咳払いをした。
「さて、愛他主義の釆女くんには天津さんの攻略方法を教えましょう。いくつものルート分岐を潜り抜けたけれど、本番はここからね。あの娘の性格難しいから」
 言い方がギャルゲーのヒロインを攻略しているみたいだけれど気にしない。
「………」
 無言で茅草が僕を見つめている。でも、僕は何も言わない。だって、いちいち口をはさんでいたら話が進まないだろう。
 茅草が手を自分の肩にかけた。服を肩からはだけさせる。首筋から左乳の上乳までが丸見えだ。いや、ぎりぎりでビーチクが見えていない状態といったほうが正確だ。
 雪のように白い茅葺の肌と、か細い体躯に似つかわしくないデカメロン伝説に僕の両眼は釘づけになった。これは話が進まないとか関係なしにつっこむ気になれない。だって、僕は茅葺の体を見ていたいからだ。というか、僕が童貞じゃなかったら押し倒していただろう。
 こんな僕(おそらく間抜け面)を上目遣いで見て、頬を染めながら遠慮がちに一言。
「……えっち」
 我が人生に一変の悔いなし。この言葉はあまり好きじゃあないけど『萌えた』。茅草のヤツ何時の間にこんなテクニックを。
 いや、ちょっと待て。服をはだけたのは茅草自身だ。だから見てもいいじゃあないのか。それなのにえっちって。
 いやいや、そういう問題じゃあないだろ。何の話をしていたんだ、僕は。チャームされて何を話していたか忘れてしまったじゃあないか。
「ギャルゲーかっ! 攻略してねぇよっ。てか、何服脱いでんだ、血液が一か所に集結しちゃうだろうが!」
 とりあえず思いつくことを叫んでみた。すると茅草は、
「そうよ。釆女くんはそうやってちゃちゃいれてくれなきゃあ存在意義がないでしょう」
「僕の存在意義はひやかしですか!?」
「当然でしょう」
 僕は間髪いれない茅草の言葉に二の句がつげなかった。僕はただ真剣な話の腰を折るだけの機械なんですね。そう思うと泣けてきた。
「で、天津ちゃんに必要なのはね」
「何もなかったかのように話を戻した!?」
「うるさいわね。話の邪魔をしないで」
「存在意義を否定しないで!」
 必死で訴える僕を家畜を見るような冷たい目で茅草はみた。泣けてきた。てか、もう泣いているけど。なんとか涙をこらえて茅草に訊いてみた。
「で、どういうことだよ」
 努力空しく声は裏返っていた。
「もしかして本気で泣いてた?」
 少し困った顔して茅草がおいでおいでと手を振る。僕が近づくと茅草は両手を広げたので、茅草の胸の中で泣くことにした。いや、胸の渓谷でだ。
 ――僕はこのデカメロンの感触を忘れないよう心に誓った。そしてどんな暴言を吐かれても我慢することをデカメロンに誓った。
「もういいかしら?」
「あぁ。茅草のおかげで当分オカズには困りません」
「正直、すぎるんじゃないかしら」
 茅草が笑う。この程度の下ネタじゃびくともしない。まぁ、あながちネタってわけでもないんだけど。ネタではないけれどネタとして使う。
「言葉憑きは嘘を嫌うのよ」
 茅草が話をむりくりレールにもどした。
「思っていることが善であれ悪であれ、綺麗であれ汚いであれ、心に反した言葉が嫌いなの」
「友愛版天津は本心てことか?」
「そこまでじゃあないわね。辛辣な言葉が完全には本気ではない、その程度よ。好き嫌いで言うなら言葉憑きは綺麗が好きだから、そのせいじゃないかしら」
「で、救済策は?」
「心と言葉の不一致がなくなれば勝手にいなくなるわ」

 回想終了。思い出してみたら大分脱線していたな。まあ、いいか。
『ぼっとしてないで何かいいなさいよ』
 僕の目の前にスケッチブックが付きだされていた。別にぼっとしていたわけじゃあない。親切にも回想していたというのにこの娘っ子は。まあ、誰にしていたかと問われたら何とも答えられないのだけれど。
 不一致の原因。至極、個人的なことなのだろうけれど訊いてもいいのだろうか。デリカシーがないとか言われそうだな。
 それに悩みを話せと言ったところでほとんど他人の僕に話すとは思えない。どうしたものか。実質的に僕が手を貸せることはほとんどなかった。
「今日はなんで休んだんだ」
 僕が問う。彼女はペンを動かす。なんていうかテンポがわるいよな。仕方がないけれどさ。
『その質問は私の状況改善に何か関係あるのかしら? ないんでしょう。だって、バカみたいな質問だものね。悪いけどあなたと無駄話をする気はこれっぽっちもないのよ』
 うーん。言葉憑きには一生憑いていて欲しくなってきた。けど、笑ってるんだよな、今。暴言吐きながら……違った。暴言書きながら笑うってのはどうかとも思うんだけれど、友愛版にはない活力があるんだよな、今の天津には。

 結局、昨日は、小一時間ほど罵られるだけで何もできなかった。いや、もともと何もできないんだけれど。
 廊下を歩いていると人だかりができていた。天津のクラスの前にだ。何か悪い予感がしてその人だかりに近づくと、女子生徒が泣いていた。天津ではない――天津はスケッチブック片手に女子生徒に何か言っていた。もちろんスケッチブックに書いてだ。
 へたりこんで泣いている女子生徒を慰めたり、天津を睨んでいる女子生徒が六人。天津を擁護している雰囲気の男子生徒が多数。その他野次馬膨大。
 僕は人垣をかきわけて天津の前に立った。気付いたら天津の横っ面を引っ叩いていた。唖然とする天津。騒然とする観衆。燦然とする僕。多分、今僕の人生で一番輝いている、悪い意味で(笑)。全然笑えない……。
「言い過ぎでした、ごめんなさい。釆女さんも私が悪いということわからせるためにあえて叩いてくれたんでしょう? いやな役をやらせてしまってごめんなさいね」
 鬼の形相でそんなこと言われても説得力がない。
 おそらく、いきなり叩かれ激昂して、つい怒鳴ろうと口を開いてしっまた所を言葉憑きに口を奪われたんだろう。
 天津が言うこと――声にだすことは本当だ。過剰であっても嘘ではない。そういうことらしい。だから、さっきの言葉は言葉憑きが作文、発声したのだけれど、天津の考えを基にしているはずである。
 つまりそういう思考ができる奴なのだ。言った後に反省しているということだ。なのに、どうして悪質かつ悪辣な台詞を吐くのだろう。
 そしたらいつのまにか手が出ていた。……言い訳にすらなっていない、というか、意味がわからない事を言っている。自分自身考えがはっきりしていない。
こんな状態で怒髪、天を衝く状態の天津にまともな言い訳、もとい殴った理由をわからせることなどできるはずもないと考えた僕は、思考をまとめる時間を稼ぐためにその場から走り去った……のだけれど、当然のごとく天津は追ってきて、とうとう屋上に追い詰められてしまった。
僕はフェンス際までじりじりと押しやられていた。直接、手を下されているわけではない。無言で、しかし、重圧をかけながら一歩々々近寄られたら、僕は後ろに下がるしかない。その結果として後ろにフェンスを背負っているわけだ。
さて、どうするか。いっそのこと飛びおりるか。いや、フェンスをよじ登りきる前に捕まるな。確実に天津の射程圏内だ。というか、飛び降りる勇気も理由もない。理由はなくもないけれど、逃げるだけでは何も解決しない。現場から逃げた男が言っても説得力はないのだけれど。
もう後ろに下がるという選択肢を失った僕と、前進し続ける天津。確実に、着実に距離は狭まっていく。
「悪かった。親父にもぶたれたことないであろう天津お嬢様に手を出したことはひどく後悔している」
 天津が停止する。二人の距離は歩幅にして五歩。そこでぴたりと停止した。さながら機能停止ガンダム。なんて冗談考えている場合じゃあないよな。
 天津は下をうつむいて本当に動かなくなってしまった。
「……お父様に殴られるなんてあるはずないわ」
 天津は独り言のように呟いた。そりゃあそうだろう。さぞかし可愛がられているのだろう。じゃあなきゃ、罵詈雑言の権化に成長することなどないだろう。
「ろくに顔も合わせないのよ、手をあげられるわけがないじゃない。仕事にかまけて家にはいない。そんな親が私を叱るなんて」
 今度は僕に語りかけるように言った。
 天津は言葉憑きの声を借りず、自分で話している。自分で叫んでいる。不一致が一致した。
「私なんて……お父様も、お母様も」
 天津の目から大粒の雫が流れ出していた。そのまま崩れ落ちそうになる天津を、駆けだしてなんとか支えることができた。適当に口をついた言葉がどうやら期せずしてルート突入の鍵になったようだ。
 僕にしがみついて、僕の胸に顔をうずめて天津は泣いた。初めは声を押さえていた天津だけれど、次第に声が大きくなり、その泣き声は空に響いていた。
 一〇分ほどだろうか。ただ天津の背をさするくらいしかできることがなかったので長く感じただけで五分かもしれないし、あるいはもっと長いかもしれない。僕の感覚では一〇分ほど経って天津は顔をあげた。
 僕を睨んでいる。目は真っ赤だし、鼻も垂れている。けれど、睨んでいる。彼女のプライドだろうか。こんな底辺の塵屑の胸を借りてしまったことへの自己嫌悪を誤魔化すために僕を睨みつけている、そんな感じだ。
 僕は天津の背中にまわしている手をはずして、ポケットからティッシュを取り出して、彼女に差し出した。
 何故かさらに強く睨んだ後、一八〇度回転して僕に背をむける。そして鼻をおもいきりかんだ。盛大にかんだ。おっさんが鼻をかむときのような凄い音をたてかんだ。
 もう一度一八〇度回転して僕と向き合う。ティッシュを返すと見せかけて、逆の手から手刀がくりだされ、僕の脳天を直撃した。
 お返し、と天津は言った。引っ叩いたお返し。それから天津は黙ってしまった。僕も黙る。
気まずい沈黙。そう感じているには僕だけかもしれない。天津は暢気に空を眺めている。
沈黙を作ったのが天津ならそれをやぶったのも天津だった。
「私、これでも家ではいい子なのよ」
 天津は家ではガチで友愛版天津のようにふるまっているらしい。学校での態度とは正反対に。妙にお手伝いさんたちからの評判がいいのはそのせいだったのか。それが最近は取り憑いたもんのせいで、ということか。
「両親はほとんど家にいないのよ、年に片手で数えるほどしか一緒に食事できないくらいなんだから」
 僕の親も出張でたびたび家を空けるがそれとはレベルが一〇も二〇も違うようだ。
「二人の前ではもちろん、執事やメイドの前でもいい子にしているわ。お父様に、お母様に褒めてもらいたいなんて理由でね」
 そう言って自嘲気味に笑った。
「でも二人はまるで相手にしてくれない。言うことは全部聞いているし、わがままだって一度だって言ったことはないのに」
 天津が僕を睨む。僕を睨むことで別の誰かを睨んでいるようだった。
「あの娘達は親がいつもいて、それなのに よ」
 

「反動とは違うんじゃないか」
 もう十分幸せなはずなのに両親について見当違いな不満を言うまわりの子供。自分は喧嘩をするどころか、会話をする機会すらほとんどない。親と言い合いができる、話ができる、共有の時間が持てる。そのことが羨ましくもあり怨めしくもある。だから、そんなことを言う周りの子供に対して簡単に爆発するし、基本スタンスとして毒づいてしまう。
 気持ちがわからなくもないが、幸せ、不幸せはしょせんは主観に寄ってのみ価値が決められるものだからな。天津の幸せが他人の幸せとは限らないわけだ。
 青少年の親への不満は大抵は見当違いだということはわかるが、それにあたってどうするよ。
「ま、一番子供なのは天津、お前だけどな」
 欲しいものが手に入らないから、他にあたる。一生懸命頑張っているのに褒めてくれないから、相手にしてくれないから拗ねる。子供の行動そのまんま。
「不平不満があるなら行動しろよ。関係ないところで関係ない奴の悪口言って、ストレス発散してんじゃあねえよ」
「でも」
 ためらいがちの反論。
「嫌われるのが怖いか? いい子ちゃんやってきたんだものな。いきなり娘に毒づかれたら、そりゃあ親もびっくりするわ。けど、言わなきゃ変わらない。何も起きない」
 行動を起こしたところでイベントは起きないかもしれない。けれど、何もしなければイベントが起きるかもしれない可能性すら消してしまう。
 不平不満を言うのは、自分ができることを全てやったその後であるべきだ。何もしないで、何かやった気になって文句だけ言うのは愚かしい。
どうも説教臭いことを言ってしまった。僕のキャラではない。
けれど、叱られたくて、他人に自分を見てほしくて、暴れる中学生みたいな行動に思えたから、引っ叩いた、説教した――のだと今になって思う。
もちろん、引っ叩いた瞬間も説教した瞬間もそんなことは微塵も思っていなかった、後付けの理由だ。
簡単なことなのにそれをしようとしない天津がもどかしくて、感情的になってしまっただけなのだと思う。

 結局、天津はわがままらしいわがままを言うことはなかったらしい。本人がそう言っていただけなので真実は知らないのだけれど。
 ただ一つお願いをしたそうだ。最低月に一度はでゆっくり時間をとって家族そろって食事をすること。そのときは自分の話をいっぱい聞いてほしいということ。
 娘からの初めてのわがままと呼ぶにはずいぶんかわいらしいそれに両親は面喰ったらしい。本人たちは順風満帆だったつもりらしく、娘の真意がわからなかったらしいけれど、説明したら泣いて謝ったということだ。
 両親にしろ、執事のおっさんにしろ、天津家関係の人は涙もろすぎるだろう。
 僕としてはもっと暴れてもいいんじゃあないかと思う。
「どうして私が小市民の意見を取り入れなくてはならないのかしら」
 と天津は言った。
 いつの間にかいなくなっていた言葉憑き、何もしてない癖に金だけ要求する茅草、文句も言わず、要求金額はしらないけれど即金で払ってしまった天津。
 問題も無事解決して、きれいさっぱり天津との縁はなくなるかと思ったのだけれど、どうもそうではないらしい。
「あなたみたいなミジンコでも、私みたいなハイステータスな人間がそばにいることで、少しは生きることを許されるんではなくて。不本意ではあるけど恩人に死なれては嫌だから一緒にいてあげないこともないわよ」
 楽しそうにそう言う天津。
どうやら僕単体ではただ生きることすら世間様は認めてくれないらしい。
 相も変らぬ毒舌かと思うだろうけど、一般生徒に対しては弱体化したことで有名になっている。
 しかし、僕に対しては弱まるどころか強化されているように思える。それは辛くあるけど、一方で嬉しくもある。マゾではない。非マゾから微マゾ程度だ。
 なんにせよ、一応のハッピーエンドを迎え、僕の借金も雀の涙ではあるけれど減ったのでよしとしよう。
4, 3

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