「チェックメイトだ」
ビーストが言う。それに続いて笑い声が響く。ジョーカーが右方を見やるとパラレルが腹を抱えて笑っていた。
「お前を殺したらもうやりたい放題な。想像しただけで笑いが止まらん」
「確かに、俺がやられたらお前のやりたい放題になっちまうかもな」
翔太郎は不敵に笑った。
「だけど、俺はまだ生きてるぜ。笑うのはまだちょっと早いんじゃねえか?」
「何言ってやがる。周りをよく見てみろ。お前はもう死ぬんだ」
「まあ、確かに人間はいつか死ぬものだ。だけどな……」
ジョーカーは左手を天井に向けて伸ばした。
「お前を倒すまでは死なねえよ」
左手首には腕時計型のガジェットであるスパイダーショックが装着されていた。ワイヤーが繋がれた本体が蜘蛛の形態に変化し、射出される。そして天井の金具に貼りつくと、ワイヤーを引き戻し、背後にある資材の山よりもさらに高くジョーカーを吊り上げた。
ドーパントたちは一斉にジョーカーを見上げる。
「お前ら、俺の方を見てていいのか?」
ジョーカーがそう言うと同時に金属がひしゃげる音が鳴る。山になった資材を支えていた金具が壊れたのだ。
それにより、大量の資材がドーパントたちの真上から雪崩れ込んだ。
ドーパントたちの悲鳴と資材の雪崩れる音が混じり合う。砂埃が大量に舞い上がる。
「甘いな」
砂埃の中から影が飛びだしてきた。ホッパードーパントだ。埋められる前にジョーカーの元へと跳躍したのだ。
ホッパーは身体を捻り、蹴りを入れようとする。
「お前はこっちに飛んでくるだろうと思ったよ」
ジョーカーは焦ることなく蹴りで迎撃。ホッパーの蹴りよりも早くたたき込み、遥か下の地面に落した。
「来るのが分かってれば対応できる。それにお前はちょっと遅すぎるな」
ホッパーは砂埃の中に落下し、見えなくなる。それと入れ替わるように今度は小さな影がジョーカーに接近した。
「しかし……追い詰められたのが先にあったのが資材の山で助かったぜ」
ジョーカーは小さな影を見やる。敵ではない。それは蝙蝠の携帯に変化したデジタルカメラ型ガジェットのバットショットだった。
バットショットには物質を破壊する超音波を発する機能が備わっている。
先ほど資材の山に追い込まれた際、ジョーカーはこっそりとバットショットを自分の背と資材の背後に隠した。その後、スパイダーショックのワイヤーで上空に避難した際にそのままドーパントたちの視線を上空に誘導。その隙にバットショットは超音波で資材を支えていた金具を超音波で破壊し、雪崩を起こしたのだ。
「このまま戦い続けても勝てねえ……」
ジョーカーは先ほどまでの戦闘を通して、しっかりと作戦を考えなければいけないと悟った。このまま無理やり戦い続けても消耗するだけ。その先にあるのは死だ。
「少しでも良いから考える時間が必要だ」
ジョーカーは自分にそう言い聞かせる。
最初に起き上がったのは唯一資材に埋もれなかったホッパーだった。少ししてからビーストが持ち前のパワーで覆いかぶさる資材を払いのけて姿を見せる。
「糞がッ。どうなってやがるんだ!」
ビーストは怒りにまかせながら他の資材を吹き飛ばしていく。それによって他のドーパントたちも順に姿を現していく。
彼らはワイヤーで吊り上げられたジョーカーに注目していたためバットショットの存在には気づいていない。だから金具を壊した方法が分からないまま、混乱していた。
次第に砂埃は薄れていき、視界が開ける。ドーパントたちは天井を見上げる。が、そこには誰もいない。次に周辺を見回すが、誰も見つけることはできなかった。
「逃げやがったか?」
「いや、走るような足音は聞こえなかった。隠れているか、もしくは音を立てずに逃げようとしている最中じゃないか」
「なら、最低でもまだこの工場の中にいるわけだな」
「一人、工場の出入り口の方に様子を見に行くべきか? このままここで話しているだけでは本当に逃げられてしまうかもしれない」
ジュエルの提案。だがすぐにバイオレンスが反論。
「あいつが逃げるとは思えねえ。逃げたと思わせて追手を出入り口に向かわせて、こちらの戦力を一時的に減らす作戦かもしれない」
「だが、本当に逃げていたらどうする? こっちの人数とパラレルの能力、そして俺らのメモリが割れているんだ。対策を練られてしまったら不利になるぞ」
「なら、俺が行こう」
アイスエイジが一歩前に出る。
「俺ならこの中で一番早く移動できる。一時的にこの場を離れてもすぐに戻ってこれる」
「罠が仕掛けられていたらどうするんだ?」
「短時間で大した罠は仕掛けられないだろうよ。せいぜい今見たいに資材の山を崩す程度だろう。それなら俺の能力で対応できる」
アイスエイジの強力な冷気攻撃なら次は崩れる資材をまるごと凍らせることも可能だろう。
「これ以上無駄話に時間をかけていてもこっちが不利になるだけだ。これでいいな?」
「分かった。なら俺たちは周辺を探す」
他に作戦があるわけでもない。全員はしぶしぶ納得。アイスエイジは工場の出入り口までの道の中に新たに氷の道を作り出す。そしてスケートの要領で滑っていく。
角を曲がって見えなくなって数秒後、「ぐえっ」というアイスエイジの悲鳴が響いた。
「やはり罠か!?」
バイオレンスは忌々しげに資材を叩きつぶす。
「いくら数が多くても馬鹿が集まってるんじゃ意味ねえな」
どこかから挑発するようなジョーカーの声が聞こえた。
「さっき俺がワイヤー使ってるの見ただろ? それが罠に使われることくらい想定しておくべきだったな。馬鹿な奴だよ」
「糞野郎ッ! どこにいやがる!」
バイオレンスは怒りに我を失い周囲にある資材を延々と殴り続けている。
「落ち着け、冷静になれ! お前本当に俺と同じ人間かよ」
やれやれと言ったようにホッパーがバイオレンスをたしなめる。だが彼もバイオレンスほどではないが怒りで腸が煮えくり返りそうになっていた。
「おい助けろ! 動けねえ! こっちに来てくれ!」
アイスエイジの助けを求める声が聞こえる。まだメモリブレイクはされていないようだった。
「おい! 早……んぐ……」
口をふさがれたように、アイスエイジの声が聞こえなくなる。
「どうした!? 今そっちにいくぞ!」
バイオレンスが駆けだすがホッパーがそれを止める。
「やめろ。まだ罠があったらどうする。それにお前が向こうに言ってる間、またこちらの戦力が減ることになるんだ」
「あいつは見捨てろっていうのか?」
「今は放っておいた方がいい。やつが逃げていないのが分かった今、焦る必要はないんだ」
ホッパーは冷静に言う。現在一番怒りを抑えて落ち着いているのが彼だった。
「とにかく隠れている仮面ライダーに集中しろ。まだ何か企んでいる可能性が高い」
残された四体は一か所に集まると、それぞれ背を向けて四方向に視線を向け、警戒した。
ホッパーが向いている先には見物しているパラレルと小部屋がある。二体の間の距離は三十メートルほど。
ジュエルが向いている先には崩れた資材が置いてあった場所がある。さらにそこから数メートル先にはもう一つ資材の山が。
ビーストが向いている先にも資材の山。ジュエルと正反対の方向である。その奥にはやはり数メートルの隙間、そしてもう一つの資材の山。
バイオレンスが向いている先は出入り口までの道。周りには資材の山や少し残された機材などで囲まれており、奥にはやはり資材の山。突き当って右に行くと出入り口までの道がある。アイスエイジが通った氷の道もそこに続いている。先にはアイスエイジがいるはずだ。
ドーパントたちは神経を研ぎ澄ます。
「馬鹿な奴だよ」
再びジョーカーの挑発。だが今回は声の方向を悟られてしまう。
「声を出すとは馬鹿な奴だ!」
ジョーカーの声が聞こえたのはジュエルが見張っていた場所だった。崩れた資材があった場所の先のもう一つの資材の山。その陰から発せられた声だと判明する。
ジュエルは両腕を交差させて胴体のダイヤに力を溜めると、そのままジョーカーがいると思われる場所に衝撃波を放つ。
資材に直撃。先ほどのように雪崩が起こる。だが今回巻き込まれているのはドーパントではない。
四方を警戒していたドーパントたちの視線が再び一つの方向に集まる。崩れた資材と巻き起こる砂埃の中にはジョーカーが埋まっているはず、そう信じて。
だが、中から飛び出してきたのはジョーカーとは明らかに違う小さな影だった。
「馬鹿な奴だよ」
小さな影が言う。
それは緑色の装飾をしたカエルのような機械だった。
「馬鹿な奴だよ」
フロッグポッド。サウンドレコーダーとしての機能が備わったカエル型ガジェットだ。ジョーカーが発したと思われた挑発はこれに録音されたものだったのだ。
つまり、ジュエルが攻撃した先にはジョーカーはいない。
直後に聞き覚えのある金属がひしゃげる音。ドーパントたちは慌てて振り返る。先ほどまでビーストが警戒していた資材の山が雪崩れ込む。先ほど以上に不意を突いのか、ホッパーですら反応できず、四体とも再び資材の山と砂埃に埋まってしまった。
「糞ッ。何やってやがる! 同じ手を食らってんじゃねえ!」
離れた場所から見ていたパラレルは前線に出ている自分たちに憤りを覚え、地団太を踏んだ。なぜたった一人に良いように翻弄されているのか。本当にお前らは自分と同じ人間なのか! 安全地帯から偉そうにパラレルは悪態を吐き続けた。
よし、ここまでは作戦通りだ。
ジョーカーは足音を立てずに出入り口に向かう道から先ほどまで戦っていた場所へと姿を現す。資材に埋もれているドーパントたちにはまだ気付かれていない。
一度目の雪崩れでジョーカーはまず姿を隠し、作戦を練ることにした。幸いドーパントたちが思っていた以上に言い合いをしてくれたため、その時間は十分にあった。
自分が姿を現さなければ逃げたと思って追手が来るはず。まずは確実にその追手を戦闘不能にすべきだ。ジョーカーは出入り口までの道にある資材の影に隠れて追手を待った。
結果、アイスエイジが高速移動をしながらこちらに向かってきた。携帯電話型ガジェットのスタッグフォンをクワガタムシの形態に変化させ、迫ってくるアイスエイジにカウンターを合わせるように突進させた。高速の直線移動で小回りが利かないため突進は直撃。ひるんだ所でスパイダーショックのワイヤーを足元から全身にかけて巻き付けて身動きを取れないようにした。
だが、ジョーカーはすぐには動かなかった。まず自分の居場所をばらされないようにアイスエイジの顔にも急いでワイヤー巻き付け、喋れなくした。
だがメモリブレイクはしなかった。する必要がなかったからだ。マキシマムドライブを連発して消耗するべきではない。そう判断した。
次にジョーカーは残ったドーパントたちを挑発して怒りを煽る。目的は二つ。判断力を少しでも鈍らせること。そしてフロッグポッドに自分の声を自然に録音すること。
「馬鹿な奴だよ」短い時間の中でそれだけを録音すると、フロッグポッドをこっそりと最初に崩した資材のさらに奥にある資材の陰に隠れ、そこから録音した音声を流すように指示をした。
そしてジョーカーは再びバットショットを起動させる。最初に崩した資材と反対方向の資材を崩すためだ。だが堂々と資材の前に飛ばしたらすぐにバレてしまう。だが資材を支える金具はビーストが見張っている部分にあるし、そこから壊さなければドーパントたちの上に雪崩れてくれない。
そこで先ほどのフロッグポッドが録音した音声を反対側で流すことにより、敵の注意を逸らすことに成功した。四体ともそうとう頭にきているのか、フロッグポッドの音声に過敏に反応した。
全員の注意がフロッグポッドに向かったところでバットショットは気付かれないように超音波で金具を破壊。二度目の雪崩れを起こした。
一度目は立て直すための雪崩れ。そして、二度目は“攻め”に転じるための雪崩れだ。
ジョーカーは前方を見据える。数メートル先には資材に埋もれる四体のドーパント。そしてさらにその三十メートル先には叩くべき本命、パラレルドーパント。
最初の雪崩れで生まれた猶予がジョーカーの頭を冷静にし、落ち着いて思考させため、一つの活路が見出された。
前線で戦っているドーパントたちは全てパラレルの能力で並行世界から呼び出された人間が変身したものだ。
無理に全員のメモリをブレイクしなくてもパラレルだけをメモリブレイクさせれば呼び出された他の五人は元の世界に返されることになるはずだ。
だから前線の五体を倒す必要はない。彼らを突破してパラレルを叩くことができればジョーカーの勝ちだ。だからアイスエイジのメモリもブレイクしなかった。
必殺技は最後の一撃に――
ドーパントたちがゆっくりと資材の中からはい出してきた。依然砂埃は視界の妨げとなっている。ジョーカーもドーパントも肉眼では周囲を把握できない。
そこでジョーカーは新たなメモリガジェットを取り出す。カタツムリ型ガジェットのデンデンセンサーだ。これをゴーグルに変形させることでこの砂埃の中でも敵の居場所を認識できる。
ここが勝負どころだ。
意を決してジョーカーは疾駆する。
最初に足音に気付いたのはビーストだった。ジョーカーがこちらに向かってくる。それは理解できたが砂埃で周りが見えないためどこいるのかが分からない。
足音の変化。床を蹴る音から資材の上を蹴る音に変わる。走りづらいのだろう。音からして前進するのに難航しているのが他のドーパントたちにも分かった。
「俺の近くにいやがるな」
バイオレンスが反応。鉄球を振りまわす。だが誰にも命中しない。
足音はバイオレンスの後ろへと遠ざかり始める。
「俺に任せろ」
ジュエルはそう言って胴体のダイヤから衝撃波を発射。その方向にある砂埃が消え、視認できるようになる。
さらに衝撃波を連発。誰にも命中はしなかったが、かなり広範囲の砂埃が消えた。とうとうジョーカーの半身がジュエルの視界に入る。
「貰った!」
今まで以上の力を込めて衝撃波を発射。ダイヤのような輝きと共にジョーカーの背後に迫る。
「撃つ方向はそこでいいのか?」
そう言ってジョーカーは左に転がった。まるでこちらに撃つのを最初から分かっていたように。
衝撃波はジョーカーの右側を通り過ぎる。衝撃波が向かう先には人影――ビーストだ。
「馬鹿野郎!」
ビーストが叫ぶと同時に衝撃波が命中した。
「あの野郎……ビーストと射線が重なる場所でわざと姿を見せやがったな……!」
ジュエルが忌々しげに言うが手遅れだった。衝撃波が胴体に直撃したためビーストは膝をつく。
その左をジョーカーは通り抜けようとする。
「させるかよ」
ダメージを食らっていたはずのビーストがすぐに立ち上がる。そして右腕を振りあげてジョーカーを迎撃した。
「ちぃっ」
ジョーカーは動かなくなった右腕で受ける。すさまじく重みのある一撃だった。軽く吹き飛ばされたものの、すぐに体勢を整える。
ビーストの特徴は高い破壊力と異常な再生能力だ。過去に戦いでアクセルのマキシマムドライブからも回復したほどだ。先ほどのジュエルの誤爆もすぐに回復してしまったのだ。
「お終いだぜ」
ビーストが笑う。
右手は凍結。左手はデンデンセンサーを持っている。つまり足技だけでビーストを突破しなければならない。
「やるしかねえよな」
極力戦闘を避けてパラレルの元に辿り着くつもりだったジョーカーだが、戦いはそれほど甘いものではなかった。
後ろのドーパントが追いつくまで時間がない。一瞬で突破しなければならない。
「来いよ!」
ジョーカーは叫ぶ。それに呼応してビーストは咆哮、両腕を振りあげた。が、その瞬間に彼の後頭部を何かが直撃した。
「がっ……」
ビーストは前のめりになる。
すかさずジョーカーは疾駆、そして跳躍。ひるんでいるビーストの頭を踏み台にして前方に飛び出した。
あとは前方のパラレルの元に走るだけだ。後方のジュエルの衝撃波に気を付けて不規則な動きで走りながら残り三十メートルを進む。
「く、来るんじゃねえ!」
パラレルは予想外の展開に後ずさる。
「後はお前だけだぜ」
ジョーカーはパラレルに向けて言い放つ。
それと同時に上空を大きな影がよぎった。
「それはどうかな」
声の主がジョーカーの目の前で着地する。ホッパーだった。
「やっぱり追いつくか……!」
ジョーカーは前蹴りを放つ。だが、ホッパーも蹴りでそれを受け止める。そこからは蹴り応酬が始まる。
二人はこう着状態のためジュエルの遠距離攻撃は来ない。その分こちらに向かってくることは確実だ。ホッパーも短時間で出しぬかなければならない。
さきほどのようにスタッグフォンの力を借りれば行けたかもしれない。だが、先ほどの攻撃でスタッグフォンがビーストに捕まってしまった。
スタッグフォンが戻ってこないことでそれを悟ったジョーカーは改めて考える。もう戦闘補助に使えるガジェットは手元にない。つまり肉弾戦でホッパーを何とかしなければならない。
どうすればいい……!
戦闘の最中に思考を巡らせたせいで隙が生まれる。ホッパーはそれを見逃さない。
反応できない軌道の蹴りがジョーカーに迫る。
その時、白い何かがジョーカーとホッパーの間に飛び込んだ。白いそれはホッパーの蹴りに食らいつくと、そのまま彼を地面に引きずり倒した。
「お前は……」
ジョーカーは自分を助けてくれたそれを見やる。
「ファング……なんでここに……」
それは恐竜型メモリのファングメモリだった。リストレインとの戦いで突如現れて亜樹子を助けたファングは、最後の戦いでもジョーカーに力を貸した。本来はフィリップのピンチに駆けつけるようにできているのに、だ。
「理由は分からねえが、助かったぜ」
そう礼を言ってジョーカーは再び駆けだす。ターゲットのパラレルまであと僅かだ。
「こっちに来るんじゃねえ糞野郎!」
パラレルはすぐに後ろへ振り返ると、小部屋に向かって走り出した。
「あの中に隠れて時間を稼げば他の奴らが追いついてくれるはずだ……」
扉は壊れていてもうない。パラレルはいちもくさんにその中へと飛び込もうとする。だが、その小部屋の中から予想だにしない声が発せられた。
「馬鹿な奴だよ」
それはジョーカーの声だった。パラレルは驚いて足を止める。
「ど、どうやって先回りした!?」
部屋の中を指さして喚く。だが、部屋から出てきたのはバットショットとそれに抱えられたフロッグポッドだった。
「なっ……」
「馬鹿な奴だよ」
「まったくもってその通りだ」
フロッグポッドからの音声に合わせて、パラレルの背後からも同じ声色の言葉が発せられた。
振り返るとジョーカーがあと数メートルという所まで接近していた。
ドライバーからジョーカーメモリを抜き取り、マキシマムスロットに挿入している。
『ジョーカー!』
「ここまで来るのは骨が折れたぜ」
『マキシマムドライブ!』
「糞ッ。糞糞糞ッ。なんでいつもこうなんだッ」
パラレルは観念したのか、その場から動かずに喚いた。
「さあ――こいつで決まりだ」
ジョーカーは跳躍。右足に紫色のエネルギーが集約される。
最後の一撃。
「ライダーキック……!」
全てを終わらせる一撃が、パラレルの胴体に叩きこまれる。
キックの衝撃が胴体の半球に伝わり、砕け散る。
その瞬間、バイオレンス、アイスエイジ、ビースト、ホッパー、ジュエルの身体からガイアメモリが排出される。変身解除。だが、そこに変身元である並行世界の宇治原たちの姿はなかった。
次いでパラレルの変身が解除される。射出されたパラレルメモリは大きな弧を描いて地面に落ちていく。
吹き飛ばされたパラレル――宇治原は小部屋の中まで吹き飛んだ。
意識はまだあるようで、宇治原は身体を引きずりながらメモリへと手を伸ばす。
「終われるか……ここで……終われるかよ……」
だがメモリはパキンッと無情な音を立てて砕け散る。
ジョーカー――翔太郎は変身を解除。そしてメモリが完全にブレイクされたことを確認すると、深く帽子をかぶりなおす。
屋内だというのに、小さな風が吹いてメモリの破片と宇治原の頬を優しく撫でた。