象牙のような白亜の肌を晒して、彼女は「切ないんだ」と言った。
頬は紅潮していた。唇は柔らかそうに濡れていた。瞳は熱っぽく私を見つめていた。伏し目がちになると、長い睫がとても色っぽく見えた。
見とれてしまっていた。言葉を失うほど可憐だった。
細くしなやかな脚も、きゅっとしまった腰も、綺麗な形の胸も、肌と対比するような長い黒髪も、全てが艶めかしく思えた。
同性だとかそんなこと、躊躇う瞬間もなかった。「シてくれないかな?」という言葉に、一も二もなく応えていた。
どんな顔を見せてくれるのか、どんな声を聞かせてくれるのか。それだけで、私が彼女の問いに応ずるには十分すぎた。
「お手を」
ユキの手をとって、そっとその甲に口付けた。従者がするように、ちょっとだけ恭しく。少しだけ吸い付いて、わざと音を立てるようなキスをしてみた。彼女の情感が煽りたくて。
指にもキスをした。唇で挟んで、微かに触れるように舐めて。そうしたら、ユキの「ぁ……」と零れる声を聞いた。その声だけで酔ってしまえそうなほど、甘く切ない声。私はその声がもっと聞きたくて、彼女の人差し指から順に、小指まで丁寧に舌を這わせた。ユキはあまり声を聞かせてくれなかったけど、彼女の表情はさっきよりもずっと欲情したものだったから、これはこれで良いとしよう。それに声は、これからも聞かせてもらえば良い。
「キス、して」
私はユキに覆い被さるようにその唇を奪って、そのまま押し倒した。彼女は私にされるがままだ。キスを命じた唇を今は濡らし、何か期待するように私を見つめている。犯したくなるほど、蠱惑的だと思った。
彼女の脚に絡めるように、私の脚を彼女の両足の間においた。彼女の自由を部分的に奪って、私はその乳房に手を伸ばす。手の平にはやや余るくらいの大きさの胸を、私はそっと揉んだ。一瞬、彼女は身体を強ばらせて、身を小さくした。両方の手で優しく揉んでいると、彼女の乳首はピンと勃っきて、ちょっとずつ彼女の息も乱れ始めた。「はっぁ……」と押し殺した吐息が、これほど興奮するものだと思わなかった。その熱っぽい息だけで、私の情感はぐっと高まってしまう。
「ふっ……は……」
「気持ち良いですか?」
「うん」
「じゃあ、もっとご奉仕致します」
私がされたように、私は彼女の乳首を舐めた。それから唇で挟んだり、吸い付いてみたり、口に含んで舌で転がしたりした。ユキの押し殺した嬌声が、たまらなく興奮する。
「ぁんっ……!」
抑えきれなくなった声さえ、どこか誘惑的に思えた。快楽を押さえ込むような、その表情がたまらなく愛おしい。
私の唾液でべとべとになった乳首を、今度は指で扱いてみた。もう片方は口の中でたっぷりと弄り倒しながら。
「んっ……くぅ……はう……」
甘やかな響き。彼女を奏でていると、独占しているような錯覚が、私に優越感まで与えそうだった。
私はもっとその感覚を味わいたかった。私の一挙一動に過敏に反応する彼女をもっと見てみたくなった。
胸を責めながら、脚を彼女の秘所に押しつけた。
「あっ……!」
ぐりぐりとそこを圧迫する。下着の上からユキの肉芽のあたりを擦ってやると、淫らな音とともに、彼女の口から嬌声が漏れた。
「あぅ……っや……ぅ……こんな……んんっ!」
じゅぐじゅぐとした粘液が立てる独特の音が聞こえて、私は少し驚いた。確かに感じてるように見えたけど、それほど濡れているとは思わなかった。
ユキの下着に手を滑り込ませた。彼女は一瞬抵抗するように私の手を掴んだけれど、私の指がべとべとの秘所に触れているのがわかると、諦めたようにその手を離した。
「すごいですね。こんなに濡れてると思いませんでした」
「……ジュンを可愛がってる時から、興奮してたんだもん。しょうがないじゃない」
「ええ、まぁ……」
「それに私はまだ一回もしてもらってないんだし……」
ユキは拗ねたように顔を背けた。よほど恥ずかしかったのか、顔が赤い。幼い子供を思わせる仕草だったけど、すごく可愛い。
「そう拗ねないでください」
私はそっと彼女の頬にキスをした。
「なに――ん……」
抗議しようと振り向いた彼女の唇を、無理矢理奪って静かにさせた。強引に舌を絡ませて、彼女から抵抗する意思を削いだ。なおも向けられる抗議の眼差しを、私は気にせずに彼女を責める。
柔らかいクレバスにずるりと指を沈めた。手を前後に動かしたり、回してみたりして、彼女のクリトリスを指の付け根で弄りながら、たっぷりと愛液を絡めた。その指で塗りつけるように彼女の肉芽を撫でた。そこはもう充血してこりこりと固く、私の指に撫でられる度に、ユキは身体を小さくして快楽に耐えているようだった。
「あ……はっ……はっぅ」
彼女の一番敏感な場所を撫で回し、秘所と同じようにべとべとになったところで指をとめた。瞳を潤ませて、上気した肌を桃色に染めて、「はー……はー……」と肩で息をしている。少し触っただけなのに、随分と感じていたみたい。一度止まった責めに気を緩めて身体を弛緩させたところに、私は次の一手を指した。
「ひゃ……あっ、くぅ!」
円を描くように、ソコを指先で弄んだ。私はユキの顔に段々と余裕がなくなっていくのを観察しながら、指の動きをゆっくりにしたり速くしたり、前後に擦るようにしてみたり、あるいは振動させてみたりして、存分にその表情の変化を楽しんだ。
「あ……あっ――! イ……」
「イキそうですか?」
彼女はこくりと頷いた。隠していた悪いことを見つけられた子供みたいなばつの悪そうな首肯は、ひどく私の情感を煽った。身体はぴくんと反ったり、痙攣するように震えたりしている。もう絶頂が近いことの証拠だ。私はすこし彼女に意地悪をしたくなって、指の動きを緩慢なものに変えた。
「ぅ……はぁ……っ……」
弄ること自体は止めていない。彼女の身体は今も鋭敏に私から与えられる快楽を貪っている。ただもうすぐ果ててしまいそうだったところで、責めを緩やかにしただけだ。
先週も昨日も、私は彼女の身体を慰めてはいない。
今日は、私の脚が触れたときには、もう十分に濡れていた。
さっきまで、そんなに責めたわけでもないのに、彼女は達してしまいそうだった。
今はユキの快楽を満たすでもなく、煽るでもなく、私はくちゅくちゅと指で水音を上げながらクリトリスを弄んでいる。
「ぅ……っくぅ……あ、あ、あっ!」
ユキのショーツが、その中で蠢く私の手の動きに合わせて形を変えた。
ユキの熱っぽい吐息と甘い声に理性が灼かれるのを堪えながら、私はゆっくりゆっくり彼女を責めた。
絶頂の直前の感覚を私は知っている。ゾクリゾクリと徐々に増していく快楽の水位を前に、次第に思考は薄れ、気持ち良いという感覚に頭が満たされていく。それも次第に満足できなくなり、体の内側から膨らんできた衝動に身を任せたいという願望が強くなる。責められている最中にそう思ってしまえば、あとはもう抗うことは出来ない。身体を震わせ、獣のように肉欲を貪るだけ。あとに残る恍惚の感覚のみがご褒美で、一度知ってしまえばその強烈な快楽を身体は忘れてくれない。イキたいというその衝動の前に、人の意思は虚しいほど薄弱だ。
”誰か”に聞かれて、自覚してしまった後では余計に。
「はぁ……あ……ああっ!」
脳内を侵すこの嬌声を、今だけは遮断したい。彼女を滅茶苦茶にしたい衝動に従いたくなるから。もう少しその快楽に溺れている表情を見せてほしかったから。
ユキはだらしなく口を開けて、目を閉じてこの責め苦に耐えている。息を乱し、下半身から駆け上がる性感を受け入れることしか出来ずにいる。私がわざと強く責めていないことが分かってるんだろう、不満そうな視線をふっと寄越すことがある。私はそ知らぬふりで少しだけ指の動きを激しくし、彼女の瞳を性の衝動に閉ざした。
私は彼女のものだから、命令さえされれば、すぐにでも彼女の望みどおりにするつもりだ。けれどどうだろう、何かを命令したとして、果たしてそれは命令になるだろうか。満足するまで慰めてほしいなんて、所謂(いわゆる)おねだりと何が違うのか、彼女も分からないわけじゃないだろう。
だからユキは私に何も言えないまま、私はそのことを知った上で指の動きを休めることはなく、十分近くの時間が過ぎた。
その間、私は余ったもう片方の手でユキの胸を弄んだり、口で舐めてもらったり、腰、胸、首筋、手にたくさん口付けた。そうやって姿勢が変わるたびにクリトリスを弄る指の角度がかわるのか、ユキは我慢できなくなったかのように色っぽい声で啼いた。
「もう……無理……! ……イかせ、っんん――!」
最後の言葉を聞き終える前に、私は彼女の肉芽ぐりぐりと激しく苛み、その言葉を中断させた。そういえば彼女に口付けている最中にも何度か似たようなことがあった気がするが、どれもたまたま偶然私が彼女の声を聞きたくなるようなタイミングだったから、結局まだ一度も何が言いたかったのか分からないままだ。
「ジュン……」
「はい。何でしょう?」
「手、止め……あぅっ! 止めてぇ!」
また一瞬激しくされて、焦った様子がなんとも言えず可愛らしい。私は言われた通りに手を止め、ユキを見つめた。
「……もう」
「やりすぎました?」
「ジュンはもっと従順だと思ってた」
「従順ですよ。お嬢様の言うことならなんでも聞きます」
拗ねた声音で言う彼女に、あくまで私は慇懃に返す。
「……本当に?」
「ええ」
「……かせて」
よく聞こえなかったけど、内容は分かっているから特に問題はない。
「下着を脱いで頂けますか?」
「うん……」
私は脚をどけてユキを解放した。下着を脱いだユキを後ろからぎゅっと抱きしめる。
「あったかいですね」
「そうだね」
ユキの真っ白なうなじにキスをし、髪を掻き分けて耳に舌を這わせた。
「はぅ……」
「んは……耳も感じます?」
「うん、結構。ねぇ?」
「はい」
「指、ナカに欲しい」
言われるまま、私は中指を彼女の内に沈めた。そこはもうとろとろに蕩けていて、私の指に内壁がきゅうと絡み付いてきた。ゆっくり出し入れすると、彼女は艶めいた息を漏らした。
「……二本、ちょうだい」
「ええ」
一度中指を抜き出してから、薬指を唾液に塗れさせて、ユキの中に挿れた。少しきつかったけれど、ナカに沈みこんでいくとき、ユキの官能的な声が聞こえた。
吸い付くようなユキの肉壁を掻き分け、私の指は何度も彼女のナカを往復した。その度にユキは「あっ……」と小さな嬌声をあげて、私を興奮させた。
「んっ……はぁっあ……っくぅ……」
クリトリスの裏側の辺り、ざらざらしたところを両方の指でなぞってやると、ユキははしたなく喘ぎ声をあげた。
「だ、あっ! ダメ! そこ……はぅ――っんんん!!」
「ここ感じます?」
ユキは感じすぎて答えられないのか、口を手で押さえながら首肯した。
私はそこを集中的に、指で押したり前後に擦ったりした。手も使ってピストンのようにそこを責めると、ユキの声はすぐに余裕がなくなり、腰も小さく跳ねた。
あれだけ焦らされた上で、感じるところを集中して責められては、もうそんなに持たないだろう。
「あああ、あ、ダメ、いやぁ!」
ユキが首を振り、髪を乱していやいやをした。本気で嫌がっているわけでもないので、私は変わらないペースで彼女の秘所をまさぐった。じゅぐじゅぐと挿入の度に立てられる音が、さらにユキの聴覚を苛んでくれる。
「ん、あ、あ、っく……んんん――!!!」
ユキが私の指をぎゅっと締めた。一瞬身体を反らせて絶頂を迎えた後、ユキは私に全体重を預けるようにもたれかかってきた。
両手で抱きたくて指を引き抜くと「ぁ……」と力が抜けた色っぽい声を彼女は発した。指に絡んだ白いどろどろをどうしようかと悩んでいると、ユキが緩慢な動作でティッシュをとって、それをふき取ってくれた。
「ごめん、汚しちゃって」
「いえ。別に汚くないですから」
私は彼女を抱いた。ユキは疲れてしまったのか、ぐったりと私に身体を預けている。安らかに気持ちの良さそうな表情だった。キスをしたくなったけど、それで止まれそうにないからひとまずやめておく。
「ジュン」
「はい」
「……どこにもいっちゃやだよ」
彼女は私の頬に手を当て、そっと呟いた。
私はその柔らかい手の平の感触を、頬で覚えながら、彼女に頭を寄せた。彼女を抱きしめる腕の力を、少しだけ強めて。
その言葉が、どこまで私を拘束するものかわからない。このタイミングで言ってきた理由も私には分からない。
ただ熱情に浮かされた行為の最中に、彼女を愛しいと思ったのは事実で。
それが終わった今も、彼女といることが心地良いのも確かな気持ちで。
「いきませんよ」
他にいるべき場所のない私は、そう答えた。
この腕に抱く彼女の吐息に耳を済ませて。
人を抱いた私は、今も空(から)だろうか。