3、水と実
それから昼に起きてシャワーを浴びてから金家に向かって、セックスをして、夕方頃に帰るという日々を過ごした。猿みたいに、盛りの付いた野良犬みたいに、少年はセックスを要求してきて、高校時代を思い出す。童貞だった元彼は色んな場所で身体に触ってきた。私も処女だったけど。ベッドの上で後ろから挿入されて、もう三回目で疲れ果てている私は枕に顔を埋めながら声をあげた。枕がちょっと臭くて不愉快だ。アイメイクは崩したくないから鼻から下を枕に埋める。肌と肌のぶつかり合う音と、私のぐもった喘ぎと、少年の荒い呼吸。一定速度でピストンされて頭が揺れて気持ち悪い。
「うっ、あ、っ。も……ぅ!」
少年が出ますとか言ってゴムの中に射精した。ずるりと私の中から抜けたのを確認して、私はベッドに寝転がった。疲れた、イかずにただ揺られるだけってのも疲れる。私が教育とかしないといけないんだろうか、聞く耳持ってくれるだろうかこの猿は。少年がゴムをティッシュで包んでベッドの横にあるビニール袋に捨てる。結ぶとかも教えないといけないのかな、それぐらい知っとけよ常識でとその様子を見つめた。普通のゴミ箱に入れないのは私が後で持ち帰るからだ。父親に見つかると面倒なことはわかるけれど、自分で自分のやっている事が切なくなる。最近の私は下層階級に急降下だと思う。
そんな私の気持ちに気付くはずもない少年は、文子さーんと語尾を延ばして気持ち悪く私の胸元に顔を埋める。上目遣いにこちらを見る様子は可愛いけど、息が当たってくすぐったい。少年の首に腕を通して腕枕をしてあげた。腰に回された腕が背中を擦る。汗の臭いと変な臭いが漂う淀んだ空気で呼吸を整える。少年は目を閉じていたので、私も目を閉じた。眠気に誘われて落ちてしまおうと思ったけれど、ふと今日は友達との週一ファミレスデーで今日は居酒屋なんだったと思い起こした。何時だ、とヘッドボードの時計を見ると四時だった。一回家に帰ってシャワー浴びて化粧とブローし直すことを考えるともうそろそろ出ないといけない。
「涼介君、私帰るね」
少年の下から腕を引き抜いて、身体を起こす。急に枕が無くなった少年はがくんとベッドの上に落ちて、目を開いてこちらを見つめてくる。髪を直して、服を着ようと身体を反転してベッド横の床に落ちている服を拾い上げる。服を拾っていると少年に後ろから抱きつかれた。
「何でですかー、まだ四時っすよ?」
「今日夜友達と約束あるの」
「えーやだー、俺文子さんのおっぱいで寝たいですー」
舌打ちしてぇ。最近は駄々っ子というか、よく強請ってきたり我侭を言うようになって、言い方も甘えてきてイラつく。何でやると猫撫で声みたいな声で甘えてくるのかしら、キモイんだよ。だめーと答えながら腕を振りほどこうとすると、少年が胸を揉んで、耳を舐めてきた。
「ちょ、ちょっと!やぁ!」
「文子さんここ好きですもんねー」
あら、そんなにご存知なら何で私は毎回イかないのでしょうかねと思いながら、一生懸命抵抗をした。それでもなし崩し的に始まって、何度もされて中は濡れているから簡単に準備は整って挿入される。正常位で入れられると丁度良いところに当たって、身体が震えた。今度は枕を握り締めて反り返った。
「あ、文子、さんっ!」
「やぁ、あ、ちょ、中、ぁぁ、ダメ!!」
枕を離して少年を押し返そうと手を前に持ってきたけど、叩く程度で腕は落ちて、中で出された。一緒に達したとかいう感慨は無くて、またかよと顔を曇らせた。
「はぁ、ねぇ、もぉ、いい加減にしてよー」
「ごめんなさい、だって出すタイミングに文子さんが……」
少年も口惜しそうな、申し訳なさそうな顔をして引き抜いてティッシュで拭いてくれた。何度か中に出されたり、外出しが不十分な事があって避妊の適当さにゴムを買い与えたのに何だこれ。中出しって後処理面倒くせぇんだよとティッシュにある程度出されたものを吐き出す。中をかき出す姿は情けない。指に精液が付かなくなったので、ティッシュをビニール袋に捨てて服を拾いなおした。その時にちっと舌打ちが出て、少年が固まったのがわかった。
「あ、あの、マジ、文子さん、ごめんなさい。俺、気をつけます」
「前もそう言ったよね」
「いや、マジ、マジです。本当に、絶対ゴムつけます」
少年を無視して下着と服を着て、ポーチから鏡を出して顔を見直す。少しファンデが崩れていたが、もういいと思って鏡を仕舞う。バッグから制汗スプレーを取り出して、身体にかける。足元にあるビニール袋を結んで、それを左手に、バッグを右手に持って立ち上がった。少年が素っ裸で俯いているのを見て、じゃあねと言って部屋を出た。パンツに精液付いてたら取り替えないとな、面倒臭ぇと思いながら車に戻って、途中のコンビニでビニールを捨てた。金家から私の家までコンビニは四軒あって、私はもう顔なじみになっているかもしれない、嫌な意味で。
それから家でシャワーを浴びて、化粧とブローをし直して、歩いて居酒屋に行った。歩いている途中で友達に会って、待ち合わせ前じゃんと笑いあった。居酒屋に入ると学生の五月蝿い声が響いていて、友達と半個室になっている部屋に入って、元気だねぇとメニューをめくった。
「アヤありがとね、超飲みたい気分でさ」
「私もー!何、何かあった?もう今日は飲もうぜ!!」
「うん!ちょマジ聞いてよー!ん、とりあえず、先料理と酒頼もう!」
こういう所が彼女の大好きな理由だ。言いたいことがあってもすぐ始まらずに注文なんかは先にする。これが嫌いな女なんかだったら注文前に話し出して、やだぁ、注文まだだったね、ごめんねぇとか言うんだ。注文を済ませて、お通しと酒が来て乾杯をしたら彼女は話し出した。内容は言い寄られていた先輩がお客とデートしたところ見たとか言って切れてきて、付き合ってねぇのにうぜぇと思っていたら、お客もデート後何故か気まずくなって両方が消えたというものだった。
「マジ運命なんだけど!私もーー!!前言ってたじゃん、モテ期って!私も消えた!」
「マジでー!何それー!運命運命!!」
数杯飲んでテンションが上がった私達は互いに手酌をしながら笑いあった。友達に価値観の共有出来るというのは、私みたいな変わった……と思う人間にとってはとても有難いことで、しかもその上に同じような出来事が同時期に起こるのは運命でしかないと思う。親友ってそこから生まれるのかもしれないと、笑いながらポン酒を煽った。それから話は二人の上を過ぎた男の糞さ対決になって、私の持ち札が屑と中の上だったから彼女の下の上と勘違いに負けてしまった。
「でもよく私達立ち直ってるよね!」
「まぁね!因果応報だからね!」
「因果応報!!良い!それマジ今年のうちらの流行語だよ!」
お互いに何言っているのかよくわからないけれど、私は今の状況を話して少年が居るから良いんだと笑った。それに対して彼女は私はあんたと違って健全な友情で立ち直ったと笑った。
「ミナちゃんって言う子なんだけどね、バイトの後輩で私を先輩先輩って超懐いてきて可愛いの。あ、私の方が年下だけど、バイトでは先輩だからね。色々相談にも乗ってもらったし。あとあんたの事も凄い気に入ってるみたい」
「何でー?面識無いんだけど?」
「一回遊びに来たでしょ?夏休み暇って言って。その時見たんだって。私への話し方とか、一人で全然平気で本読んでるとことかで興味持って、私のあんたの話聞いて男らしい!って好きになったんだって」
「何だそれ。男らしくないんですけど私、ちょっと話盛ったんじゃないのー?」
「まさかぁー、ああ、会いたいって言ってるんだった、暇だったらまた来てよ」
「女の子に懐かれてもねぇ……」
「あ、男の子だけど」
私のはぁ?という大きな声は大学生の大声に掻き消された。友達の説明によるとミナちゃんは水上省吾という男の子で、見た目は小池徹平とかジャニーズみたいな可愛い子らしい。ただ心が女の子というか、まぁそういう人らしくてカッコいい彼氏が居て、喋り方も可愛いらしい。あと男らしい人が好みらしくて、何故だか私も友達もお眼鏡に留まったらしい。全然嬉しくないが。
「みなかみ?初めて聞いたその苗字」
「でしょ?私も。ミナって何か可愛いよねー」
「オカマさんかー、そんな知り合い居ないから会ってみたいかも」
「普通に面白いよ?本人言うにはオカマじゃないらしーけど」
「オカマじゃないの?え、ゲイって言うの?え、ゲイとオカマの違いって何?」
「知らなーい、あ、あれじゃない?掘る方がゲイで掘られる方がオカマ!」
「ミナちゃん掘ってんのー!?」
「いや、わかんない、って掘ってるわけないかー!!やばい、うける!」
「さいてー!!」
友達と大声で笑いながら、私は佐竹先輩と新田先輩の記憶の上にミナちゃんを上書き保存した。
「うっ、あ、っ。も……ぅ!」
少年が出ますとか言ってゴムの中に射精した。ずるりと私の中から抜けたのを確認して、私はベッドに寝転がった。疲れた、イかずにただ揺られるだけってのも疲れる。私が教育とかしないといけないんだろうか、聞く耳持ってくれるだろうかこの猿は。少年がゴムをティッシュで包んでベッドの横にあるビニール袋に捨てる。結ぶとかも教えないといけないのかな、それぐらい知っとけよ常識でとその様子を見つめた。普通のゴミ箱に入れないのは私が後で持ち帰るからだ。父親に見つかると面倒なことはわかるけれど、自分で自分のやっている事が切なくなる。最近の私は下層階級に急降下だと思う。
そんな私の気持ちに気付くはずもない少年は、文子さーんと語尾を延ばして気持ち悪く私の胸元に顔を埋める。上目遣いにこちらを見る様子は可愛いけど、息が当たってくすぐったい。少年の首に腕を通して腕枕をしてあげた。腰に回された腕が背中を擦る。汗の臭いと変な臭いが漂う淀んだ空気で呼吸を整える。少年は目を閉じていたので、私も目を閉じた。眠気に誘われて落ちてしまおうと思ったけれど、ふと今日は友達との週一ファミレスデーで今日は居酒屋なんだったと思い起こした。何時だ、とヘッドボードの時計を見ると四時だった。一回家に帰ってシャワー浴びて化粧とブローし直すことを考えるともうそろそろ出ないといけない。
「涼介君、私帰るね」
少年の下から腕を引き抜いて、身体を起こす。急に枕が無くなった少年はがくんとベッドの上に落ちて、目を開いてこちらを見つめてくる。髪を直して、服を着ようと身体を反転してベッド横の床に落ちている服を拾い上げる。服を拾っていると少年に後ろから抱きつかれた。
「何でですかー、まだ四時っすよ?」
「今日夜友達と約束あるの」
「えーやだー、俺文子さんのおっぱいで寝たいですー」
舌打ちしてぇ。最近は駄々っ子というか、よく強請ってきたり我侭を言うようになって、言い方も甘えてきてイラつく。何でやると猫撫で声みたいな声で甘えてくるのかしら、キモイんだよ。だめーと答えながら腕を振りほどこうとすると、少年が胸を揉んで、耳を舐めてきた。
「ちょ、ちょっと!やぁ!」
「文子さんここ好きですもんねー」
あら、そんなにご存知なら何で私は毎回イかないのでしょうかねと思いながら、一生懸命抵抗をした。それでもなし崩し的に始まって、何度もされて中は濡れているから簡単に準備は整って挿入される。正常位で入れられると丁度良いところに当たって、身体が震えた。今度は枕を握り締めて反り返った。
「あ、文子、さんっ!」
「やぁ、あ、ちょ、中、ぁぁ、ダメ!!」
枕を離して少年を押し返そうと手を前に持ってきたけど、叩く程度で腕は落ちて、中で出された。一緒に達したとかいう感慨は無くて、またかよと顔を曇らせた。
「はぁ、ねぇ、もぉ、いい加減にしてよー」
「ごめんなさい、だって出すタイミングに文子さんが……」
少年も口惜しそうな、申し訳なさそうな顔をして引き抜いてティッシュで拭いてくれた。何度か中に出されたり、外出しが不十分な事があって避妊の適当さにゴムを買い与えたのに何だこれ。中出しって後処理面倒くせぇんだよとティッシュにある程度出されたものを吐き出す。中をかき出す姿は情けない。指に精液が付かなくなったので、ティッシュをビニール袋に捨てて服を拾いなおした。その時にちっと舌打ちが出て、少年が固まったのがわかった。
「あ、あの、マジ、文子さん、ごめんなさい。俺、気をつけます」
「前もそう言ったよね」
「いや、マジ、マジです。本当に、絶対ゴムつけます」
少年を無視して下着と服を着て、ポーチから鏡を出して顔を見直す。少しファンデが崩れていたが、もういいと思って鏡を仕舞う。バッグから制汗スプレーを取り出して、身体にかける。足元にあるビニール袋を結んで、それを左手に、バッグを右手に持って立ち上がった。少年が素っ裸で俯いているのを見て、じゃあねと言って部屋を出た。パンツに精液付いてたら取り替えないとな、面倒臭ぇと思いながら車に戻って、途中のコンビニでビニールを捨てた。金家から私の家までコンビニは四軒あって、私はもう顔なじみになっているかもしれない、嫌な意味で。
それから家でシャワーを浴びて、化粧とブローをし直して、歩いて居酒屋に行った。歩いている途中で友達に会って、待ち合わせ前じゃんと笑いあった。居酒屋に入ると学生の五月蝿い声が響いていて、友達と半個室になっている部屋に入って、元気だねぇとメニューをめくった。
「アヤありがとね、超飲みたい気分でさ」
「私もー!何、何かあった?もう今日は飲もうぜ!!」
「うん!ちょマジ聞いてよー!ん、とりあえず、先料理と酒頼もう!」
こういう所が彼女の大好きな理由だ。言いたいことがあってもすぐ始まらずに注文なんかは先にする。これが嫌いな女なんかだったら注文前に話し出して、やだぁ、注文まだだったね、ごめんねぇとか言うんだ。注文を済ませて、お通しと酒が来て乾杯をしたら彼女は話し出した。内容は言い寄られていた先輩がお客とデートしたところ見たとか言って切れてきて、付き合ってねぇのにうぜぇと思っていたら、お客もデート後何故か気まずくなって両方が消えたというものだった。
「マジ運命なんだけど!私もーー!!前言ってたじゃん、モテ期って!私も消えた!」
「マジでー!何それー!運命運命!!」
数杯飲んでテンションが上がった私達は互いに手酌をしながら笑いあった。友達に価値観の共有出来るというのは、私みたいな変わった……と思う人間にとってはとても有難いことで、しかもその上に同じような出来事が同時期に起こるのは運命でしかないと思う。親友ってそこから生まれるのかもしれないと、笑いながらポン酒を煽った。それから話は二人の上を過ぎた男の糞さ対決になって、私の持ち札が屑と中の上だったから彼女の下の上と勘違いに負けてしまった。
「でもよく私達立ち直ってるよね!」
「まぁね!因果応報だからね!」
「因果応報!!良い!それマジ今年のうちらの流行語だよ!」
お互いに何言っているのかよくわからないけれど、私は今の状況を話して少年が居るから良いんだと笑った。それに対して彼女は私はあんたと違って健全な友情で立ち直ったと笑った。
「ミナちゃんって言う子なんだけどね、バイトの後輩で私を先輩先輩って超懐いてきて可愛いの。あ、私の方が年下だけど、バイトでは先輩だからね。色々相談にも乗ってもらったし。あとあんたの事も凄い気に入ってるみたい」
「何でー?面識無いんだけど?」
「一回遊びに来たでしょ?夏休み暇って言って。その時見たんだって。私への話し方とか、一人で全然平気で本読んでるとことかで興味持って、私のあんたの話聞いて男らしい!って好きになったんだって」
「何だそれ。男らしくないんですけど私、ちょっと話盛ったんじゃないのー?」
「まさかぁー、ああ、会いたいって言ってるんだった、暇だったらまた来てよ」
「女の子に懐かれてもねぇ……」
「あ、男の子だけど」
私のはぁ?という大きな声は大学生の大声に掻き消された。友達の説明によるとミナちゃんは水上省吾という男の子で、見た目は小池徹平とかジャニーズみたいな可愛い子らしい。ただ心が女の子というか、まぁそういう人らしくてカッコいい彼氏が居て、喋り方も可愛いらしい。あと男らしい人が好みらしくて、何故だか私も友達もお眼鏡に留まったらしい。全然嬉しくないが。
「みなかみ?初めて聞いたその苗字」
「でしょ?私も。ミナって何か可愛いよねー」
「オカマさんかー、そんな知り合い居ないから会ってみたいかも」
「普通に面白いよ?本人言うにはオカマじゃないらしーけど」
「オカマじゃないの?え、ゲイって言うの?え、ゲイとオカマの違いって何?」
「知らなーい、あ、あれじゃない?掘る方がゲイで掘られる方がオカマ!」
「ミナちゃん掘ってんのー!?」
「いや、わかんない、って掘ってるわけないかー!!やばい、うける!」
「さいてー!!」
友達と大声で笑いながら、私は佐竹先輩と新田先輩の記憶の上にミナちゃんを上書き保存した。
多分忙しい時間が過ぎた二時半くらいに私は友達のバイト先に向かった。ミナちゃんに非常に興味が湧いたのと、少年にイラついていて家に行きたくなかったので、友達にミナちゃんの休憩時間を教えてもらったのだ。休憩時間じゃなくて上がりの時間だったけれど。彼は夕方から彼氏とデートらしい。バイト先のファーストフード店に入って、友達のレジに直行する。彼女は営業スマイルなのか、本当のスマイルなのかわからない顔でいらっしゃいませと笑った。彼女の指差すテーブルに赤茶の髪の毛をした白シャツにGパンというラフな格好の男の子が居た。素早くアイスコーヒーを頼んで、それを持つとテーブルに向かった。
「どーもー」
「どーもー、初めまして、水上です。生文子さんだぁ」
「いやいや、生って」
そう笑って、その席に座る。ミナちゃんの顔は本当にジャニーズ系というか可愛らしい顔をしていた。二重で垂れ目だから、笑うと目が無くなって、愛らしい。ただの白シャツだと思ったけれど、フードが付いていて、七分の袖口に薄く白のフリルが付いていて似合っていた。私と同じかそれより少し高い身長から、男の人にしては高い声が出た。喋っていて、お笑い芸人のオネエキャラに似ていると思った。ミナちゃんは人懐っこくて、可愛いワンコみたいだ。私の事をどうして好きかをストレートに語ってきて、照れる。語尾を延ばしがちで、女なら媚びてんじゃねぇよと思うのに、何故か嫌悪感は生まれなかった。
「だからー、僕超文子さん好きだなぁーって思って。見た目可愛いのに筋通ってるっていうかぁ、極妻って感じで!」
「何それー全然褒められてないよ。てか文子さんって呼ばなくて良いよ、私の方が年下だし」
「えーでもまぁ僕早生まれだから同じ年だよ?」
「あ、そうなんだー。私ミナちゃんって呼ぶよ?」
「うん、じゃあ僕もアヤちゃんって呼ぶー」
私のどこが筋通っているんだろう、ブレまくりだと思うんだけど。そもそもあまり拘りが無いし。それから私がミナちゃんの彼氏の話を振ると、彼は特に態度を変えることもなく写メを見せたりしてくれた。ワイルド系の人だった、イケメンとまでは行かないけどカッコいい感じ。スポーツインストラクターなんだと聞いて、それっぽいと盛り上がった。ふと、私の携帯には、元彼のも、少年のも、誰の男の写メも入っていないことに気付いて、そういう感情を私は抱いた事がないのかもしれないと思った。その人の写真を持ち歩きたいなんて感情。それでもプリクラを撮ったり、写真は撮ったりはしていたのだから、満更でもないとは思う。アイスコーヒーは氷だけになって、口元に何も持っていくものは無くなった。ミナちゃんがそれに気付いて、おかわり自由だよと言ったけれど、飲む気になれなかった。
「アヤちゃんは今彼氏居ないんだっけ?」
「えーそれ聞くの?居ません。誰か居たら紹介してよ」
ミナちゃんはにこにこ笑って、彼氏に聞いてみてあげると言った。あの彼氏の紹介だったら筋肉質の方でも来ないかしらと少し期待をした。やっぱり同年代の人との話は面白い。それからの話で、好きなタイプの話になって、私とミナちゃんのタイプの共通点が多くて、何度か握手をした。握った手はやっぱり男の子らしくて小さくても硬かった。二時間程話して、連絡先を交換して、今度飲みに行こうと適当に口約束をして別れた。彼氏とのデートに向かうミナちゃんは可愛くて、私は笑顔で手を振って見送った。
その後友達は夜までバイトが入っているらしいから、大人しく家に帰った。可愛い子だなぁと思ったけれど、ミナちゃんは男としては見れなくて、オナニーのオカズにはならなかった。携帯には少年からメールが来ていたけど、無視を決め込んで、その日は一人でビールを飲んで寝た。炭酸だけでお腹がいっぱいになって、ロング缶一本で満足してしまった。
次の日は気が向いたので金家に行ってみた。少年はおどおどしながらも、諸手を挙げて私を歓迎してくれて、何だか気分が良かった。昨日見たミナちゃんの格好より全く垢抜けない変な英語が書かれたTシャツとGパンがいつもの光景だった。
「次からちゃんと気をつけてね、いいね!」
「はい!もうヘッドボードに置いとくことにしました!」
犬だったら尻尾振って舌を出しているだろうなって態度で少年はヘッドボードにワックスの空き箱を置いて、その中にゴムを入れていることを示した。いい子でしょ、と褒めて欲しそうにこちらを見る様子にちょっとイラっときたが、笑って頭を撫でておいた。
「こう、これだけだと不自然かなって思って本とブラシと手鏡置くようにしたんで大丈夫っす!」
外出ねぇくせに何が大丈夫なんだ。それでも少年に流されてやっぱり一回やって、私はピアスをベッドに落とした。二人でそれを探して、見つけるとまた一回やって、結局いつもの流れになって、夕方に家に帰った。コンビニで例の袋を捨てて、携帯を確認しようとして、ふと携帯がない事に気付いた。バッグの中にも、車の中にも無かったから、少年の部屋に置いてきたんだと思って、舌打ちをして車を戻した。金家に着くと、玄関前で女の子が立っていた。女の子だけではなくて、玄関の中、私が最初来た時と同じように扉を半分開いて少年が居た。女の子は家の前に止まった車に気付いてこちらをガン見してきた。何となく嫌な雰囲気と居心地の悪さを感じたけれど、携帯の方が重要だから、私は声を出した。
「あのー、涼介君居ますか?」
「あ!あ、文子さん!」
女の子の後ろから声が聞こえて、顔が少し見えていたのが、扉が開く。女の子は私から目を反らさずに、睨んでいるのに近い顔をしている。水色のセーラー服は丈が長くて、野暮ったいけれど顔が整っている。髪も黒髪で胸元まであるものを低い位置で二つに結んでいて中学生っぽい。肩にかけているデイジーが付いた鞄の持ち手を両手で掴んで、女の子から静かな決意を感じる。彼女が確実に私を良くは思っていないのはわかる。でも小便臭いガキに怯んでいるわけにもいかないので、彼女の横から少年に声をかける。
「あのさ、私携帯忘れちゃったみたいなんだけど、部屋に無かった?」
「あります、連絡しようにも携帯だったんで、はい」
少年はポケットから携帯を取り出して手渡してくれた。その様子を女の子はじっと見つめてくる。
「ん、ありがとう、ごめんね邪魔して。じゃあ」
「待って下さい!」
急にその子が大きな声を出した。私を真っ直ぐ見つめる化粧で縁取られていない目は眩しくて、澄んでいる。私は携帯を手に持ったまま女の子を見つめた。
「何か?」
「金先輩を弄ぶのは止めて下さい!」
「は?」
「実加ちゃん何言ってんの!?」
少年が驚いた顔で女の子を見つめたけれど、女の子は、いや、実加ちゃんという子は私から目を反らさない。弄ぶって何だ?どちらかと言えば私が弄ばれている気がするんですけど。それでも必死に私に楯突こうとしてくる子が可愛くて、でも笑えてきて、鼻で笑って返事をした。
「弄んでなんていないんですけど。何ですか?あなた誰?」
私のバカにしたような声に女の子はびくっと身体を動かして、でも口を結んで私を睨み続けた。少年みたいに赤くなったりしないから可愛くない。少年は、あの、あのとバスケ部の後輩でマネージャーの実加ちゃんですと私に紹介をした。お前はどちらの味方なんだとふぅんと低い声を出す。後輩ってことは中一だろう、年を意識すると急に幼く見える。
「そのマネージャーさんが何なんですか」
「私金先輩のこと、この前来るまで知らなかったんです!でもこの前部活に来てるの見て、でもその後来なくなってどうしたんだろって思ってました!そしたら何か女の人が金先輩の家通ってるって聞いて、絶対金先輩騙されてるって思ったんです!」
全然言いたいことわからない。色々飛んでるだろうがよ糞ガキ、思考回路整理してから話せ。あーでもわかるよ、理解してあげるよ、要するに少年を見て一目ぼれか何かしたけど来なくなって、その家には邪魔な女が居てって話だろ。私は腕を組むと、胸の下に入れて胸を突き出した。顎を上げて女の子を見下ろす。
「それで?私が弄んでいると?」
「あなたが金先輩を学校に行かせないようにしてるんでしょ!」
「違う!!」
女の子がようやく少年の方を見た。少年が大声を出して、実加ちゃんは目を見開いて少年を見つめた。少年が真っ赤になって、下を向いて違うともう一度呟いて、文子さんは関係無いんだ、実加ちゃんにも関係ないだろと言うと、顔を上げた。目が充血していて何となく怖かった。それでも彼女はでも、と言って言葉を噤んだ。何でこんな学芸会みたいのに付き合わなきゃいけないんだと急に馬鹿らしくなって、溜息をついた。
「だそうよ」
勝ち誇ったようにそう言うとその場から離れて車に乗った。
「どーもー」
「どーもー、初めまして、水上です。生文子さんだぁ」
「いやいや、生って」
そう笑って、その席に座る。ミナちゃんの顔は本当にジャニーズ系というか可愛らしい顔をしていた。二重で垂れ目だから、笑うと目が無くなって、愛らしい。ただの白シャツだと思ったけれど、フードが付いていて、七分の袖口に薄く白のフリルが付いていて似合っていた。私と同じかそれより少し高い身長から、男の人にしては高い声が出た。喋っていて、お笑い芸人のオネエキャラに似ていると思った。ミナちゃんは人懐っこくて、可愛いワンコみたいだ。私の事をどうして好きかをストレートに語ってきて、照れる。語尾を延ばしがちで、女なら媚びてんじゃねぇよと思うのに、何故か嫌悪感は生まれなかった。
「だからー、僕超文子さん好きだなぁーって思って。見た目可愛いのに筋通ってるっていうかぁ、極妻って感じで!」
「何それー全然褒められてないよ。てか文子さんって呼ばなくて良いよ、私の方が年下だし」
「えーでもまぁ僕早生まれだから同じ年だよ?」
「あ、そうなんだー。私ミナちゃんって呼ぶよ?」
「うん、じゃあ僕もアヤちゃんって呼ぶー」
私のどこが筋通っているんだろう、ブレまくりだと思うんだけど。そもそもあまり拘りが無いし。それから私がミナちゃんの彼氏の話を振ると、彼は特に態度を変えることもなく写メを見せたりしてくれた。ワイルド系の人だった、イケメンとまでは行かないけどカッコいい感じ。スポーツインストラクターなんだと聞いて、それっぽいと盛り上がった。ふと、私の携帯には、元彼のも、少年のも、誰の男の写メも入っていないことに気付いて、そういう感情を私は抱いた事がないのかもしれないと思った。その人の写真を持ち歩きたいなんて感情。それでもプリクラを撮ったり、写真は撮ったりはしていたのだから、満更でもないとは思う。アイスコーヒーは氷だけになって、口元に何も持っていくものは無くなった。ミナちゃんがそれに気付いて、おかわり自由だよと言ったけれど、飲む気になれなかった。
「アヤちゃんは今彼氏居ないんだっけ?」
「えーそれ聞くの?居ません。誰か居たら紹介してよ」
ミナちゃんはにこにこ笑って、彼氏に聞いてみてあげると言った。あの彼氏の紹介だったら筋肉質の方でも来ないかしらと少し期待をした。やっぱり同年代の人との話は面白い。それからの話で、好きなタイプの話になって、私とミナちゃんのタイプの共通点が多くて、何度か握手をした。握った手はやっぱり男の子らしくて小さくても硬かった。二時間程話して、連絡先を交換して、今度飲みに行こうと適当に口約束をして別れた。彼氏とのデートに向かうミナちゃんは可愛くて、私は笑顔で手を振って見送った。
その後友達は夜までバイトが入っているらしいから、大人しく家に帰った。可愛い子だなぁと思ったけれど、ミナちゃんは男としては見れなくて、オナニーのオカズにはならなかった。携帯には少年からメールが来ていたけど、無視を決め込んで、その日は一人でビールを飲んで寝た。炭酸だけでお腹がいっぱいになって、ロング缶一本で満足してしまった。
次の日は気が向いたので金家に行ってみた。少年はおどおどしながらも、諸手を挙げて私を歓迎してくれて、何だか気分が良かった。昨日見たミナちゃんの格好より全く垢抜けない変な英語が書かれたTシャツとGパンがいつもの光景だった。
「次からちゃんと気をつけてね、いいね!」
「はい!もうヘッドボードに置いとくことにしました!」
犬だったら尻尾振って舌を出しているだろうなって態度で少年はヘッドボードにワックスの空き箱を置いて、その中にゴムを入れていることを示した。いい子でしょ、と褒めて欲しそうにこちらを見る様子にちょっとイラっときたが、笑って頭を撫でておいた。
「こう、これだけだと不自然かなって思って本とブラシと手鏡置くようにしたんで大丈夫っす!」
外出ねぇくせに何が大丈夫なんだ。それでも少年に流されてやっぱり一回やって、私はピアスをベッドに落とした。二人でそれを探して、見つけるとまた一回やって、結局いつもの流れになって、夕方に家に帰った。コンビニで例の袋を捨てて、携帯を確認しようとして、ふと携帯がない事に気付いた。バッグの中にも、車の中にも無かったから、少年の部屋に置いてきたんだと思って、舌打ちをして車を戻した。金家に着くと、玄関前で女の子が立っていた。女の子だけではなくて、玄関の中、私が最初来た時と同じように扉を半分開いて少年が居た。女の子は家の前に止まった車に気付いてこちらをガン見してきた。何となく嫌な雰囲気と居心地の悪さを感じたけれど、携帯の方が重要だから、私は声を出した。
「あのー、涼介君居ますか?」
「あ!あ、文子さん!」
女の子の後ろから声が聞こえて、顔が少し見えていたのが、扉が開く。女の子は私から目を反らさずに、睨んでいるのに近い顔をしている。水色のセーラー服は丈が長くて、野暮ったいけれど顔が整っている。髪も黒髪で胸元まであるものを低い位置で二つに結んでいて中学生っぽい。肩にかけているデイジーが付いた鞄の持ち手を両手で掴んで、女の子から静かな決意を感じる。彼女が確実に私を良くは思っていないのはわかる。でも小便臭いガキに怯んでいるわけにもいかないので、彼女の横から少年に声をかける。
「あのさ、私携帯忘れちゃったみたいなんだけど、部屋に無かった?」
「あります、連絡しようにも携帯だったんで、はい」
少年はポケットから携帯を取り出して手渡してくれた。その様子を女の子はじっと見つめてくる。
「ん、ありがとう、ごめんね邪魔して。じゃあ」
「待って下さい!」
急にその子が大きな声を出した。私を真っ直ぐ見つめる化粧で縁取られていない目は眩しくて、澄んでいる。私は携帯を手に持ったまま女の子を見つめた。
「何か?」
「金先輩を弄ぶのは止めて下さい!」
「は?」
「実加ちゃん何言ってんの!?」
少年が驚いた顔で女の子を見つめたけれど、女の子は、いや、実加ちゃんという子は私から目を反らさない。弄ぶって何だ?どちらかと言えば私が弄ばれている気がするんですけど。それでも必死に私に楯突こうとしてくる子が可愛くて、でも笑えてきて、鼻で笑って返事をした。
「弄んでなんていないんですけど。何ですか?あなた誰?」
私のバカにしたような声に女の子はびくっと身体を動かして、でも口を結んで私を睨み続けた。少年みたいに赤くなったりしないから可愛くない。少年は、あの、あのとバスケ部の後輩でマネージャーの実加ちゃんですと私に紹介をした。お前はどちらの味方なんだとふぅんと低い声を出す。後輩ってことは中一だろう、年を意識すると急に幼く見える。
「そのマネージャーさんが何なんですか」
「私金先輩のこと、この前来るまで知らなかったんです!でもこの前部活に来てるの見て、でもその後来なくなってどうしたんだろって思ってました!そしたら何か女の人が金先輩の家通ってるって聞いて、絶対金先輩騙されてるって思ったんです!」
全然言いたいことわからない。色々飛んでるだろうがよ糞ガキ、思考回路整理してから話せ。あーでもわかるよ、理解してあげるよ、要するに少年を見て一目ぼれか何かしたけど来なくなって、その家には邪魔な女が居てって話だろ。私は腕を組むと、胸の下に入れて胸を突き出した。顎を上げて女の子を見下ろす。
「それで?私が弄んでいると?」
「あなたが金先輩を学校に行かせないようにしてるんでしょ!」
「違う!!」
女の子がようやく少年の方を見た。少年が大声を出して、実加ちゃんは目を見開いて少年を見つめた。少年が真っ赤になって、下を向いて違うともう一度呟いて、文子さんは関係無いんだ、実加ちゃんにも関係ないだろと言うと、顔を上げた。目が充血していて何となく怖かった。それでも彼女はでも、と言って言葉を噤んだ。何でこんな学芸会みたいのに付き合わなきゃいけないんだと急に馬鹿らしくなって、溜息をついた。
「だそうよ」
勝ち誇ったようにそう言うとその場から離れて車に乗った。
少年とベッドに寝転がりながら実加ちゃんとか言う人の詳細を聞いた。詳細と言っても、少年は実加ちゃんの苗字すら知らなくて、あの唯一学校行った日に実加ちゃんと呼ばれていたってことしか知らなかった。多分家に初めて来たときフルネーム言ってた気がするけど忘れたと笑う姿に少しだけ優越感を抱く。あの日実加ちゃんに会ってしまったのは事故みたいなもので、不愉快極まりない追突事故みたいなものだった。少年は私に腕枕をして、両腕で抱きしめるように顔を近づけて話を続けた。息苦しいと言うと、文子さんの吐息とか感じれて気持ちいいと心底気持ち悪い言葉を吐かれた。残念なセンスだ。先ほどの汗か何かで少年に抱かれると体臭を強く感じて、何度か鼻を啜った。
「今までは文子さんが帰った後に来てたんすけどね。マジ俺も迷惑してて。何つーか話通じないんすよね。何か勝手に文子さんのこと悪者にしちゃってるし」
「仕方ないんじゃない。そういう子なんでしょ」
ちょっと冷たすぎたかと思って、女の子には多いけどねとフォローにならない言葉を繋げた。少年が腕を少し上げて抱き直してきたから、もろに脇の臭いがする。何とも言えない臭いに顔を顰めて、胸を押し返した。
「何ですか?」
「涼介君臭いー、汗臭いもん、てか私も臭くて気持ち悪い」
腕の拘束から逃れて、鞄の中から制汗スプレーを取り出す。ベッドの上を少し動いただけで、中から液体が漏れている変な感覚を感じて嫌だ。少年とセックスをするようになってから、陰毛を短く切りそろえるようになって塞き止めるものが無くなった。制汗スプレーの蓋を取っていると、後ろからじゃあ風呂入りましょうという声が聞こえた。
「風呂って、私何も用意してないよ」
「バスタオルなら貸しますし!普通に着替えは無いですけど、シャンプーとかよければ使って下さい」
「いや、いいよ。自分のが良いから」
「いーじゃないっすかー、一緒入りましょーよ。洗いっこしましょー」
少年は素っ裸で腕をぶんぶんと振った。何だその行動、顔が曇りそうになるのを抑えて、わかったわかったと答えた。わかったの最後のたの音ぐらいで少年にキスをされて、何度か唇を触れ合わせた。キスをされながら二の腕をつかまれて、横乳の辺りを触れられた。何度目かで顔は離れていって、少年は私に自分のTシャツを着せると自分はトランクスを履いて部屋を出た。
「お婆さん居るんじゃないの?」
「リビングに居ると思うんで、気付かないっすよ」
極力音を立てずに二人でリビングの横の廊下を抜けて風呂場にたどり着く。横目に見たリビングはテレビの音がして、お婆さんが不動の状態で座っているのが見えた。脱衣所にある箪笥からバスタオルを渡されて、私は持ってきたシュシュで髪を結んで上げた。髪や顔を洗う気はないけれど、身体ぐらいは一緒に洗って風呂屋ごっこでもしようと思う。案外私はこの状況を楽しんでいる。狭いユニットバスでのセックスなんかはあったけれど、一軒家の広い風呂なんてラブホでも行かないと楽しめなかったんだ。久しぶりで楽しみではある。少年はトランクスを脱ぎ捨てて、風呂のドアを開けると、二十四時間風呂のようでお湯が張ってあった。窓があって開放的で明るい風呂場だった。私もTシャツを脱ぎ捨てると中に入った。
「凄いね、二十四時間風呂でしょ?」
「そうです、湯船ん中でいちゃいちゃしましょ」
少年がまた抱きついてきて、チンコが勃っていることがわかってお腹辺りが痛かった。シャワーを二人で掛け合ってスポンジで身体を洗った。誰のスポンジなのか、共有のスポンジなのかわからなくてちょっと気持ち悪かったが、途中からどうでも良くなった。少年は背中届かないとか馬鹿のような言葉で誘ってきたから、スポンジで洗ってその後抱きついてやった。
「うぉ!」
「サービスでーす、お客様痒いトコとか無いですかー」
笑いながら胸を押し付けて、スポンジを持っていない左手でチンコを擦った。石鹸の滑りで水音を立てながらチンコを扱く。中に入ると痛いだろうから、そこは細心の注意を払ったけれど、入れて悶え苦しむ姿も面白そうだと思う。その矢先に少年が手首を掴んできて、私は反転させられた。石鹸のついたままのチンコを後ろからぐっと突っ込まれる。入れられた瞬間に異物感が凄かったけれど、すぐ馴染んで私は風呂の扉に向かって喘ぎを上げた。また中で出されたら敵わないと思って、ある程度理性を自分で残そうとする。けれども私の中のマゾの血が後ろから突かれていることに興奮して、頭が何度も振られて何が何だかわからなくなる。もっともっと痛く突いてくれればいいのに、子宮まで侵入すればいいのに。そんなことを思っていると、少年が急に手首を離したから、勢い余って床に頭をぶつけそうになって、腕でガードをした。肘が当たって痛い。
「痛ぁ。涼、涼介、の馬鹿ぁ、あっ、あ、あっぁあ!」
「ごめんなさい、でもやべぇ」
腕の上に何度も頭をぶつけながらセックスをしていると、急に風呂場の扉が開いた。一瞬のことで何かわからなかったけれど、顔を上げるとお婆さんが仁王立ちをしていた。下から見上げるお婆さんは酷く大きく感じて、恐怖心が煽られたけれど言葉は出なかった。扉が開いた衝撃でチンコは私の中から抜けていって、少年も固まっているみたいだった。もしかしたらここまでの間で何か音がしていたのかもしれない、でも私達はセックスに夢中で完全に聞き逃していたのだ。
「美香子ぉぉぉぉぉ!!!」
金切り声が響いて、お婆さんは私の横をすり抜けて少年に飛び掛った。いや、飛び掛かるわけはない、お婆さんがそんなに早く動けるなんて思えない。けれども、私の目には飛び掛ったように見えた。現に少年もそれを避けることが出来ずに後ろの壁と鏡に頭を打ち付けていた。何が行われているのかわからなかった。お婆さんは美香子とかいう言葉を叫びながら少年に馬乗りになって、枯れ木のような両腕を何度も振り上げては下ろしていた。
「おい!ちょっと!!婆ちゃん!!」
「美香子に触らないでぇぇ!!逃げてぇ!逃げてよぉ!!」
何だこれ。美香子って誰だ。実加ちゃんのことか?いや、違う。美香子、あれだ、お婆さんのレイプされて殺された妹の名前だ。大分脳の奥底に追いやっていた記憶を引きずり出した。私がそんなことを考えている間にも、少年はお婆さんに暴行されていた。止めなくてはという思いは何故か生まれてこなくて、私は素っ裸で素っ裸の男がババアにやられている姿を見ていた。
「っ!!ふざけんなっっ!!」
少年がその言葉と共にお婆さんの胸元辺りを肘で殴り返した。お婆さんは後ろの湯船の壁に跳ね返って、ばだっと床に倒れた。それから動かなくなった。
「え?え?お婆ちゃん?え?ちょっと、大丈夫?」
私が固まっている間に正気を取り戻したのか、少年は倒れているお婆さんに手を伸ばした。揺すっても動かなかった。
「え!あ!ちょっと!!ど、どうしましょう、どうしよう文子さん!!」
少年の狼狽している様子を見て、急に私も正気が戻ってきた。救急車を呼ばなくてはと立ち上がった。
「ああああ文子さん!!どこに!?」
「救急車呼ばなきゃ、涼介君、救急車呼ぼう」
「ダメっすよ!!俺、何て説明すればいいんすか!!」
「何てって…………最悪滑って転んだってことにすればいいよ、早く」
「そんな嘘とかバレますよ!!だって最悪婆ちゃん死んだら解剖とかされてバレるって!!」
「殺したいの?」
その言葉に少年は返す言葉を失ったようだったから、私かけてくるね、と言って風呂場からリビングに向かった。勝手知ったるという感じで夕飯を作っていた頃に電話の場所も郵便物が置いてある場所も覚えた。私は郵便物が積んである場所の一番上にあったクレジットカードの請求封筒を掴んで救急車を呼んだ。住所を言いながら、何でこんなことに巻き込まれているんだろうと自嘲気味に笑った。あのおっさんの血は継いでんだなぁと変な感慨に耽って、ババアより自分を優先して救急車を憚った孫の下に帰ると孫は素っ裸で項垂れていた。服でも着なよと声をかけて、私は二階に戻って服を着なおした。ああ、本当に死んだらどうしようと私も途方に暮れた。
「今までは文子さんが帰った後に来てたんすけどね。マジ俺も迷惑してて。何つーか話通じないんすよね。何か勝手に文子さんのこと悪者にしちゃってるし」
「仕方ないんじゃない。そういう子なんでしょ」
ちょっと冷たすぎたかと思って、女の子には多いけどねとフォローにならない言葉を繋げた。少年が腕を少し上げて抱き直してきたから、もろに脇の臭いがする。何とも言えない臭いに顔を顰めて、胸を押し返した。
「何ですか?」
「涼介君臭いー、汗臭いもん、てか私も臭くて気持ち悪い」
腕の拘束から逃れて、鞄の中から制汗スプレーを取り出す。ベッドの上を少し動いただけで、中から液体が漏れている変な感覚を感じて嫌だ。少年とセックスをするようになってから、陰毛を短く切りそろえるようになって塞き止めるものが無くなった。制汗スプレーの蓋を取っていると、後ろからじゃあ風呂入りましょうという声が聞こえた。
「風呂って、私何も用意してないよ」
「バスタオルなら貸しますし!普通に着替えは無いですけど、シャンプーとかよければ使って下さい」
「いや、いいよ。自分のが良いから」
「いーじゃないっすかー、一緒入りましょーよ。洗いっこしましょー」
少年は素っ裸で腕をぶんぶんと振った。何だその行動、顔が曇りそうになるのを抑えて、わかったわかったと答えた。わかったの最後のたの音ぐらいで少年にキスをされて、何度か唇を触れ合わせた。キスをされながら二の腕をつかまれて、横乳の辺りを触れられた。何度目かで顔は離れていって、少年は私に自分のTシャツを着せると自分はトランクスを履いて部屋を出た。
「お婆さん居るんじゃないの?」
「リビングに居ると思うんで、気付かないっすよ」
極力音を立てずに二人でリビングの横の廊下を抜けて風呂場にたどり着く。横目に見たリビングはテレビの音がして、お婆さんが不動の状態で座っているのが見えた。脱衣所にある箪笥からバスタオルを渡されて、私は持ってきたシュシュで髪を結んで上げた。髪や顔を洗う気はないけれど、身体ぐらいは一緒に洗って風呂屋ごっこでもしようと思う。案外私はこの状況を楽しんでいる。狭いユニットバスでのセックスなんかはあったけれど、一軒家の広い風呂なんてラブホでも行かないと楽しめなかったんだ。久しぶりで楽しみではある。少年はトランクスを脱ぎ捨てて、風呂のドアを開けると、二十四時間風呂のようでお湯が張ってあった。窓があって開放的で明るい風呂場だった。私もTシャツを脱ぎ捨てると中に入った。
「凄いね、二十四時間風呂でしょ?」
「そうです、湯船ん中でいちゃいちゃしましょ」
少年がまた抱きついてきて、チンコが勃っていることがわかってお腹辺りが痛かった。シャワーを二人で掛け合ってスポンジで身体を洗った。誰のスポンジなのか、共有のスポンジなのかわからなくてちょっと気持ち悪かったが、途中からどうでも良くなった。少年は背中届かないとか馬鹿のような言葉で誘ってきたから、スポンジで洗ってその後抱きついてやった。
「うぉ!」
「サービスでーす、お客様痒いトコとか無いですかー」
笑いながら胸を押し付けて、スポンジを持っていない左手でチンコを擦った。石鹸の滑りで水音を立てながらチンコを扱く。中に入ると痛いだろうから、そこは細心の注意を払ったけれど、入れて悶え苦しむ姿も面白そうだと思う。その矢先に少年が手首を掴んできて、私は反転させられた。石鹸のついたままのチンコを後ろからぐっと突っ込まれる。入れられた瞬間に異物感が凄かったけれど、すぐ馴染んで私は風呂の扉に向かって喘ぎを上げた。また中で出されたら敵わないと思って、ある程度理性を自分で残そうとする。けれども私の中のマゾの血が後ろから突かれていることに興奮して、頭が何度も振られて何が何だかわからなくなる。もっともっと痛く突いてくれればいいのに、子宮まで侵入すればいいのに。そんなことを思っていると、少年が急に手首を離したから、勢い余って床に頭をぶつけそうになって、腕でガードをした。肘が当たって痛い。
「痛ぁ。涼、涼介、の馬鹿ぁ、あっ、あ、あっぁあ!」
「ごめんなさい、でもやべぇ」
腕の上に何度も頭をぶつけながらセックスをしていると、急に風呂場の扉が開いた。一瞬のことで何かわからなかったけれど、顔を上げるとお婆さんが仁王立ちをしていた。下から見上げるお婆さんは酷く大きく感じて、恐怖心が煽られたけれど言葉は出なかった。扉が開いた衝撃でチンコは私の中から抜けていって、少年も固まっているみたいだった。もしかしたらここまでの間で何か音がしていたのかもしれない、でも私達はセックスに夢中で完全に聞き逃していたのだ。
「美香子ぉぉぉぉぉ!!!」
金切り声が響いて、お婆さんは私の横をすり抜けて少年に飛び掛った。いや、飛び掛かるわけはない、お婆さんがそんなに早く動けるなんて思えない。けれども、私の目には飛び掛ったように見えた。現に少年もそれを避けることが出来ずに後ろの壁と鏡に頭を打ち付けていた。何が行われているのかわからなかった。お婆さんは美香子とかいう言葉を叫びながら少年に馬乗りになって、枯れ木のような両腕を何度も振り上げては下ろしていた。
「おい!ちょっと!!婆ちゃん!!」
「美香子に触らないでぇぇ!!逃げてぇ!逃げてよぉ!!」
何だこれ。美香子って誰だ。実加ちゃんのことか?いや、違う。美香子、あれだ、お婆さんのレイプされて殺された妹の名前だ。大分脳の奥底に追いやっていた記憶を引きずり出した。私がそんなことを考えている間にも、少年はお婆さんに暴行されていた。止めなくてはという思いは何故か生まれてこなくて、私は素っ裸で素っ裸の男がババアにやられている姿を見ていた。
「っ!!ふざけんなっっ!!」
少年がその言葉と共にお婆さんの胸元辺りを肘で殴り返した。お婆さんは後ろの湯船の壁に跳ね返って、ばだっと床に倒れた。それから動かなくなった。
「え?え?お婆ちゃん?え?ちょっと、大丈夫?」
私が固まっている間に正気を取り戻したのか、少年は倒れているお婆さんに手を伸ばした。揺すっても動かなかった。
「え!あ!ちょっと!!ど、どうしましょう、どうしよう文子さん!!」
少年の狼狽している様子を見て、急に私も正気が戻ってきた。救急車を呼ばなくてはと立ち上がった。
「ああああ文子さん!!どこに!?」
「救急車呼ばなきゃ、涼介君、救急車呼ぼう」
「ダメっすよ!!俺、何て説明すればいいんすか!!」
「何てって…………最悪滑って転んだってことにすればいいよ、早く」
「そんな嘘とかバレますよ!!だって最悪婆ちゃん死んだら解剖とかされてバレるって!!」
「殺したいの?」
その言葉に少年は返す言葉を失ったようだったから、私かけてくるね、と言って風呂場からリビングに向かった。勝手知ったるという感じで夕飯を作っていた頃に電話の場所も郵便物が置いてある場所も覚えた。私は郵便物が積んである場所の一番上にあったクレジットカードの請求封筒を掴んで救急車を呼んだ。住所を言いながら、何でこんなことに巻き込まれているんだろうと自嘲気味に笑った。あのおっさんの血は継いでんだなぁと変な感慨に耽って、ババアより自分を優先して救急車を憚った孫の下に帰ると孫は素っ裸で項垂れていた。服でも着なよと声をかけて、私は二階に戻って服を着なおした。ああ、本当に死んだらどうしようと私も途方に暮れた。
その日は少年とお婆さんを救急車に押し込んで、私は車で家に逃げ帰った。極悪非道のように思ったけれど、救急隊員の目も医者の目も看護婦の目も気になる。病院で駆けつけたおっさんとはち合うのも勘弁だ。少年には私と居るの見つかると困るでしょと説明したけど、彼は放心状態で聞いていなかった。車の中で何度か舌打ちをして、いつものようにビニールをコンビニで捨てる。捨てた後に停めてある車の中でハンドルを抱えて溜息をついた。どうすればいいのか、本当に死んだりしたらどうしようか。何て言い訳すればいいのか。あのおっさんの事だから慰謝料とか要求してきそうだな。そこまで考えてもう一度舌打ちをした。別にいいんだけどさ、何十万か払っても、でもあのおっさんとかに弱みを握られるってのが嫌なんだよ。とりあえず、目を閉じてお婆さんが助かりますように、元気に家に戻れるようになりますようにと祈った。困ったときしか頼られない神様も傍迷惑だろう。
ドアのガラスをとんとんと叩く音がした。顔を上げるとミナちゃんが笑顔でこちらを見ていた。
「やっぱり!アヤちゃんっぽいなーって思って。どしたの?何か元気じゃなさそー」
そう笑うミナちゃんの顔は可愛いくて、私の暗い気持ちは少し癒された。大きめの薄いカーキ色のジャンパースーツというか、ツナギを着ているミナちゃんは輝いて見えて、目を反らしたかった。赤茶の髪を綺麗にセットして、半そでのツナギの腕を捲くって着崩しながらもウォレットチェーンとゴツめの腕時計でバランスを取っている。足元がナイキのバッシュのような大き目のシューズで配色がカラフルで可愛い。逆に適当な服を着て適当に化粧をして、適当に洗いざらしみたいなブローしかしていない自分は何なのか。ミナちゃんを見ながら、大丈夫大丈夫と笑ったけれど、きっと酷い顔をしているんだろう。
「ホント?何か凄い深刻そーだったけど……。てか暑いね、どっか飲み行かない?あ、逆か、今から暇?」
「暇暇、大丈夫?ミナちゃん車?」
「ううん、僕はお家近いんだ、超偶然だよねー。ここから近いところで良いトコ知ってるの、アヤちゃん乗せてって」
ミナちゃんは直ぐに助手席側に回ってドアを開けた。彼は車に乗り込んで、助手席にあった私の鞄を膝の上に乗せた。ちょっと早いけどマスターと知り合いだから大丈夫と笑われて、とても救われた気になって笑い返して車を発進させた。時計は午後五時過ぎを示していた。確かに飲むにも夕飯にもまだ早い。ミナちゃんの誘導に従って車を走らせると、民家の立ち並ぶ通りに入って、その中の一つを指差された。小さなアパートのような外観で、一階部分が駐車場になっていたから、そこに車を停める。何だか怪しい薬とか乱交とか行われていそうだと思いながら、それでもいいかと車から降りた。外付けの階段で二階に登ると、ようやくお店らしく看板が出ていた。けれど明らかに英語でない言葉で読めなかった。
「こんにちはー、マスター」
ミナちゃんの声が響いて、奥から男の人が出てきた。店内は想像していたのと違って小奇麗で、明るかった。角ばったソファーや透けた素材のカーテンがあって、派手ではないシャンデリアもあって何のテイストでまとめているのかわからなかった。南国風とは言い辛いし、かといって洋風ってわけでもロココとかってわけでも無さそう。でも、私は何となく気に入った。奥から出てきた男の人は毛深く浅黒い肌をした三十代くらいの人だ。掠れた声で、いらっしゃいと言ったが、無表情で少し怖い。真っ白なTシャツとギャルソン風なエプロンが不釣合いだ。居酒屋でもやったら良さそうなのに。
「何、初めて見るな」
「うん、初めてだもん。お友達のアヤちゃんです。可愛いでしょ?アヤちゃん、マスターは女の子には優しいから我侭いっぱい言っていいよー」
「えー、ホントですかー」
くすくすと笑うと、マスターは我侭言ってんのはお前だろとミナちゃんを小突いた。何だこの関係。入り口で少し話してから、マスターは私達を奥のソファー席に案内した。半個室で、私とミナちゃんは隣り合って座った。恋人同士じゃないんですけどと私が言うと、マスターはわかってるってこいつ彼氏いるしと返答した。
「今日はここ予約入ってねぇし、一番厨房近いし他から見えにくいからな。あんま特定の客に入れ込んでるって思われたくねぇんだよ」
ぶっきらぼうな物言いだけど、その言葉に私は何故か納得してメニューを開いてドイツビールを頼んだ。一番前のページにあって、三種類のビール中で一番高かったから。そういうのは美味しいんだと変な経験則がある。ミナちゃんはえーっとねと一頻り悩んだ後にオリジナルカクテルを頼んでいた。マスターはそれを聞いて戻ったので、ミナちゃんとフードメニューを開きながらツマミを選ぶ。何となく男に触られるのはいいんだけど、女同士でべたべたするのはあまり好きでなくて、ミナちゃんとの間にバッグを置いた。どうしてだろう、普通逆の気がするんだけど。ミナちゃんを完全に男と見ていなくて女友達という感じだ。
「誘っといて何だけど僕あんま飲めないんだよね。アヤちゃんは強いんでしょ?僕の残りとか飲んじゃってよ」
「いいよ、でも割り勘でそれいいの?」
「全然。マスターだったら少しは安くしてくれるよー」
お酒を持ってきたマスターにフードメニューを頼んで、私とミナちゃんは乾杯した。私が乾杯後に半分くらい飲み乾すと、ミナちゃんは目を見開いてすっごぃと笑った。喉が乾いていたんだ。あんな変な事件に巻き込まれて、緊張して喉が渇いたのに何も口にしていなかったから。案の定ビールは酷く美味しくて、喉が鳴った。マスターが先ほど頼んだツマミを持ってきてくれて、私達はそれをツマミながら話して飲んだ。ミナちゃんがカクテル一杯を飲み干す間に私は三杯くらい飲んで、その代わりにミナちゃんの方が食べた。ミナちゃんと当たり障りの無い会話をして落ち着いてきた。この程度距離がある人の方が今は楽だ。何かに寄りかかってしまいそうだから。
「アヤちゃんホントに飲めるんだね!」
「ああ、お前なんかより全然良い客で嬉しいよ、また来てくれよ」
少し前から激しめのジャズが流れて正式に開店した店内には、二組ぐらい入ってきて忙しくなったはずだ。なのに、何度目かのドリンクを頼んで持ってきたマスターは嬉しそうに私に笑顔を見せて声をかけた。良い客でしょと笑うと、ミナちゃんが僕はーとむくれた。足を組みなおして、ミナちゃんの顔をきちんと見ると少し赤くなっていた。マスターがお酒を置いて去っていたので、ミナちゃんの頬に手を伸ばす。
「赤いね、酔った?」
「ちょっとねー、アヤちゃん全然変わんない!羨ましいなー」
「私もちょっと酔ってるよ、多弁でしょ?」
「そぉ?」
短い返事をされて、ミナちゃんと見詰め合っていると急に携帯が鳴った。顔を顰めて、携帯を手にとると、少年からの着信だった。家からかけてるってことは戻ったのか、お婆さんの容態を聞きたいような聞きたくないような。携帯を見つめて固まる私を見てミナちゃんは取っていいよと促した。
「……もしもし」
「もしもし?文子さん?あ、あの、今日はすみませんでした。婆ちゃん、大丈夫でした。何か気絶して逆に良かったみたいで。一応文子さん心配してるかなって思って……」
してねぇとは言わないけど忘れたかったよ。だって現実逃避したい、だからミナちゃんの誘い乗って忘れようとしてんのにありがた迷惑だよ。舌打ちを堪えて、そうなんだ、良かったねと返事をする。
「はい、マジ良かったです。変なところお見せしてすみませんでした」
「別に私も驚いたし」
「俺もマジ驚いて……ホント、すみません」
「謝る事ないよ、涼介君悪いことしてないし、じゃあお疲れ様、おやすみなさい」
「え、お、おやすみなさい」
無理やり会話をまとめて切った。悪いことしてないこともねぇけど面倒くさい。携帯の終了ボタンを押して、ミナちゃんを向きかえるとミナちゃんは心配そうにこちらを見ていた。私は無言で笑顔を返して、来たばかりの梅酒ロックを一気した。甘ったるくて強い酒が舌と喉を通過して胃が少し痛んだ。上唇に当たった氷が少し痛かった。グラスをテーブルの上に置くとその手の上にミナちゃんが手を重ねてきた。驚いて手を跳ね除けそうになったけど一度震えただけで衝動は収まった。
「ホント大丈夫?何か問題でもあったの?」
顔を覗き込まれて、ここまで露にしておいて何も無かったよはないよなと思って、ちょっとねと言葉を濁した。冷たいグラスをいくつも掴んだ手は夏なのに冷えきっていて、ミナちゃんの手の方が暖かかった。前握手したときに感じた男の手。
「ごめんね、うん、ちょっと、あって。でも、暗い感じじゃないんだよ。ミナちゃんに今日誘ってもらえて、こんな店紹介してもらって凄い救われたし」
「そうだと嬉しいんだけど……何かアヤちゃん彼氏に似てる……何か嫌な事あっても言わないで大丈夫大丈夫って言うの。僕には具体的には教えてくれないんだ」
「まぁ……」
貶されてるのかしら。てか大体会って二回目の人には詳しい話なんてしないと思うんだけど。その時点で彼氏と比べられるのはちょっとお門違いだ。ああ、でも言わないな、彼氏でも。だって涼介君にはどう思っているかなんて言ってないもん。そこまで考えて少年は彼氏じゃないしなと思い直した。
「でも、ホント言いたくないなら良いけど。一応僕でも力なるから!」
「うん、ありがと!ミナちゃん超可愛いー」
そう言うと子犬にするみたいにミナちゃんを抱き寄せて頭を撫でた。二人の間にあったバッグは音を立てずに落ちて、距離は無くなった。ミナちゃんは可愛らしく笑って、でしょーと私を上目遣いに見つめた。
それから先はあまり覚えていない。ミナちゃんが頼んだカクテルの残りを飲んだり、自分で頼んだお酒を飲んだりして結構酔っ払って、代行で帰るというのをミナちゃんに止められて、ミナちゃんと肩を組みながらミナちゃんの家に向かった。ミナちゃんの家は明るいという印象しかなくて、私はそのままベッドに突っ伏した。今思えば酷い面倒くさい酔っ払いだ。そして起きると何故かミナちゃんが私にキスをしていた。一瞬で目は見開かれて、彼が上半身裸なのを見て体が硬直した。
「ちょ、ちょっと、待って!!」
肩を押し返すと、ミナちゃんは悪気も無さそうに起きた?と笑った。ちょっと待ってちょっと待ってちょっと待って。私は身体をずり上げて上半身を起こした。幸いにも服は脱がされていなくて、ミナちゃんがツナギの上の脱いで腰元で縛っていた。小さめのテレビにはよく知らない深夜番組と思われる番組が映っている。動悸が激しくなって、私は今の状況を理解しようとした。今日はどうしてこんなに私の想定外の事ばかり起きるのだ、それも嫌な方向で。いや、もう今日じゃないのかもしれない、日付は変わっていそうだ。ミナちゃんは身体を動かして私に近づいた。
「アヤちゃん超可愛いんだもん」
「え、いや、あれ?ミナちゃん女の子だよね?いや、違う、えっと、ゲイだよね?私とか対象外じゃないの?」
「僕どっちでも大丈夫なんだよねー」
それでもてめぇ彼氏居るんだろうがと思ったけれど、これまでの自分の行いを振り返ると言える言葉じゃないから飲み込んだ。ゲイじゃねぇのか、あれ、オカマじゃないってそういう意味?わからない、とりあえず今わかるのは私は襲われかけている。私より可愛らしくて、肌も綺麗な男の子に私は食われかけている。あれ、別にいいんじゃないのか。何がダメなんだ。彼は男だ。
「アヤちゃんは嫌?嫌って言われても結構困るけど」
「嫌っていうかびっくりしてる。ミナちゃんの事女友達みたいに思ってたから」
「嫌じゃない?」
「嫌、じゃない」
想像がつかなかっただけ。彼をオナニーのオカズにしたことなかったし、そういう目で見てなかった。でも今急に頭が切り替わった。ふふっと笑うとミナちゃんも笑って、私は彼の首に手を回した。
ドアのガラスをとんとんと叩く音がした。顔を上げるとミナちゃんが笑顔でこちらを見ていた。
「やっぱり!アヤちゃんっぽいなーって思って。どしたの?何か元気じゃなさそー」
そう笑うミナちゃんの顔は可愛いくて、私の暗い気持ちは少し癒された。大きめの薄いカーキ色のジャンパースーツというか、ツナギを着ているミナちゃんは輝いて見えて、目を反らしたかった。赤茶の髪を綺麗にセットして、半そでのツナギの腕を捲くって着崩しながらもウォレットチェーンとゴツめの腕時計でバランスを取っている。足元がナイキのバッシュのような大き目のシューズで配色がカラフルで可愛い。逆に適当な服を着て適当に化粧をして、適当に洗いざらしみたいなブローしかしていない自分は何なのか。ミナちゃんを見ながら、大丈夫大丈夫と笑ったけれど、きっと酷い顔をしているんだろう。
「ホント?何か凄い深刻そーだったけど……。てか暑いね、どっか飲み行かない?あ、逆か、今から暇?」
「暇暇、大丈夫?ミナちゃん車?」
「ううん、僕はお家近いんだ、超偶然だよねー。ここから近いところで良いトコ知ってるの、アヤちゃん乗せてって」
ミナちゃんは直ぐに助手席側に回ってドアを開けた。彼は車に乗り込んで、助手席にあった私の鞄を膝の上に乗せた。ちょっと早いけどマスターと知り合いだから大丈夫と笑われて、とても救われた気になって笑い返して車を発進させた。時計は午後五時過ぎを示していた。確かに飲むにも夕飯にもまだ早い。ミナちゃんの誘導に従って車を走らせると、民家の立ち並ぶ通りに入って、その中の一つを指差された。小さなアパートのような外観で、一階部分が駐車場になっていたから、そこに車を停める。何だか怪しい薬とか乱交とか行われていそうだと思いながら、それでもいいかと車から降りた。外付けの階段で二階に登ると、ようやくお店らしく看板が出ていた。けれど明らかに英語でない言葉で読めなかった。
「こんにちはー、マスター」
ミナちゃんの声が響いて、奥から男の人が出てきた。店内は想像していたのと違って小奇麗で、明るかった。角ばったソファーや透けた素材のカーテンがあって、派手ではないシャンデリアもあって何のテイストでまとめているのかわからなかった。南国風とは言い辛いし、かといって洋風ってわけでもロココとかってわけでも無さそう。でも、私は何となく気に入った。奥から出てきた男の人は毛深く浅黒い肌をした三十代くらいの人だ。掠れた声で、いらっしゃいと言ったが、無表情で少し怖い。真っ白なTシャツとギャルソン風なエプロンが不釣合いだ。居酒屋でもやったら良さそうなのに。
「何、初めて見るな」
「うん、初めてだもん。お友達のアヤちゃんです。可愛いでしょ?アヤちゃん、マスターは女の子には優しいから我侭いっぱい言っていいよー」
「えー、ホントですかー」
くすくすと笑うと、マスターは我侭言ってんのはお前だろとミナちゃんを小突いた。何だこの関係。入り口で少し話してから、マスターは私達を奥のソファー席に案内した。半個室で、私とミナちゃんは隣り合って座った。恋人同士じゃないんですけどと私が言うと、マスターはわかってるってこいつ彼氏いるしと返答した。
「今日はここ予約入ってねぇし、一番厨房近いし他から見えにくいからな。あんま特定の客に入れ込んでるって思われたくねぇんだよ」
ぶっきらぼうな物言いだけど、その言葉に私は何故か納得してメニューを開いてドイツビールを頼んだ。一番前のページにあって、三種類のビール中で一番高かったから。そういうのは美味しいんだと変な経験則がある。ミナちゃんはえーっとねと一頻り悩んだ後にオリジナルカクテルを頼んでいた。マスターはそれを聞いて戻ったので、ミナちゃんとフードメニューを開きながらツマミを選ぶ。何となく男に触られるのはいいんだけど、女同士でべたべたするのはあまり好きでなくて、ミナちゃんとの間にバッグを置いた。どうしてだろう、普通逆の気がするんだけど。ミナちゃんを完全に男と見ていなくて女友達という感じだ。
「誘っといて何だけど僕あんま飲めないんだよね。アヤちゃんは強いんでしょ?僕の残りとか飲んじゃってよ」
「いいよ、でも割り勘でそれいいの?」
「全然。マスターだったら少しは安くしてくれるよー」
お酒を持ってきたマスターにフードメニューを頼んで、私とミナちゃんは乾杯した。私が乾杯後に半分くらい飲み乾すと、ミナちゃんは目を見開いてすっごぃと笑った。喉が乾いていたんだ。あんな変な事件に巻き込まれて、緊張して喉が渇いたのに何も口にしていなかったから。案の定ビールは酷く美味しくて、喉が鳴った。マスターが先ほど頼んだツマミを持ってきてくれて、私達はそれをツマミながら話して飲んだ。ミナちゃんがカクテル一杯を飲み干す間に私は三杯くらい飲んで、その代わりにミナちゃんの方が食べた。ミナちゃんと当たり障りの無い会話をして落ち着いてきた。この程度距離がある人の方が今は楽だ。何かに寄りかかってしまいそうだから。
「アヤちゃんホントに飲めるんだね!」
「ああ、お前なんかより全然良い客で嬉しいよ、また来てくれよ」
少し前から激しめのジャズが流れて正式に開店した店内には、二組ぐらい入ってきて忙しくなったはずだ。なのに、何度目かのドリンクを頼んで持ってきたマスターは嬉しそうに私に笑顔を見せて声をかけた。良い客でしょと笑うと、ミナちゃんが僕はーとむくれた。足を組みなおして、ミナちゃんの顔をきちんと見ると少し赤くなっていた。マスターがお酒を置いて去っていたので、ミナちゃんの頬に手を伸ばす。
「赤いね、酔った?」
「ちょっとねー、アヤちゃん全然変わんない!羨ましいなー」
「私もちょっと酔ってるよ、多弁でしょ?」
「そぉ?」
短い返事をされて、ミナちゃんと見詰め合っていると急に携帯が鳴った。顔を顰めて、携帯を手にとると、少年からの着信だった。家からかけてるってことは戻ったのか、お婆さんの容態を聞きたいような聞きたくないような。携帯を見つめて固まる私を見てミナちゃんは取っていいよと促した。
「……もしもし」
「もしもし?文子さん?あ、あの、今日はすみませんでした。婆ちゃん、大丈夫でした。何か気絶して逆に良かったみたいで。一応文子さん心配してるかなって思って……」
してねぇとは言わないけど忘れたかったよ。だって現実逃避したい、だからミナちゃんの誘い乗って忘れようとしてんのにありがた迷惑だよ。舌打ちを堪えて、そうなんだ、良かったねと返事をする。
「はい、マジ良かったです。変なところお見せしてすみませんでした」
「別に私も驚いたし」
「俺もマジ驚いて……ホント、すみません」
「謝る事ないよ、涼介君悪いことしてないし、じゃあお疲れ様、おやすみなさい」
「え、お、おやすみなさい」
無理やり会話をまとめて切った。悪いことしてないこともねぇけど面倒くさい。携帯の終了ボタンを押して、ミナちゃんを向きかえるとミナちゃんは心配そうにこちらを見ていた。私は無言で笑顔を返して、来たばかりの梅酒ロックを一気した。甘ったるくて強い酒が舌と喉を通過して胃が少し痛んだ。上唇に当たった氷が少し痛かった。グラスをテーブルの上に置くとその手の上にミナちゃんが手を重ねてきた。驚いて手を跳ね除けそうになったけど一度震えただけで衝動は収まった。
「ホント大丈夫?何か問題でもあったの?」
顔を覗き込まれて、ここまで露にしておいて何も無かったよはないよなと思って、ちょっとねと言葉を濁した。冷たいグラスをいくつも掴んだ手は夏なのに冷えきっていて、ミナちゃんの手の方が暖かかった。前握手したときに感じた男の手。
「ごめんね、うん、ちょっと、あって。でも、暗い感じじゃないんだよ。ミナちゃんに今日誘ってもらえて、こんな店紹介してもらって凄い救われたし」
「そうだと嬉しいんだけど……何かアヤちゃん彼氏に似てる……何か嫌な事あっても言わないで大丈夫大丈夫って言うの。僕には具体的には教えてくれないんだ」
「まぁ……」
貶されてるのかしら。てか大体会って二回目の人には詳しい話なんてしないと思うんだけど。その時点で彼氏と比べられるのはちょっとお門違いだ。ああ、でも言わないな、彼氏でも。だって涼介君にはどう思っているかなんて言ってないもん。そこまで考えて少年は彼氏じゃないしなと思い直した。
「でも、ホント言いたくないなら良いけど。一応僕でも力なるから!」
「うん、ありがと!ミナちゃん超可愛いー」
そう言うと子犬にするみたいにミナちゃんを抱き寄せて頭を撫でた。二人の間にあったバッグは音を立てずに落ちて、距離は無くなった。ミナちゃんは可愛らしく笑って、でしょーと私を上目遣いに見つめた。
それから先はあまり覚えていない。ミナちゃんが頼んだカクテルの残りを飲んだり、自分で頼んだお酒を飲んだりして結構酔っ払って、代行で帰るというのをミナちゃんに止められて、ミナちゃんと肩を組みながらミナちゃんの家に向かった。ミナちゃんの家は明るいという印象しかなくて、私はそのままベッドに突っ伏した。今思えば酷い面倒くさい酔っ払いだ。そして起きると何故かミナちゃんが私にキスをしていた。一瞬で目は見開かれて、彼が上半身裸なのを見て体が硬直した。
「ちょ、ちょっと、待って!!」
肩を押し返すと、ミナちゃんは悪気も無さそうに起きた?と笑った。ちょっと待ってちょっと待ってちょっと待って。私は身体をずり上げて上半身を起こした。幸いにも服は脱がされていなくて、ミナちゃんがツナギの上の脱いで腰元で縛っていた。小さめのテレビにはよく知らない深夜番組と思われる番組が映っている。動悸が激しくなって、私は今の状況を理解しようとした。今日はどうしてこんなに私の想定外の事ばかり起きるのだ、それも嫌な方向で。いや、もう今日じゃないのかもしれない、日付は変わっていそうだ。ミナちゃんは身体を動かして私に近づいた。
「アヤちゃん超可愛いんだもん」
「え、いや、あれ?ミナちゃん女の子だよね?いや、違う、えっと、ゲイだよね?私とか対象外じゃないの?」
「僕どっちでも大丈夫なんだよねー」
それでもてめぇ彼氏居るんだろうがと思ったけれど、これまでの自分の行いを振り返ると言える言葉じゃないから飲み込んだ。ゲイじゃねぇのか、あれ、オカマじゃないってそういう意味?わからない、とりあえず今わかるのは私は襲われかけている。私より可愛らしくて、肌も綺麗な男の子に私は食われかけている。あれ、別にいいんじゃないのか。何がダメなんだ。彼は男だ。
「アヤちゃんは嫌?嫌って言われても結構困るけど」
「嫌っていうかびっくりしてる。ミナちゃんの事女友達みたいに思ってたから」
「嫌じゃない?」
「嫌、じゃない」
想像がつかなかっただけ。彼をオナニーのオカズにしたことなかったし、そういう目で見てなかった。でも今急に頭が切り替わった。ふふっと笑うとミナちゃんも笑って、私は彼の首に手を回した。
ミナちゃんとのセックスはとても耽美というか上品で、私が日頃他の男としているのとは違う生々しさがあった。本当に女の子としているみたい。女の子とした事ないけれど。あまり水音を立てずに手マンをするミナちゃんに見つめられると恥ずかしく感じる。その後だったから私もあまり音を立てずにミナちゃんのチンコを舐めた。吐息が漏れて、ミナちゃんの方が可愛くて、激しくせずに何度も表面を舐めた。わざと音を立てていたあのセックスは何だったのだろう。皺皺な玉の一つ一つを丁寧に舐めて、口を離すと自分の中指を舐めた。
「後ろ入れてもいい?」
私の提案にミナちゃんは枕を抱いて鼻から下が見えない顔で頷いた。可愛い。私が男になったみたいな錯覚に陥る。指を舐める動作に何も意義を見出せなかったから素早く指を唾液塗れにして、穴の周囲を弄った。少し弄っただけで穴が開いて、爪の分くらい挿入した。
「あ、あ、待って、アヤちゃん……」
制止をされて、ミナちゃんがヘッドボードの所から何かを取り出して、私に渡した。何、と聞くと指サックと言われた。ああ、そっち系の人って病気とか多くて気をつけるべきなんだよなぁと思って言われた通りに中指にはめて、もう一度挿入し直した。私自身は自分の後穴に突っ込んだ事なんかなくて、男にもきちんと入れたこと無いから初体験だ。入り口だけ少しきつくて中は暖かく緩い。上手い動かし方がよくわからなくて自分の手マンと同じ要領で指を曲げたり抜き差しをする。少しの間、右手の中指でピストンをしながら左手で軽くチンコを扱くと、ミナちゃんは短い声を上げてイッた。イく瞬間にチンコが何度も震えてぼんやりとしていた私の顔に射精された。出た量は少なかったけど、顎と頬骨の下、そして左手にかかった。指を引き抜いて、サックを外すとティッシュで包んでゴミ箱に捨てた。ミナちゃんの隣に横たわって、キスをしながら胸を弄りあった。この穏やかな空気、余裕のある対応、酷く懐かしい。再び立ち上がってきたチンコを何度か擦って、片足をミナちゃんに絡めて挿入した。入れた瞬間に喘声が上がったけれど、ミナちゃんが一度抜いてゴムを装着し直してもう一度同じ体勢で挿入した。挿入体勢が変だから何度か動かすと抜けてしまう。別にミナちゃんのチンコはそんなに短くないのに。ぐっとくっ付いて、抱き合って舌を絡ませながらミナちゃんの動きに合わせて小さく動いた。
「あっ、あ、んぅ……ん、ぁ」
どちらともなく声が漏れた。抱き合っている腕をミナちゃんが私の背中から引き抜いてクリトリスに触れられて達した。震える中で何度か体内を往復されて、直ぐに挿入後の二度目を迎えた。二度目の絶頂を迎えている間にミナちゃんも達したみたいで、動きは止まった。挿入したまま二人で抱き合って軽く何度かキスをした。それからティッシュでマンコとチンコを拭いて、軽くシャワーを浴びて眠った。酒はもう抜け切っていて、ただの疲労感からの眠気に襲われた。
朝目覚めるとベッドには一人、裸で寝ていて、目の前にはローテーブルに朝食が用意されていた。身体を引き起こして起き上がると、キッチンの方からミナちゃんがおはようと声をかけてくれた。
「おはよう、ごめんね気を使わせて」
「全然ー、いつもの事だから。顔洗ってご飯食べよー!」
ホントに私の方が男みたい。身体にかかっているタオルケットを蹴飛ばして、私は床に畳んでおいてあった服を着なおした。夏に昨日と同じ服を着るというのは気持ち悪いが、服を借りる気は起きない。コーヒーを淹れてくれているミナちゃんの横を通って、ユニットバスに入って便器に腰掛けた。特に頭痛も胃痛も何も起きていない。酒は完全に肝臓が浄化してくれたみたいだ。用を足して、手と顔を洗って部屋に戻った。ミナちゃんは何故か対面ではなく横になる形で朝食を用意してくれていて、私は遠慮せずにそれを食した。結構美味しかった。ビジネスホテルの朝みたいな食事だ。可も無く不可もなく。最近あまりろくなものを食べていないので、パンとハムと卵という高カロリーの固形物で占められたメニューは辛かったが、少しずつ時間をかけて全部食べた。ミナちゃんと適当な会話をしていると、急に首元に手を置かれた。
「ん?」
「アヤちゃんって基礎体温高い?もうすぐ生理とか?」
「あーわかんない、あ、生理か……」
指摘されて思い出した。私先月か先々月くらいから生理が来ていない。別にそんな大した問題じゃない。今まで何度か一ヶ月くらい来ないことはあった。案外繊細に出来上がっているもんだ、私の子宮は。
「ちょっと温かい気がするんだよね。別に杞憂ならいいんだけど」
「んー、わかんない、生理近いのかな」
「まぁ最近女の子抱いてないから勘違いかも、ごめんね、気にしないでー」
ミナちゃんはにこにこ笑うと、トーストを齧った。二人ともご飯を食べ終えて私がお礼に食器を洗って、ミナちゃんが髪をセットしている間に私も化粧をして、髪をセットし終えたミナちゃんが私の髪を整えてくれた。ドライヤーだけで内巻きっぽくしてくれて、器用で羨ましい。ミナちゃんが車の所まで案内してくれて、可愛らしく唇を人差し指で押さえて彼氏には内緒だよ、と笑ったから、私も笑顔を返した。その顔が可愛くて最後にキスをしたかったけれど、耐えて車に乗り込んで帰った。
帰る途中にドラックストアに寄って妊娠検査薬を手に取った。何となく、ああいう人は勘が鋭い気がする。私が鈍感過ぎるのかもしれないけれど。生理なんて忘れ去っていた。片手に妊娠検査薬を掴んで、何か足りない物は無かったかなと店内を回ると、すれ違ったおばさんにじろじろ見られた。何だうぜぇな、閉経して羨ましいのかと睨むとさっさと隣の通りに入っていった。結局特に何も必要でなくて、新発売のアイシャドウを一つ手に取ってレジに向かった。バイトの若い女の子は妊娠検査薬を見て一度私の顔を見てバーコードを読み取ると、紙袋にそれを入れた。ホント何だと言うのだ。私ももう妙齢だからセックスの一つや二つしますよ、したら妊娠だってするかもしれねぇだろうがよ。生理用品といい、コンドームといい、妊娠検査薬といい、この国は何でこうも日常に紛れ込む性に過剰反応するのか。恥ずかしいことだったら子孫繁栄なんか望むんじゃねぇよ。無駄な怒りに包まれながら、会計を済ませて紙袋とそれに隠れたアイシャドウの入った袋を持って車に帰る。
家に帰って早速妊娠検査薬の箱を開けた。説明書を読んで使い方を覚えてから尿に当てる。思ったより大きな棒だったので、どうやって当てるのか角度が難しかった。採尿コップか何かに取れれば良かったんだろうけれど、うちには紙コップが無いから直にやってみた。尿をかけた検査薬を所定のカバーを付けて待った。カップラーメンでも作っているみたい、作ったのは子供だけど。違うか、この検査で作ったわけじゃない。ああ、でもカップラーメンでも作ったのは工場でか、と変な思考を巡らせて時計を見つめていた。ユニットバスのバスタブの壁に腰掛けて一分経ったのを確認して便座カバーの上に置いてある検査薬を見た。終了ラインと判定ライン両方が出ているのを見て、妊娠してんじゃんと思った。直ぐ思ったのは、ミナちゃんすげーって事だった。その後直ぐに舌打ちをして余計な出費が増えるし医者面倒くさいなと思った。一ヶ月か二ヶ月か、それくらい、早期だから中絶も楽なはずだ。誰の子かわからないが、多分佐竹先輩か少年、元彼も一応の候補だ。今まで生でやっていて問題が生じなかったんだから可能性は低いけれど。妊娠検査薬は箱に戻してゴミ箱に捨てた。
さて、どうしようか。ユニットバスから出て、ベッドに寝転がったけれど、ヘアセットが乱れると思って体を起こした。少年に伝えるべきなんだろうか。別に言わずに下ろしてもいいんだけど、一応お知らせしておいた方が避妊に気をつけるだろうなとお腹を軽く叩きながら考えた。何の変化も無い腹の中に新しい命がある。別に細胞とか生きてるんだから新しい命って変だ。人間の基があるって言うべきか。本当にセックスすると妊娠するんだと、今経験則となった。馬鹿みたいだ、もういい年なのに避妊をいい加減にするなんて。私には子供が出来ても育てる気は全く無いのに、避妊治療に励む夫婦が居る傍ら皮肉なものだ。残念だな、貴方は医者の収入源になるのねとお腹に宣告した。ふと鞄に入れたままだった携帯の確認をすると、少年から何通もメールが来ていた。ごめんなさいとか、嫌わないでとか、そういった内容ばかりで、ミナちゃんに比べて何の勘も働かないなと自分の相手と自分自身のダメさに面白くなってきた。面白序でに妊娠のお知らせでもしてやるかと、メールで明日家に行くよと返信した。
「後ろ入れてもいい?」
私の提案にミナちゃんは枕を抱いて鼻から下が見えない顔で頷いた。可愛い。私が男になったみたいな錯覚に陥る。指を舐める動作に何も意義を見出せなかったから素早く指を唾液塗れにして、穴の周囲を弄った。少し弄っただけで穴が開いて、爪の分くらい挿入した。
「あ、あ、待って、アヤちゃん……」
制止をされて、ミナちゃんがヘッドボードの所から何かを取り出して、私に渡した。何、と聞くと指サックと言われた。ああ、そっち系の人って病気とか多くて気をつけるべきなんだよなぁと思って言われた通りに中指にはめて、もう一度挿入し直した。私自身は自分の後穴に突っ込んだ事なんかなくて、男にもきちんと入れたこと無いから初体験だ。入り口だけ少しきつくて中は暖かく緩い。上手い動かし方がよくわからなくて自分の手マンと同じ要領で指を曲げたり抜き差しをする。少しの間、右手の中指でピストンをしながら左手で軽くチンコを扱くと、ミナちゃんは短い声を上げてイッた。イく瞬間にチンコが何度も震えてぼんやりとしていた私の顔に射精された。出た量は少なかったけど、顎と頬骨の下、そして左手にかかった。指を引き抜いて、サックを外すとティッシュで包んでゴミ箱に捨てた。ミナちゃんの隣に横たわって、キスをしながら胸を弄りあった。この穏やかな空気、余裕のある対応、酷く懐かしい。再び立ち上がってきたチンコを何度か擦って、片足をミナちゃんに絡めて挿入した。入れた瞬間に喘声が上がったけれど、ミナちゃんが一度抜いてゴムを装着し直してもう一度同じ体勢で挿入した。挿入体勢が変だから何度か動かすと抜けてしまう。別にミナちゃんのチンコはそんなに短くないのに。ぐっとくっ付いて、抱き合って舌を絡ませながらミナちゃんの動きに合わせて小さく動いた。
「あっ、あ、んぅ……ん、ぁ」
どちらともなく声が漏れた。抱き合っている腕をミナちゃんが私の背中から引き抜いてクリトリスに触れられて達した。震える中で何度か体内を往復されて、直ぐに挿入後の二度目を迎えた。二度目の絶頂を迎えている間にミナちゃんも達したみたいで、動きは止まった。挿入したまま二人で抱き合って軽く何度かキスをした。それからティッシュでマンコとチンコを拭いて、軽くシャワーを浴びて眠った。酒はもう抜け切っていて、ただの疲労感からの眠気に襲われた。
朝目覚めるとベッドには一人、裸で寝ていて、目の前にはローテーブルに朝食が用意されていた。身体を引き起こして起き上がると、キッチンの方からミナちゃんがおはようと声をかけてくれた。
「おはよう、ごめんね気を使わせて」
「全然ー、いつもの事だから。顔洗ってご飯食べよー!」
ホントに私の方が男みたい。身体にかかっているタオルケットを蹴飛ばして、私は床に畳んでおいてあった服を着なおした。夏に昨日と同じ服を着るというのは気持ち悪いが、服を借りる気は起きない。コーヒーを淹れてくれているミナちゃんの横を通って、ユニットバスに入って便器に腰掛けた。特に頭痛も胃痛も何も起きていない。酒は完全に肝臓が浄化してくれたみたいだ。用を足して、手と顔を洗って部屋に戻った。ミナちゃんは何故か対面ではなく横になる形で朝食を用意してくれていて、私は遠慮せずにそれを食した。結構美味しかった。ビジネスホテルの朝みたいな食事だ。可も無く不可もなく。最近あまりろくなものを食べていないので、パンとハムと卵という高カロリーの固形物で占められたメニューは辛かったが、少しずつ時間をかけて全部食べた。ミナちゃんと適当な会話をしていると、急に首元に手を置かれた。
「ん?」
「アヤちゃんって基礎体温高い?もうすぐ生理とか?」
「あーわかんない、あ、生理か……」
指摘されて思い出した。私先月か先々月くらいから生理が来ていない。別にそんな大した問題じゃない。今まで何度か一ヶ月くらい来ないことはあった。案外繊細に出来上がっているもんだ、私の子宮は。
「ちょっと温かい気がするんだよね。別に杞憂ならいいんだけど」
「んー、わかんない、生理近いのかな」
「まぁ最近女の子抱いてないから勘違いかも、ごめんね、気にしないでー」
ミナちゃんはにこにこ笑うと、トーストを齧った。二人ともご飯を食べ終えて私がお礼に食器を洗って、ミナちゃんが髪をセットしている間に私も化粧をして、髪をセットし終えたミナちゃんが私の髪を整えてくれた。ドライヤーだけで内巻きっぽくしてくれて、器用で羨ましい。ミナちゃんが車の所まで案内してくれて、可愛らしく唇を人差し指で押さえて彼氏には内緒だよ、と笑ったから、私も笑顔を返した。その顔が可愛くて最後にキスをしたかったけれど、耐えて車に乗り込んで帰った。
帰る途中にドラックストアに寄って妊娠検査薬を手に取った。何となく、ああいう人は勘が鋭い気がする。私が鈍感過ぎるのかもしれないけれど。生理なんて忘れ去っていた。片手に妊娠検査薬を掴んで、何か足りない物は無かったかなと店内を回ると、すれ違ったおばさんにじろじろ見られた。何だうぜぇな、閉経して羨ましいのかと睨むとさっさと隣の通りに入っていった。結局特に何も必要でなくて、新発売のアイシャドウを一つ手に取ってレジに向かった。バイトの若い女の子は妊娠検査薬を見て一度私の顔を見てバーコードを読み取ると、紙袋にそれを入れた。ホント何だと言うのだ。私ももう妙齢だからセックスの一つや二つしますよ、したら妊娠だってするかもしれねぇだろうがよ。生理用品といい、コンドームといい、妊娠検査薬といい、この国は何でこうも日常に紛れ込む性に過剰反応するのか。恥ずかしいことだったら子孫繁栄なんか望むんじゃねぇよ。無駄な怒りに包まれながら、会計を済ませて紙袋とそれに隠れたアイシャドウの入った袋を持って車に帰る。
家に帰って早速妊娠検査薬の箱を開けた。説明書を読んで使い方を覚えてから尿に当てる。思ったより大きな棒だったので、どうやって当てるのか角度が難しかった。採尿コップか何かに取れれば良かったんだろうけれど、うちには紙コップが無いから直にやってみた。尿をかけた検査薬を所定のカバーを付けて待った。カップラーメンでも作っているみたい、作ったのは子供だけど。違うか、この検査で作ったわけじゃない。ああ、でもカップラーメンでも作ったのは工場でか、と変な思考を巡らせて時計を見つめていた。ユニットバスのバスタブの壁に腰掛けて一分経ったのを確認して便座カバーの上に置いてある検査薬を見た。終了ラインと判定ライン両方が出ているのを見て、妊娠してんじゃんと思った。直ぐ思ったのは、ミナちゃんすげーって事だった。その後直ぐに舌打ちをして余計な出費が増えるし医者面倒くさいなと思った。一ヶ月か二ヶ月か、それくらい、早期だから中絶も楽なはずだ。誰の子かわからないが、多分佐竹先輩か少年、元彼も一応の候補だ。今まで生でやっていて問題が生じなかったんだから可能性は低いけれど。妊娠検査薬は箱に戻してゴミ箱に捨てた。
さて、どうしようか。ユニットバスから出て、ベッドに寝転がったけれど、ヘアセットが乱れると思って体を起こした。少年に伝えるべきなんだろうか。別に言わずに下ろしてもいいんだけど、一応お知らせしておいた方が避妊に気をつけるだろうなとお腹を軽く叩きながら考えた。何の変化も無い腹の中に新しい命がある。別に細胞とか生きてるんだから新しい命って変だ。人間の基があるって言うべきか。本当にセックスすると妊娠するんだと、今経験則となった。馬鹿みたいだ、もういい年なのに避妊をいい加減にするなんて。私には子供が出来ても育てる気は全く無いのに、避妊治療に励む夫婦が居る傍ら皮肉なものだ。残念だな、貴方は医者の収入源になるのねとお腹に宣告した。ふと鞄に入れたままだった携帯の確認をすると、少年から何通もメールが来ていた。ごめんなさいとか、嫌わないでとか、そういった内容ばかりで、ミナちゃんに比べて何の勘も働かないなと自分の相手と自分自身のダメさに面白くなってきた。面白序でに妊娠のお知らせでもしてやるかと、メールで明日家に行くよと返信した。
朝目覚めると、久しぶりに酷い雨が降っていて、開けっ放しにしていた網戸とカーテンが湿気に包まれていた。風がなく真っ直ぐに落ちてくる雨を見つめて、窓を閉めるとクーラーをつけた。寝ている間に入れていると喉や眼が乾燥でやられてしまうんだ。時計を見ると朝の十時過ぎで、再びベッドに寝転がった。トランクスの合間から手を差し込んで、割れ目に触れる。昨日オナニーをして放置をして寝たマンコはまだ少し濡れていた。何度か指を滑らせて中指を濡らすと、クリトリスに触れてオナニーをした。寝起きで覚醒していない身体はあまり快感を感じてくれなくて、ただ擦り続けた。何分か経った後に急に波が来てイった。マンコがまた液体を分泌して、今度はマンコの中に指を入れた。入り口のでこぼこした肉から、中指の根元まで差し込むと凹凸の少ない肉に挟まれる。内側からと外側からクリトリスを弄るとすぐに達した。入れている中指を何度も締め付けられて、根元が痛くて、よくこれより太いチンコが入って痛くないものだなと思った。二度の絶頂で身体が弛緩しきって、二度寝をしてしまった。
二度目の目覚めは携帯のバイブ音に迎えられた。半開きの目で携帯を見ると、少年からメールが来ていた。来ないんですかという、馬鹿みたいな顔文字が入ったメールだった。この前のごめんなさいメールはどうしたんだと顔を顰めた。時刻を確認すると三時で、寝過ぎて痛い頭を枕から引き上げた。シャワーを浴びて軽く化粧をすると、顔色が悪くてハイライトとチークを多目にする。少し長いTシャツのようなワンピースを着て、鞄に携帯と財布を入れる。さて、見物だ。今日はセックスしないな、多分と玄関の扉を開くと雨は続いていてミュールをパンプスに履き替えた。
「文子さん!」
少年は笑顔で私を迎え入れてくれて、私も笑顔で部屋に入った。部屋に入った途端に、ベッドに押し倒されて、胸に顔を埋められた。腰に手を回されると少し腰が変な形になって痛い。ワンピースは捲くれあがってパンツが見えそうだ。少年は無言で胸を何度か顔で押した後に、顔を上げてキスをした。触れるだけのキスを何度かされて、本題に入りたかったので肩を押し返した。
「ん?」
「一応報告することがあるんだよね」
「え、何かあったんすか?」
私は天井と少年の顔を見て、妊娠しましたと告げた。少年の顔は案の定見物だった。目を見開いた後に何度か瞬きをして、え?ともう一度首を傾げた。唇が少し震えているように見える。私はもう一度、妊娠したの、涼介君の子供と目を反らさずに言った。正確には誰の子かわかりゃしないんだけど。少年はよろけながら私の上から退いて、ベッドの横の壁に背中を預けて寄りかかった。斜めに倒された私の足を上手く避けて少年はベッドの上で放心する。私は身体を起こして、同じように壁に寄りかかった。少年にはくっ付かずに隙間を空ける。少年はこちらを見ずに自分の膝辺りを見て震えていた。まぁ可哀想にと自分で堕ろすから気にしないでという言葉を飲み込んだ。もっと追い詰められてしまえばいいのに。嗜虐的な考えが浮かんで、私はサドでもマゾでもないんだなと笑いを耐えた。客観的に見たら一番哀れでどうしようもなくて放心すべきなのは私なのだが。
「ぁ、あの……文子さん、子供、どうするんですか?」
「生まないよ。だって私育てる気ないし、大学辞めるつもりもないし」
「そう、ですか。えっと、じゃあ、堕ろすってことですよね?」
「うん」
私は頷いて、少年は少しほっとしたような顔をした。でもその後にまた険しい顔になった。私から顔を反らして手を組むような格好をして指先動かした。最初いじめとかの話をしたときに見た癖だ。最近は見ていなかった。指と爪の擦れる音がして、私は少年から顔を反らして足を抱いた。体育すわりみたいな格好だ。急に少年が隣から立ち上がって、目の前辺りの机に座ってパソコンを動かしだした。カチカチとクリック音と短いキーボード入力の音がして、彼が何かを検索しているのが見える。めまぐるしく変わる画面で、淡い黄色やピンクの背景の画面が広がった。
「文子さん、この辺りだと産婦人科総合病院じゃないと、無いみたいです」
「そうなんだ」
「あ、あと、俺、金とか……」
「いいよ、自分で出す」
その言葉を聞いた少年は私に顔を向けて会釈をした。大きな溜息をついて髪をかきあげる。馬鹿らしい。その程度の情報お前に探してもらわなくて自分で探すよ。というか会釈じゃないくて何か言葉は無いのかよ。てめぇが今調べてるのに中絶費用の金額は出てねぇのかよ。別に彼に何を求めていたわけじゃない。でももっと狼狽して、どうしよなく泣きついて、それで自分で堕ろすからいいよって言って遊ぼうと思ってたんだ。何てめぇ安心しきってるんだよとよくわからない感情に包まれる。少年は何を調べたのかよくわからないが、パソコンから離れて私のところに来ると、お腹を触った。何度か擦ると、多分手術入院何日とかじゃないみたいですとか、今見てきたらしい情報を喋った。
でも結論は決まっている、私の中では。孕ませたような奴とその子供堕胎しておきながら付き合っていけるほど私は図太くないし、少年にそこまでの執着や偏愛は無い。ここで彼とはお別れだ。手切れ金に中絶費用を請求しに来たわけじゃないけど、もっと面白いのを貰おうと思っていたのに。少年のよくわからない情報を聞き流すと、私は言葉を吐き捨てた。
「うん、わかった。情報ありがとう。じゃあ、これでさようなら」
少年の手も纏わり着く視線も全部無視して私は鞄を取り上げるとドアに向かった。少年が何で!と叫んで私の腕を掴んだ。痛い。疎ましい気持ちで少年を睨むと彼は泣きそうな顔をしていた。泣けばいいのかよ。泣きたいのはこっちだ。金も要求出来ないようなガキしか手元に無くて自分で支払って中絶しなきゃなんねぇんだよ。あーあ、不公平だ。何でこっちの身体に宿ることになるんだ。それでいてこっちが避妊気を付けても力でねじ伏せられたら何も出来ないんだ。今回の場合は気を付けてなかったけど。
「痛いんだけど」
「待って、下さい。何で、さようならなんですか?」
「だって子供出来て中絶するのに付き合い続けれると思う?」
「で、でも、俺は文子さんの事好きです!」
「好きな女妊娠させても平気なんだ」
「いや、それは、じゃ、じゃあ!俺ちゃんと働いて金出します。こんなの、嫌です!」
知らねぇよ。何度かやりとりをすると少年はヒステリックに叫びだした。こんな修羅場になるとは思っていなかった。ならないとも思っていなかったけど。言い合いをしていると玄関のチャイムの音が鳴った。私が実加ちゃんじゃないのと言うと、少年は関係無いでしょう叫んだ。それから私も何度か大きな声を出して、掴まれている腕を振り切ってドアを開いた。基本的に修羅場なんて逃げるに決まっている。ドアを開けたすぐ横に実加ちゃんが立っていた。驚いて、ドアを開けたまま固まった。この家は前のババアと言い、どうして急に人が現れるんだ。私はお邪魔しましたと言うと足を踏み出した。目の前の階段を降りようとすると、鞄を掴まれた。
「っ、何?」
「もういい加減にしてもらえませんか?どれだけ金先輩振り回すんですか!?」
関係無い第三者が出てくるんじゃねぇよと睨んだけれど、実加ちゃんは目を反らさない。少年は私と同じく急な実加ちゃんの出現に驚いて止まっていた。私は肘を振り上げて掴まれた鞄を奪い返そうとした。鞄と肘が実加ちゃんの顔にぶつかった。私は大きく舌打ちをした。その瞬間に実加ちゃんが私をきっと睨み返した。そして私の頬を打った。どうして打たれているのかわからないし、右の頬を打たれれば左をなんて信仰が無いから頭に血が上った。
「この糞ガキがっ!!」
自分の中で留めている汚い言葉を叫んで持っていた鞄で実加ちゃんの頭を狙って振り下ろした。鞄は顔辺りに当たって、実加ちゃんが一瞬怯んだように見えた。
「クッソババア!!」
実加ちゃんが私を押した。私の身体はスローモーションで階段から転げ落ちた。落ちる瞬間に見えた少年は驚いた顔をして、固まっていた。私がどこに助けを求めたのかわからないけれど伸ばした腕は空を切った。自分の身体が落ちていった音の方が大きかっただろうけれど、私の耳にはバッグから飛び出した携帯が落ちる音の方が響いた。
「あぁ、痛ってぇ!!痛ぇ…………痛いーーー!!マジ、痛ぇー、糞ガキ、痛い、許さねぇからなぁぁ、痛ぇぇ!!」
一階に辿り着くと下腹部に激痛が走った。右手で腹部のワンピースを握り締めて痛みに耐えた。丸まっている身体の太ももは鮮血に染められていた。淀んだ空気が漂う金家で私の流す鮮血だけが異様に発色していて、雨の音が響いているのが馬鹿らしいほど悲劇だ。
二度目の目覚めは携帯のバイブ音に迎えられた。半開きの目で携帯を見ると、少年からメールが来ていた。来ないんですかという、馬鹿みたいな顔文字が入ったメールだった。この前のごめんなさいメールはどうしたんだと顔を顰めた。時刻を確認すると三時で、寝過ぎて痛い頭を枕から引き上げた。シャワーを浴びて軽く化粧をすると、顔色が悪くてハイライトとチークを多目にする。少し長いTシャツのようなワンピースを着て、鞄に携帯と財布を入れる。さて、見物だ。今日はセックスしないな、多分と玄関の扉を開くと雨は続いていてミュールをパンプスに履き替えた。
「文子さん!」
少年は笑顔で私を迎え入れてくれて、私も笑顔で部屋に入った。部屋に入った途端に、ベッドに押し倒されて、胸に顔を埋められた。腰に手を回されると少し腰が変な形になって痛い。ワンピースは捲くれあがってパンツが見えそうだ。少年は無言で胸を何度か顔で押した後に、顔を上げてキスをした。触れるだけのキスを何度かされて、本題に入りたかったので肩を押し返した。
「ん?」
「一応報告することがあるんだよね」
「え、何かあったんすか?」
私は天井と少年の顔を見て、妊娠しましたと告げた。少年の顔は案の定見物だった。目を見開いた後に何度か瞬きをして、え?ともう一度首を傾げた。唇が少し震えているように見える。私はもう一度、妊娠したの、涼介君の子供と目を反らさずに言った。正確には誰の子かわかりゃしないんだけど。少年はよろけながら私の上から退いて、ベッドの横の壁に背中を預けて寄りかかった。斜めに倒された私の足を上手く避けて少年はベッドの上で放心する。私は身体を起こして、同じように壁に寄りかかった。少年にはくっ付かずに隙間を空ける。少年はこちらを見ずに自分の膝辺りを見て震えていた。まぁ可哀想にと自分で堕ろすから気にしないでという言葉を飲み込んだ。もっと追い詰められてしまえばいいのに。嗜虐的な考えが浮かんで、私はサドでもマゾでもないんだなと笑いを耐えた。客観的に見たら一番哀れでどうしようもなくて放心すべきなのは私なのだが。
「ぁ、あの……文子さん、子供、どうするんですか?」
「生まないよ。だって私育てる気ないし、大学辞めるつもりもないし」
「そう、ですか。えっと、じゃあ、堕ろすってことですよね?」
「うん」
私は頷いて、少年は少しほっとしたような顔をした。でもその後にまた険しい顔になった。私から顔を反らして手を組むような格好をして指先動かした。最初いじめとかの話をしたときに見た癖だ。最近は見ていなかった。指と爪の擦れる音がして、私は少年から顔を反らして足を抱いた。体育すわりみたいな格好だ。急に少年が隣から立ち上がって、目の前辺りの机に座ってパソコンを動かしだした。カチカチとクリック音と短いキーボード入力の音がして、彼が何かを検索しているのが見える。めまぐるしく変わる画面で、淡い黄色やピンクの背景の画面が広がった。
「文子さん、この辺りだと産婦人科総合病院じゃないと、無いみたいです」
「そうなんだ」
「あ、あと、俺、金とか……」
「いいよ、自分で出す」
その言葉を聞いた少年は私に顔を向けて会釈をした。大きな溜息をついて髪をかきあげる。馬鹿らしい。その程度の情報お前に探してもらわなくて自分で探すよ。というか会釈じゃないくて何か言葉は無いのかよ。てめぇが今調べてるのに中絶費用の金額は出てねぇのかよ。別に彼に何を求めていたわけじゃない。でももっと狼狽して、どうしよなく泣きついて、それで自分で堕ろすからいいよって言って遊ぼうと思ってたんだ。何てめぇ安心しきってるんだよとよくわからない感情に包まれる。少年は何を調べたのかよくわからないが、パソコンから離れて私のところに来ると、お腹を触った。何度か擦ると、多分手術入院何日とかじゃないみたいですとか、今見てきたらしい情報を喋った。
でも結論は決まっている、私の中では。孕ませたような奴とその子供堕胎しておきながら付き合っていけるほど私は図太くないし、少年にそこまでの執着や偏愛は無い。ここで彼とはお別れだ。手切れ金に中絶費用を請求しに来たわけじゃないけど、もっと面白いのを貰おうと思っていたのに。少年のよくわからない情報を聞き流すと、私は言葉を吐き捨てた。
「うん、わかった。情報ありがとう。じゃあ、これでさようなら」
少年の手も纏わり着く視線も全部無視して私は鞄を取り上げるとドアに向かった。少年が何で!と叫んで私の腕を掴んだ。痛い。疎ましい気持ちで少年を睨むと彼は泣きそうな顔をしていた。泣けばいいのかよ。泣きたいのはこっちだ。金も要求出来ないようなガキしか手元に無くて自分で支払って中絶しなきゃなんねぇんだよ。あーあ、不公平だ。何でこっちの身体に宿ることになるんだ。それでいてこっちが避妊気を付けても力でねじ伏せられたら何も出来ないんだ。今回の場合は気を付けてなかったけど。
「痛いんだけど」
「待って、下さい。何で、さようならなんですか?」
「だって子供出来て中絶するのに付き合い続けれると思う?」
「で、でも、俺は文子さんの事好きです!」
「好きな女妊娠させても平気なんだ」
「いや、それは、じゃ、じゃあ!俺ちゃんと働いて金出します。こんなの、嫌です!」
知らねぇよ。何度かやりとりをすると少年はヒステリックに叫びだした。こんな修羅場になるとは思っていなかった。ならないとも思っていなかったけど。言い合いをしていると玄関のチャイムの音が鳴った。私が実加ちゃんじゃないのと言うと、少年は関係無いでしょう叫んだ。それから私も何度か大きな声を出して、掴まれている腕を振り切ってドアを開いた。基本的に修羅場なんて逃げるに決まっている。ドアを開けたすぐ横に実加ちゃんが立っていた。驚いて、ドアを開けたまま固まった。この家は前のババアと言い、どうして急に人が現れるんだ。私はお邪魔しましたと言うと足を踏み出した。目の前の階段を降りようとすると、鞄を掴まれた。
「っ、何?」
「もういい加減にしてもらえませんか?どれだけ金先輩振り回すんですか!?」
関係無い第三者が出てくるんじゃねぇよと睨んだけれど、実加ちゃんは目を反らさない。少年は私と同じく急な実加ちゃんの出現に驚いて止まっていた。私は肘を振り上げて掴まれた鞄を奪い返そうとした。鞄と肘が実加ちゃんの顔にぶつかった。私は大きく舌打ちをした。その瞬間に実加ちゃんが私をきっと睨み返した。そして私の頬を打った。どうして打たれているのかわからないし、右の頬を打たれれば左をなんて信仰が無いから頭に血が上った。
「この糞ガキがっ!!」
自分の中で留めている汚い言葉を叫んで持っていた鞄で実加ちゃんの頭を狙って振り下ろした。鞄は顔辺りに当たって、実加ちゃんが一瞬怯んだように見えた。
「クッソババア!!」
実加ちゃんが私を押した。私の身体はスローモーションで階段から転げ落ちた。落ちる瞬間に見えた少年は驚いた顔をして、固まっていた。私がどこに助けを求めたのかわからないけれど伸ばした腕は空を切った。自分の身体が落ちていった音の方が大きかっただろうけれど、私の耳にはバッグから飛び出した携帯が落ちる音の方が響いた。
「あぁ、痛ってぇ!!痛ぇ…………痛いーーー!!マジ、痛ぇー、糞ガキ、痛い、許さねぇからなぁぁ、痛ぇぇ!!」
一階に辿り着くと下腹部に激痛が走った。右手で腹部のワンピースを握り締めて痛みに耐えた。丸まっている身体の太ももは鮮血に染められていた。淀んだ空気が漂う金家で私の流す鮮血だけが異様に発色していて、雨の音が響いているのが馬鹿らしいほど悲劇だ。
痛い痛い熱い股が気持ち悪い、こっち見てんじゃねぇよ糞ガキが、痛い、痛い、嗚呼もう何起きたんだ、畜生畜生。床で丸まりながら痛みに耐えて、奥歯をかみ締めた。涙が軽く浮かんで、景色がぼやけた。リビングから凄い勢いでお婆さんが走ってきて、文子ちゃん文子ちゃんと泣き叫んだ。泣きたい、泣いているのは私だ。少年がババアと同じ勢いで階段を駆け下りてきて、私の横を通り抜けてリビングに入った。お婆さんに膝枕をされるような状態で泣いた。実加ちゃんは二階から私を見下ろしていた。少し時間が経って少年が救急車呼びました文子さんとババアの横から私の手を握った。すげぇな、自分が押したんじゃねぇとすぐ呼ぶんだ、と変に感心しながら手を握り返した。汗が大量に出てきて、涙も出て、鼻水も出て、出血もして、私の中の体液が全て排出されてしまいそうだ。
救急隊員が来て、私を担架に乗せて救急車に乗せた。少し雨に打たれてうざかった。救急車に乗るのは初めてだったけど、何故かお婆さんが付き添いで横に座っていて、霊柩車みたいと思った。反対の横には救急隊員が忙しなく動いて私に何かの治療をしていて嫌だった。身体が発熱したように熱くて、アイラインを涙で流し落とした。ウォータープルーフは伊達じゃないようで、マスカラは落ちなかった。救急隊員は私に頑張りましょうとか、大丈夫ですからねと話してきたけれど、もう結構だとまた泣いた。頑張りたくなんてない、私はこの人生二十年頑張ったことなんて無い。大丈夫って何が大丈夫なんだ、ガキに手出して妊娠してガキに突き落とされて股から血垂れ流して内心流れろなんて思っている女のどこが大丈夫なんだ。
「ころ……殺し…………殺して…………ぅ」
「え?何ですかー??」
大きな声で救急隊員は聞き返して来て、嗚咽を漏らした。お婆さんが文子ちゃんとお腹を擦った。その行為を救急隊員に注意されて、お婆さんはしゅんと小さくなった。いつもなら笑えるのに今日は感情がぐっちゃぐちゃだ。病院に着いて、救急隊員が日本語じゃないような言葉を言って私はドラマみたいに手術室に搬送された。女医さんが私の顔の前に来て、ちょっと赤ちゃんは無理かもしれませんと暗い顔をした。
「殺して……下さい」
「は?」
「殺して、どうせ、堕ろす気でした、から」
荒い息で答えると、女医さんは顔を曇らせて、わかりました、多分亡くなっていると思いますが排出しますと言った。マンコにチンコとか指以外の物が入るのは初めてだなと、何となく落ち着いてきた。注射をされて、数十分興奮し続けたせいか非常に眠くなって、重い瞼を閉じた。次目覚める時には私は一人になっている。私の中の人間は排出され、捨てられ、私は私一人になる。酷い人間だ、酷い女だ、こんな時だけセンチメンタルになって馬鹿みたいだ、いや馬鹿なんだ、頭の螺子が外れきっているんだ。真っ暗になる。
次目覚めると真っ白だった。ベッドに寝かされていて、誰も居なかった。真っ白なカーテンに区切られていて、窓から見える空も青くなく真っ白で、入ってくる光も真っ白だった。消毒液のような変な匂いがする。自分の身体もいつものムスクの匂いがしなくて不愉快だ。身体を起こすと、急に吐き気がこみ上がって左手で口を押さえたが胃液のような物を嘔吐した。白い布団の上にぼたぼたと吐瀉物が落ちる。左手で口を押さえたままナースコールを押した。看護師さんがカーテンを開けて、もう一度閉めて、また開けて、私に銀色の桶のようなものを差し出して、液体を受け止めた。手と口を洗いましょうと支えてもらいながらベッドから立ち上がった。身体は酷くだるいだけで、痛みは何も無かった。頭が重かった。洗面台のような場所で手と口を洗って、鏡で見た顔はすっぴんで疲労が見えた。三十路のババアのような顔をしていた。後ろで待つ看護師さんに支えられてもう一度ベッドに戻った。看護師さんは少しお聞きしたいこととお伝えしたいことがありますとまたカーテンに消えていった。シーツに溶けてしまいたいが、こんな汚れた私を白いシーツが受け入れてくれるはずがないと身体を起こしたまま看護師さんを待つ。すぐに彼女は戻ってきて、妊娠した可能性のある時期だとか、事故の状況だとかを聞いてきて、私は一問一答をした。その後それでしたら頭を打ち付けている可能性があるますねとレントゲンと脳のCTスキャンの予約をしておきますと笑顔を見せた。何が可笑しいのか。私は無表情で頷いた。その後、検査のため二、三日入院して下さいねと言われた。
「それと、手術は成功しましたし、子宮等には異常なく今後妊娠することも可能ですよ」
「ああ、そうですか」
何とも言えない顔で言われ、私は窓に視線を移して答えた。全く悲劇のヒロインにもなれはしない。ただの胎児を堕胎した加害者だ。私なんかの遺伝子や全ては次世代に残る事なく駆逐されるべきなのに。憎まれっ子世に憚るとはまさにこれだ。大きな溜息をついて、看護師さんを見送った。とりあえずピルの処方を受けるのと水子供養に行かないとなと思った。
その後の検査に何も異常は無く、入院中に誰も見舞いに来なくて、本当に病院に居る価値が無い女だなと思った。医者も看護師も女だらけで、とても居心地が悪かった。男の医者が検査と称しながらマンコを弄ってくれればいいのにとAVみたいな妄想をしてみる。退院時に請求された額は私が調べていた中絶費用なんかよりも遥かに高くて、クレジットカードを出しながら、いい商売だなと今度は医学部に狙いを定めようと心に決めた。携帯に溜まっていた少年からのメールは一気に削除をした。
救急隊員が来て、私を担架に乗せて救急車に乗せた。少し雨に打たれてうざかった。救急車に乗るのは初めてだったけど、何故かお婆さんが付き添いで横に座っていて、霊柩車みたいと思った。反対の横には救急隊員が忙しなく動いて私に何かの治療をしていて嫌だった。身体が発熱したように熱くて、アイラインを涙で流し落とした。ウォータープルーフは伊達じゃないようで、マスカラは落ちなかった。救急隊員は私に頑張りましょうとか、大丈夫ですからねと話してきたけれど、もう結構だとまた泣いた。頑張りたくなんてない、私はこの人生二十年頑張ったことなんて無い。大丈夫って何が大丈夫なんだ、ガキに手出して妊娠してガキに突き落とされて股から血垂れ流して内心流れろなんて思っている女のどこが大丈夫なんだ。
「ころ……殺し…………殺して…………ぅ」
「え?何ですかー??」
大きな声で救急隊員は聞き返して来て、嗚咽を漏らした。お婆さんが文子ちゃんとお腹を擦った。その行為を救急隊員に注意されて、お婆さんはしゅんと小さくなった。いつもなら笑えるのに今日は感情がぐっちゃぐちゃだ。病院に着いて、救急隊員が日本語じゃないような言葉を言って私はドラマみたいに手術室に搬送された。女医さんが私の顔の前に来て、ちょっと赤ちゃんは無理かもしれませんと暗い顔をした。
「殺して……下さい」
「は?」
「殺して、どうせ、堕ろす気でした、から」
荒い息で答えると、女医さんは顔を曇らせて、わかりました、多分亡くなっていると思いますが排出しますと言った。マンコにチンコとか指以外の物が入るのは初めてだなと、何となく落ち着いてきた。注射をされて、数十分興奮し続けたせいか非常に眠くなって、重い瞼を閉じた。次目覚める時には私は一人になっている。私の中の人間は排出され、捨てられ、私は私一人になる。酷い人間だ、酷い女だ、こんな時だけセンチメンタルになって馬鹿みたいだ、いや馬鹿なんだ、頭の螺子が外れきっているんだ。真っ暗になる。
次目覚めると真っ白だった。ベッドに寝かされていて、誰も居なかった。真っ白なカーテンに区切られていて、窓から見える空も青くなく真っ白で、入ってくる光も真っ白だった。消毒液のような変な匂いがする。自分の身体もいつものムスクの匂いがしなくて不愉快だ。身体を起こすと、急に吐き気がこみ上がって左手で口を押さえたが胃液のような物を嘔吐した。白い布団の上にぼたぼたと吐瀉物が落ちる。左手で口を押さえたままナースコールを押した。看護師さんがカーテンを開けて、もう一度閉めて、また開けて、私に銀色の桶のようなものを差し出して、液体を受け止めた。手と口を洗いましょうと支えてもらいながらベッドから立ち上がった。身体は酷くだるいだけで、痛みは何も無かった。頭が重かった。洗面台のような場所で手と口を洗って、鏡で見た顔はすっぴんで疲労が見えた。三十路のババアのような顔をしていた。後ろで待つ看護師さんに支えられてもう一度ベッドに戻った。看護師さんは少しお聞きしたいこととお伝えしたいことがありますとまたカーテンに消えていった。シーツに溶けてしまいたいが、こんな汚れた私を白いシーツが受け入れてくれるはずがないと身体を起こしたまま看護師さんを待つ。すぐに彼女は戻ってきて、妊娠した可能性のある時期だとか、事故の状況だとかを聞いてきて、私は一問一答をした。その後それでしたら頭を打ち付けている可能性があるますねとレントゲンと脳のCTスキャンの予約をしておきますと笑顔を見せた。何が可笑しいのか。私は無表情で頷いた。その後、検査のため二、三日入院して下さいねと言われた。
「それと、手術は成功しましたし、子宮等には異常なく今後妊娠することも可能ですよ」
「ああ、そうですか」
何とも言えない顔で言われ、私は窓に視線を移して答えた。全く悲劇のヒロインにもなれはしない。ただの胎児を堕胎した加害者だ。私なんかの遺伝子や全ては次世代に残る事なく駆逐されるべきなのに。憎まれっ子世に憚るとはまさにこれだ。大きな溜息をついて、看護師さんを見送った。とりあえずピルの処方を受けるのと水子供養に行かないとなと思った。
その後の検査に何も異常は無く、入院中に誰も見舞いに来なくて、本当に病院に居る価値が無い女だなと思った。医者も看護師も女だらけで、とても居心地が悪かった。男の医者が検査と称しながらマンコを弄ってくれればいいのにとAVみたいな妄想をしてみる。退院時に請求された額は私が調べていた中絶費用なんかよりも遥かに高くて、クレジットカードを出しながら、いい商売だなと今度は医学部に狙いを定めようと心に決めた。携帯に溜まっていた少年からのメールは一気に削除をした。