第15ターン
【王様】結晶石タイル2枚 勝利まであと1ターン(このターンが終われば勝利)
「諸君もご存知の通り、私の先祖であるサンパドレイグ1世は、何も無い地にゼロからこの国を作り上げた。
告白しよう。サンパドレイグ1世は、私と同じように魔王と契約をしてこの大地を人の住める環境に作り変えた。砂漠に潤いをもたらし、森を生やし、山を作った。そしてその対価として、地上と魔界を繋ぐ門が作られた。それしか方法が無かったのだ。流浪の民であった我が民族には、安寧の地がどうしても必要だった。
私が魔王とした契約は、その時の契約の続きだ。この国を再度耕す代わりに、魔界への扉も開く。非常に危険な契約だ。
自らの傲慢さのせいで、諸君から嫌われた私には、最早それしか手が残されていなかった。私は、そんな私を恥じている。なんと軽率な判断だっただろうか。悔やんでも悔やみきれない。反省している。
だが、昨日のグリルテンからの宣戦布告で、私の考えに少し変化が起きた。
……私には、運命に思えてならないのだ。私が魔王と契約をした事。魔王がデーモンを召喚した事。そしてデーモンが南の街を守った事。
この世界には偶然など存在しえない。全ては神の……いや、神でなくても良い。何か大いなる意思の導きによって、形作られているのだ。私はそれに従った。そして最善の選択をした。
だからこそ、あえて今約束しよう。魔王は必ずや滅びる。最後に勝つのは私達人間であり、この国なのだ。
最後に、我がサンパドレイグ王家に伝わる言葉を持ってこの演説を締めさせていただく。
『我は王なり。民達にとっての、暗き道を照らす一条の明かりなり』」
・青のレベル4、灰のレベル4タイルを設置
「諸君もご存知の通り、私の先祖であるサンパドレイグ1世は、何も無い地にゼロからこの国を作り上げた。
告白しよう。サンパドレイグ1世は、私と同じように魔王と契約をしてこの大地を人の住める環境に作り変えた。砂漠に潤いをもたらし、森を生やし、山を作った。そしてその対価として、地上と魔界を繋ぐ門が作られた。それしか方法が無かったのだ。流浪の民であった我が民族には、安寧の地がどうしても必要だった。
私が魔王とした契約は、その時の契約の続きだ。この国を再度耕す代わりに、魔界への扉も開く。非常に危険な契約だ。
自らの傲慢さのせいで、諸君から嫌われた私には、最早それしか手が残されていなかった。私は、そんな私を恥じている。なんと軽率な判断だっただろうか。悔やんでも悔やみきれない。反省している。
だが、昨日のグリルテンからの宣戦布告で、私の考えに少し変化が起きた。
……私には、運命に思えてならないのだ。私が魔王と契約をした事。魔王がデーモンを召喚した事。そしてデーモンが南の街を守った事。
この世界には偶然など存在しえない。全ては神の……いや、神でなくても良い。何か大いなる意思の導きによって、形作られているのだ。私はそれに従った。そして最善の選択をした。
だからこそ、あえて今約束しよう。魔王は必ずや滅びる。最後に勝つのは私達人間であり、この国なのだ。
最後に、我がサンパドレイグ王家に伝わる言葉を持ってこの演説を締めさせていただく。
『我は王なり。民達にとっての、暗き道を照らす一条の明かりなり』」
・青のレベル4、灰のレベル4タイルを設置
【鍛冶屋】勝利まであと:1400G 作成した武器:妖剣ノイニモッド
東西南北各街の代表者が首都に集まり、王の演説の後会議を開いた。グレンは議長席に座っているが、傍観の姿勢をとっており、発言は全く無い。
「王は正しい事をした。現に私の街は、王によって救われた」
と言ったのは南の街の領主。確かに、王が魔王との契約をしなければ、グリルテンの猛攻撃によって、南の街は壊滅的な被害を受けていた。それに異論を唱えたのは、西の街の代表。
「ふざけるな! 今、西の街の領主である私の父は、あの訳の分からない化け物に監禁され、住民は病に伏せているのだぞ!」
西の街代表は、領主の息子。偶然、資源の探索に出かけていた為、ウーズの被害を受けずに済み、この席に出席している。
それに反論するのはやはり南の街の領主。
「資源はどうする? 資源は全て王が魔王と契約した事によってもたらされた物だ。この恩恵によって、沢山の人が救われるはずだ」
「そもそも王が圧政を強いらなければ、我々はもっと楽に暮らせていたんだ。自業自得。やはりこの国の代表は、グレン様が相応しい」
「いや、王だ。王こそがこの国だ」
南の街と西の街の意見ははっきりと分かれていた。前者は王による統治継続を支持し、後者はグレンによる革命を支持している。沈黙を持って見守るのは二人。北の街の領主と、東の街の領主エルーシャ。
「北はどう思うのだ?」
北の街の領主は、齢80を越えた老人だった。目を瞑り、その表情は険しく、沈黙したまま微動だにしない。
「その前に、もう1つの可能性を提案したい」
と言って立ち上がったのはエルーシャ。全員が注目する。
「……この国で唯一、自らを犠牲にして戦っている者がいます」
・灰のレベル4タイルを採取、-400G
東西南北各街の代表者が首都に集まり、王の演説の後会議を開いた。グレンは議長席に座っているが、傍観の姿勢をとっており、発言は全く無い。
「王は正しい事をした。現に私の街は、王によって救われた」
と言ったのは南の街の領主。確かに、王が魔王との契約をしなければ、グリルテンの猛攻撃によって、南の街は壊滅的な被害を受けていた。それに異論を唱えたのは、西の街の代表。
「ふざけるな! 今、西の街の領主である私の父は、あの訳の分からない化け物に監禁され、住民は病に伏せているのだぞ!」
西の街代表は、領主の息子。偶然、資源の探索に出かけていた為、ウーズの被害を受けずに済み、この席に出席している。
それに反論するのはやはり南の街の領主。
「資源はどうする? 資源は全て王が魔王と契約した事によってもたらされた物だ。この恩恵によって、沢山の人が救われるはずだ」
「そもそも王が圧政を強いらなければ、我々はもっと楽に暮らせていたんだ。自業自得。やはりこの国の代表は、グレン様が相応しい」
「いや、王だ。王こそがこの国だ」
南の街と西の街の意見ははっきりと分かれていた。前者は王による統治継続を支持し、後者はグレンによる革命を支持している。沈黙を持って見守るのは二人。北の街の領主と、東の街の領主エルーシャ。
「北はどう思うのだ?」
北の街の領主は、齢80を越えた老人だった。目を瞑り、その表情は険しく、沈黙したまま微動だにしない。
「その前に、もう1つの可能性を提案したい」
と言って立ち上がったのはエルーシャ。全員が注目する。
「……この国で唯一、自らを犠牲にして戦っている者がいます」
・灰のレベル4タイルを採取、-400G
【魔王】所持モンスター:ウーズ(黄1) ウーズ(緑1) オーク(青3)ドラゴン(青6)ワーム(灰4)
支配モンスター:ウーズ(黒1)×2 ワーム(緑4) デーモン(青5) オーク(赤3)
支配中の街:西、北
「デーモン、私は覚悟を決めたぞ」
ネイファの声は、高地の湖水のように澄んでいた。昨日の挫折から立ち直った訳ではない。空元気、と呼ぶのに相応しい状態。
デーモンは嫌な予感に苛まれながらも尋ねる。
「何のご覚悟ですか?」
ネイファは爽やかな笑みをたたえて答えた。
「決着をつける覚悟だ」
・魔王を移動
支配モンスター:ウーズ(黒1)×2 ワーム(緑4) デーモン(青5) オーク(赤3)
支配中の街:西、北
「デーモン、私は覚悟を決めたぞ」
ネイファの声は、高地の湖水のように澄んでいた。昨日の挫折から立ち直った訳ではない。空元気、と呼ぶのに相応しい状態。
デーモンは嫌な予感に苛まれながらも尋ねる。
「何のご覚悟ですか?」
ネイファは爽やかな笑みをたたえて答えた。
「決着をつける覚悟だ」
・魔王を移動
【勇者】武器レベル:MAX 所持金:200G
荒涼とした大地には、背の低い草が生え、ごつごつとした岩が転がっている。一面が黄土色の世界。遠くに見える山には命の気配がまるでない。殺風景、そこに立つ者の心を殺す、最果ての流刑地に北風が吹いていた。
「貴様が我がしもべ達を倒した者か? なんだ、ただの子供ではないか」
ネイファは少年を見て、高らかに言い放った。少年は馬から降り、ネイファに質問を投げかける。
「なぜ、僕の方に向かってきたんですか?」
それはネイファにとって意外な質問ではなかったが、されたくない質問だった。
「そんなもの、貴様を殺す為に決まっておる」
腕を組み、視線を逸らす。少年は否定する。
「それは不自然だ。僕を殺したいのなら、もっと早く出来たはずだ。最初にウーズがやられた時に、僕を追いかければ良いだけの事。ところが、あなたは僕から離れて行った」
「そ、それはただ、あの頃は貴様なんぞ眼中に無かったからだ! ついさっき、脅威だと感じたからこうしてお前に近寄った。それだけの事だ!」
人間が苦手などと知られる訳にはいかない。魔王としての意地だった。
少年は1歩、ネイファに迫る。
「本当に、そうですか?」
ネイファは後ずさりながら、答える。
「あ、ああ、そうだ」
「僕にはそうは思えない……」少年は飛剣を抜き、それをネイファに向ける。「僕には、あなたが僕に倒されたがっているようにしか見えない」
ネイファは激情に身を揺さぶる。
「何を根拠にそのような戯言を! 良かろう、その自信、粉々に砕いてやる」
両手を広げたネイファから、尋常ではない量の魔力が溢れ出した。怒りに任せ、暴力を発露させる。
大地が揺れ、ヒビが入った。それまで地面だった物が、巨大な岩石の塊となって浮き上がってくる。それに反応するように、少年の飛剣が閃いた。
刃は上空から降り、崩壊しつつある地表へと突き刺さった。さながらそれは楔のように働き、揺らぎを鎮めていく。雨のように降る刃は、少年を少しずつ傷つけながら輝く。
「小癪なっ――」
ネイファが跳んだ。剣林をもろともせず、少年に向け一直線にその肉体を加速させる。
瞬き程の時間が過ぎて、少年とネイファの距離が一気に近づく。
少年に飛び掛ったネイファが感じたのは、恐ろしい程の無抵抗だった。赤子のように、あるいは案山子のように、何の斥力も無く地面に倒れる少年と、馬乗りになるネイファ。
地鳴りが治まる。
刃の雨が止む。
「貴様、死ぬ気なのか?」
魔王が問う。勇者が答える。
「君も同じだ」
2人の瞳は良く似ていた。
その時、突風が吹いた。とても自然現象とは思えない強風だ。2人は顔をあげ、風の来る方向を見る。
彼方に見えたのは、大きな翼のドラゴン。だがその顔には見覚えがあった。
少年はネイファを払いのけて立ち上がり、叫ぶ。
「ファンクル!」
そのドラゴンは、井戸の水で治療を受け、魔力に目覚めて進化したファンクルだった。大きな翼で空を滑空し、少年の傍に降り立ったファンクルは、以前の2倍はあろうかという巨体で、尖った牙も生やしてた。しかし胸の傷は紛れも無くオークとの戦いでついた物であり、何より少年には、目を瞑ってもはっきりと、そこにファンクルがいると確信出来る何かがあった。ネイファは後ずさる。
「貴様、魔物の癖に人間に仲間するのか?」
ファンクルは答えず、少年に頬ずりをしたので、少年が代わりに答えた。
「ファンクルは友達です」
「友達? 人間と魔物なのにか?」
「友達は友達です」
ネイファにとっては、ありえない言葉だった。魔王の娘として生まれてから、ずっと誰かと戦ってきた。拷問の痛みに慣れ、涙も枯れ、それでも魔王としての誇りから、権力を掴もうと戦い続けた。そして契約の復活を機に地上に来てみれば、人間達にいいように操られ、騙され、踊らされ続けてきた。
友達。ネイファとは、最も縁の遠い言葉だった。
ネイファは後ずさりし、何かを悟ったように突然、両手を広げて笑い出した。
「はははは! 良いだろう。その友達とやらに免じて、お前を殺すのをやめてやる。さあ、私を殺せ!」
少年が指摘した通り、ネイファには最初から戦う気など無かった。ここで少年を殺した所でどうにもならない。自分の召喚した魔物を倒された恨みはあるが、結局最後はネイファ自身の弱さに負けた。それが分かっていたからこそ、潔く死のうと思っていた。ネイファの口にした『決着』とは、自分自身に対するけじめの事だった。
もしもネイファを倒せば、少年は名誉を手にいれる。何せ国の一大時を、ほとんどたった1人と1匹で救った英雄だ。王の座も容易い。
少年は、ファンクルに1度視線をやって、深く頷く。
そしてネイファの方に振り返り、こう言った。
「僕と……」
ここはサンパドレイグ王国。一応、サンパドレイグ7世が統治する王政ではあるが、民間から選出された議員による議会が存在し、実質的な政治の舵取りをしている。議長を務めるのは元鍛冶屋、元革命軍のグレン。外国に対し常に目を光らせ、国庫の管理もお手の物。
サンパドレイグ7世はというと、今はほとんど隠居に入り、表舞台に立つ事は無い。宮廷の中で、慎ましやかにひっそりと暮らしている。時々、資源によって救われたという人が尋ねてきて、雑談に花を咲かせるというなんとも庶民的な王になった。
一方、深い地の底、魔物蠢く魔界では、新たな魔王の戴冠式が行われていた。魔王の座についたのは、正統な後継者であるネイファ。地上から帰ったネイファは、それまでの鬱憤を晴らすかのような容赦無い破壊ぶりで、あっという間に腕力による魔界統治を完成させた。
「ネイファ様、これ以上ゴブリン共を苛めますと、1人で地上に放り出しますよ」
「……嫌だ」
と、このように右腕である青いデーモンが常にネイファの暴走にブレーキをかける形で、何とか魔界が成り立っている程。
地上。緑生い茂る丘に1人の青年が寝そべり、その隣に大きなドラゴンが座っていた。
「ファンクル、魔界ってどんな所だろう?」
ファンクルと呼ばれたドラゴンは優しい瞳で青年を見下ろす。青年は満足げに、欠伸を一つする。
「ああ、そろそろネイファが地上に来る頃だ。首都まで飛ぼう」
ファンクルの背に跨り、大空に飛翔する青年。その表情は、あの時の少年のままだった。
王が魔王との契約を完遂した事により、現世と魔界が破滅の井戸を通して繋がった。魔王であるネイファはその特権を利用して、時々井戸を通ってデーモンと共に地上にやってくる。
目的はもちろん、地上征服……ではなく、初めて出来た友達に会う為にだ。
・勇者が魔王と和解。勇者の勝利。
終
荒涼とした大地には、背の低い草が生え、ごつごつとした岩が転がっている。一面が黄土色の世界。遠くに見える山には命の気配がまるでない。殺風景、そこに立つ者の心を殺す、最果ての流刑地に北風が吹いていた。
「貴様が我がしもべ達を倒した者か? なんだ、ただの子供ではないか」
ネイファは少年を見て、高らかに言い放った。少年は馬から降り、ネイファに質問を投げかける。
「なぜ、僕の方に向かってきたんですか?」
それはネイファにとって意外な質問ではなかったが、されたくない質問だった。
「そんなもの、貴様を殺す為に決まっておる」
腕を組み、視線を逸らす。少年は否定する。
「それは不自然だ。僕を殺したいのなら、もっと早く出来たはずだ。最初にウーズがやられた時に、僕を追いかければ良いだけの事。ところが、あなたは僕から離れて行った」
「そ、それはただ、あの頃は貴様なんぞ眼中に無かったからだ! ついさっき、脅威だと感じたからこうしてお前に近寄った。それだけの事だ!」
人間が苦手などと知られる訳にはいかない。魔王としての意地だった。
少年は1歩、ネイファに迫る。
「本当に、そうですか?」
ネイファは後ずさりながら、答える。
「あ、ああ、そうだ」
「僕にはそうは思えない……」少年は飛剣を抜き、それをネイファに向ける。「僕には、あなたが僕に倒されたがっているようにしか見えない」
ネイファは激情に身を揺さぶる。
「何を根拠にそのような戯言を! 良かろう、その自信、粉々に砕いてやる」
両手を広げたネイファから、尋常ではない量の魔力が溢れ出した。怒りに任せ、暴力を発露させる。
大地が揺れ、ヒビが入った。それまで地面だった物が、巨大な岩石の塊となって浮き上がってくる。それに反応するように、少年の飛剣が閃いた。
刃は上空から降り、崩壊しつつある地表へと突き刺さった。さながらそれは楔のように働き、揺らぎを鎮めていく。雨のように降る刃は、少年を少しずつ傷つけながら輝く。
「小癪なっ――」
ネイファが跳んだ。剣林をもろともせず、少年に向け一直線にその肉体を加速させる。
瞬き程の時間が過ぎて、少年とネイファの距離が一気に近づく。
少年に飛び掛ったネイファが感じたのは、恐ろしい程の無抵抗だった。赤子のように、あるいは案山子のように、何の斥力も無く地面に倒れる少年と、馬乗りになるネイファ。
地鳴りが治まる。
刃の雨が止む。
「貴様、死ぬ気なのか?」
魔王が問う。勇者が答える。
「君も同じだ」
2人の瞳は良く似ていた。
その時、突風が吹いた。とても自然現象とは思えない強風だ。2人は顔をあげ、風の来る方向を見る。
彼方に見えたのは、大きな翼のドラゴン。だがその顔には見覚えがあった。
少年はネイファを払いのけて立ち上がり、叫ぶ。
「ファンクル!」
そのドラゴンは、井戸の水で治療を受け、魔力に目覚めて進化したファンクルだった。大きな翼で空を滑空し、少年の傍に降り立ったファンクルは、以前の2倍はあろうかという巨体で、尖った牙も生やしてた。しかし胸の傷は紛れも無くオークとの戦いでついた物であり、何より少年には、目を瞑ってもはっきりと、そこにファンクルがいると確信出来る何かがあった。ネイファは後ずさる。
「貴様、魔物の癖に人間に仲間するのか?」
ファンクルは答えず、少年に頬ずりをしたので、少年が代わりに答えた。
「ファンクルは友達です」
「友達? 人間と魔物なのにか?」
「友達は友達です」
ネイファにとっては、ありえない言葉だった。魔王の娘として生まれてから、ずっと誰かと戦ってきた。拷問の痛みに慣れ、涙も枯れ、それでも魔王としての誇りから、権力を掴もうと戦い続けた。そして契約の復活を機に地上に来てみれば、人間達にいいように操られ、騙され、踊らされ続けてきた。
友達。ネイファとは、最も縁の遠い言葉だった。
ネイファは後ずさりし、何かを悟ったように突然、両手を広げて笑い出した。
「はははは! 良いだろう。その友達とやらに免じて、お前を殺すのをやめてやる。さあ、私を殺せ!」
少年が指摘した通り、ネイファには最初から戦う気など無かった。ここで少年を殺した所でどうにもならない。自分の召喚した魔物を倒された恨みはあるが、結局最後はネイファ自身の弱さに負けた。それが分かっていたからこそ、潔く死のうと思っていた。ネイファの口にした『決着』とは、自分自身に対するけじめの事だった。
もしもネイファを倒せば、少年は名誉を手にいれる。何せ国の一大時を、ほとんどたった1人と1匹で救った英雄だ。王の座も容易い。
少年は、ファンクルに1度視線をやって、深く頷く。
そしてネイファの方に振り返り、こう言った。
「僕と……」
ここはサンパドレイグ王国。一応、サンパドレイグ7世が統治する王政ではあるが、民間から選出された議員による議会が存在し、実質的な政治の舵取りをしている。議長を務めるのは元鍛冶屋、元革命軍のグレン。外国に対し常に目を光らせ、国庫の管理もお手の物。
サンパドレイグ7世はというと、今はほとんど隠居に入り、表舞台に立つ事は無い。宮廷の中で、慎ましやかにひっそりと暮らしている。時々、資源によって救われたという人が尋ねてきて、雑談に花を咲かせるというなんとも庶民的な王になった。
一方、深い地の底、魔物蠢く魔界では、新たな魔王の戴冠式が行われていた。魔王の座についたのは、正統な後継者であるネイファ。地上から帰ったネイファは、それまでの鬱憤を晴らすかのような容赦無い破壊ぶりで、あっという間に腕力による魔界統治を完成させた。
「ネイファ様、これ以上ゴブリン共を苛めますと、1人で地上に放り出しますよ」
「……嫌だ」
と、このように右腕である青いデーモンが常にネイファの暴走にブレーキをかける形で、何とか魔界が成り立っている程。
地上。緑生い茂る丘に1人の青年が寝そべり、その隣に大きなドラゴンが座っていた。
「ファンクル、魔界ってどんな所だろう?」
ファンクルと呼ばれたドラゴンは優しい瞳で青年を見下ろす。青年は満足げに、欠伸を一つする。
「ああ、そろそろネイファが地上に来る頃だ。首都まで飛ぼう」
ファンクルの背に跨り、大空に飛翔する青年。その表情は、あの時の少年のままだった。
王が魔王との契約を完遂した事により、現世と魔界が破滅の井戸を通して繋がった。魔王であるネイファはその特権を利用して、時々井戸を通ってデーモンと共に地上にやってくる。
目的はもちろん、地上征服……ではなく、初めて出来た友達に会う為にだ。
・勇者が魔王と和解。勇者の勝利。
終