とある事情で僕の家に住むことになったクレアちゃん。
クレアちゃんは礼儀こそ正しいものの、いつもどこか落ち着かない様子だ。
僕もかなり戸惑ったのだが、やはりいきなり見知らぬ男の家で生活することになったクレアちゃんのストレスは計り知れないものがあるのだろう。
そんなクレアちゃんと親交を深めるために、日曜日に庭でバーベーキューをすることにした。
僕が木炭に火を起して団扇で必死に扇いでいると、クレアちゃんが興味深げにこちらを見ていた。
どうしたの? と声をかけると、
「あ、あの。私もお手伝いします」
クレアちゃんはおずおずと言った。
そんなクレアちゃんの視線は僕の持っている団扇へと注がれている。
やりたいの? と聞くと、
「お、お手伝いです!」
顔を赤くしながら、クレアちゃんはムキになって言い張った。
僕が団扇を差し出すと、クレアちゃんは嬉しそうに木炭を扇ぎはじめた。
時折、煙が顔にかかってけほけほと咳き込みながら目に涙を浮かべるクレアちゃん。
そんな微笑ましい光景を見ていると、僕の心に久しく訪れていなかった温かい感情が浮かび上がってきた。
僕は、しばらく無言でクレアちゃんのそんな様子を眺め続けた。
そうしていると、鼻の先を少し黒くしたクレアちゃんが満足げな表情を浮かべて僕のところにやってきた。
「準備できました! そろそろバーベーキューをはじめましょう!」
うん、そうだね。と僕が言うと、クレアちゃんがきょろきょろと周りを見回した。
「あれ? そういえばバーベーキューの用意がありませんよ?」
ああ、いけない。うっかりしていた。
ごめん、忘れてたよ。と僕はクレアちゃんに謝った。
「食材を用意するの忘れてたんですか? しょうがないですねー。じゃあ、一緒に買いに行きましょうか」
クレアちゃんは特に気にした様子もなく、屈託のない笑顔を浮かべて言った。
ああ、違う違う。そうじゃないんだ。ごめん。
もう一度謝る僕に、クレアちゃんは小首を傾げる。
「食材はあるんですか?」
そうそう。食材はあるんだ。ただ、クレアちゃんに言い忘れてたってだけなんだ。と僕はクレアちゃんに説明をした。
だけど、クレアちゃんは僕の言っている意味が分からないのか、ますます不可解そうに小首を傾げてみせる。
「言い忘れてた? どういうことですか?」
ああ、うん。つまりね。と僕は言って、気恥ずかしさを紛らわすために後頭部を掻いた。
その手でゆっくりとクレアちゃんの眼球を抉り取った。
「食材はクレアちゃんの目玉なんだよ」
いやあああああああああああああああああああああああああああああ。とクレアちゃんが耳に心地よい悲鳴をあげる。
「あぁ……いぃ…………」
僕の口からは自然と満ち足りた溜息が零れる。
数千、数万という観客の拍手喝采を浴びるオーケストラの指揮者の気分といったところだろうか。思わず抉り出したばかりのクレアちゃんの眼球を興奮して握り潰してしまいそうになる。
クレアちゃんは突然のことに頭が追いつかないのか、僕が抉りとった右眼球の部分ではなく、顔面を両手で握りつぶすかのように抱えて地面に悶え転がっている。
「だめだよクレアちゃん。外で寝転がっちゃ。服が汚れちゃうよ」
耳元で優しく囁いてあげると、クレアちゃんがもの凄い形相で僕を見つめてきた。
「あぁ……かわいい…………」
そんなクレアちゃんの表情も、僕の心に得も言われぬ快感を生み出してくれる。
少女らしい高く澄んだ悲鳴を上げるクレアちゃんに見つめられて、僕の中に抑えがたい衝動が生まれそうになる。
――クレアちゃんのもう片方の眼球も抉りとりたい。
自然とクレアちゃんの左眼に僕の手が伸びていき、その手を無理矢理握り締めて押さえこんだ。
「食べるのは一つだけ……食べるのは一つだけ…………」
自然と荒くなる呼吸で、自分自身に言い聞かせる。
そんな僕にクレアちゃんが何かを叫んでいた。だけど、今の僕の耳にはその叫び声は賛美歌にしか聞こえない。
「やめてよぉクレアちゃん……。そんな声で強請らないでよぉ……。僕、我慢できなくなるよぉ…………」
僕は震える声でクレアちゃんに頼み込むが、彼女は聞いてくれない。
涎が溢れてくる口元を手で押さえながら、僕はクレアちゃんの顔にとても魅力的なものを見つける。
僕はそれにそっと顔を近づけていった。するとクレアちゃんはさらに僕の心を震わせる歌をうたう。
僕はクレアちゃんの眼窩から流れ出る血と涙を啜った。
じゅるじゅると音を立てて啜ると、やはりそれは僕の心を満たし癒してくれた。
だけど、血と涙の名酒はすぐに尽きてしまった。
「もっと飲みたい……もっと飲みたいよぉ…………」
僕は手をクレアちゃんの左眼に添えた。
これを抉りとればもっと飲める……。ああ、だけど、左眼は取っておかないと……。また食べたくなった時のために……。
ああ、でももっと飲みたい。クレアちゃんの血の涙をもっと飲みたい。どうしよう、どうしよう。