ニノベ二周年記念オフレポ/オフレポマスター柳沢
皆さんこんにちは、こんばんは、おはようございます、というわけで、今回はニートノベル二周年を記念して開催されたオフ会のレポートを書いていきます、ひっそりと告知されたにも関わらず結構な人数が集まったものの、まだオフレポは一つも上がってみたいなので、幹事を務めました私がやらなければ誰がやる! というわけででですね。
いやほんと、至らないところだらけの幹事ですいませんでした。
意外にも小説作家の集まる大規模オフは初開催というわけで、そもそもオフ会慣れしていない方が多かったようです。まさかそれがあんな非劇を生むことになるとは、思いもよりませんでした。いや、何を書いても言い訳ですね。特に亡くなられたSさんとそのご遺族にはどれだけ謝罪しても足りるものではありません。
まずはオフの定番ということで、カラオケボックスに集合しましたね。「二十名様までOK!」という大きな部屋を二つ借りました。それでもまだ座り切れず、立ちながら参加する人が出てしまいました。人数管理は幹事の責任ですが、まさか参加表明していなかった方が突然やってきたり、「実は五人の共有ペンネームだったんです」という方がいたり、待ち合わせ場所の集団を見て「これ何の集まりデスカ」「ニノベオフです」「オー、私もニノベで書いてマース」というインド人が乱入してきたり、といったところまでは予測出来ませんでした。ほんと皆さんいい加減にしてくださいね。
私の居た方の部屋ではA先生の「宇宙刑事ギャバン」の熱唱に始まり……いや、細かいことはいいですね。すぐにみんなノリすぎて暴れ出して、天井に穴を空けるわソファーに穴を空けるわ隣の人のズボンに穴を空けるわで、すぐに店を追い出されましたものね。
もう一つの部屋では部屋を破壊こそしなかったものの、同様に追い出されてました。どうして皆さん全裸で出てきたのでしょうか?
場所を河川敷に移しての青空オフ、新鮮でしたね。どの店へ入ってもこいつらは何かやらかす、との判断でした。それがまさかあのような非劇を生む一因となるとは……。
一人ずつ自己紹介をしましたね。
Rさん、自分の作品を誰も知らないといって怒りましたね。皆さんも申し訳なさそうな顔をしていました。怒りに任せて他の作家さんに「おまえのは二行で読むのやめた」「おまえのは題名だけ読んだ」「おまえのは最新話まで読んで毎回楽しみにしてるけどコメントはしたことない」などと言って当たり散らしましたね。後でこっそり「ごめん、今度連載開始するつもりだっただけで、俺まだニノベで書いたことなかったわ」と私に告白してくれましたが、許しません。
Mさん、私が取り敢えず共通の話題を、と、皆さん読んでそうな『冥土Haaaan!!!』『ぼく、彼女の、なんなのさ。』の話を振った時、
「そのような既に人気作家の作品を取りあげてどうなるのだ。日頃は陽の目を見ないような、実力はあるのだけれど運悪く注目されるに至っていない良質な作品を拾い上げることこそ、このようなオフを開いたあなたの義務ではありませんか」とおっしゃいましたね。義務がどうのというのには賛成しかねましたが、その後私が、まさにあなたの言う通りの作品群を紹介した時、自分の作品が入っていなかったというので、「何故君は参加者全員の作品を持ち上げない! 幹事というのに何を考えてる!」と私を怒鳴りましたね。誠に申し訳ありませんでした。そのうちあなたの作品も読んでみます。
Pさん、Tさん、皆さんの見てる前でセックスしないでください。LさんとVさんも。FさんUさんCさんKさん、四人で連結しないでください。
ノートパソコンやポメラ持参の方がおられたので、即興リレー小説を何組かに分かれて書きましたね。ところどころ、それまでの話をまったく読んでないような展開で書かれた話が混ざっていました。まあ途中、ヒンディー語の音をひたすら片仮名で書き綴っていたのがあったので、仕方のないことかもしれませんが……。それはそれで面白くなってたりしたから別にいいのですが、結局どの小説も、最後には登場人物全員死んでしまいましたね。
そしてまさか執筆者の一人が、小説の中に登場する人物と同じ死に方をするなんて……。
さて宴もたけなわ、何人か警官にしょっ引かれたり、怒り出した人が途中で帰ったり、Sさんが亡くなられたりと、適度に人数が減り、ごく普通のオフ会の光景が広がり出した頃、ある女性作家さんが私に耳打ちしました。
「わたし、あなたの作品のファンなんです」
有頂天でしたね。少し射精しました。私の小説なんて、更新三回につきコメント一つつけば良い方で、参加者の中でも地味さではトップクラス、正直言えば、このオフ会の幹事を引き受けることで、少しでも読者を獲得出来れば、なんて下心丸出しでした。てっきり私をからかっているのだと思ったのですが、密かに張り巡らせた伏線を見抜いてくれていたり、私自身お気に入りの第三話での主人公とヒロインとの掛け合いをその場で演じてくれたりと、本当に私の作品を愛してくれていることが伝わってきました。
というわけで、私と彼女はその場を抜け出しました。
幹事の仕事を放り出して本当に申し訳ありません。
だけど私は生まれて初めて愛に目覚めたのです。その前にはどのような義務もしがらみも問題になりません。
ぶっちゃけ、人気作家は人気作家同士で盛り上がってたし、そうでない方々も、「どうすれば人気作家になれるか」という話題で盛り上がってましたし、私なんてもはや必要とされていませんでしたよね。もうちょっと気にかけて欲しかったです。少し泣いてましたからね。
結論から言うと、彼女とは別れました。私の貯金二百万円を全て持っていかれました。
「あなたの作品は素晴らしい。しかし今の世に受け容れられるタイプの話ではない。だけどそんなハンデは、適切な宣伝方法を行えば克服出来る。知り合いの敏腕編集者に頼めば、あなたはデビューだけでなく、いきなりのベストセラーを生み出すことも可能です。ただし問題が一つ、彼は非常に忙しい。敏腕編集者とはそういうものだ。しかしわたしが頼めば多少は融通してくれるかもしれない。それでも他の仕事を差し置いて一番にあなたの小説を、というのは難しい。だから依頼料としてお金が必要だ。彼のような人にいきなり無名の新人が頼むとなれば一千万はくだらない。が、今なら四百万でも出来ると、さっき電話で確かめた。そのような大金はいきなり払うのは困難である、というのならば、前金二百万、出版後二百万でも構わない。あなたの作品は間違いなく売れる。それは途方もない数刷られる。今を逃す手はない。これはとても良い話であるが非常に限定的である。契約は今である。あなたは早くお金を用意しなさい。わたしはそれを受け取り仕事を成就させるために努力するだろう。ええ、それは確かに本当の話です」
直訳調になっていく彼女の話を聞いた私はきっと洗脳されていたのでしょう。すぐに銀行からありったけの貯金を下ろし、彼女に手渡しました。「それではわたしは会いに行ってきます。敏腕編集者とです。少し時間がかかるかもしれませんが心配はいりません。わたしはあなたを愛しています」といって彼女は出て行きました。私と一晩を過ごした部屋から。
以来連絡がありません。
彼女の作品も新都社から削除されていました。
思えば携帯電話の番号も聞いていません。
オフ会の連絡用のメールアドレスにメールを送ってもエラーメッセージが表示されます。
まさかとは思いつつも「敏腕編集者 詐欺」といったキーワードで検索してみたところ、被害者の声が続々と見つかりました。
「オフ会で俺の作品を誉められて……」
「気付いたら五百万振り込んでいた」
「話の途中から直訳調になった」
「しかし彼女と過ごした夜は一生の思い出だ」
「騙されたことは悲しい。しかし、僕に近付いてきた彼女は、確かに僕の作品を読んでくれていた。それまで誰も読んでくれなかった僕の小説の、初めての作者となってくれた。それだけで一千万の価値はあった。僕は騙されたとは思っていない。だから戻ってきてくれないか。君を愛してる。結婚しよう」と、プロポーズまでしている奴もいました。よく見ると、オフ会にも来ていたMさんでした。彼に限り、彼女とはメールだけのやりとりだったようです。
というわけで皆さん、オフの際には、詐欺に注意しましょう。
でも、実をいうと、私は後悔はしていないのです。
なぜなら、彼女は私にインスピレーションを与えてくれました。
これまで苦手だった恋愛ものも、彼女をモデルにしたヒロインを出せば書ける気がするのです。
彼女は、とびっきりの美人というわけではありませんでした。どちらかというと地味で、黒髪で、メガネをかけていて、スカートは長く、胸も決して大きくはありませんでした。それでも肌は白くて肌理細やかで、唇は柔らかくて、舌はよく動きました。彼女が奪っていったのは、二百万と、私の心と、私の童貞でした。私の中に生まれたのは、恋慕の情と、一生消えそうもないインスピレーション。
私はあなたのためにこれからも小説を書き続けます。もう一度私から金をむしり取るためでもいいから、どこかで私の小説を読んでいただけたら、それだけで私は生きていけます。
最後は個人的なことばかり書いてしまいましたが、ともあれ、オフ会はいろいろありすぎたものの、有意義な一時でした。また開かれるのならば、幹事ではなく一参加者として楽しめたらと思います。
ニートノベル二周年おめでとうございます。
そして、彼女に出会わせてくれてありがとう。
全ての作者に、全ての読者に感謝の気持ちと愛を送ります。
P.S
私へのお金の心配や愛は結構です。そんなことより、作品へのコメントの方がありがたいです。それは「つまらん」でも「誤字脱字がひどすぎる」でもいいのです。批判や酷評は、読まれないことよりは、ずっと私を支えてくれますから。