姉貴はトラブルメーカーだ。なにかと厄介ごとをもちこんでくる。
例えば、旅行中とかで両親がいないとき、腹をすかした俺に料理を作ってやろうとして小火騒ぎになった。買ったばかりの筈のサラダ油が半分になっているのを見て兄貴がその日は弁当を買いにいった。もちろん食欲なんてとうに失せていた。
他には転校生がいじめられてたからいじめっ子を全治三ヶ月の怪我に追い込んだりとか。もちろん正々堂々じゃない。一人になった所を見計らって後ろからバットで各個撃破だ。
この他にも数え上げればきりがない。
でも基本物事は善意から来るものが多いから姉貴を慕う人も多く、常に姉貴の周りには人がいた。その反面疎ましく思う奴らもいたから姉貴を慕う人間と姉貴の被害を受けた連中との対立は絶えることが無かった。
実例を上げると真夜中に家の前で騒音かき鳴らされたり窓ガラス割られてたり。家の前で変な集団が姉貴をガードするとか言って凶器持って待ってたり。
まあそんな姉貴だったから両親は高校卒業と同時にさっさと姉貴を家から追い出した。
俺もそんな姉貴には迷惑していたけれど根はとってもいい人だって事を知ってるから誇りに思うし、静かになった我が家を少し寂しく思う。
そんなこんなで姉貴がいなくなってから早4年。
桜が舞い散る頃、姉貴がこっちに帰ってきていることを知った。
今か今かと待ちわびていた朝、久しぶりに姉貴が実家に帰ってきたかと思ったら見事にまたトラブルを持って帰ってきた。
なんと婚約相手を連れてきたのだ。
俺や両親は姉貴に婚約相手がいて、しかも知らないうちに同棲していたとか理解するのに数分を要した。
いや何より驚いたのは婚約相手だ。どうして理解できようか。
あろうことか姉貴は、16歳の男を未来の夫として紹介してきたのだ。
しかも何の偶然か俺と同じ高校の一年生だ。意味がわからなかった。
勉強も部活も友達関係もそれなりに充実した毎日を過ごしてきて2年生になった春。
目の前のこれから後輩になる男が姉貴の夫? 俺の義兄?
これは何かの冗談なのか。夢なのか。夢なら覚めて欲しい。
いや、冗談じゃないしましてや夢でもないのだ。
目の前で両親が怪音波を発して喚きたてていることが何よりの証拠だ。
ぼっーと追いつかない頭で姉貴の話を聞くに、姉貴の隣で縮こまっているこの男はどうやら何も知らなかったらしい。家族は二人の中を認めていると姉貴が伝えていたそうで、もちろんそれは嘘で、その所為で顔を真っ青にして張り付いたような笑みを浮かべている。
「ほらっ、春也これから長い付き合いになるんだからちゃんと挨拶しときな。こいつの名前は慶次っつーの。慶次、お義兄さんだよって言ってあげりゃ喜ぶわよ」
喜ぶ訳ねーだろ。何言ってんだ馬鹿姉貴。
姉貴にせっつかれて婚約相手、春也が精一杯の愛想笑いを浮かべる。
「よ、よろしくお願いしますっ」
もう本当に勘弁してくれ。
誰か俺に説明して欲しい。いや、わかっちゃいるけど理解できないというかしたくないというか。頼むからもう面倒事を持ち込まないで欲しかった。やっぱり寂しくなんか無い。
姉貴なんていたらいたで邪魔なだけだ。もう存在自体が邪悪だ。
「ま、つーわけでさ。あたしたちここに今日から住むからよろしくな。春也の部屋は……慶次と同じで良いだろ」
頬が濡れた。