第一回9/ 〜10/14
2 パパ、ママ、私/とある文藝の読者
3 変態+シナモン*2/生産的非生産/ぽろいも
4 GL+エロ+ファンタジー/すごく残酷/ピヨヒコ
5 男女恋愛+エロ+男女恋愛/『檻』/藤原諸現象
6 NTR+変態/あきらめろさもなくば死ね/田中田
7 バスケ+BL+変態/バスケットボールには/橘圭郎
8 バスケ+GL+シナモン/しなもんっ!/黒兎玖乃
9 格闘+格闘/格闘しても×/あう
10 ファンタジー×NTR×格闘/カフェオレ
11 変態×GL/私を溶かして/NAECO
12 あ
13 ファンタジー+GL+NTR/なんだァこれェ/匿名
14 エロ+格闘+変態/私の普段の日常生活/ロリ童貞
15 エロ×中二病×シナモン/彼女とのくだらない会話/山田一人
3 変態+シナモン*2/生産的非生産/ぽろいも
4 GL+エロ+ファンタジー/すごく残酷/ピヨヒコ
5 男女恋愛+エロ+男女恋愛/『檻』/藤原諸現象
6 NTR+変態/あきらめろさもなくば死ね/田中田
7 バスケ+BL+変態/バスケットボールには/橘圭郎
8 バスケ+GL+シナモン/しなもんっ!/黒兎玖乃
9 格闘+格闘/格闘しても×/あう
10 ファンタジー×NTR×格闘/カフェオレ
11 変態×GL/私を溶かして/NAECO
12 あ
13 ファンタジー+GL+NTR/なんだァこれェ/匿名
14 エロ+格闘+変態/私の普段の日常生活/ロリ童貞
15 エロ×中二病×シナモン/彼女とのくだらない会話/山田一人
ふたなり/パパ、ママ、私/とある文藝の読者
ママ、パパ、私。
私はママとパパから産まれました。
私のママには立派な象さんがついています。
私のパパにはきれいな赤貝がついています。
私のパパには立派な象さんがついています。
私のママにはきれいな赤貝がついています。
私はママとパパのミルクを飲んで育ちました。
私のママにはまんまる大きいおっぱいがあります。
私はママのミルクを飲んで育ちました。
私のパパには立派な象さんがついています。
私はパパのミルクを飲んで育ちました。
私のパパにはまっくろくろな乳首があります。
私はパパのミルクを飲んで育ちました。
私のママには立派な象さんがついています。
私はママのミルクを飲んで育ちました。
私はママとパパに似ていると言われます。
私のママにはうっすらとおヒゲがあります。
私はママに似ていると言われます。
私のパパにはぼうぼうとすねに毛があります。
私はパパに似ていると言われます。
私のパパにはお絵描きした眉毛があります。
私はパパに似ていると言われます。
私のママには桃のようなおしりがあります。
私はママに似ていると言われます。
私はママとパパから産まれました。
私はママの立派な象さんのお鼻から出たミルクを、パパのきれいな赤貝が受け止めて産まれました。
私はパパの立派な象さんのお鼻から出たミルクを、ママのきれいな赤貝が受け止めて産まれました。
私はパパの立派な象さんのお鼻から出たミルクを、パパのきれいな赤貝が受け止めて産まれました。
私はママの立派な象さんのお鼻から出たミルクを、ママのきれいな赤貝が受け止めて産まれました。
私の夢は、きれいなお嫁さんになってウェディングドレスを着ることです。
ねえママ、私はママみたいなお父さんになれるかなあ?
ねえパパ、私はパパみたいなお母さんになれるかなあ?
ママ、パパ、私。
私はママとパパから産まれました。
私のママには立派な象さんがついています。
私のパパにはきれいな赤貝がついています。
私のパパには立派な象さんがついています。
私のママにはきれいな赤貝がついています。
私はママとパパのミルクを飲んで育ちました。
私のママにはまんまる大きいおっぱいがあります。
私はママのミルクを飲んで育ちました。
私のパパには立派な象さんがついています。
私はパパのミルクを飲んで育ちました。
私のパパにはまっくろくろな乳首があります。
私はパパのミルクを飲んで育ちました。
私のママには立派な象さんがついています。
私はママのミルクを飲んで育ちました。
私はママとパパに似ていると言われます。
私のママにはうっすらとおヒゲがあります。
私はママに似ていると言われます。
私のパパにはぼうぼうとすねに毛があります。
私はパパに似ていると言われます。
私のパパにはお絵描きした眉毛があります。
私はパパに似ていると言われます。
私のママには桃のようなおしりがあります。
私はママに似ていると言われます。
私はママとパパから産まれました。
私はママの立派な象さんのお鼻から出たミルクを、パパのきれいな赤貝が受け止めて産まれました。
私はパパの立派な象さんのお鼻から出たミルクを、ママのきれいな赤貝が受け止めて産まれました。
私はパパの立派な象さんのお鼻から出たミルクを、パパのきれいな赤貝が受け止めて産まれました。
私はママの立派な象さんのお鼻から出たミルクを、ママのきれいな赤貝が受け止めて産まれました。
私の夢は、きれいなお嫁さんになってウェディングドレスを着ることです。
ねえママ、私はママみたいなお父さんになれるかなあ?
ねえパパ、私はパパみたいなお母さんになれるかなあ?
変態+シナモン*2/生産的非生産/ぽろいも
シャッシャッシャッシャッ……
香辛料でいうところとの「シナモン」というのは
「シナモン」という樹木の樹皮を剥がし、乾燥、発酵させたものなのである。
シャッシャッシャッシャッ……
「……ハァ、…ハァ…。」
枝の表皮をナイフで薄く削ぎ落としていく。
内側の樹皮を削らないように、薄く、丁寧に、表皮だけを削ぐのだ。
シナモンはデリケートなのである。
シャッシャッシャッシャッ……
「ハァ…ハァ…。スンスン、あぁ、いいにほひだ。…ハァ、ハァ…。」
辺りにフレッシュなシナモンの香りが立ち込める。
市販のものとは違う、発酵前のみずみずしい香りだ。
この香りを嗅げるのは、シナモン生産者の特権だ。心から思う、生産者になってよかった。
シャッシャッシャ。
「ハァ…ハァ…。一枚脱げて綺麗になったね。さぁ、もう一枚脱ごうかぁ……。」
表皮を削り終えると、コルク状の樹皮が現れる。うすい緑色で、とっても綺麗だ。
サク、スィーーーー
「あぁ、これだよぉ、これがいいんだぁ……ハァ。」
コルク状の樹皮にナイフを突き刺し、そこから慎重に樹皮を剥いでいく。
香りがよりいっそう強くなる。もう、匂いだけでイってしまいそうだ。
樹皮の下から、真っ白な幹がチラチラと見えるのが、また刺激的だ。
スィーーー、ぺろん。
「全部脱げたねぇ……ハァ…ハァ…。」
樹皮が落ち、純白の幹があらわになる。
「きれいにぬげたねぇ……真っ白で、すべすべで、いい匂いだぁ……」
――もう辛抱たまらんのである。
僕はこの作業を始めてからずっと固くなっていた自分の幹を右手でにぎり、動かし始めた。
シュッシュッシュッシュッ……ぺろぺろ……
右手を動かしながら、シナモンの匂いを嗅いだり、シナモンの幹を舐めたり、
くわえたり、甘噛みしたりする。
シュッシュッシュッ……はむはむ……
「シナモン、いいよぉ……真っ白で…ハァ…すべすべでぇ……いいにほひぃぃ…。
……あぁ、もうイク……イクよぉぉぉぉぉ」
「ちょっとあんた、またやってるの!いい加減まじめに仕事しなさいよ!」
――また、妻に見られてしまった。
「さっさとソレしまって。……まったく、今が一番忙しい時期なの分かってるでしょ。
まだ剥かなきゃいけないシナモンいっぱいあるんだから。」
そう言われ、ふと横を見る。そこにはシナモンの枝が大量に積まれていた。
「そうか、まだこんなにあるのか……。」
そう言って、僕は再び体が熱くなるのを感じた。
参考:http://www.youtube.com/watch?v=gYU4PKaa0Qg
シャッシャッシャッシャッ……
香辛料でいうところとの「シナモン」というのは
「シナモン」という樹木の樹皮を剥がし、乾燥、発酵させたものなのである。
シャッシャッシャッシャッ……
「……ハァ、…ハァ…。」
枝の表皮をナイフで薄く削ぎ落としていく。
内側の樹皮を削らないように、薄く、丁寧に、表皮だけを削ぐのだ。
シナモンはデリケートなのである。
シャッシャッシャッシャッ……
「ハァ…ハァ…。スンスン、あぁ、いいにほひだ。…ハァ、ハァ…。」
辺りにフレッシュなシナモンの香りが立ち込める。
市販のものとは違う、発酵前のみずみずしい香りだ。
この香りを嗅げるのは、シナモン生産者の特権だ。心から思う、生産者になってよかった。
シャッシャッシャ。
「ハァ…ハァ…。一枚脱げて綺麗になったね。さぁ、もう一枚脱ごうかぁ……。」
表皮を削り終えると、コルク状の樹皮が現れる。うすい緑色で、とっても綺麗だ。
サク、スィーーーー
「あぁ、これだよぉ、これがいいんだぁ……ハァ。」
コルク状の樹皮にナイフを突き刺し、そこから慎重に樹皮を剥いでいく。
香りがよりいっそう強くなる。もう、匂いだけでイってしまいそうだ。
樹皮の下から、真っ白な幹がチラチラと見えるのが、また刺激的だ。
スィーーー、ぺろん。
「全部脱げたねぇ……ハァ…ハァ…。」
樹皮が落ち、純白の幹があらわになる。
「きれいにぬげたねぇ……真っ白で、すべすべで、いい匂いだぁ……」
――もう辛抱たまらんのである。
僕はこの作業を始めてからずっと固くなっていた自分の幹を右手でにぎり、動かし始めた。
シュッシュッシュッシュッ……ぺろぺろ……
右手を動かしながら、シナモンの匂いを嗅いだり、シナモンの幹を舐めたり、
くわえたり、甘噛みしたりする。
シュッシュッシュッ……はむはむ……
「シナモン、いいよぉ……真っ白で…ハァ…すべすべでぇ……いいにほひぃぃ…。
……あぁ、もうイク……イクよぉぉぉぉぉ」
「ちょっとあんた、またやってるの!いい加減まじめに仕事しなさいよ!」
――また、妻に見られてしまった。
「さっさとソレしまって。……まったく、今が一番忙しい時期なの分かってるでしょ。
まだ剥かなきゃいけないシナモンいっぱいあるんだから。」
そう言われ、ふと横を見る。そこにはシナモンの枝が大量に積まれていた。
「そうか、まだこんなにあるのか……。」
そう言って、僕は再び体が熱くなるのを感じた。
参考:http://www.youtube.com/watch?v=gYU4PKaa0Qg
GL+エロ+ファンタジー/すごく残酷/ピヨヒコ
私が自分の才能に漠然とした限界を感じて、GL製のギターを音楽室のピアノの上に投げ捨てたとき、彼女は高校生には到底似つかわしくないであろうロシアの昔話を読んでいた。窓から流れ込む斜陽に彼女は霞んでいる。世界が赤かった。音楽室の空気も、ジャズ・コーラスで膨らむハウリングも、私の左手の指先に広がる痺れも、何もかもが赤かった。もちろんそんなものに色など着くはずもないけれど、しかしそれでも私と彼女の間に広がる世界は赤色だった。私が赤色だと決めたのだから、恐らくは確実に。
◇
私はジャズ・コーラスの電源を切った。だめだな、どうもいっこうにギターの技術が上達しない。いくら指先を動かし弦を弾き飛ばしても、自分が出したい音が一つも出てこない。気持ちに技術が追いついていないのか、あるいはこれが私の限界なのか。ああ、限界か、嫌だな、限界。
考えを逸らすため、ロシアの昔話を読む彼女を見た。西日に染まる彼女は、私が目を向けることを知っていたかのように、その双眸をこちらに向けていた。息を呑む。目を逸らす。口をつぐみ、何も言えない。
そんな無様な私を見て、彼女は口を開いた。
「今日も、誰も来ないね。私とキミだけじゃ何もできないのに」
私は考える。彼女は何の話をしているのだろう。誰も来ないね、そう、誰も来ない。放課後の音楽室には、私と彼女以外の誰も来なくなってしまった。今年の猛暑もようやく落ち着き、セミの鳴き声もよりメロディアスに変化したというのに、私と彼女が所属する軽音楽部に新入部員は入ってこなかった。春のころは数名ほど新入生がやってきたが、なにか思っていた軽音楽部のイメージと私達の活動には大いなる相違があったようで、梅雨が始まったころにはあっさりと辞めていったのだ。
私は言う。
「もう来ないんじゃないかな。良いけどね別に。巧くなろうとしない奴は来なくて良い」
彼女はロシアの昔話の本を閉じた。深い緑色の表紙も夕日に赤く染まった。そうして私から目を逸らし、ピアノの上に投げ出されたギターを見ながら、
「そっか。私は来て欲しいけどな。楽器は上手い下手じゃないから」
と言った。
そうかもね、と私は呟いた。
「ところで、その本どんな内容なの? ロシアの昔話って読んだことないな」
彼女は閉じたばかりの本に目を落とし、すこしだけ唸ってから言う。
「なんかよく分からない。どこか知らないところへ行って、なにか知らないものを探したり、そんな内容」
私は思わず「なにそれ」と笑った。
「きっとアレだよ。意味なんて無いんだよ、昔話には。私達が好き勝手に意味を見つけて、やりたい放題解釈するんだと思うな」
それだけ言うと彼女は立ち上がった。
彼女は音楽室の窓際に立てかけてあったギターを持ち上げ、それを少し重たそうに抱えて、椅子に座る私の前に立った。夏服のワイシャツ、その胸の間にギターのネックが宛がわれ、膨らみが少しだけ誇張された。窓枠の陰に彼女は収まり、今は朱から開放されている。視界には私を見下ろす彼女と、白いギターだけが広がった。私と同じくらいの身長。私と同じくらいの体重。私と同じ血液型。私と同じ音楽の趣味。私と同じ小説の趣味。私と同じ楽器のメーカー。
私と違う考え方。
彼女はとろけそうな瞳で私を見下ろしながら言った。
「ね、ギター教えて。もっと上手になりたいの」
嘘つき。私は思う。
本当は楽器を巧くなる気なんてないくせに。
彼女はいつも通りに嘘をついた。その嘘がいつから当たり前になったのか、私はよく思い出せない。思い出そうとすればきっと思い出せるのだろうけど、始まりなどというものをいくら思い出したところで、今が変わるわけではないのだ。私は今、彼女が口にした言葉に喉の奥を乾かしている。この事実を消し去ることは、発端を掘り起こそうが終端を想像しようが、もう無理、不可能。
だから私は頷いた。いいよと言って頷いた。
◇
落日の色が先ほどよりも随分と深く音楽室に充満している。壁にかけられた名前も知らない作曲家達は、何回この夕日を見てきたのだろう。
彼女は床にあぐらをかき、右の太ももにギターのボディを乗せた。私はギターを構える彼女の背後に腰を下ろし、彼女の小さな体を両足で緩やかに挟み込んだ。体が密着し、お互いの体温が薄いワイシャツを渡って混じり合う。位置を正す振りをして腰を彼女に寄せると、私の胸が彼女の背中に潰れて形を変えた。彼女は小さく笑い声を聞かせた。どうしたの? 聞くと彼女は、あったかいね、とだけ言った。私はそれに頷くだけで何も言わないことにした。彼女の右肩に顔を乗せると、甘い香りが脳を溶かした。
「香水変えた?」
「うん」
「何に?」
「ランバン」
それからほんの刹那、私と彼女の間には逡巡を孕んだ静寂が響いた。
「甘い匂いだね」
私が言うと、彼女は「キミも甘い匂いがするね」とおぼつかない口調で私をくすぐり、「香水とかしてないのに」と付け加えた。
私の匂いとはどのようなものだろう。自分の癖に気付かないことがあるように、自分の匂いというものを私は今ひとつ知らなかった。彼女は甘い匂いというが、果たしてそれは本当に甘い匂いなのだろうか。彼女の言う甘さとは、いったいなんだろう。
黙る私を気にしないように、彼女は右手の指でギターの弦を鳴らした。低い音が私達のお腹を振るわせる。この振動は、彼女の体を貫いて私を震わせたのだ。そう思うと、それは少し官能的で些細な非現実で、ちっぽけな幸福感を内在する音のように思えた。
「今日は、どんな練習する?」
私が聞くと、彼女は「この前の続き」と短く言った。
なんだっけな、この前の続きって。それは、どちらの続きを言っているのかな。ギターの練習の続きか、それともこの密着の先にある行為の続きか。もちろん前者だろう。ギターを練習するのだ。この体勢も、指遣いを教えやすいから。
「いいよ、じゃあ、Aの和音ね」
「Aって、ラだっけ? シ?」
「ラだよ、シはB」
彼女は頷き、左手の人差し指を弦の上に置いた。それから一つずつ音を繋げていく。
「できてる? 音、ずれてない?」
彼女は体重を私に預けながらそう訊ねてきた。柔らかさが私にまとわりつく。
「うん。じょうず。この前は、Aやったんだよね」
彼女は首肯した。柔らかい髪の毛が私を撫でる。ああ、きもちいいな。
「じゃぁさ」
彼女は、いつもとちょっと違った艶っぽい声を出した。
「今日は、B……教えて?」
私は鼓動が極端に速くなっている事に目をつぶり、努めて平静を装い、わざとらしく深呼吸をして、彼女の左手に自分の左手を重ね合わせた。私と同じくらいの手の大きさ。私より少しだけ細い指が羨ましい。
「これがB、ドレミで言うとシの音ね」
彼女の指を誘導する。私の息遣いに、彼女はくすぐったそうに身をよじった。
「ちゃんと聞いてる?」
「……あんまり」
彼女が私の左手に指を絡めてくる。手の薄い皮膚をゆっくりと撫でられたので、私は思わず息を呑んだ。彼女は何度も私の左手を撫でた。指と指の間をなぞる様にしたり、くるくると円を描いてみたり。
「もう……聞かないなら、教えないからね」
「教えてよ」
「教えたじゃん」
「このBじゃないかも」
嘆息する。
ほらね、嘘つき。
最初からさ、気持ちいい思いをしたかっただけじゃん。
私もだけど。
◇
私は人生で二度目のキスをした。
初めてのキスは、彼女にAの和音を教えているときだった。それとなく振り向いた彼女は、何気なく私の唇を塞いだ。抵抗する気はまるで起きなかった。柔らかさと、唇の奥に微かに感じる唾液の湿っぽさが、私から動く権利を奪ったのだ。それは紛れも無い快感だった。誤魔化しようの無い恍惚だった。同性とキスをすることに、私はさほど違和感を覚えなかった。
そして今、三度目のキスをした。今までよりもずっと深く、ずっと柔らかく、目じりが熱を帯びるキスだった。
「ねぇ、キミはさ、どうして毎日ギターを弾くの?」
私から少しだけ唇を離し、彼女はそう聞いた。私は二人の唇の間に透明な液体が繋がっているのを感じながら答える。
「上手になりたいから」
「だから、色んな曲弾くの?」
「うん」
彼女の手が私のワイシャツのボタンを一つはずした。
「だから、ミッシェルの後にハッシュサウンドをやったりするの?」
「うん」
ワイシャツの中は私から見えなかったが、それでも彼女の手が私を撫でているのが分かった。心臓が止まりそうになる。喉が渇いて、お腹が熱い。
「なんだか残酷な小説を読んだ後に絵本を読むみたいだよね、それって」
手が背中に回り、器用に下着のホックを外した。緊張を失ったそれが、紐だけで肩にかかる。
「どっちも残酷かもよ。絵本も、その小説も」
その後は言葉が続かなかった。今まで味わったことの無い快感が、私の胸から全身に広がっている。今ここで何かを話したら、それはきっと別の意味を持つ言葉になってしまうのだろう。なんだかそれは怖かった。とてつもなく怖かった。
彼女は私を撫でていなかったもう片方の手を、すこしだけ躊躇って、スカートの中へ入れた。
もう私はなにも言えない。
体の奥底から上ってくる波に、唇を固く閉じて抗うことしかできなかった。少しでも油断すれば、きっとそれは声になる。辞めてほしいとか、もっとしてほしいとか、怖いとか、気持ちいいとか、不安とか、そういったものが声になってしまう。
それがいやだから、私はただひたすらに身をよじり、必死に抵抗する振りをするしかないのだ。
そんな私の韜晦を知ってか知らずか彼女は私を撫でながら口を開いた。
「ねぇ、私さ。ギター上手になれるかな」
え? と答えた私の声は、なんだか震えているような喜んでいるようないやらしい音程だった。
「いろんなジャンルを弾けるようになれるのかな。誰かを感動させる演奏ができるのかな。今更こんなに練習しても、キミみたいにずっと上手な人がたくさんいてさ。私がどんなに頑張っても、その人の足元にも及ばないんだ。なんだかそれをこの先続けていくのって」
彼女は私の中に指を入れた。
「すごく残酷」
私は始めて大声で喘いだ。
◇
気付くと夕日は沈んでいて、私と彼女は薄暗い教室で抱き合っていた。息を荒げ、いやらしい匂いを醸し出しながら、しばらく何も話さなかった。
私は快感の波の後に残ったぼやけた痛みに辟易しながら彼女に言った。
「音楽なんてさ、聴くだけでも良いんだよ?」
彼女は指先をハンカチで拭きながら言った。
何を言ったかは、まるで覚えていない。
しかし彼女は、音楽をやりつづける理由を、表現を辞めない理由を、何かしら言ったのだ。
それについて私は何も思わなかったけれど。
以上
-----------------------------------------------------------
お題 → GL + エロ + ファンタジー ……ファンタジー?
更新が停滞してますが、宣伝できる作品がこれしかないんだぜ。
文藝新都 ネジレとヒズミ → http://neetsha.com/inside/main.php?id=8589
お邪魔しました。
私が自分の才能に漠然とした限界を感じて、GL製のギターを音楽室のピアノの上に投げ捨てたとき、彼女は高校生には到底似つかわしくないであろうロシアの昔話を読んでいた。窓から流れ込む斜陽に彼女は霞んでいる。世界が赤かった。音楽室の空気も、ジャズ・コーラスで膨らむハウリングも、私の左手の指先に広がる痺れも、何もかもが赤かった。もちろんそんなものに色など着くはずもないけれど、しかしそれでも私と彼女の間に広がる世界は赤色だった。私が赤色だと決めたのだから、恐らくは確実に。
◇
私はジャズ・コーラスの電源を切った。だめだな、どうもいっこうにギターの技術が上達しない。いくら指先を動かし弦を弾き飛ばしても、自分が出したい音が一つも出てこない。気持ちに技術が追いついていないのか、あるいはこれが私の限界なのか。ああ、限界か、嫌だな、限界。
考えを逸らすため、ロシアの昔話を読む彼女を見た。西日に染まる彼女は、私が目を向けることを知っていたかのように、その双眸をこちらに向けていた。息を呑む。目を逸らす。口をつぐみ、何も言えない。
そんな無様な私を見て、彼女は口を開いた。
「今日も、誰も来ないね。私とキミだけじゃ何もできないのに」
私は考える。彼女は何の話をしているのだろう。誰も来ないね、そう、誰も来ない。放課後の音楽室には、私と彼女以外の誰も来なくなってしまった。今年の猛暑もようやく落ち着き、セミの鳴き声もよりメロディアスに変化したというのに、私と彼女が所属する軽音楽部に新入部員は入ってこなかった。春のころは数名ほど新入生がやってきたが、なにか思っていた軽音楽部のイメージと私達の活動には大いなる相違があったようで、梅雨が始まったころにはあっさりと辞めていったのだ。
私は言う。
「もう来ないんじゃないかな。良いけどね別に。巧くなろうとしない奴は来なくて良い」
彼女はロシアの昔話の本を閉じた。深い緑色の表紙も夕日に赤く染まった。そうして私から目を逸らし、ピアノの上に投げ出されたギターを見ながら、
「そっか。私は来て欲しいけどな。楽器は上手い下手じゃないから」
と言った。
そうかもね、と私は呟いた。
「ところで、その本どんな内容なの? ロシアの昔話って読んだことないな」
彼女は閉じたばかりの本に目を落とし、すこしだけ唸ってから言う。
「なんかよく分からない。どこか知らないところへ行って、なにか知らないものを探したり、そんな内容」
私は思わず「なにそれ」と笑った。
「きっとアレだよ。意味なんて無いんだよ、昔話には。私達が好き勝手に意味を見つけて、やりたい放題解釈するんだと思うな」
それだけ言うと彼女は立ち上がった。
彼女は音楽室の窓際に立てかけてあったギターを持ち上げ、それを少し重たそうに抱えて、椅子に座る私の前に立った。夏服のワイシャツ、その胸の間にギターのネックが宛がわれ、膨らみが少しだけ誇張された。窓枠の陰に彼女は収まり、今は朱から開放されている。視界には私を見下ろす彼女と、白いギターだけが広がった。私と同じくらいの身長。私と同じくらいの体重。私と同じ血液型。私と同じ音楽の趣味。私と同じ小説の趣味。私と同じ楽器のメーカー。
私と違う考え方。
彼女はとろけそうな瞳で私を見下ろしながら言った。
「ね、ギター教えて。もっと上手になりたいの」
嘘つき。私は思う。
本当は楽器を巧くなる気なんてないくせに。
彼女はいつも通りに嘘をついた。その嘘がいつから当たり前になったのか、私はよく思い出せない。思い出そうとすればきっと思い出せるのだろうけど、始まりなどというものをいくら思い出したところで、今が変わるわけではないのだ。私は今、彼女が口にした言葉に喉の奥を乾かしている。この事実を消し去ることは、発端を掘り起こそうが終端を想像しようが、もう無理、不可能。
だから私は頷いた。いいよと言って頷いた。
◇
落日の色が先ほどよりも随分と深く音楽室に充満している。壁にかけられた名前も知らない作曲家達は、何回この夕日を見てきたのだろう。
彼女は床にあぐらをかき、右の太ももにギターのボディを乗せた。私はギターを構える彼女の背後に腰を下ろし、彼女の小さな体を両足で緩やかに挟み込んだ。体が密着し、お互いの体温が薄いワイシャツを渡って混じり合う。位置を正す振りをして腰を彼女に寄せると、私の胸が彼女の背中に潰れて形を変えた。彼女は小さく笑い声を聞かせた。どうしたの? 聞くと彼女は、あったかいね、とだけ言った。私はそれに頷くだけで何も言わないことにした。彼女の右肩に顔を乗せると、甘い香りが脳を溶かした。
「香水変えた?」
「うん」
「何に?」
「ランバン」
それからほんの刹那、私と彼女の間には逡巡を孕んだ静寂が響いた。
「甘い匂いだね」
私が言うと、彼女は「キミも甘い匂いがするね」とおぼつかない口調で私をくすぐり、「香水とかしてないのに」と付け加えた。
私の匂いとはどのようなものだろう。自分の癖に気付かないことがあるように、自分の匂いというものを私は今ひとつ知らなかった。彼女は甘い匂いというが、果たしてそれは本当に甘い匂いなのだろうか。彼女の言う甘さとは、いったいなんだろう。
黙る私を気にしないように、彼女は右手の指でギターの弦を鳴らした。低い音が私達のお腹を振るわせる。この振動は、彼女の体を貫いて私を震わせたのだ。そう思うと、それは少し官能的で些細な非現実で、ちっぽけな幸福感を内在する音のように思えた。
「今日は、どんな練習する?」
私が聞くと、彼女は「この前の続き」と短く言った。
なんだっけな、この前の続きって。それは、どちらの続きを言っているのかな。ギターの練習の続きか、それともこの密着の先にある行為の続きか。もちろん前者だろう。ギターを練習するのだ。この体勢も、指遣いを教えやすいから。
「いいよ、じゃあ、Aの和音ね」
「Aって、ラだっけ? シ?」
「ラだよ、シはB」
彼女は頷き、左手の人差し指を弦の上に置いた。それから一つずつ音を繋げていく。
「できてる? 音、ずれてない?」
彼女は体重を私に預けながらそう訊ねてきた。柔らかさが私にまとわりつく。
「うん。じょうず。この前は、Aやったんだよね」
彼女は首肯した。柔らかい髪の毛が私を撫でる。ああ、きもちいいな。
「じゃぁさ」
彼女は、いつもとちょっと違った艶っぽい声を出した。
「今日は、B……教えて?」
私は鼓動が極端に速くなっている事に目をつぶり、努めて平静を装い、わざとらしく深呼吸をして、彼女の左手に自分の左手を重ね合わせた。私と同じくらいの手の大きさ。私より少しだけ細い指が羨ましい。
「これがB、ドレミで言うとシの音ね」
彼女の指を誘導する。私の息遣いに、彼女はくすぐったそうに身をよじった。
「ちゃんと聞いてる?」
「……あんまり」
彼女が私の左手に指を絡めてくる。手の薄い皮膚をゆっくりと撫でられたので、私は思わず息を呑んだ。彼女は何度も私の左手を撫でた。指と指の間をなぞる様にしたり、くるくると円を描いてみたり。
「もう……聞かないなら、教えないからね」
「教えてよ」
「教えたじゃん」
「このBじゃないかも」
嘆息する。
ほらね、嘘つき。
最初からさ、気持ちいい思いをしたかっただけじゃん。
私もだけど。
◇
私は人生で二度目のキスをした。
初めてのキスは、彼女にAの和音を教えているときだった。それとなく振り向いた彼女は、何気なく私の唇を塞いだ。抵抗する気はまるで起きなかった。柔らかさと、唇の奥に微かに感じる唾液の湿っぽさが、私から動く権利を奪ったのだ。それは紛れも無い快感だった。誤魔化しようの無い恍惚だった。同性とキスをすることに、私はさほど違和感を覚えなかった。
そして今、三度目のキスをした。今までよりもずっと深く、ずっと柔らかく、目じりが熱を帯びるキスだった。
「ねぇ、キミはさ、どうして毎日ギターを弾くの?」
私から少しだけ唇を離し、彼女はそう聞いた。私は二人の唇の間に透明な液体が繋がっているのを感じながら答える。
「上手になりたいから」
「だから、色んな曲弾くの?」
「うん」
彼女の手が私のワイシャツのボタンを一つはずした。
「だから、ミッシェルの後にハッシュサウンドをやったりするの?」
「うん」
ワイシャツの中は私から見えなかったが、それでも彼女の手が私を撫でているのが分かった。心臓が止まりそうになる。喉が渇いて、お腹が熱い。
「なんだか残酷な小説を読んだ後に絵本を読むみたいだよね、それって」
手が背中に回り、器用に下着のホックを外した。緊張を失ったそれが、紐だけで肩にかかる。
「どっちも残酷かもよ。絵本も、その小説も」
その後は言葉が続かなかった。今まで味わったことの無い快感が、私の胸から全身に広がっている。今ここで何かを話したら、それはきっと別の意味を持つ言葉になってしまうのだろう。なんだかそれは怖かった。とてつもなく怖かった。
彼女は私を撫でていなかったもう片方の手を、すこしだけ躊躇って、スカートの中へ入れた。
もう私はなにも言えない。
体の奥底から上ってくる波に、唇を固く閉じて抗うことしかできなかった。少しでも油断すれば、きっとそれは声になる。辞めてほしいとか、もっとしてほしいとか、怖いとか、気持ちいいとか、不安とか、そういったものが声になってしまう。
それがいやだから、私はただひたすらに身をよじり、必死に抵抗する振りをするしかないのだ。
そんな私の韜晦を知ってか知らずか彼女は私を撫でながら口を開いた。
「ねぇ、私さ。ギター上手になれるかな」
え? と答えた私の声は、なんだか震えているような喜んでいるようないやらしい音程だった。
「いろんなジャンルを弾けるようになれるのかな。誰かを感動させる演奏ができるのかな。今更こんなに練習しても、キミみたいにずっと上手な人がたくさんいてさ。私がどんなに頑張っても、その人の足元にも及ばないんだ。なんだかそれをこの先続けていくのって」
彼女は私の中に指を入れた。
「すごく残酷」
私は始めて大声で喘いだ。
◇
気付くと夕日は沈んでいて、私と彼女は薄暗い教室で抱き合っていた。息を荒げ、いやらしい匂いを醸し出しながら、しばらく何も話さなかった。
私は快感の波の後に残ったぼやけた痛みに辟易しながら彼女に言った。
「音楽なんてさ、聴くだけでも良いんだよ?」
彼女は指先をハンカチで拭きながら言った。
何を言ったかは、まるで覚えていない。
しかし彼女は、音楽をやりつづける理由を、表現を辞めない理由を、何かしら言ったのだ。
それについて私は何も思わなかったけれど。
以上
-----------------------------------------------------------
お題 → GL + エロ + ファンタジー ……ファンタジー?
更新が停滞してますが、宣伝できる作品がこれしかないんだぜ。
文藝新都 ネジレとヒズミ → http://neetsha.com/inside/main.php?id=8589
お邪魔しました。
NTR+変態/あきらめろさもなくば死ね/田中田
学校に犬をつれてくるな、と頭のかたい教師方から言われつづけて一週間。そろそろむこうも我慢の限界が近いらしい。
今日は登校の際、生活指導の先生によびとめられた。
「こら! 学校にペットなんか持ってくるな! おまえは、神聖な学び舎をなんだと思ってるんだ!」
「でもこの子、聴導犬なんですけど」
怒りをすかすような私の口調に先生は首をかしげた。聴導犬という言葉が耳慣れないせいでもあるかもしれない。
「なに?」
「ですから、クッキーは聴導犬なんです。ああ、クッキーというのはこの子、犬の名前のことです。盲導犬なんかといっしょで、介助犬の一種です。耳の悪い飼い主が聞こえない警報なんかの音を教えてくれるんですよ」
「でもおまえは耳が聞こえてるじゃないか」
「それは先生の声が大きすぎるから……手帳もありますよ」
私の持っている障害者手帳はたしかに本物だったが、素行のあまりよろしくない耳鼻科を介在させた、かなりよろしくない手段で入手したものだった。だがそれでも、聴覚障害者6級という私のキャリアにウソはない。履歴書にだって書ける、国から拝した由緒正しいものだ。
「くだらない嘘をつくな! 生徒はだまって教師の言うとおりにしていればいいんだ!」
なのにこの先生は分かってくれない。同じ国に雇われる身だというのに。クッキーはもう帰ろうと私の足にすりよる。
「わかりました」
もちろん私は野良犬よりも行儀悪くほえたてるその教師に背を向け、学校をあとにした。後ろの雑音はもうどうでもいい。
「すいませんよく聞こえません。補聴器を忘れたもので。家に帰ってとってきますね」
犬と規則をはかりにかけたなら、犬のほうが重いに決まっている。くそが。高校に上がれば少しは自由がきくかと思ったのに。もう二度とあの学校に通うつもりはない。
不登校を決め込み、自室にひきこもってはや一週間が過ぎようとしていた。この一週間というスパンにどれほどの意味があるのか私はよく知らないが、やはりまたターニングポイントを迎えた。
クッキーはボーダーテリアに似ているといえば似ている雑種犬である。荒くゴワゴワした毛並みは汚れがしみつき、クッキー生地のように練りこまれてもはや落ちない。
だからクッキー。
あの教師――名前は忘れた――は私を嘘つきといったが、ひとつ本当のことがある。
クッキーはじっさい聴導犬なのだ。
私が近所の河原の橋のたもとで拾ってきた、段ボールの中でぶるぶる寒そうに震えていた薄汚いモップのような小麦色をした仔犬。
それがクッキー。名付け親はパパ。
そのクッキーを私が中学三年の一年を丸々かけて鍛えあげた。もともと学校には通っていなかったので、主に室内ではたらく聴導犬の訓練にはもってこいだったのだ。
そして、実地試験として、高校につれていったのだが、結局裏目に出てしまったようだ。私はまたひきこもっている。
そうして七日目、訓練を仕上げた私はひきこもるだけの意味を見失ってしまっていた。こうしていても仕方ないので、気分転換も兼ねてクッキーと一緒に河原まで散歩に行く。
自分の故郷に戻ってきたからだろうか、クッキーははしゃいでそこらを駆け回っている。そんな元気な愛犬の姿を見ても、私の心はむしろ沈むばかりだ。
この先どうすればいい? ママはいつの間にか死んでおり、パパはママによく似た面差しをしている(らしい)私の体を夜な夜な求めてくるが、きちんと仕事をして私を食べさせてくれるのだから、あまり文句を言える立場でもない。
だが――それでは、クッキーはどうなる。このままでは飼い殺しのまま聴導犬としてせっかく身につけた技能も、まるで宝の持ち腐れではないか。
親心として、そしてまた、恋人として。私はクッキーを日のあたる表舞台に立たせてやりたい。そう、切に願う。
だが人生とはそう都合よくコトが運んでくれたりはしない。なにより私自身、もうひとつ本音を言えば、クッキーを手放したくないのだ。どこにも行かずに、私だけのそばにいて欲しい。理性の本音とせめぎあう、中学生の時に友達だと思っていたクラスメートたちに飼い猫を殺された私の、動物的本能からくる本音。私に友達はいなかった。
ふと川のそばにいるクッキーを見ると、そばになにやら人影がある。
動物誘拐犯かもしれないと、警戒しつつ草やぶに隠れながら近寄る。
「わーワンたんかーいいねー。おなまえはー? なんてゆの? わたしはね、ここあってゆーのよ」
音程も音量も、なにもかも狂ってひどく耳障りな声が耳に入ってきた。まだ一〇mほど離れたこの地点で、これだけはっきり聞こえるということは相当のうるささだろう。
どうやらまだ小さい女の子のようだが、こういった声を出すたぐいの人間には覚えがある。
さらに近づいてよくよく確かめると案の定、キティちゃんの表紙をした冊子を首からさげていた。筆談用のメモ帳だ。
少女こそは正真正銘、生粋の聴覚障害者なのだろう。それもかなり重度の。自分の耳で自分の声を聴き取ることができず、他人の声との比較もできないから調子はずれの声になってしまうのだ。
「ワンたん、ひとり? くびわないよ?」
首輪はお金がないのでつけていない。
「じゃーね、ね。あたしがかっても、いーい?」
冗談じゃない! 私が手塩にかけて育てたクッキーを、ポッと出の馬の骨にみすみす取られてなるものか! 私は大声で叫んだ。
だが私の声は少女の耳には届かなかった。河川敷をジョギング中の老人が遠くでふりかえった。
私の足は動かなかった。少女は体長三〇センチ程度のクッキーを重そうに抱え上げるとよたよたと、私がいるところとは反対の方角に歩いていった。
少女の肩越しにクッキーと目が合った。
ああ、私のしつけは完璧だな。クッキーはこんなときでも鳴き声ひとつあげやしない。そのまま少女が住宅地の細道に消えて行くまで、ただ悲しそうな瞳でこちらを見ているだけだった。
翌日、私はくだんの生活指導の住所を調べて家に押しかけ、そのままのいきおいで誘惑して無理やり抱かれた。
クッキーを失ったやり場のない怒りをぶつけ、ついでにクビにでもしてやるつもりだったのだが、
教師に乱暴に突かれているうちになんだかどうでもよくなってしまった。おっぱいの下にある枕の感触に意識を集中する。
ことがすんだあと、先生は私にお金をくれた。
いま私は、クッキーのちんちんがどのような形をしていたか、必死になって思い出そうとしている。
学校に犬をつれてくるな、と頭のかたい教師方から言われつづけて一週間。そろそろむこうも我慢の限界が近いらしい。
今日は登校の際、生活指導の先生によびとめられた。
「こら! 学校にペットなんか持ってくるな! おまえは、神聖な学び舎をなんだと思ってるんだ!」
「でもこの子、聴導犬なんですけど」
怒りをすかすような私の口調に先生は首をかしげた。聴導犬という言葉が耳慣れないせいでもあるかもしれない。
「なに?」
「ですから、クッキーは聴導犬なんです。ああ、クッキーというのはこの子、犬の名前のことです。盲導犬なんかといっしょで、介助犬の一種です。耳の悪い飼い主が聞こえない警報なんかの音を教えてくれるんですよ」
「でもおまえは耳が聞こえてるじゃないか」
「それは先生の声が大きすぎるから……手帳もありますよ」
私の持っている障害者手帳はたしかに本物だったが、素行のあまりよろしくない耳鼻科を介在させた、かなりよろしくない手段で入手したものだった。だがそれでも、聴覚障害者6級という私のキャリアにウソはない。履歴書にだって書ける、国から拝した由緒正しいものだ。
「くだらない嘘をつくな! 生徒はだまって教師の言うとおりにしていればいいんだ!」
なのにこの先生は分かってくれない。同じ国に雇われる身だというのに。クッキーはもう帰ろうと私の足にすりよる。
「わかりました」
もちろん私は野良犬よりも行儀悪くほえたてるその教師に背を向け、学校をあとにした。後ろの雑音はもうどうでもいい。
「すいませんよく聞こえません。補聴器を忘れたもので。家に帰ってとってきますね」
犬と規則をはかりにかけたなら、犬のほうが重いに決まっている。くそが。高校に上がれば少しは自由がきくかと思ったのに。もう二度とあの学校に通うつもりはない。
不登校を決め込み、自室にひきこもってはや一週間が過ぎようとしていた。この一週間というスパンにどれほどの意味があるのか私はよく知らないが、やはりまたターニングポイントを迎えた。
クッキーはボーダーテリアに似ているといえば似ている雑種犬である。荒くゴワゴワした毛並みは汚れがしみつき、クッキー生地のように練りこまれてもはや落ちない。
だからクッキー。
あの教師――名前は忘れた――は私を嘘つきといったが、ひとつ本当のことがある。
クッキーはじっさい聴導犬なのだ。
私が近所の河原の橋のたもとで拾ってきた、段ボールの中でぶるぶる寒そうに震えていた薄汚いモップのような小麦色をした仔犬。
それがクッキー。名付け親はパパ。
そのクッキーを私が中学三年の一年を丸々かけて鍛えあげた。もともと学校には通っていなかったので、主に室内ではたらく聴導犬の訓練にはもってこいだったのだ。
そして、実地試験として、高校につれていったのだが、結局裏目に出てしまったようだ。私はまたひきこもっている。
そうして七日目、訓練を仕上げた私はひきこもるだけの意味を見失ってしまっていた。こうしていても仕方ないので、気分転換も兼ねてクッキーと一緒に河原まで散歩に行く。
自分の故郷に戻ってきたからだろうか、クッキーははしゃいでそこらを駆け回っている。そんな元気な愛犬の姿を見ても、私の心はむしろ沈むばかりだ。
この先どうすればいい? ママはいつの間にか死んでおり、パパはママによく似た面差しをしている(らしい)私の体を夜な夜な求めてくるが、きちんと仕事をして私を食べさせてくれるのだから、あまり文句を言える立場でもない。
だが――それでは、クッキーはどうなる。このままでは飼い殺しのまま聴導犬としてせっかく身につけた技能も、まるで宝の持ち腐れではないか。
親心として、そしてまた、恋人として。私はクッキーを日のあたる表舞台に立たせてやりたい。そう、切に願う。
だが人生とはそう都合よくコトが運んでくれたりはしない。なにより私自身、もうひとつ本音を言えば、クッキーを手放したくないのだ。どこにも行かずに、私だけのそばにいて欲しい。理性の本音とせめぎあう、中学生の時に友達だと思っていたクラスメートたちに飼い猫を殺された私の、動物的本能からくる本音。私に友達はいなかった。
ふと川のそばにいるクッキーを見ると、そばになにやら人影がある。
動物誘拐犯かもしれないと、警戒しつつ草やぶに隠れながら近寄る。
「わーワンたんかーいいねー。おなまえはー? なんてゆの? わたしはね、ここあってゆーのよ」
音程も音量も、なにもかも狂ってひどく耳障りな声が耳に入ってきた。まだ一〇mほど離れたこの地点で、これだけはっきり聞こえるということは相当のうるささだろう。
どうやらまだ小さい女の子のようだが、こういった声を出すたぐいの人間には覚えがある。
さらに近づいてよくよく確かめると案の定、キティちゃんの表紙をした冊子を首からさげていた。筆談用のメモ帳だ。
少女こそは正真正銘、生粋の聴覚障害者なのだろう。それもかなり重度の。自分の耳で自分の声を聴き取ることができず、他人の声との比較もできないから調子はずれの声になってしまうのだ。
「ワンたん、ひとり? くびわないよ?」
首輪はお金がないのでつけていない。
「じゃーね、ね。あたしがかっても、いーい?」
冗談じゃない! 私が手塩にかけて育てたクッキーを、ポッと出の馬の骨にみすみす取られてなるものか! 私は大声で叫んだ。
だが私の声は少女の耳には届かなかった。河川敷をジョギング中の老人が遠くでふりかえった。
私の足は動かなかった。少女は体長三〇センチ程度のクッキーを重そうに抱え上げるとよたよたと、私がいるところとは反対の方角に歩いていった。
少女の肩越しにクッキーと目が合った。
ああ、私のしつけは完璧だな。クッキーはこんなときでも鳴き声ひとつあげやしない。そのまま少女が住宅地の細道に消えて行くまで、ただ悲しそうな瞳でこちらを見ているだけだった。
翌日、私はくだんの生活指導の住所を調べて家に押しかけ、そのままのいきおいで誘惑して無理やり抱かれた。
クッキーを失ったやり場のない怒りをぶつけ、ついでにクビにでもしてやるつもりだったのだが、
教師に乱暴に突かれているうちになんだかどうでもよくなってしまった。おっぱいの下にある枕の感触に意識を集中する。
ことがすんだあと、先生は私にお金をくれた。
いま私は、クッキーのちんちんがどのような形をしていたか、必死になって思い出そうとしている。
男女恋愛+エロ+男女恋愛/『檻』/藤原諸現象
<まえがき>
今回は企画趣旨に加え「お題を引いた後1時間以内で完成させてUP」
という縛りルールを個人的に課して書いてみることにしました。
お題くじ:藤原諸現象さんのお題は『男女恋愛』です。(23:14)
お題くじ:藤原諸現象さんのお題は『エロ』です。(23:13)
お題くじ:藤原諸現象さんのお題は『男女恋愛』です。(23:13)
-------------------------
俺とジュンコが知り合ったのは、動物園の、獰猛なトラの檻の中だった。
なぜ俺達がそんな場所に居たのか、今となっては知る由も無い。ただ、なんとなく檻と檻のわずかな隙間に身を滑らせたら、思いのほかスルスルって、スルスル、スルスル、スルスルって、なんか知らないけど入っちゃって愉快で愉快でどうしょうもなかったんだ。だから仕方無いだろ。愉快。愉快。ああ愉快。
やったぜ、俺。なんか知らないけど前人未踏っぽい離れ業をやってのけちゃったかも、って浮かれてたら、すでに先客がいたわけで。
それが、つまり現在のセフレ、ジュンコだった。
念の為に言っておくがセフレとは、セントフレア、聖なる炎、の略ではない。
ああそう。そうだよ練馬区の渡邉さん、セフレとは、セックス及びオーラルセックス及びアナルセックス及びペッティングによる結びつきのみを重点的に強化されたことによって親交の生じたフレンドのことだ。もっと分かり易く言うと、セックスフレンドだ。
トラに食われかけていたジュンコは俺に救いの目を向けたさ。ヘルプミー、ヘルプミー、って、即興で作曲して歌ってたさ。
俺もさっそく、リュックサックからギブソン製のタンバリンを取り出して、彼女の歌に合いの手を入れた。シャンシャンシャン。かなり正確なリズムで。しかも裏打ちで。シャンシャンシャンシャンシャン。愉快。愉快。ああ愉快。
けれどもジュンコが求めていたのは、そんな偽善じみたパフォーマンスじゃなかった。彼女は純粋に、俺に助けて欲しかっただけなのだ。
そうと分かったらシャル、ウィー、ダンス。俺はあらゆる格闘技を3日でマスターした肉食系男子なのだ。トラ退治など朝飯前だった。
面倒くさいんで書かないが、ここから俺のかっこいいアクションシーンのすごく上手い描写があったと思ってくれ。とりあえずトラは一匹残らずミンチにしてやった。俺の秘奥義、バーニング・フリージング・ジャンピング・イン・ザ・リサイクルショップによって。俺を怒らせた哀れな道化師どもは、みんな必ずこうなる。
「どうしてあんな危険な場所にいたんだい?」
皇室御用達ラブホテル『ずんだもち』の一室で、俺は電子タバコをふかしながらジュンコに聞いた。
「だって、虎穴に入らずんば虎子を得ず、って、シェイクスピアの戯曲に書いてあったでしょう」
「君は本当に、虎子なんて欲しいのかな?」
「え……」
「君が、ジュンコが本当に欲しいのは、俺じゃないのか?」
彼女は何も答えなかった。ただ沈黙のままにうつむいて、憂いを帯びた横顔を覗かせる。俺はそんなジュンコの様子を垣間見るたび、どことなく水戸黄門を思い出す。このモンド・コロが目に入らぬか。モンド・コロとはおそらく卑猥なフランス語だと信じていた。そういった時期が俺にもあったし、きっと二十世紀を過ごした全ての少年がそうだったと思う。
俺はジュンコのふくよかな肉体の穴という穴にペニスをぶち込んだ。不器用だった俺は、そうすることでしかジュンコに対する愛情を表現できなかった。道化師とはまさにこの俺のほうだった。
さんざん射精しまくった後、俺とジュンコの背徳の恋は終わった。死別だった。抗生物質の効かない大腸菌がジュンコの全てを奪ったのだ。俺は世界中の大腸菌を恨んだ。無駄なのは分かりきっていた。大腸菌の皆さんだってきっと猛反省しているだろうから。
あの日以来、俺は一人で、足繁く動物園に通うようになった。トラの檻の中でまたジュンコが俺に助けを求めている気がしてななかったからだ。事実それは俺の妄想でしかないと思い知らされた。檻の中でトラに襲われていたのは、介護を必要とする後期高齢者ばかりだった。
それでも俺はジュンコを探しいている。ジュンコは俺にとって無くてはならない大切な性欲の捌け口だった、失ってしまった今となって、ようやくその名器に気付けた。
澄み渡る快晴の蒼穹に、一筋の飛行機雲が描かれて、やがて消えた。
俺は再び歩き出す。新たなるモンド・コロへ向かって。
-------------------------
『春は灼熱』(2010/07/31連載開始)
http://neetsha.com/inside/main.php?id=9013
<まえがき>
今回は企画趣旨に加え「お題を引いた後1時間以内で完成させてUP」
という縛りルールを個人的に課して書いてみることにしました。
お題くじ:藤原諸現象さんのお題は『男女恋愛』です。(23:14)
お題くじ:藤原諸現象さんのお題は『エロ』です。(23:13)
お題くじ:藤原諸現象さんのお題は『男女恋愛』です。(23:13)
-------------------------
俺とジュンコが知り合ったのは、動物園の、獰猛なトラの檻の中だった。
なぜ俺達がそんな場所に居たのか、今となっては知る由も無い。ただ、なんとなく檻と檻のわずかな隙間に身を滑らせたら、思いのほかスルスルって、スルスル、スルスル、スルスルって、なんか知らないけど入っちゃって愉快で愉快でどうしょうもなかったんだ。だから仕方無いだろ。愉快。愉快。ああ愉快。
やったぜ、俺。なんか知らないけど前人未踏っぽい離れ業をやってのけちゃったかも、って浮かれてたら、すでに先客がいたわけで。
それが、つまり現在のセフレ、ジュンコだった。
念の為に言っておくがセフレとは、セントフレア、聖なる炎、の略ではない。
ああそう。そうだよ練馬区の渡邉さん、セフレとは、セックス及びオーラルセックス及びアナルセックス及びペッティングによる結びつきのみを重点的に強化されたことによって親交の生じたフレンドのことだ。もっと分かり易く言うと、セックスフレンドだ。
トラに食われかけていたジュンコは俺に救いの目を向けたさ。ヘルプミー、ヘルプミー、って、即興で作曲して歌ってたさ。
俺もさっそく、リュックサックからギブソン製のタンバリンを取り出して、彼女の歌に合いの手を入れた。シャンシャンシャン。かなり正確なリズムで。しかも裏打ちで。シャンシャンシャンシャンシャン。愉快。愉快。ああ愉快。
けれどもジュンコが求めていたのは、そんな偽善じみたパフォーマンスじゃなかった。彼女は純粋に、俺に助けて欲しかっただけなのだ。
そうと分かったらシャル、ウィー、ダンス。俺はあらゆる格闘技を3日でマスターした肉食系男子なのだ。トラ退治など朝飯前だった。
面倒くさいんで書かないが、ここから俺のかっこいいアクションシーンのすごく上手い描写があったと思ってくれ。とりあえずトラは一匹残らずミンチにしてやった。俺の秘奥義、バーニング・フリージング・ジャンピング・イン・ザ・リサイクルショップによって。俺を怒らせた哀れな道化師どもは、みんな必ずこうなる。
「どうしてあんな危険な場所にいたんだい?」
皇室御用達ラブホテル『ずんだもち』の一室で、俺は電子タバコをふかしながらジュンコに聞いた。
「だって、虎穴に入らずんば虎子を得ず、って、シェイクスピアの戯曲に書いてあったでしょう」
「君は本当に、虎子なんて欲しいのかな?」
「え……」
「君が、ジュンコが本当に欲しいのは、俺じゃないのか?」
彼女は何も答えなかった。ただ沈黙のままにうつむいて、憂いを帯びた横顔を覗かせる。俺はそんなジュンコの様子を垣間見るたび、どことなく水戸黄門を思い出す。このモンド・コロが目に入らぬか。モンド・コロとはおそらく卑猥なフランス語だと信じていた。そういった時期が俺にもあったし、きっと二十世紀を過ごした全ての少年がそうだったと思う。
俺はジュンコのふくよかな肉体の穴という穴にペニスをぶち込んだ。不器用だった俺は、そうすることでしかジュンコに対する愛情を表現できなかった。道化師とはまさにこの俺のほうだった。
さんざん射精しまくった後、俺とジュンコの背徳の恋は終わった。死別だった。抗生物質の効かない大腸菌がジュンコの全てを奪ったのだ。俺は世界中の大腸菌を恨んだ。無駄なのは分かりきっていた。大腸菌の皆さんだってきっと猛反省しているだろうから。
あの日以来、俺は一人で、足繁く動物園に通うようになった。トラの檻の中でまたジュンコが俺に助けを求めている気がしてななかったからだ。事実それは俺の妄想でしかないと思い知らされた。檻の中でトラに襲われていたのは、介護を必要とする後期高齢者ばかりだった。
それでも俺はジュンコを探しいている。ジュンコは俺にとって無くてはならない大切な性欲の捌け口だった、失ってしまった今となって、ようやくその名器に気付けた。
澄み渡る快晴の蒼穹に、一筋の飛行機雲が描かれて、やがて消えた。
俺は再び歩き出す。新たなるモンド・コロへ向かって。
-------------------------
『春は灼熱』(2010/07/31連載開始)
http://neetsha.com/inside/main.php?id=9013
バスケ+BL+変態/バスケットボールには/橘圭郎
バスケットボールには男が詰まっている!
これは信じていいことなんだ。何故って、屈強俊敏な男達があんなにも汗を迸らせて一つのボールを奪い合うなんて信じられないことではないか。
俺は小学生の頃からバスケットボールに親しんでいたので、高校に上がっても自然とそれを続ける形になった。いやむしろ、必然でさえあった。俺にとってバスケットボールはまさに生活と人生の一部であり、俺自身と切り離せないものだったのだ。
だが一方で当時、俺には一つ大きな疑問があった。どうしてそうまでバスケットボールを好きなのか、自分でも整然とした答えを持っていなかったのである。
きみは知っているか。きみの最も大事なるものへの愛が、一体全体何に根ざしているのかを、きみ自身が知っているか。
疑問がいや増し、疑念や疑惑と呼んでも差し支えないほどに膨れ上がったのは、高校一年生の夏休みの一件が占めるところ大きい。当時の俺は伸び悩んでいて、詰まらないミスばかりしていた。そこで練習後にキャプテンを訊ねて、個人的に指導をしてくれるよう頼むつもりだった。
ところが一通りの全体練習が終わり、ふと気が付けば、キャプテンとマネージャーの姿が見えなくなっている。同級生や先輩に聞いても、どこへ行ったか知らぬと返ってきた。しかしそれは嘘に見えた。俺の目には、皆が何かを隠しているように映った。そうなれば是が非でもキャプテンを探しきらねば気が済まぬのは至極当然。俺は皆の止める声を無視して駆け出した。
するとどうだ。果たして倉庫の暗がりで見つけた二人の姿はどうだ。あからさまに唇を重ね、乳首を突つき合って、甘い声を漏らしているではないか。青春の盛りにあるべき二人が、外では燦々と日輪が輝いておろうこの暑気から隠れて、陰湿たる戸の内で情愛を交わしておるではないか。俺は一も二もなくその場から逃げた。言い忘れたがここは男子校であり、キャプテンが男ならばマネージャーも男だ。つまりはそういうことなのだ。
しかも後で知ったことだが、俺の通う私立立川高校にはおかしな謂れがあった。古くは文明開化の以前に立川清兵衛なる侍が、恋人の猫山八右衛門と共に刀を捨てて開いた私塾が基であるらしい。つまりは起源からして男性愛によるもの。ここは変態共の巣窟だったのだ。俺は何も知らずに入学を求めた自分の無知を呪わずにおれなかった。
青春を捧げるつもりで打ち込んでいたバスケットボールが、まさか男色に侵されていようとは! 俺の心持は失望に満たされた。裏切られたと思った。しかしそれでも俺はバスケットボールを見限ることが出来なかった。
キャプテンは俺の憧れだった。俺が立川高校への進学を志したのはバスケットの強豪であるからで、しかも昨年と一昨年と連続で全国大会優勝を成し遂げたのはまさに、例のキャプテンが一年次からレギュラーとして大活躍していたからに他ならない。神懸かり的なテクニックと剛柔を兼ね備えた多彩なプレイスタイル、それでいて常に穏やかな面持ちをしていることからバスケ菩薩とさえ呼ばれていた。そのキャプテンが、あんな趣味を……。
それから何も信じられず、俺は何日も家に引きこもるようになった。本当は身体を動かしたい。汗を流したい。ボールを巧みに操ってみたいのに、またキャプテンのことを思い出してしまうのが恐ろしい。
部屋から出ない俺を訪ねてきたのは、あろうことかキャプテンだった。キャプテンはドアの向こうから「お前はバスケが好きか」と問いかけてきたので、俺は「好きでした」と答えた。率直で偽りない気持ちだ。
「では嫌いなのか?」
「嫌い、ではないです」
全くの嫌いにはなり切れない。だから楽になれなくて、ずっと吐き気がする。
「あんな球遊びがか?」
俺はキャプテンの言葉に耳を疑った。今、彼は何と言ったのだ? 代表選手ともあろうお人が、自らの励む競技を指して、球遊びと?
「所詮は球遊びだよ。わざわざ大事なエネルギーを消耗して、一つの球を奪い合う。手にした球をどうするのかと言えば、これまたわざわざ離れた位置にある籠に入れるのだ。しかも試合中、その球を持ち歩いてはいけないときた。面倒極まる」
「キャプテンは……バスケが嫌いなのですか?」
「愚問だな。大好きに決まっているだろう」
意味が分からない。意図が掴めない。計り知れない。
「お前はそんな球遊びを、どうして好きだったのだ?」
「キャプテンはどうして好きなのですか?」
「質問に質問で返すな」
「すみません……自分では分かりません」
「ならば教えてやろう。ここを開けろ」
俺の腹に溜まっている、蛆湧く汚泥のような気持ち悪さ。この正体を明らかにしてくれるのならば喜んで。そう思って俺はドアを開けた。
彼は全裸だった。いや正確には、何故か靴下だけは履いたままである。足元のフローリングには服が丁寧に畳まれていた。
「どうだ」
「何がですか! 前を隠してください!」
「どこでもよいから、私の身体を触ってみろ。怖いことなど何も無い」
このじっとりとした空気の中、いつ俺の家族が様子見に来るかも知れない状況下で、股間のものを屹立させているのには驚くばかりだ。だがやはり、また彼のことも嫌いになっているかと自問をすれば否という答えがある。俺はキャプテンを目指して立川高校に入ったと言っても過言ではないのだから。
ならば、彼の勧めに対しては断らざるが道理。俺は恐れながらも手を伸ばした。そして驚愕した。この感触は、どうだ。キャプテンの肩、背、腕、胸、腹、腿、そして……どこをとっても伝わってくるのは、バスケットボールのそれではないか。
「なんですか、これは!」
「これが答えだ」
夢幻に惑わされているではないかとつい疑うほどに、固さも張りも、紛うことなく、俺が物心ついたときから求めて慣れ親しんでいたボールの手触りと寸分も違わないのだ。さてはキャプテンは、バスケットボールの化身なのか? 世にバスケの素晴らしさを広め、その威でもって人々を救済する、篭球権現だとでも言うのか? バスケ菩薩の名は伊達ではないのか!
「余計なことは考えず、また打ち込んでみろ。そうすればいずれお前にも分かる」
戸惑うしかない俺にそう言うと、俺の問いに答えらしい答えもせずにキャプテンは服を抱えてそのまま帰って行ってしまった。残された俺は、汗ばんだ手の平をじっと眺めていた。
この時点では何が何やら今ひとつ掴みかねていたところが多くあったのだが、しかしキャプテンが俺のためにわざわざ家まで来てくれたこと、そして新たな衝撃をもたらしてくれたことは疑いようのない事実。それに応えなければ嘘だ。だから俺は次の日から部活に復帰し、彼の言葉通り無心に練習を重ねたのだ。
――考えるな、感じろ――これは確か、カンフー映画で使われた台詞だったろうか。
実に的を射ている言葉だ。雑念を捨てればそれだけ目が開き、肌も鋭敏になってゆく。もうどこにも迷いは無い。
飛び散る汗。男。シューズと床の擦れる音。男。掛け合う声。男。交わす視線。男。ファール時に密着する肌。男。ドリブルの小気味良いリズム。男。倉庫に漂う精液の匂い。男。高みを目指す志。男。心地よい筋肉の疲労感。男。館内に充満する熱気。男。男。男……。
そうだ。バスケットボールには男が詰まっている! 屈強俊敏な男達があれだけ球遊びに心血を注ぐのは、すなわち俺達が男だからだ。ここまで語ればきみにも分かるだろう。今やキャプテンに並び、あのボールの如く強靭活発となった俺の肉体が何によって育まれているのか。男への愛は、バスケへの愛そのものだ。だからキャプテンはこんな球遊びが大好きだと言った。逆もまた然り。バスケが好きならば男も好きであること至極当然。それを認めようとせず、のんけを気取っていたから苦しかったのだ。
バスケットボールは男である。
俺は男である。
すなわち、俺がバスケットボールである。
キャプテンはこれが言いたかったのだろう。俺もまたこの境地に至るべしと言いたかったのに違いない。悟りを開いた俺は既にボールと一心同体、陰陽合一、梵我一如。皆がボールを奪い合うということは、これつまり皆が俺を求めているということだ。
止めろ、俺の身体は一つだぞ。持って抱えたまま三歩以上歩くなど、そんな独占が許されると思っているのか。
またシュートを外したな。左手は添えるだけだといつも言われているだろう。情人のふぐりをそんなに強く掴む奴があるか。
回せ。一人で突っ込もうとするな。何のためのチームプレイだ。
たまにはフェイントも使え。焦らしのテクニックは必須だぞ。
スリーポイントだと? 得点を急ぐな。何の準備もせずにバックから穴(ゴール)へ入れる気か!
真の男、真のバスケの高みへと上った俺達は最強だ。俺とキャプテンによる阿吽の呼吸、連携プレイの前に敵などいない。きっと今年も全国優勝をひっ掴み、怒涛の三連覇を成し遂げるだろう。
しかしそこで慢心しないのがキャプテンだ。彼にしてみれば俺などまだまだ甘いらしい。また彼が戒めて言うことには、俺の知らない世界、決して公式戦では当たることのない相手にこそ真の強者がいるとのこと。さては大学生チームだろうか。それとも本場のアメリカンスクール?
「近々、練習試合を組むことに決まった」
「誰ですか、その相手は?」
「白百合学園女子バスケットボール部」
「女、ですか……」
耳を疑った。その次に背を這ったのは悪寒だ。女の細指がボールを――つまりは俺の身体を――いじくり回していると考えただけで怖気がする。
「奴らなんぞに到底、ボールを持つ資格があるとは思えません」
「だから甘いと言うのだ。学校としてはまだ無名だが、白百合の主将を務める綾坂という女……只者ではないぞ」
俺は少し反感を覚えたが、キャプテンが決めたのだから致し方ない。ならば俺の取るべき道は一つだけ。いたずらに男の道へ足を踏み入れんとする不届きな女共を、完膚なきまでに叩き伏せるのみだ。首を洗って待っていろ、白百合学園とやら。目にモノを見せてくれよう。
ああ、そうだ。バスケットボールには男が詰まっている!
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
冒頭は梶井基次郎の小説『桜の樹の下には』のパロディ。
また内容は、似たようなお題くじを引いた黒兎先生とちょっぴりコラボしております。
新都社内での登録作品
『フロッピー・パーソナリティー』http://neetsha.com/inside/main.php?id=7328
『良い子と悪い大人のための平成夜伽話』http://neetsha.com/inside/main.php?id=7947
バスケットボールには男が詰まっている!
これは信じていいことなんだ。何故って、屈強俊敏な男達があんなにも汗を迸らせて一つのボールを奪い合うなんて信じられないことではないか。
俺は小学生の頃からバスケットボールに親しんでいたので、高校に上がっても自然とそれを続ける形になった。いやむしろ、必然でさえあった。俺にとってバスケットボールはまさに生活と人生の一部であり、俺自身と切り離せないものだったのだ。
だが一方で当時、俺には一つ大きな疑問があった。どうしてそうまでバスケットボールを好きなのか、自分でも整然とした答えを持っていなかったのである。
きみは知っているか。きみの最も大事なるものへの愛が、一体全体何に根ざしているのかを、きみ自身が知っているか。
疑問がいや増し、疑念や疑惑と呼んでも差し支えないほどに膨れ上がったのは、高校一年生の夏休みの一件が占めるところ大きい。当時の俺は伸び悩んでいて、詰まらないミスばかりしていた。そこで練習後にキャプテンを訊ねて、個人的に指導をしてくれるよう頼むつもりだった。
ところが一通りの全体練習が終わり、ふと気が付けば、キャプテンとマネージャーの姿が見えなくなっている。同級生や先輩に聞いても、どこへ行ったか知らぬと返ってきた。しかしそれは嘘に見えた。俺の目には、皆が何かを隠しているように映った。そうなれば是が非でもキャプテンを探しきらねば気が済まぬのは至極当然。俺は皆の止める声を無視して駆け出した。
するとどうだ。果たして倉庫の暗がりで見つけた二人の姿はどうだ。あからさまに唇を重ね、乳首を突つき合って、甘い声を漏らしているではないか。青春の盛りにあるべき二人が、外では燦々と日輪が輝いておろうこの暑気から隠れて、陰湿たる戸の内で情愛を交わしておるではないか。俺は一も二もなくその場から逃げた。言い忘れたがここは男子校であり、キャプテンが男ならばマネージャーも男だ。つまりはそういうことなのだ。
しかも後で知ったことだが、俺の通う私立立川高校にはおかしな謂れがあった。古くは文明開化の以前に立川清兵衛なる侍が、恋人の猫山八右衛門と共に刀を捨てて開いた私塾が基であるらしい。つまりは起源からして男性愛によるもの。ここは変態共の巣窟だったのだ。俺は何も知らずに入学を求めた自分の無知を呪わずにおれなかった。
青春を捧げるつもりで打ち込んでいたバスケットボールが、まさか男色に侵されていようとは! 俺の心持は失望に満たされた。裏切られたと思った。しかしそれでも俺はバスケットボールを見限ることが出来なかった。
キャプテンは俺の憧れだった。俺が立川高校への進学を志したのはバスケットの強豪であるからで、しかも昨年と一昨年と連続で全国大会優勝を成し遂げたのはまさに、例のキャプテンが一年次からレギュラーとして大活躍していたからに他ならない。神懸かり的なテクニックと剛柔を兼ね備えた多彩なプレイスタイル、それでいて常に穏やかな面持ちをしていることからバスケ菩薩とさえ呼ばれていた。そのキャプテンが、あんな趣味を……。
それから何も信じられず、俺は何日も家に引きこもるようになった。本当は身体を動かしたい。汗を流したい。ボールを巧みに操ってみたいのに、またキャプテンのことを思い出してしまうのが恐ろしい。
部屋から出ない俺を訪ねてきたのは、あろうことかキャプテンだった。キャプテンはドアの向こうから「お前はバスケが好きか」と問いかけてきたので、俺は「好きでした」と答えた。率直で偽りない気持ちだ。
「では嫌いなのか?」
「嫌い、ではないです」
全くの嫌いにはなり切れない。だから楽になれなくて、ずっと吐き気がする。
「あんな球遊びがか?」
俺はキャプテンの言葉に耳を疑った。今、彼は何と言ったのだ? 代表選手ともあろうお人が、自らの励む競技を指して、球遊びと?
「所詮は球遊びだよ。わざわざ大事なエネルギーを消耗して、一つの球を奪い合う。手にした球をどうするのかと言えば、これまたわざわざ離れた位置にある籠に入れるのだ。しかも試合中、その球を持ち歩いてはいけないときた。面倒極まる」
「キャプテンは……バスケが嫌いなのですか?」
「愚問だな。大好きに決まっているだろう」
意味が分からない。意図が掴めない。計り知れない。
「お前はそんな球遊びを、どうして好きだったのだ?」
「キャプテンはどうして好きなのですか?」
「質問に質問で返すな」
「すみません……自分では分かりません」
「ならば教えてやろう。ここを開けろ」
俺の腹に溜まっている、蛆湧く汚泥のような気持ち悪さ。この正体を明らかにしてくれるのならば喜んで。そう思って俺はドアを開けた。
彼は全裸だった。いや正確には、何故か靴下だけは履いたままである。足元のフローリングには服が丁寧に畳まれていた。
「どうだ」
「何がですか! 前を隠してください!」
「どこでもよいから、私の身体を触ってみろ。怖いことなど何も無い」
このじっとりとした空気の中、いつ俺の家族が様子見に来るかも知れない状況下で、股間のものを屹立させているのには驚くばかりだ。だがやはり、また彼のことも嫌いになっているかと自問をすれば否という答えがある。俺はキャプテンを目指して立川高校に入ったと言っても過言ではないのだから。
ならば、彼の勧めに対しては断らざるが道理。俺は恐れながらも手を伸ばした。そして驚愕した。この感触は、どうだ。キャプテンの肩、背、腕、胸、腹、腿、そして……どこをとっても伝わってくるのは、バスケットボールのそれではないか。
「なんですか、これは!」
「これが答えだ」
夢幻に惑わされているではないかとつい疑うほどに、固さも張りも、紛うことなく、俺が物心ついたときから求めて慣れ親しんでいたボールの手触りと寸分も違わないのだ。さてはキャプテンは、バスケットボールの化身なのか? 世にバスケの素晴らしさを広め、その威でもって人々を救済する、篭球権現だとでも言うのか? バスケ菩薩の名は伊達ではないのか!
「余計なことは考えず、また打ち込んでみろ。そうすればいずれお前にも分かる」
戸惑うしかない俺にそう言うと、俺の問いに答えらしい答えもせずにキャプテンは服を抱えてそのまま帰って行ってしまった。残された俺は、汗ばんだ手の平をじっと眺めていた。
この時点では何が何やら今ひとつ掴みかねていたところが多くあったのだが、しかしキャプテンが俺のためにわざわざ家まで来てくれたこと、そして新たな衝撃をもたらしてくれたことは疑いようのない事実。それに応えなければ嘘だ。だから俺は次の日から部活に復帰し、彼の言葉通り無心に練習を重ねたのだ。
――考えるな、感じろ――これは確か、カンフー映画で使われた台詞だったろうか。
実に的を射ている言葉だ。雑念を捨てればそれだけ目が開き、肌も鋭敏になってゆく。もうどこにも迷いは無い。
飛び散る汗。男。シューズと床の擦れる音。男。掛け合う声。男。交わす視線。男。ファール時に密着する肌。男。ドリブルの小気味良いリズム。男。倉庫に漂う精液の匂い。男。高みを目指す志。男。心地よい筋肉の疲労感。男。館内に充満する熱気。男。男。男……。
そうだ。バスケットボールには男が詰まっている! 屈強俊敏な男達があれだけ球遊びに心血を注ぐのは、すなわち俺達が男だからだ。ここまで語ればきみにも分かるだろう。今やキャプテンに並び、あのボールの如く強靭活発となった俺の肉体が何によって育まれているのか。男への愛は、バスケへの愛そのものだ。だからキャプテンはこんな球遊びが大好きだと言った。逆もまた然り。バスケが好きならば男も好きであること至極当然。それを認めようとせず、のんけを気取っていたから苦しかったのだ。
バスケットボールは男である。
俺は男である。
すなわち、俺がバスケットボールである。
キャプテンはこれが言いたかったのだろう。俺もまたこの境地に至るべしと言いたかったのに違いない。悟りを開いた俺は既にボールと一心同体、陰陽合一、梵我一如。皆がボールを奪い合うということは、これつまり皆が俺を求めているということだ。
止めろ、俺の身体は一つだぞ。持って抱えたまま三歩以上歩くなど、そんな独占が許されると思っているのか。
またシュートを外したな。左手は添えるだけだといつも言われているだろう。情人のふぐりをそんなに強く掴む奴があるか。
回せ。一人で突っ込もうとするな。何のためのチームプレイだ。
たまにはフェイントも使え。焦らしのテクニックは必須だぞ。
スリーポイントだと? 得点を急ぐな。何の準備もせずにバックから穴(ゴール)へ入れる気か!
真の男、真のバスケの高みへと上った俺達は最強だ。俺とキャプテンによる阿吽の呼吸、連携プレイの前に敵などいない。きっと今年も全国優勝をひっ掴み、怒涛の三連覇を成し遂げるだろう。
しかしそこで慢心しないのがキャプテンだ。彼にしてみれば俺などまだまだ甘いらしい。また彼が戒めて言うことには、俺の知らない世界、決して公式戦では当たることのない相手にこそ真の強者がいるとのこと。さては大学生チームだろうか。それとも本場のアメリカンスクール?
「近々、練習試合を組むことに決まった」
「誰ですか、その相手は?」
「白百合学園女子バスケットボール部」
「女、ですか……」
耳を疑った。その次に背を這ったのは悪寒だ。女の細指がボールを――つまりは俺の身体を――いじくり回していると考えただけで怖気がする。
「奴らなんぞに到底、ボールを持つ資格があるとは思えません」
「だから甘いと言うのだ。学校としてはまだ無名だが、白百合の主将を務める綾坂という女……只者ではないぞ」
俺は少し反感を覚えたが、キャプテンが決めたのだから致し方ない。ならば俺の取るべき道は一つだけ。いたずらに男の道へ足を踏み入れんとする不届きな女共を、完膚なきまでに叩き伏せるのみだ。首を洗って待っていろ、白百合学園とやら。目にモノを見せてくれよう。
ああ、そうだ。バスケットボールには男が詰まっている!
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
冒頭は梶井基次郎の小説『桜の樹の下には』のパロディ。
また内容は、似たようなお題くじを引いた黒兎先生とちょっぴりコラボしております。
新都社内での登録作品
『フロッピー・パーソナリティー』http://neetsha.com/inside/main.php?id=7328
『良い子と悪い大人のための平成夜伽話』http://neetsha.com/inside/main.php?id=7947
バスケ+GL+シナモン/しなもんっ!/黒兎玖乃
日照りが強く、残暑の厳しい九月。秋が目と鼻の先に迫ってくる季節だが、暑がりの俺からしてみればまだまだ小笠原気団の猛威は変わらずに、身体中の水分を余すことなく奪っている。ああ、言いたくないけど言ってしまう。残暑が厳しいざんしょ、ね。
「あちーったらありゃしねえああもうまったく帰っていいかな俺」
現代の木乃伊と化した俺が今くたばっているのは、第一学年として通学中の市立白百合学園の体育館。夏場の閉め切った体育館と聞けば、条件反射で汗が噴き出してくる人も少なくないだろう。
俺は今、現実でそんな場所にいるのだ。指折り数える間に熱中症になってもおかしくない。許されるのなら、今すぐ帰りたいの、だが。
「おーいマネージャーこと品部ー。ドリンク用意しといてー」
「はいはーいドリンクですね分かりましたしばしお待ちを」
俺は飛び起きた犬を髣髴とさせる勢いで立ち上がり、ドリンクを入れてある巨大なドリンクボトル(仮)の射出口の下に紙コップを置く。そして射出ノズルを捻る。「いやあああらめえええ」と言わんばかりに白濁した液体(※スポーツドリンク+プロテイン)が飛び出し、用意した五つ分の紙コップに注がれる。ちなみに俺の分はない。いと悲し。
お盆の上にコップを置いて、ドリンクを欲している者達の元へとえんやこらさっさと運ぶ。どうやら今ちょうど休憩に入ったようで、みんなタオルで汗を拭いたりユニフォームを脱いだりしてい……
ブ――――――ッ
「あら品部君、いったいどうしちゃったのかしら?」
――――世界が、止まった《ザ・ワールド》。
「あんたが原因に決まってるでしょ有栖! し、品部大丈夫!?」
「お、しなぶーじゃん。何で鼻血放出してぶっ倒れてんの?」
「見てれば分かるでしょ! 有栖がまたいきなり脱ぎだしたのよ!」
「何だって? 有栖、そんな魅力的で刺激的なことは私の前だけでするって言う約束だっただろ!」
「あらごめんなさい、うふふ」
「品部が悶絶で気絶……しなべがもんぜつ……シナモン……シナモンロール食べたい」
「訳分からないこと言ってないで手伝いなさい!」
俺の名前は品部裕人(しなべひろと)。前述したとおり市立白百合学園第一学年生。
趣味はバスケで意気揚々とバスケ部に入ろうとしたものの、男子バスケ部がないということなので仕方なく帰宅部に……なるはずだったのだが、なんだかんだあって無理矢理女バス部に入れられた。
それで、女バス部マネージャー。後は一つを除いてごく普通な男子生徒である。
その一つがちょっぴり問題なんだが…………
「ちょっと品部、大丈夫?(むにゅ)」
「ッッッ!! くおおおおおおおおおああああああッ!!」おっぱああああああああああいいいいいええええ!!
ブフ――――――ッ
「し、品部!?」
人よりちょっとだけ、鼻血がデラックスボンバーしちゃうの。
「んく…………」
何とか、意識を取り戻したらしい。まだ若干景色が霞んでいる。
目を開けたらそこは雪国ではなくまだ体育館だった。どうやら毛布一枚の上に寝かされていたらしい。いっそのこと冬が来るまで冬眠させてください。
俺がむくりと身体を起こすと、そこには先ほどユニフォームを着ていた先輩が、今度はちゃんとTシャツを着て、俺の目の前に座っていた。
「うふふふふ。品部君は面白いわねー」
……俺はとりあえず、真っ当な台詞を口にする。
「お願いですからいきなり脱ぎだすのだけは止めてください……」
鼻にティッシュに詰められている所為で、鼻声。まだキーゼルバッハがどくんどくんいってる。
俺が何度言っても、この和風美人さながらの黒のロングヘアーがふつくしい先輩――――皆川有栖先輩は、俺の近くに寄って来て脱ぎだすことを止めない。
いや思春期の男子としてはマーベラスに嬉しいのだが、慢性鼻血噴出男としては御免被りたい。これ以上血出しちゃったら、俺死んじゃう。俺死んじゃう。大事なことだから二回言いました。
「あんたも災難ねえ品部……こんな部活のマネージャーになんかなっちゃって」
はあ、とため息をつくのは、先ほどただ一人俺を看病しようとしてくれた、平沢薫先輩。肩ほどの茶セミロングヘアーが似合う先輩で、そして俺の唯一無二の理解者だ。
まあそれでも天然ボケと胸が少々豊満で、さっきみたいな事故が起こりかねない。安全と危険が同居する先輩である。ううむ、ハイリスクハイリターン。ん? 違うか。
「大変ですけど、それでもバスケが好きですから平気ですよ」
「はあ、強いわねえ品部は。私だったら耐え切れないわよ。今ですら“あの子”の所為で時折辞めたい衝動に駆られるのに」
「あの子って、まさかあの――」
俺がそう訊こうとした瞬間。
「薫姉さま~~~~~~っ!!」
――俺のすぐ横を、疾風の申し子が駆け抜けた。その正体は、誰も知らない……わけがない。
女バス部なら誰でも知っている、疾風の申し子。しかしてその実態は“変態の申し子”――――《エロリスト・チルドレン》である。
彼女は獲物を見つけた猛獣のごとく平沢先輩に肉薄し、そして紳士的に変態的にねっとりと全身を駆使して、先輩の肢体に絡みついた。人はこの動きを俗に「性なる絡みつき《セクシャルツウィスト》」と呼ぶ。
「あ、あかり!? いきなりしがみ付くのは止めなさいってか降りなさい! 汗ベッタベタのまんまで気持ち悪いのよあんた!!」
「そんなことを言わずに、薫姉さまも私と一緒に運動してたくさん汗を流して絡まりましょう! それがお姉さまの許婚としての使命……いえ、義務なのです!」
「いいいやあああああ止めなさいったら!!」
まあ、大体こんな感じだ。この人は波戸場あかり。体育館に喧騒をもたらす原因の一つである。
ガールズラブとか、百合とでも言うのかな。波戸場はそれに属する女性である。メスが好きなメス。
ちなみに同級生で同クラス。クラスでも度々騒ぎになっているが、俺は関わりたくないと心から願っている。その祈りが届くのもいつまでだろうかね。
それで、女バス部は四人。残りの一人は今いないようだが……っと、ようやく戻ってきなさった。
「綾坂先輩! どうぞ、ドリンクです」
「あら、どうもありがとう品部君」
実に完成された動きで俺の差し出したドリンクを受け取り、まさに茶道の人がするかのように丁寧にドリンクを飲み干す。その一連の動作をそつなくこなす様を見ていると、鳥肌が立ちそうだ。
「本当に気が利くわね品部君は」
「い、いえ……。マネージャーとして当然のことですから」
この先輩は綾坂仁美先輩。女バス部のキャプテンで、実に頼りがいのある先輩。波戸場とかがうるさいときに場を静めるのも、大体綾坂先輩。本当に大人で、状況判断の出来る先輩だ。
綾坂先輩は波戸場が平沢先輩に絡み付いているのを見つけると、呆れるようにため息を吐いた。
「……あの二人はまたいちゃついているのね」
「そうなんですよ……どうにかしていただけませんかね」
「まかせてて」
先輩は二人の許まで行くと、波戸場の耳元で、そっと耳打ちしたように見える。
次の瞬間。あれほどでろでろと絡み付いていた波戸場が瞬時にフロアに屹立した。顔には汗が大量に流れていて、表情もどこか強張っている。おい、何を言ったんだ綾坂先輩は。
俺はにこにこと微笑みながら戻ってくる先輩に訊ねた。
「せ、先輩。波戸場に一体何を言って……?」
「品部君」
先輩が流れるストレートヘアーを揺らしながら、おしとやかに且つ凄みをつけて言った。
「世の中には知っていいことと知らなくていいことがあるの。分かったかな?」
「イエッサー」
どこか脅迫じみているような気がするが、たぶん気のせいだ。
「あれ、そう言えば柊先輩と皆川先輩は?」
「えーっとね、二人なら…………」
皆川先輩はさっきの艶やか美人。柊春香先輩は先ほど俺がぶっ倒れた時に皆川先輩と乳繰り合っていた先輩だ。凄く仲が良いみたいだけど、まあ、まさかこの人たちまでガールズラブってことはあるまい。
『ちょ、ちょっと有栖……そこは舐めちゃ駄目……んっ……』
『うふふ……ちょっとしたお遊びなのに春香ったらこんなに』
「お取り込み中みたいね」
「ほわたあああああああああああああああっ!!」
その後、俺が無理矢理部室に突入させられてビビディ鼻血ブーで卒倒したのは言うまでもない。
数分後、ようやくコートに全員が集合した。俺は鼻にティッシュを詰め込んだままで。
「全員、揃ったわね。それじゃあ、練習を再開するわよ……っとその前に。今度、練習試合をすることになったから。我が女バス部、初めての試合。相手はより強いほうがいいと思って、男子校の私立立川高校に申し込んだわ」
おおっ、と体育館内に僅かのどよめきが巻き起こった。
女子バスケットボール部初めての試合。やはり皆、感慨深いものがあるのだろう。しかも相手は女子よりも格段に実力が上の男子だ。気合が入るのも無理はない。
「これで私と薫姉さまの絆をようやく全国にご披露できますっ!」「あのねえ……バスケの試合だからね。分かってる? あかり」「有栖。し、試合中にあんなことしたら駄目だからな……」「うふふ、分かってるわ。試合後の汗まみれのところを狙ってあげる」
大丈夫かなこのバスケ部。
「皆静かに! というわけで、早速練習に移るわよ!」
今日の練習は実戦形式。元バスケ部である俺がゴール下の守りに入って、俺のディフェンスを避けながらシュートすると言う練習だ。いくら女バスとはいえ、俺も手を抜くわけには行かない。本気で行こう。
「それじゃあ――――始めっ!」
まず最初に飛び込んできたのは、綾坂先輩。先輩のポジションはシューティングガードで、スリーポイントが得意だ。だからそれを阻止するために、俺はディフェンスラインよりで腰を低くして観察する。
キュッ、と音を立てて先輩が立ち止まる。奥に隠した右手でドリブルをしているので、来るとしたら右に行く、と見せかけて左だろう。俺はじりじりと後退しながら、先輩がスリーを打つのを狙う。先輩のシュートフォームは癖があるから、それを見抜けばスリーは阻止できる。
先輩はそれを察知したのか、ドリブルする手を徐々に前に出してきた。シュートする気かな?
瞬間、先輩が両手にボールを持った。シュートだっ! 俺はすかさず腕を振り上げてジャンプッ! …………って、あれ? 先輩シュートしない。ボール持ったまんまだ……って、まさか!
俺が気づいたときには、ぱつんとボールがリングの間を潜り抜けていた。
「ふふ、こんな初歩のフェイントにだまされるなんて、まだまだね」
くっそ、フェイントだったか。先輩のほうが一歩上手だったな。気にせずにいこう。次!
次は平沢先輩。フォワードの一人と言うだけあって、攻めあがってからのドライブが凄まじい。願わくば途中で止めようと考えず、ゴール下で潰しにかかりたいところだ。
センターラインからドリブルしてくるのだが、やはり動きが素早い。ドリブルも膝より低くてスティールが難しい。これはやはり、ゴール下に誘い込むしかないか。早すぎて残像のようなものまで見えている。
……………………
残像って言うか、確実にもう一人いる気がする。
「薫姉さま~! 私たちのラブラブで百合百合な必殺技行きますよ~!」
やっぱお前か!
「あ、あかりいつの間にあんた私の背後に」
「いっきますよお姉さま! 《ダブルラブハリケーンツインマークⅡセカンド》!」
名前に2が多いと言うどこかの漫画で見たネタは置いといて、一体どんな技なんだ。
「いやそんな技聞いたこともないって…………あひぃっ!?」
音速の勢いで、波戸場が平沢先輩に抱きついた。というわより、再び絡みついた。その所為で先輩はボールを空中へと放り出してしまった。全く、何をやっているんだか。
空中を舞うボールは放物線を描いて、やがて地面に真っ逆さまに…………
ぱつーん。
あれ? 入っちゃった。
「やりましたー! 私と薫姉さまのラブシュート、めでたくゴールインです!」
「一応結果オーライだけどその言い方は止めなさい!」
……気を取り直して次。視界の隅で百合展開が繰り広げられているけど、次。
柊先輩。同じくフォワードで、シュートの安定力に定評がある。
しかしゴール下に切り込むだけのドリブル力はないので、攻めあぐねた結果ジャンプシュートになることが多い。つまりディフェンスをしっかりしていれば決して怖くない先輩だ。
真正面から迎え撃って、姿勢を低くする。柊先輩には悪いが先輩はそこまでフェイントがうまくないから、経験者の俺からすれば何をしたいのかが見え見えだ。今は俺の背後を見て顔を赤くしていて、俺の横を抜くのを躊躇っているかのように見えるからつまり…………
「つーかまーえたっ(むーにゅ)」
背後から皆川先輩が抱きブフ――――――――ッ
「品部えええええええええええっ!?」
「ふふふ、散々だね品部君」
「……もう言い返す気力も残ってませんね」
俺は体育館の壁にもたれかかって、綾坂先輩と語らう。コートでは個人練習が続いているけど、あの四人なので現実がどういう状況なのかは皆様のご想像にお任せしましょう。
「全くあの人たちは……どうにかならないんですか?」
「どうしようもないわね。何度歯止めをかけても、ブレーキの効きにくい自転車のようなものなの。一度は減速するけれども、すぐに元通りになる。“壊さない限り”はね」
「こ、壊すって綾坂先輩……」
「ふふ、冗談よ」
先輩は悪戯っぽく笑うと、手に持っていたボールを抱きかかえた。
「……正直、勝てるかどうかは分からないけどね。練習試合」
「え、そうなんですか? 俺はいい試合できるんじゃないかと……」
「所詮は男子と女子、よ。真っ向からやり合ったら、こっちが負けるのは目に見えているわ」
確かにその通りだ。俺もそうは思ったが、どうも不思議とこのチームが負けそうな気がしなかった。
「だから、正攻法じゃ駄目なの」
先輩は中空にボールを放り投げると、一言呟いた。
「A rolling stone gathers no moss」
「え?」まさかの英文だったのでよく聴き取れなかった。ローリング……何だって?
「つまりお色気たっぷりで攻めれば大丈夫って事よ」
「やっぱりこのバスケ部駄目だあああああああああああ!!」
この時、俺たちはまだ知る由もなかった。
まさか、対戦相手の高校があんな奴らの集まりだったなんて。
==========
シナモンの使い方があれだけどそんなことはどこ吹く風。
橘先生の作品とちょっぴりリンクしております。
連載中作品
「マゾで家具屋な乱れ咲き。」http://kurotokunai.web.fc2.com/mazokagu/top.html
「不可拘束少女アルスマグナ」http://neetsha.com/inside/main.php?id=9296
日照りが強く、残暑の厳しい九月。秋が目と鼻の先に迫ってくる季節だが、暑がりの俺からしてみればまだまだ小笠原気団の猛威は変わらずに、身体中の水分を余すことなく奪っている。ああ、言いたくないけど言ってしまう。残暑が厳しいざんしょ、ね。
「あちーったらありゃしねえああもうまったく帰っていいかな俺」
現代の木乃伊と化した俺が今くたばっているのは、第一学年として通学中の市立白百合学園の体育館。夏場の閉め切った体育館と聞けば、条件反射で汗が噴き出してくる人も少なくないだろう。
俺は今、現実でそんな場所にいるのだ。指折り数える間に熱中症になってもおかしくない。許されるのなら、今すぐ帰りたいの、だが。
「おーいマネージャーこと品部ー。ドリンク用意しといてー」
「はいはーいドリンクですね分かりましたしばしお待ちを」
俺は飛び起きた犬を髣髴とさせる勢いで立ち上がり、ドリンクを入れてある巨大なドリンクボトル(仮)の射出口の下に紙コップを置く。そして射出ノズルを捻る。「いやあああらめえええ」と言わんばかりに白濁した液体(※スポーツドリンク+プロテイン)が飛び出し、用意した五つ分の紙コップに注がれる。ちなみに俺の分はない。いと悲し。
お盆の上にコップを置いて、ドリンクを欲している者達の元へとえんやこらさっさと運ぶ。どうやら今ちょうど休憩に入ったようで、みんなタオルで汗を拭いたりユニフォームを脱いだりしてい……
ブ――――――ッ
「あら品部君、いったいどうしちゃったのかしら?」
――――世界が、止まった《ザ・ワールド》。
「あんたが原因に決まってるでしょ有栖! し、品部大丈夫!?」
「お、しなぶーじゃん。何で鼻血放出してぶっ倒れてんの?」
「見てれば分かるでしょ! 有栖がまたいきなり脱ぎだしたのよ!」
「何だって? 有栖、そんな魅力的で刺激的なことは私の前だけでするって言う約束だっただろ!」
「あらごめんなさい、うふふ」
「品部が悶絶で気絶……しなべがもんぜつ……シナモン……シナモンロール食べたい」
「訳分からないこと言ってないで手伝いなさい!」
俺の名前は品部裕人(しなべひろと)。前述したとおり市立白百合学園第一学年生。
趣味はバスケで意気揚々とバスケ部に入ろうとしたものの、男子バスケ部がないということなので仕方なく帰宅部に……なるはずだったのだが、なんだかんだあって無理矢理女バス部に入れられた。
それで、女バス部マネージャー。後は一つを除いてごく普通な男子生徒である。
その一つがちょっぴり問題なんだが…………
「ちょっと品部、大丈夫?(むにゅ)」
「ッッッ!! くおおおおおおおおおああああああッ!!」おっぱああああああああああいいいいいええええ!!
ブフ――――――ッ
「し、品部!?」
人よりちょっとだけ、鼻血がデラックスボンバーしちゃうの。
「んく…………」
何とか、意識を取り戻したらしい。まだ若干景色が霞んでいる。
目を開けたらそこは雪国ではなくまだ体育館だった。どうやら毛布一枚の上に寝かされていたらしい。いっそのこと冬が来るまで冬眠させてください。
俺がむくりと身体を起こすと、そこには先ほどユニフォームを着ていた先輩が、今度はちゃんとTシャツを着て、俺の目の前に座っていた。
「うふふふふ。品部君は面白いわねー」
……俺はとりあえず、真っ当な台詞を口にする。
「お願いですからいきなり脱ぎだすのだけは止めてください……」
鼻にティッシュに詰められている所為で、鼻声。まだキーゼルバッハがどくんどくんいってる。
俺が何度言っても、この和風美人さながらの黒のロングヘアーがふつくしい先輩――――皆川有栖先輩は、俺の近くに寄って来て脱ぎだすことを止めない。
いや思春期の男子としてはマーベラスに嬉しいのだが、慢性鼻血噴出男としては御免被りたい。これ以上血出しちゃったら、俺死んじゃう。俺死んじゃう。大事なことだから二回言いました。
「あんたも災難ねえ品部……こんな部活のマネージャーになんかなっちゃって」
はあ、とため息をつくのは、先ほどただ一人俺を看病しようとしてくれた、平沢薫先輩。肩ほどの茶セミロングヘアーが似合う先輩で、そして俺の唯一無二の理解者だ。
まあそれでも天然ボケと胸が少々豊満で、さっきみたいな事故が起こりかねない。安全と危険が同居する先輩である。ううむ、ハイリスクハイリターン。ん? 違うか。
「大変ですけど、それでもバスケが好きですから平気ですよ」
「はあ、強いわねえ品部は。私だったら耐え切れないわよ。今ですら“あの子”の所為で時折辞めたい衝動に駆られるのに」
「あの子って、まさかあの――」
俺がそう訊こうとした瞬間。
「薫姉さま~~~~~~っ!!」
――俺のすぐ横を、疾風の申し子が駆け抜けた。その正体は、誰も知らない……わけがない。
女バス部なら誰でも知っている、疾風の申し子。しかしてその実態は“変態の申し子”――――《エロリスト・チルドレン》である。
彼女は獲物を見つけた猛獣のごとく平沢先輩に肉薄し、そして紳士的に変態的にねっとりと全身を駆使して、先輩の肢体に絡みついた。人はこの動きを俗に「性なる絡みつき《セクシャルツウィスト》」と呼ぶ。
「あ、あかり!? いきなりしがみ付くのは止めなさいってか降りなさい! 汗ベッタベタのまんまで気持ち悪いのよあんた!!」
「そんなことを言わずに、薫姉さまも私と一緒に運動してたくさん汗を流して絡まりましょう! それがお姉さまの許婚としての使命……いえ、義務なのです!」
「いいいやあああああ止めなさいったら!!」
まあ、大体こんな感じだ。この人は波戸場あかり。体育館に喧騒をもたらす原因の一つである。
ガールズラブとか、百合とでも言うのかな。波戸場はそれに属する女性である。メスが好きなメス。
ちなみに同級生で同クラス。クラスでも度々騒ぎになっているが、俺は関わりたくないと心から願っている。その祈りが届くのもいつまでだろうかね。
それで、女バス部は四人。残りの一人は今いないようだが……っと、ようやく戻ってきなさった。
「綾坂先輩! どうぞ、ドリンクです」
「あら、どうもありがとう品部君」
実に完成された動きで俺の差し出したドリンクを受け取り、まさに茶道の人がするかのように丁寧にドリンクを飲み干す。その一連の動作をそつなくこなす様を見ていると、鳥肌が立ちそうだ。
「本当に気が利くわね品部君は」
「い、いえ……。マネージャーとして当然のことですから」
この先輩は綾坂仁美先輩。女バス部のキャプテンで、実に頼りがいのある先輩。波戸場とかがうるさいときに場を静めるのも、大体綾坂先輩。本当に大人で、状況判断の出来る先輩だ。
綾坂先輩は波戸場が平沢先輩に絡み付いているのを見つけると、呆れるようにため息を吐いた。
「……あの二人はまたいちゃついているのね」
「そうなんですよ……どうにかしていただけませんかね」
「まかせてて」
先輩は二人の許まで行くと、波戸場の耳元で、そっと耳打ちしたように見える。
次の瞬間。あれほどでろでろと絡み付いていた波戸場が瞬時にフロアに屹立した。顔には汗が大量に流れていて、表情もどこか強張っている。おい、何を言ったんだ綾坂先輩は。
俺はにこにこと微笑みながら戻ってくる先輩に訊ねた。
「せ、先輩。波戸場に一体何を言って……?」
「品部君」
先輩が流れるストレートヘアーを揺らしながら、おしとやかに且つ凄みをつけて言った。
「世の中には知っていいことと知らなくていいことがあるの。分かったかな?」
「イエッサー」
どこか脅迫じみているような気がするが、たぶん気のせいだ。
「あれ、そう言えば柊先輩と皆川先輩は?」
「えーっとね、二人なら…………」
皆川先輩はさっきの艶やか美人。柊春香先輩は先ほど俺がぶっ倒れた時に皆川先輩と乳繰り合っていた先輩だ。凄く仲が良いみたいだけど、まあ、まさかこの人たちまでガールズラブってことはあるまい。
『ちょ、ちょっと有栖……そこは舐めちゃ駄目……んっ……』
『うふふ……ちょっとしたお遊びなのに春香ったらこんなに』
「お取り込み中みたいね」
「ほわたあああああああああああああああっ!!」
その後、俺が無理矢理部室に突入させられてビビディ鼻血ブーで卒倒したのは言うまでもない。
数分後、ようやくコートに全員が集合した。俺は鼻にティッシュを詰め込んだままで。
「全員、揃ったわね。それじゃあ、練習を再開するわよ……っとその前に。今度、練習試合をすることになったから。我が女バス部、初めての試合。相手はより強いほうがいいと思って、男子校の私立立川高校に申し込んだわ」
おおっ、と体育館内に僅かのどよめきが巻き起こった。
女子バスケットボール部初めての試合。やはり皆、感慨深いものがあるのだろう。しかも相手は女子よりも格段に実力が上の男子だ。気合が入るのも無理はない。
「これで私と薫姉さまの絆をようやく全国にご披露できますっ!」「あのねえ……バスケの試合だからね。分かってる? あかり」「有栖。し、試合中にあんなことしたら駄目だからな……」「うふふ、分かってるわ。試合後の汗まみれのところを狙ってあげる」
大丈夫かなこのバスケ部。
「皆静かに! というわけで、早速練習に移るわよ!」
今日の練習は実戦形式。元バスケ部である俺がゴール下の守りに入って、俺のディフェンスを避けながらシュートすると言う練習だ。いくら女バスとはいえ、俺も手を抜くわけには行かない。本気で行こう。
「それじゃあ――――始めっ!」
まず最初に飛び込んできたのは、綾坂先輩。先輩のポジションはシューティングガードで、スリーポイントが得意だ。だからそれを阻止するために、俺はディフェンスラインよりで腰を低くして観察する。
キュッ、と音を立てて先輩が立ち止まる。奥に隠した右手でドリブルをしているので、来るとしたら右に行く、と見せかけて左だろう。俺はじりじりと後退しながら、先輩がスリーを打つのを狙う。先輩のシュートフォームは癖があるから、それを見抜けばスリーは阻止できる。
先輩はそれを察知したのか、ドリブルする手を徐々に前に出してきた。シュートする気かな?
瞬間、先輩が両手にボールを持った。シュートだっ! 俺はすかさず腕を振り上げてジャンプッ! …………って、あれ? 先輩シュートしない。ボール持ったまんまだ……って、まさか!
俺が気づいたときには、ぱつんとボールがリングの間を潜り抜けていた。
「ふふ、こんな初歩のフェイントにだまされるなんて、まだまだね」
くっそ、フェイントだったか。先輩のほうが一歩上手だったな。気にせずにいこう。次!
次は平沢先輩。フォワードの一人と言うだけあって、攻めあがってからのドライブが凄まじい。願わくば途中で止めようと考えず、ゴール下で潰しにかかりたいところだ。
センターラインからドリブルしてくるのだが、やはり動きが素早い。ドリブルも膝より低くてスティールが難しい。これはやはり、ゴール下に誘い込むしかないか。早すぎて残像のようなものまで見えている。
……………………
残像って言うか、確実にもう一人いる気がする。
「薫姉さま~! 私たちのラブラブで百合百合な必殺技行きますよ~!」
やっぱお前か!
「あ、あかりいつの間にあんた私の背後に」
「いっきますよお姉さま! 《ダブルラブハリケーンツインマークⅡセカンド》!」
名前に2が多いと言うどこかの漫画で見たネタは置いといて、一体どんな技なんだ。
「いやそんな技聞いたこともないって…………あひぃっ!?」
音速の勢いで、波戸場が平沢先輩に抱きついた。というわより、再び絡みついた。その所為で先輩はボールを空中へと放り出してしまった。全く、何をやっているんだか。
空中を舞うボールは放物線を描いて、やがて地面に真っ逆さまに…………
ぱつーん。
あれ? 入っちゃった。
「やりましたー! 私と薫姉さまのラブシュート、めでたくゴールインです!」
「一応結果オーライだけどその言い方は止めなさい!」
……気を取り直して次。視界の隅で百合展開が繰り広げられているけど、次。
柊先輩。同じくフォワードで、シュートの安定力に定評がある。
しかしゴール下に切り込むだけのドリブル力はないので、攻めあぐねた結果ジャンプシュートになることが多い。つまりディフェンスをしっかりしていれば決して怖くない先輩だ。
真正面から迎え撃って、姿勢を低くする。柊先輩には悪いが先輩はそこまでフェイントがうまくないから、経験者の俺からすれば何をしたいのかが見え見えだ。今は俺の背後を見て顔を赤くしていて、俺の横を抜くのを躊躇っているかのように見えるからつまり…………
「つーかまーえたっ(むーにゅ)」
背後から皆川先輩が抱きブフ――――――――ッ
「品部えええええええええええっ!?」
「ふふふ、散々だね品部君」
「……もう言い返す気力も残ってませんね」
俺は体育館の壁にもたれかかって、綾坂先輩と語らう。コートでは個人練習が続いているけど、あの四人なので現実がどういう状況なのかは皆様のご想像にお任せしましょう。
「全くあの人たちは……どうにかならないんですか?」
「どうしようもないわね。何度歯止めをかけても、ブレーキの効きにくい自転車のようなものなの。一度は減速するけれども、すぐに元通りになる。“壊さない限り”はね」
「こ、壊すって綾坂先輩……」
「ふふ、冗談よ」
先輩は悪戯っぽく笑うと、手に持っていたボールを抱きかかえた。
「……正直、勝てるかどうかは分からないけどね。練習試合」
「え、そうなんですか? 俺はいい試合できるんじゃないかと……」
「所詮は男子と女子、よ。真っ向からやり合ったら、こっちが負けるのは目に見えているわ」
確かにその通りだ。俺もそうは思ったが、どうも不思議とこのチームが負けそうな気がしなかった。
「だから、正攻法じゃ駄目なの」
先輩は中空にボールを放り投げると、一言呟いた。
「A rolling stone gathers no moss」
「え?」まさかの英文だったのでよく聴き取れなかった。ローリング……何だって?
「つまりお色気たっぷりで攻めれば大丈夫って事よ」
「やっぱりこのバスケ部駄目だあああああああああああ!!」
この時、俺たちはまだ知る由もなかった。
まさか、対戦相手の高校があんな奴らの集まりだったなんて。
==========
シナモンの使い方があれだけどそんなことはどこ吹く風。
橘先生の作品とちょっぴりリンクしております。
連載中作品
「マゾで家具屋な乱れ咲き。」http://kurotokunai.web.fc2.com/mazokagu/top.html
「不可拘束少女アルスマグナ」http://neetsha.com/inside/main.php?id=9296
格闘+格闘/格闘しても×/あう
「ふざけている…」
僕はパソコン画面を前に震えながら呟いた。
見ているサイトというのは、新都社――、皆さんご存じの通り、ウェブコミック投稿サイト兼小説投稿サイトである。作者が作品を登録することで、簡単に漫画や小説をウェブ上に公開することができるというもの。
そのなかでもゴミあつかいされたり、家族の中で犬より位のひくい親父的存在扱いを受けることもしばしばある文芸新都に僕は作品を投稿していた。(ちなみに『青のサンクチュアリ~虚海~』…という小説を書いている。PNは、リサイア。)ア、つまり僕は文字書きなのだけど、この文芸の企画したものが酷かったのだ。
チャットの機能を使ってくじを引き、出たお題で短編小説を書こうという企画なのだが――酷くなんかないじゃないか、と思う方もいるだろう。
しかし。ただ、この出てくるお題が全て酷いのである。
シナモン 変態 バスケットボール NTR BL GL ファンタジー 格闘 歴史 男女恋愛 エロ
どうだこのラインナップは。
なんなのだ、シナモンというのは。どう扱っていいのか分からないじゃないか。どういう経緯で決まったのか。
既に変態とエロがあるあたりで、もうろくな小説が来ない予感がひしひしとするではないか。NTRにいたっては、僕には理解できない。
僕が目指している小説というのは、文学的で、美しいものだというのに。
僕は主催者の低能さを垣間見て、溜め息をついたが、満を持してくじを引くことにした。
すると、
リサイアさんのお題は『格闘』です。
とでた。
「なんということだ。格闘物なんて僕の趣味じゃない…一度もかいたことがないぞ」
バトルものなんて、野蛮だ。文学には程遠い。ただ、はじめに引いたお題は確実に使わないといけない決まりらしいから、『格闘』は決定だ。
「だがまあしかし、なんとでもなるものだ。他にも引いてみようか」
今回のこのくじだが、いくつか引いていいらしい。
もうちょっと僕にあうお題が出ないだろうか。
リサイアさんのお題は『NTR』です。
「?!」
リサイアさんのお題は『バスケットボール』です。
「……」
リサイアさんのお題は『ファンタジー』です。
「どっどうすれば…」
僕はドツボにはまっているような気がしたが、もう仕方がない。
「こうなったら全部いれてしまおうか、全てのお題を…!」
やけになった。
無謀な挑戦だったが、安直にこれらのお題のイメージを全て適当にくっつけて、箇条書きにしてみる。
「ええと、そうだな、まず舞台はバスケ部で…」
・初めの舞台はバスケ部(バスケットボール)
男子部員と、女子のマネージャーは恋仲(男女恋愛)
「うん、いいんじゃないか?だが、バスケファンタジーなんていうのはきいたことがない…が」
・しかし時空のひずみがあらわれ、突如異次元、中世ヨーロッパに飛ばされる(歴史)(ファンタジー)
そこで男子部員を助けてくれた恰好の良い騎士とのあわい恋仲(BL)
複雑な想いから騎士がマネージャーを寝取る(NTR)
・決闘だ!(格闘)
・戦いの末、男同士くっつく
・捨てられたマネージャーは、何故か姫とシナモンパイを焼く仲に。姫はレズっけがあり、見染められる(シナモン)(GL)
・エロ(エロ)
・どいつもこいつも変態だ(変態)
おわり
「意味がわからない…しかもこれだと長編になってしまうんじゃないか?!」
長編大作だろうこれは。確実に。常識的に考えて。
やはりすべて使うというのは無謀だった。
僕はとりあえず初めに出た『格闘』のお題だけをテーマに考えてみることにした。
「格闘といってもなあ…」
まず趣味じゃないため、自分に引きだしがない。
こういうとき、僕はお題をそのまま辞書で引くことにしていた。
かく‐とう【格闘/×挌闘】
[名](スル)
1 組み合ってたたかうこと。とっくみあい。くみうち。「―技」「暴漢と―する」
ofooo!辞書
「とっくみあい…」
組み合って戦うこと。つまり柔道みたいなものが格闘というのか。
「イメージじゃないなあ」
やはり自分の中に格闘という言葉のイメージの引き出しが少なすぎて、まったくしっくりこない。
「あとは格闘で連想するのは格ゲーなんだが、これがまたやったことがない」
主人公男子が格ゲー…たとえばストリートファイターのようなものをやっていて、その中に突如入ってしまう。とか。もしくはゲームキャラが現実にでてきてしまうとか、どうか。
「うん…いいんだけど、やっぱりそうなるとバトルがメインになるんだよなあ。書けるのか僕に」
まあいい。書いてみよう。
------------------------
『破傷風!!!!!』
俺はAだのBだの、十字キーだのを素早く押し、『ジョン・東郷』という屈強な日系外人を操った。彼は筋肉隆々の自慢の腕を天にかざし敵を瞬殺した。
『ウーーーアッ』
そんな叫びとともにどしゃりと敵が地に伏すと、ジョン東郷はお決まりのガッツポーズをとり、YOUWINの文字とともに跳びはねた。
「よっしゃ」
俺もともにガッツポーズをとる。子供の頃に戻ったようだった。
このゲーム、『路地裏ファイターズ』は俺が幼いころに一世を風靡した格闘ゲームだった。当時小学生だった俺はこれに見ごとにハマり、クラスの誰よりも強くあることがその頃の俺の日々の目標だった。
「なっつかしいなあ」
うん10年たった今でも、俺の手は技を繰り出すボタンの順を覚えていた。
すっかり社会の流れに身を任せ、サラリーマンになってしまった俺だったが、あのころはサラリーマンだけはなりたくないと思っていた。絶対にこの『ジョン・東郷』のような屈強で強い男になるんだと思っていた。
「はあ…まあ、こう強くなりたきゃゲームにいそしんでたら駄目だったんだけどな」
そして今も、相変わらず強くなれないでいる。
手元のコントローラーを虚ろに見ながら、昨日の会社での自分ことを思い出す。
近年まれにみるというレベルの、クレーム。
原因は俺のミス。
『何年この会社にいるんだ お前みたいなクズは―――』
頭の中で木霊する上司の声。
逃げ帰った今でも、ずっとそれは未だ反響している。
苦笑いで画面にまだいる屈強な男をふと見る。
「あれ?」
なかなか次の画面に切り替わらない。
しかも、ジョン・東郷がこちらへ向かってどんどん近づいてくる。
そして堀の深いその顔がついに異常なほど画面いっぱいになった時、
『強くなりたきゃ、戦え!』
そんな声が部屋に響いた。
そして、テレビ画面がポケモンショックかと思うくらいに光った。
カッ!
-------------------------------
「カッ!じゃねえよ…どうするんだよこれ…破傷風って病名じゃねえかよ…」
ついにジョン東郷が現実世界に出てきて、大人になったが弱り切った自信のない主人公を格闘でもって叩きなおす展開が期待されるところだが、『その格闘でもって叩きなおす行為』が僕にはわからない。イメージできない。
「だめだ!!!あああああああ!もう!」
僕はむしゃくしゃしてキーボードを無茶苦茶に叩いた。
メモ帳には『屈強な男が俺の目の前にぬっと立ってい義tgyhjう:もt5ypppppppppp』などという意味をなさない文字の羅列が出来た。
横にはネットのofooo!辞書がでたままになっていた。
そこには格闘の意味の二つ目があった。
僕のことを良く知っているかのように語っている。
2 困難なことに懸命に取り組むこと。「難問題と―する」
「いくら懸命でもモノが出来なきゃ意味がないんだよ…」
頭を抱える。想像力が貧困。
しかも、文学的なものをめざすんじゃなかったのか。
これでは打ち切りになる少年漫画じゃないか。
今このときがまさに、『格闘』しているという状況だ、と思った。
了
-------------------------
『うはw急に新しい家族が出来たww』http://neetsha.com/inside/main.php?id=2857
『患部に止まってすぐ投げる集』http://neetsha.com/inside/main.php?id=8172
『9ナイン』http://samanthatabata.web.fc2.com/
「ふざけている…」
僕はパソコン画面を前に震えながら呟いた。
見ているサイトというのは、新都社――、皆さんご存じの通り、ウェブコミック投稿サイト兼小説投稿サイトである。作者が作品を登録することで、簡単に漫画や小説をウェブ上に公開することができるというもの。
そのなかでもゴミあつかいされたり、家族の中で犬より位のひくい親父的存在扱いを受けることもしばしばある文芸新都に僕は作品を投稿していた。(ちなみに『青のサンクチュアリ~虚海~』…という小説を書いている。PNは、リサイア。)ア、つまり僕は文字書きなのだけど、この文芸の企画したものが酷かったのだ。
チャットの機能を使ってくじを引き、出たお題で短編小説を書こうという企画なのだが――酷くなんかないじゃないか、と思う方もいるだろう。
しかし。ただ、この出てくるお題が全て酷いのである。
シナモン 変態 バスケットボール NTR BL GL ファンタジー 格闘 歴史 男女恋愛 エロ
どうだこのラインナップは。
なんなのだ、シナモンというのは。どう扱っていいのか分からないじゃないか。どういう経緯で決まったのか。
既に変態とエロがあるあたりで、もうろくな小説が来ない予感がひしひしとするではないか。NTRにいたっては、僕には理解できない。
僕が目指している小説というのは、文学的で、美しいものだというのに。
僕は主催者の低能さを垣間見て、溜め息をついたが、満を持してくじを引くことにした。
すると、
リサイアさんのお題は『格闘』です。
とでた。
「なんということだ。格闘物なんて僕の趣味じゃない…一度もかいたことがないぞ」
バトルものなんて、野蛮だ。文学には程遠い。ただ、はじめに引いたお題は確実に使わないといけない決まりらしいから、『格闘』は決定だ。
「だがまあしかし、なんとでもなるものだ。他にも引いてみようか」
今回のこのくじだが、いくつか引いていいらしい。
もうちょっと僕にあうお題が出ないだろうか。
リサイアさんのお題は『NTR』です。
「?!」
リサイアさんのお題は『バスケットボール』です。
「……」
リサイアさんのお題は『ファンタジー』です。
「どっどうすれば…」
僕はドツボにはまっているような気がしたが、もう仕方がない。
「こうなったら全部いれてしまおうか、全てのお題を…!」
やけになった。
無謀な挑戦だったが、安直にこれらのお題のイメージを全て適当にくっつけて、箇条書きにしてみる。
「ええと、そうだな、まず舞台はバスケ部で…」
・初めの舞台はバスケ部(バスケットボール)
男子部員と、女子のマネージャーは恋仲(男女恋愛)
「うん、いいんじゃないか?だが、バスケファンタジーなんていうのはきいたことがない…が」
・しかし時空のひずみがあらわれ、突如異次元、中世ヨーロッパに飛ばされる(歴史)(ファンタジー)
そこで男子部員を助けてくれた恰好の良い騎士とのあわい恋仲(BL)
複雑な想いから騎士がマネージャーを寝取る(NTR)
・決闘だ!(格闘)
・戦いの末、男同士くっつく
・捨てられたマネージャーは、何故か姫とシナモンパイを焼く仲に。姫はレズっけがあり、見染められる(シナモン)(GL)
・エロ(エロ)
・どいつもこいつも変態だ(変態)
おわり
「意味がわからない…しかもこれだと長編になってしまうんじゃないか?!」
長編大作だろうこれは。確実に。常識的に考えて。
やはりすべて使うというのは無謀だった。
僕はとりあえず初めに出た『格闘』のお題だけをテーマに考えてみることにした。
「格闘といってもなあ…」
まず趣味じゃないため、自分に引きだしがない。
こういうとき、僕はお題をそのまま辞書で引くことにしていた。
かく‐とう【格闘/×挌闘】
[名](スル)
1 組み合ってたたかうこと。とっくみあい。くみうち。「―技」「暴漢と―する」
ofooo!辞書
「とっくみあい…」
組み合って戦うこと。つまり柔道みたいなものが格闘というのか。
「イメージじゃないなあ」
やはり自分の中に格闘という言葉のイメージの引き出しが少なすぎて、まったくしっくりこない。
「あとは格闘で連想するのは格ゲーなんだが、これがまたやったことがない」
主人公男子が格ゲー…たとえばストリートファイターのようなものをやっていて、その中に突如入ってしまう。とか。もしくはゲームキャラが現実にでてきてしまうとか、どうか。
「うん…いいんだけど、やっぱりそうなるとバトルがメインになるんだよなあ。書けるのか僕に」
まあいい。書いてみよう。
------------------------
『破傷風!!!!!』
俺はAだのBだの、十字キーだのを素早く押し、『ジョン・東郷』という屈強な日系外人を操った。彼は筋肉隆々の自慢の腕を天にかざし敵を瞬殺した。
『ウーーーアッ』
そんな叫びとともにどしゃりと敵が地に伏すと、ジョン東郷はお決まりのガッツポーズをとり、YOUWINの文字とともに跳びはねた。
「よっしゃ」
俺もともにガッツポーズをとる。子供の頃に戻ったようだった。
このゲーム、『路地裏ファイターズ』は俺が幼いころに一世を風靡した格闘ゲームだった。当時小学生だった俺はこれに見ごとにハマり、クラスの誰よりも強くあることがその頃の俺の日々の目標だった。
「なっつかしいなあ」
うん10年たった今でも、俺の手は技を繰り出すボタンの順を覚えていた。
すっかり社会の流れに身を任せ、サラリーマンになってしまった俺だったが、あのころはサラリーマンだけはなりたくないと思っていた。絶対にこの『ジョン・東郷』のような屈強で強い男になるんだと思っていた。
「はあ…まあ、こう強くなりたきゃゲームにいそしんでたら駄目だったんだけどな」
そして今も、相変わらず強くなれないでいる。
手元のコントローラーを虚ろに見ながら、昨日の会社での自分ことを思い出す。
近年まれにみるというレベルの、クレーム。
原因は俺のミス。
『何年この会社にいるんだ お前みたいなクズは―――』
頭の中で木霊する上司の声。
逃げ帰った今でも、ずっとそれは未だ反響している。
苦笑いで画面にまだいる屈強な男をふと見る。
「あれ?」
なかなか次の画面に切り替わらない。
しかも、ジョン・東郷がこちらへ向かってどんどん近づいてくる。
そして堀の深いその顔がついに異常なほど画面いっぱいになった時、
『強くなりたきゃ、戦え!』
そんな声が部屋に響いた。
そして、テレビ画面がポケモンショックかと思うくらいに光った。
カッ!
-------------------------------
「カッ!じゃねえよ…どうするんだよこれ…破傷風って病名じゃねえかよ…」
ついにジョン東郷が現実世界に出てきて、大人になったが弱り切った自信のない主人公を格闘でもって叩きなおす展開が期待されるところだが、『その格闘でもって叩きなおす行為』が僕にはわからない。イメージできない。
「だめだ!!!あああああああ!もう!」
僕はむしゃくしゃしてキーボードを無茶苦茶に叩いた。
メモ帳には『屈強な男が俺の目の前にぬっと立ってい義tgyhjう:もt5ypppppppppp』などという意味をなさない文字の羅列が出来た。
横にはネットのofooo!辞書がでたままになっていた。
そこには格闘の意味の二つ目があった。
僕のことを良く知っているかのように語っている。
2 困難なことに懸命に取り組むこと。「難問題と―する」
「いくら懸命でもモノが出来なきゃ意味がないんだよ…」
頭を抱える。想像力が貧困。
しかも、文学的なものをめざすんじゃなかったのか。
これでは打ち切りになる少年漫画じゃないか。
今このときがまさに、『格闘』しているという状況だ、と思った。
了
-------------------------
『うはw急に新しい家族が出来たww』http://neetsha.com/inside/main.php?id=2857
『患部に止まってすぐ投げる集』http://neetsha.com/inside/main.php?id=8172
『9ナイン』http://samanthatabata.web.fc2.com/
ファンタジー×NTR×格闘/カフェオレ
その日も僕はハローワークに行っていた。タッチペンで一度ディスプレイに触れてみる。見慣れた画面がそこには映っていた。この画面から進み自分の希望を一つひとつ入力していくのだ。
職種、業種、勤務地、賃金、休日、住み込みの有無などなど。
昨日までは職種は事務、勤務地は市内…というような感じで僕は選んでいっていた。仕事をやる気はある。頑張ろうって気持ちだ。さあ、頑張って今日も仕事を探そう。
そして業種をタッチして事務を選ぼうとした時、僕は画面右隅におかしな文字を見つける。
『ファンタジー』
…
僕が理解できないでいるとディスプレイ上部に『ファンタジー追加しました』との文字が流れる。いつもは『希望のがあったら紹介状を必ず貰いに来い』的な内容が流れるところだ。
…
僕は怒りに震えた。僕も暇じゃないんだ。こんな役所のおふざけにかまっていられるか。真面目に仕事を探しに来ている失業者に対してこれは無い。あんまりだ。馬鹿にしすぎだ。涙が出てきた。ここまで馬鹿にされるものなのか失業者とは…
僕はとりあえず『ファンタジー』をペンでタッチした。
業種:ファンタジー
次に僕は職種の所をタッチする。普通に事務とかありやがる…ファンタジーの事務で検索するとどれくらい求人がひっかかるんだろうか。気になりつつもまた画面下の方に追加されている職種を見る。
『剣士』『魔法使い』『神官』『エルフ』『ドワーフ』などなど。
…
後ろを職員が通っていく。やっぱり僕みたいにマジで入力していってる奴を後ろから見て、みんなで笑ってるんじゃないだろうか。僕はわざとらしくため息をついて椅子を後ろへ下げる。職員は無視して行ってしまった。何だか無性に恥ずかしくなった。
両隣の人の画面が気になり見てみる。右隣にはおばさん、左隣にはおっさん。まず右のおっさんの画面を覗いてみた。
無い…
業種を選ぼうとしていたおっさんの画面にファンタジーが無い!右を見るとおばさんも興奮しているような様子は無い。これは…僕は周りを見渡す、誰も、誰一人として僕のような興奮を持っているような人がいない。
まさかこの機械だけがそういう事が入力できるドッキリ企画なのか。いや、それは考えにくい。昔は結構メディアとかも路上でお金払ってパンツをコピー機で映すとかいうのを地上波で流していたが今やったらそれは速攻で潰される。それくらいに今は視聴者への配慮が大きい。
だからこれは…つまり…
僕は『魔法使い』を選んだ。
勤務地を選ぶ、ここまで来ると僕はどういう結果が待っているのか知りたくなっていた。
『ビウス公国』
『ドードス帝国』
まったく知らない国が2箇所か、何か帝国っておっかねえから公国にしとくか。
給料は円ではなく見たことも無い文字で表されていた。とりあえずそこは入力せずに戻る。
『検索開始』
3秒ほど置いて一覧が出てくる。
1件…
仕事の内容は空欄、ふざけた求人だ。何させるのかくらい書いてくれ。とりあえず、求人票印刷してまた戻って剣士とかで検索かけてみるかな。
そして求人票の印刷をタッチする。その瞬間…僕は気を失った。
…
「ジャン!おーい」
誰かに呼ばれている、ジャンって誰だ。
「起きろっ!!寝ぼすけジャン!!!」
「いってえええええ」
目の前には可愛らしい女の子が立っていた。そして知らないおばさんが寄ってくる。
「ジャン、あなた今日はルカと一緒にお城に行く日でしょう。さっさと支度なさい。」
「おい!ちょっと待ってくれ。俺は」
「待たない」
ルカと呼ばれた服を捕まれて引きずられていく。何だこの女、ハンパじゃなく腕力に長けている。駄目だ、逆らっちゃ駄目だ。何か流れ的にものすごく心地いいし。俺がジャンか。ルカは俺の嫁らしい。聞くと年齢は13~15のようだがこの世界じゃもう大人って事か。
僕は魔法使い的なローブを着てお城へ向かった。歩きにくいなあ。剣士にしとけば良かったぜ。知りもしない父親の形見の杖を持たされて歩いていく。
「おらー!」
僕とルカは適当に道中の雑魚を倒しながらお城へ向かった。それにしてもニコニコして寄ってくるスライムを焼き殺すのは正直いい気分じゃないな。
戦いを見ているとルカが剣士らしい。流れ的には城で何か言われて旅に出るんだろうな。ファンタジーじゃなくてラブコメとかあればなあ。
「何?」
顔を見ているのに気づかれてルカが話しかける。
「いや何でもない」
ローブを深めにかぶりなおす。恥ずかしがりやだから助かるぜ。時々足ひっかかるから街についたらちょっと補正たのもかな。
そしてビウス公国城下町にたどり着いた。街は活気に溢れている。真っ白な石畳、オレンジの屋根。大きな噴水。蛇使いの催し物。それに壷が沢山店の周りにおいてある。とりあえず壷を漁るか宿に泊まろうとルカに提案したらあっさり断られた。門の前に立つ兵士に城から呼び出された旨をルカが伝えるとどでかい扉が左右に開く。西洋っぽい城に入るのはこれが初めてだ。
王の前に跪く僕とルカ。
「よくきたな、ルカ、ジャン。」
イケメン王か、貫禄の欠片もないな。しかし隣のルカを見ると頬を染めていた。おい。
「突然だが我々、ビウス公国はドードス帝国との戦争状態に入っている。奴等は魔の力を借りてその力は日々増大して言っている。世界の平和のためにそれを何とかして食い止めなくてはならない。二人に力を貸して欲しい。」
ああ、分かってる。僕とルカが旅をしながら強くなって最終的に向こうの大将を操ってる黒幕的な何かを倒せばいいんだな。それで戦い助け合う中でルカと俺の間の愛情を深めていくって事か。
「ジャン、私とルカが旅に出ている間、ここを頼むぞ」
「分かりました…えっ?」
「ジャン、王様役ちゃんとやりなさいよね。寝坊とかしないでよ」
え?何だこれ、王様自ら旅に出るのか。そんな馬鹿な。ふざけるな。
「王よ、待ってください。僕がルカと行くべきです。王が倒れたら民が動揺します。」
「大丈夫だ、大丈夫ジャン大丈夫。私が倒れても友である君になら王を任せられる。大丈夫。魔法で私に変化してここを守って欲しい。大丈夫だ。」
何回大丈夫って言ってんだよ。余計に不安になる。やっぱハロワの求人にはロクなのが無いな。残業ですか?残業はありませんってそれが怖いんだよ。
だが僕はしぶしぶ承諾した。相手は王様だから逆らったら何されるか分からないしな。隣のルカは無駄にはしゃいでいる。頭が痛くなってきた。
そして王とルカは旅に出た。その活躍ぶりはここにも届き、それを僕は王の姿で喜んでいた。スヲーズ海峡の怪物を倒した時には仲間がもう6人になっていたと聞く。これは酷い。完全に蚊帳の外だ。城下町ではやつ等の話題で持ちきりである。
そして遂に彼らはドードス帝国の皇帝を操っていた黒幕を倒した。世界に平和が訪れたのだ。私の元に返った時、王は左足を失っていた。ルカは傷だらけではあったが元気な様子でだった。出て行くときには見なかった顔が4人、一人は獣人、一人はエルフか、こっちはドワーフ…そして魔法使い…
魔法使い…俺が行っても良かったんじゃないかこれ。無性に怒りが湧いてきたので満身創痍の王に喧嘩をふっかけて僕はあっさり負けた。片足を失ったとはいっても5年も戦ってきた男に5年間食って寝るだけの男が勝てるはずが無かった。
王は倒れた僕に近づき言った。
「ジャン、君がルカを好きなのは知っていた。すまない。」
好きっていうか夫婦だったんだから好きなのを知っていたとか言うレベルじゃないだろう。
王も戻り、ルカとの縁も切れ、僕は公国内で居場所を失った。いや、最初から居場所なんて無かったのだ。結局、王が行くと言った時に食い下がれなかった自分が悪いのだ。自分の場所は自分で守る。与えられた場所で漫然と5年も過ごしてしまった。働かずに飯は思いのほかうまかった。
僕は城下町を出て、一人泣いていた。森に出るのも久しぶりだ。
ふとスライムが僕に寄ってくる。
もう倒すのも億劫だ。スライムに殺されるのも悪くない。時間はかかるだろうけど頑張れスライム。僕は近くの石に腰掛けて攻撃を待った。しかしスライムは攻撃してこない。ただ僕の回りを跳ねるだけだった。
ぴょんぴょんぴょんぴょん
…
家に帰ろう。スライムは僕の後を付いてきてしばらく、家の近くでどこかへ行ってしまった。
家に帰ると母らしき人が出てきた。王の姿をしていた5年間、会えないので手紙を送り続けてくれた人だ。親という実感が無いので一度も返したことは無かったが。
母らしき人は僕を抱きしめて「お疲れ様」といった。王と喧嘩して追放された事を伝えると「あんたがぼさっとしてるからいかんのよ」と笑っていた。
なるほど、僕の事を良く知っている。息子が妻を寝取られたのにこの態度はどうかと思ったが母が作った暖かいシチューはうまかった。それを食べてその日は眠った。
そうだな…ぼさっと惰性で生きてたら駄目だな。明日からまた頑張ろう。何だっていい。頑張るんだ。何か魔法を覚えよう。すごいのを覚えよう。寝取り返すようなのを覚えよう。
…
目を覚ますとそこは知らない場所だった。
!?
驚いて起き上がり左右を見るとビウス公国の岩を利用した造りとは違い、きっちりとしたつくりの部屋、コンクリートって奴だ。そこの机もベッドも木じゃない。金属製の…
え?うそ…だろ?
「あ、起きました?」
特に可愛くも無いナースが視界に入ってくる。
「○○さん、ハローワークで倒れて救急車で運ばれたんですよ、PCの不具合とかで今日は日本全国で似たような事が起こってたみたいでニュースでもやってますよ」
夢…あれが?
「…僕はどれくらい眠っていましたか」
「半日くらいですかね」
…
「そうですか…」
…
5年間だと思っていたら半日。検査をしても体は何の異常もなく、僕は家に帰った。テレビをつけるとニュースで今日の事件として取り上げられている。本当に日本全国で起こっていたらしい。PCだけじゃなくアニメを見ていて気を失った人、ゲームをしていて気を失った人もいたと報道されていた。
…
夢のはずなのに5年間の厚みのある記憶が頭から消えないな。
…
ハロワって怖いとこだな。もう二度と行かない。
僕は酎ハイを呑みながらそう思っていた。
終わり
-------------------------------------------------
ファンタジー×NTR×格闘で書かせていただきました!難しいですけど楽しかったです!
元ネタはポケ○ンの痙攣事件です!あとハロワの知識については多少自信があるので書いてみました!
その日も僕はハローワークに行っていた。タッチペンで一度ディスプレイに触れてみる。見慣れた画面がそこには映っていた。この画面から進み自分の希望を一つひとつ入力していくのだ。
職種、業種、勤務地、賃金、休日、住み込みの有無などなど。
昨日までは職種は事務、勤務地は市内…というような感じで僕は選んでいっていた。仕事をやる気はある。頑張ろうって気持ちだ。さあ、頑張って今日も仕事を探そう。
そして業種をタッチして事務を選ぼうとした時、僕は画面右隅におかしな文字を見つける。
『ファンタジー』
…
僕が理解できないでいるとディスプレイ上部に『ファンタジー追加しました』との文字が流れる。いつもは『希望のがあったら紹介状を必ず貰いに来い』的な内容が流れるところだ。
…
僕は怒りに震えた。僕も暇じゃないんだ。こんな役所のおふざけにかまっていられるか。真面目に仕事を探しに来ている失業者に対してこれは無い。あんまりだ。馬鹿にしすぎだ。涙が出てきた。ここまで馬鹿にされるものなのか失業者とは…
僕はとりあえず『ファンタジー』をペンでタッチした。
業種:ファンタジー
次に僕は職種の所をタッチする。普通に事務とかありやがる…ファンタジーの事務で検索するとどれくらい求人がひっかかるんだろうか。気になりつつもまた画面下の方に追加されている職種を見る。
『剣士』『魔法使い』『神官』『エルフ』『ドワーフ』などなど。
…
後ろを職員が通っていく。やっぱり僕みたいにマジで入力していってる奴を後ろから見て、みんなで笑ってるんじゃないだろうか。僕はわざとらしくため息をついて椅子を後ろへ下げる。職員は無視して行ってしまった。何だか無性に恥ずかしくなった。
両隣の人の画面が気になり見てみる。右隣にはおばさん、左隣にはおっさん。まず右のおっさんの画面を覗いてみた。
無い…
業種を選ぼうとしていたおっさんの画面にファンタジーが無い!右を見るとおばさんも興奮しているような様子は無い。これは…僕は周りを見渡す、誰も、誰一人として僕のような興奮を持っているような人がいない。
まさかこの機械だけがそういう事が入力できるドッキリ企画なのか。いや、それは考えにくい。昔は結構メディアとかも路上でお金払ってパンツをコピー機で映すとかいうのを地上波で流していたが今やったらそれは速攻で潰される。それくらいに今は視聴者への配慮が大きい。
だからこれは…つまり…
僕は『魔法使い』を選んだ。
勤務地を選ぶ、ここまで来ると僕はどういう結果が待っているのか知りたくなっていた。
『ビウス公国』
『ドードス帝国』
まったく知らない国が2箇所か、何か帝国っておっかねえから公国にしとくか。
給料は円ではなく見たことも無い文字で表されていた。とりあえずそこは入力せずに戻る。
『検索開始』
3秒ほど置いて一覧が出てくる。
1件…
仕事の内容は空欄、ふざけた求人だ。何させるのかくらい書いてくれ。とりあえず、求人票印刷してまた戻って剣士とかで検索かけてみるかな。
そして求人票の印刷をタッチする。その瞬間…僕は気を失った。
…
「ジャン!おーい」
誰かに呼ばれている、ジャンって誰だ。
「起きろっ!!寝ぼすけジャン!!!」
「いってえええええ」
目の前には可愛らしい女の子が立っていた。そして知らないおばさんが寄ってくる。
「ジャン、あなた今日はルカと一緒にお城に行く日でしょう。さっさと支度なさい。」
「おい!ちょっと待ってくれ。俺は」
「待たない」
ルカと呼ばれた服を捕まれて引きずられていく。何だこの女、ハンパじゃなく腕力に長けている。駄目だ、逆らっちゃ駄目だ。何か流れ的にものすごく心地いいし。俺がジャンか。ルカは俺の嫁らしい。聞くと年齢は13~15のようだがこの世界じゃもう大人って事か。
僕は魔法使い的なローブを着てお城へ向かった。歩きにくいなあ。剣士にしとけば良かったぜ。知りもしない父親の形見の杖を持たされて歩いていく。
「おらー!」
僕とルカは適当に道中の雑魚を倒しながらお城へ向かった。それにしてもニコニコして寄ってくるスライムを焼き殺すのは正直いい気分じゃないな。
戦いを見ているとルカが剣士らしい。流れ的には城で何か言われて旅に出るんだろうな。ファンタジーじゃなくてラブコメとかあればなあ。
「何?」
顔を見ているのに気づかれてルカが話しかける。
「いや何でもない」
ローブを深めにかぶりなおす。恥ずかしがりやだから助かるぜ。時々足ひっかかるから街についたらちょっと補正たのもかな。
そしてビウス公国城下町にたどり着いた。街は活気に溢れている。真っ白な石畳、オレンジの屋根。大きな噴水。蛇使いの催し物。それに壷が沢山店の周りにおいてある。とりあえず壷を漁るか宿に泊まろうとルカに提案したらあっさり断られた。門の前に立つ兵士に城から呼び出された旨をルカが伝えるとどでかい扉が左右に開く。西洋っぽい城に入るのはこれが初めてだ。
王の前に跪く僕とルカ。
「よくきたな、ルカ、ジャン。」
イケメン王か、貫禄の欠片もないな。しかし隣のルカを見ると頬を染めていた。おい。
「突然だが我々、ビウス公国はドードス帝国との戦争状態に入っている。奴等は魔の力を借りてその力は日々増大して言っている。世界の平和のためにそれを何とかして食い止めなくてはならない。二人に力を貸して欲しい。」
ああ、分かってる。僕とルカが旅をしながら強くなって最終的に向こうの大将を操ってる黒幕的な何かを倒せばいいんだな。それで戦い助け合う中でルカと俺の間の愛情を深めていくって事か。
「ジャン、私とルカが旅に出ている間、ここを頼むぞ」
「分かりました…えっ?」
「ジャン、王様役ちゃんとやりなさいよね。寝坊とかしないでよ」
え?何だこれ、王様自ら旅に出るのか。そんな馬鹿な。ふざけるな。
「王よ、待ってください。僕がルカと行くべきです。王が倒れたら民が動揺します。」
「大丈夫だ、大丈夫ジャン大丈夫。私が倒れても友である君になら王を任せられる。大丈夫。魔法で私に変化してここを守って欲しい。大丈夫だ。」
何回大丈夫って言ってんだよ。余計に不安になる。やっぱハロワの求人にはロクなのが無いな。残業ですか?残業はありませんってそれが怖いんだよ。
だが僕はしぶしぶ承諾した。相手は王様だから逆らったら何されるか分からないしな。隣のルカは無駄にはしゃいでいる。頭が痛くなってきた。
そして王とルカは旅に出た。その活躍ぶりはここにも届き、それを僕は王の姿で喜んでいた。スヲーズ海峡の怪物を倒した時には仲間がもう6人になっていたと聞く。これは酷い。完全に蚊帳の外だ。城下町ではやつ等の話題で持ちきりである。
そして遂に彼らはドードス帝国の皇帝を操っていた黒幕を倒した。世界に平和が訪れたのだ。私の元に返った時、王は左足を失っていた。ルカは傷だらけではあったが元気な様子でだった。出て行くときには見なかった顔が4人、一人は獣人、一人はエルフか、こっちはドワーフ…そして魔法使い…
魔法使い…俺が行っても良かったんじゃないかこれ。無性に怒りが湧いてきたので満身創痍の王に喧嘩をふっかけて僕はあっさり負けた。片足を失ったとはいっても5年も戦ってきた男に5年間食って寝るだけの男が勝てるはずが無かった。
王は倒れた僕に近づき言った。
「ジャン、君がルカを好きなのは知っていた。すまない。」
好きっていうか夫婦だったんだから好きなのを知っていたとか言うレベルじゃないだろう。
王も戻り、ルカとの縁も切れ、僕は公国内で居場所を失った。いや、最初から居場所なんて無かったのだ。結局、王が行くと言った時に食い下がれなかった自分が悪いのだ。自分の場所は自分で守る。与えられた場所で漫然と5年も過ごしてしまった。働かずに飯は思いのほかうまかった。
僕は城下町を出て、一人泣いていた。森に出るのも久しぶりだ。
ふとスライムが僕に寄ってくる。
もう倒すのも億劫だ。スライムに殺されるのも悪くない。時間はかかるだろうけど頑張れスライム。僕は近くの石に腰掛けて攻撃を待った。しかしスライムは攻撃してこない。ただ僕の回りを跳ねるだけだった。
ぴょんぴょんぴょんぴょん
…
家に帰ろう。スライムは僕の後を付いてきてしばらく、家の近くでどこかへ行ってしまった。
家に帰ると母らしき人が出てきた。王の姿をしていた5年間、会えないので手紙を送り続けてくれた人だ。親という実感が無いので一度も返したことは無かったが。
母らしき人は僕を抱きしめて「お疲れ様」といった。王と喧嘩して追放された事を伝えると「あんたがぼさっとしてるからいかんのよ」と笑っていた。
なるほど、僕の事を良く知っている。息子が妻を寝取られたのにこの態度はどうかと思ったが母が作った暖かいシチューはうまかった。それを食べてその日は眠った。
そうだな…ぼさっと惰性で生きてたら駄目だな。明日からまた頑張ろう。何だっていい。頑張るんだ。何か魔法を覚えよう。すごいのを覚えよう。寝取り返すようなのを覚えよう。
…
目を覚ますとそこは知らない場所だった。
!?
驚いて起き上がり左右を見るとビウス公国の岩を利用した造りとは違い、きっちりとしたつくりの部屋、コンクリートって奴だ。そこの机もベッドも木じゃない。金属製の…
え?うそ…だろ?
「あ、起きました?」
特に可愛くも無いナースが視界に入ってくる。
「○○さん、ハローワークで倒れて救急車で運ばれたんですよ、PCの不具合とかで今日は日本全国で似たような事が起こってたみたいでニュースでもやってますよ」
夢…あれが?
「…僕はどれくらい眠っていましたか」
「半日くらいですかね」
…
「そうですか…」
…
5年間だと思っていたら半日。検査をしても体は何の異常もなく、僕は家に帰った。テレビをつけるとニュースで今日の事件として取り上げられている。本当に日本全国で起こっていたらしい。PCだけじゃなくアニメを見ていて気を失った人、ゲームをしていて気を失った人もいたと報道されていた。
…
夢のはずなのに5年間の厚みのある記憶が頭から消えないな。
…
ハロワって怖いとこだな。もう二度と行かない。
僕は酎ハイを呑みながらそう思っていた。
終わり
-------------------------------------------------
ファンタジー×NTR×格闘で書かせていただきました!難しいですけど楽しかったです!
元ネタはポケ○ンの痙攣事件です!あとハロワの知識については多少自信があるので書いてみました!
変態×GL/私を溶かして/NAECO
中学生のころの、理科の実験。それがきっかけだったことは、はっきりと覚えている。
ビーカーに塩酸を注いで、亜鉛のかけらを落とす。すると、銀白色の金属片は泡を出して溶けてしまう。ごくごく簡単な実験でしかなかったが、その光景は私の胸を打つのには十分すぎるほど強烈だった。
……塩酸。そう、塩酸だ。金属を放り込めば溶けてしまう、強い酸。
その現象は中学生だった私にとって、とても不思議で、興味深くて、何よりも――……淫靡、だった。思春期特有の未熟な性知識しか持たない私が、なんと塩酸にエロティシズムを感じずにはいられなかったのだ。
――私も溶けてみたい。形を失って液体になってみたい。
そんな願望がふつふつと、実験で見た水素の気泡のように湧き出てきて、どうしようもなく淫らな気分だった。
その日から、私は液体を性的な対象として見るようになった。見境などない。液体であることだけが唯一の条件だった。
蜂蜜のように粘り気があればよりいやらしく感じるというわけでもない。例えば化粧水なんて、肌につけることを想像するだけでもいやらしい。
食用、飲用のものだと、レモン汁なんかは最高にエッチだと思う。舐めたらあんなに酸っぱい。考えるだけでもたまらない。炭酸飲料を考え出した人は、稀代のエロティック思考回路の持ち主だったのではないかとさえ疑う。気泡が次々と口の中で弾けるなんて、淫らにもほどがある。
もちろん、飲めないものでもいい。
雨水、泥水、温泉、消毒液、液体洗剤、血液、アルコール――。
澄んでいても濁っていても、熱くても冷たくても、酸性でもアルカリ性でも、ドロドロでもサラサラでも。とにかく液体ならなんでもよかった。
それぞれが特有の淫靡さを持っていて、どれもが等しく私に興奮をもたらす。
言うまでもなく、こんな性癖が特殊すぎるのは自覚していたから、恋人ができても黙ったままでいた。
ついこの間、彼に初めて、帰りに家に寄らないか、と言われた。両親は不在らしかった。
彼のことは嫌いではなかった。むしろ、純粋に愛しく思っていた。とにかく私に優しかったし、外見も良かったし、話も合った。学生同士の付き合いとしては、これ以上を望めないほどのいい相手だったと思う。
そんな彼からの誘い。何も知らない子どもでもない限り、これが「そういう誘い」であることは誰でもわかる。
私がいくら倒錯的な性癖の持ち主だとしても、そういうことは本来、男女の間で営むものだなんてことはわかっているつもりだし、興味だってある。
そういうわけで、私は迷うことなく頷いた。
初めてあがった彼の部屋で、私たちは他愛もない話を続けた。わかりきっているのに互いの腹積もりをうかがう、滑稽な時間。
そんな目的のために始めたどうでもいい話なんて、すぐに途切れるに決まっている。
決まっているが、途切れてからは早かった。
「しずく」
座ったまま、後ろからお腹ごと抱え込まれる。私の名前を呼ぶ優しい声は、耳に触れそうなほど近いところで聞こえた。普通なら、抑えきれないほどの多幸感が溢れてくる、そんな場面だと思う。
だけど、私が抱いたのは耐えがたいほどの違和感だった。
――彼の腕が、そして肌が、硬い。男の人の肌は、こんなにも硬いものなのか。
「あ、あの、私――」
彼は私が「いい」と言うまで服に手をかけることさえしなかった。あまりに裏切りにくい優しさを、私の感覚は拒もうとする。
「……怖い?」
焦れている様子もない。とにかく脱がそう、なんて彼は考えもしない。ただただ、優しい。無慈悲なほどに優しい。
それでも、その肌はあまりに硬すぎた。
「ごめんなさい!」
彼の腕を振りほどくようにして、私は部屋を飛び出した。
そして、直感した。
――あの肌には……違う、男の人の肌には私は溶けられない。
彼自身には何の不満もなかった。ただ、肌が――男性の肌が――溶けて混ざりあうには硬すぎただけだ。
「肌を重ねる」。そんな風にさえ表現されるセックスという行為。溶けあえない肌に抱かれるなんて、とうてい考えられないことだった。
「――だから、私と?」
「……うん」
ベッドの上で洗いざらい話した。白くて、柔らかい肌。混ざりあって、ドロドロになれるような相手。
彼女は、私を軽蔑したりなんかしなかった。
「嬉しいよ」
話を続けながらも、彼女の細い指は私の身体のいたるところで、遊ぶように跳ねまわる。まるで、鳥の羽根で撫でられているようだった。
「んっ……」
くすぐったくて、息が漏れる。
「液体、かあ」
彼女は楽しげに言い、悪戯っぽく笑った。そして、おもむろに傍らのペットボトルをつかみ、中身のミルクティーを口に含む。
「んふふー」
私はこれから何をされるのか想像して、胸を高鳴らせた。
口を閉じたまま笑い声を漏らし、私の唇を奪う。
柔らかい唇が重なり、甘い紅茶が私の口内を喉まで犯した。
甘くて、茶葉の香りがして――……ミルクティーは、最高に淫らだった。
こくこくと私の喉が動き、淡いブラウンの液体が胃へと流れていく。この紅茶はやがて身体に吸収される。私は紅茶に、紅茶は私になるのだ。
――意識した途端、身体が燃えるように熱くなった。
ああ、滲みる。浸透していく。
合わさった二人の唇の端から、こぼれたミルクティーが雫となって流れ落ち、私の頬に跡を残す。
私の身体が、ぬかるんでいく。
お腹の奥、次に股の間から始まって、ゆっくりと、太もも…………味わうように、お尻――焦らしながら、腰……とろけるようにふくらはぎ、やがて背中、さらには肩、そして腕、足、手、指先、首筋から脳天まで。ぜんぶ。ぜんぶがぬかるんでいく。
そして、彼女も一緒に溶けていく。絡みあった甘い舌先から順に、一緒になっていく。
――私が液体となって溶け込めるのは、柔らかな女の子の肌と重なりあえたときだけだ。
わかってくれる人なんて、いないと思っていた。
だから、私のことをわかってくれるこの柔らかい肌と、どこまでも、どこまでも。
混じり気なく、澄んでサラサラになってしまうまで溶けあってしまいたいと思う。
------------------------------------------------------------------------------------
お題が「変態×GL」だったので、ちょっぴりエッチにしてみました(むしろ、せざるを得なかった)。
液体性愛という変態性欲の投影として、男性と肌を重ねられなくなったヒロインは、GLに解決策を求めた、という感じのお話でした。
お楽しみいただけたのであれば嬉しいです。
現在連載を持っておりませんため、僭越ながら完結作の宣伝をさせていただきます。
「永遠の如月」(長編・全59話・完結)http://neetsha.com/inside/main.php?id=4633
とても長いので暇で暇でどうしようもなくなったときにでもお読みいただけると幸いです。
また、文芸新都の短編企画のうち「珠玉のショートショート七選(と玉石混交のショートショート集)」「一枚絵文章化企画」にも、それぞれ「ノートの中の彼女」「姉弟ゲーム」、「ウソツキ・タロット」で参加させていただいております(企画物につきアドレスは割愛)。
興味があればご一読下さると嬉しいです。
「私を溶かして」をお読みいただき、ありがとうございました。
中学生のころの、理科の実験。それがきっかけだったことは、はっきりと覚えている。
ビーカーに塩酸を注いで、亜鉛のかけらを落とす。すると、銀白色の金属片は泡を出して溶けてしまう。ごくごく簡単な実験でしかなかったが、その光景は私の胸を打つのには十分すぎるほど強烈だった。
……塩酸。そう、塩酸だ。金属を放り込めば溶けてしまう、強い酸。
その現象は中学生だった私にとって、とても不思議で、興味深くて、何よりも――……淫靡、だった。思春期特有の未熟な性知識しか持たない私が、なんと塩酸にエロティシズムを感じずにはいられなかったのだ。
――私も溶けてみたい。形を失って液体になってみたい。
そんな願望がふつふつと、実験で見た水素の気泡のように湧き出てきて、どうしようもなく淫らな気分だった。
その日から、私は液体を性的な対象として見るようになった。見境などない。液体であることだけが唯一の条件だった。
蜂蜜のように粘り気があればよりいやらしく感じるというわけでもない。例えば化粧水なんて、肌につけることを想像するだけでもいやらしい。
食用、飲用のものだと、レモン汁なんかは最高にエッチだと思う。舐めたらあんなに酸っぱい。考えるだけでもたまらない。炭酸飲料を考え出した人は、稀代のエロティック思考回路の持ち主だったのではないかとさえ疑う。気泡が次々と口の中で弾けるなんて、淫らにもほどがある。
もちろん、飲めないものでもいい。
雨水、泥水、温泉、消毒液、液体洗剤、血液、アルコール――。
澄んでいても濁っていても、熱くても冷たくても、酸性でもアルカリ性でも、ドロドロでもサラサラでも。とにかく液体ならなんでもよかった。
それぞれが特有の淫靡さを持っていて、どれもが等しく私に興奮をもたらす。
言うまでもなく、こんな性癖が特殊すぎるのは自覚していたから、恋人ができても黙ったままでいた。
ついこの間、彼に初めて、帰りに家に寄らないか、と言われた。両親は不在らしかった。
彼のことは嫌いではなかった。むしろ、純粋に愛しく思っていた。とにかく私に優しかったし、外見も良かったし、話も合った。学生同士の付き合いとしては、これ以上を望めないほどのいい相手だったと思う。
そんな彼からの誘い。何も知らない子どもでもない限り、これが「そういう誘い」であることは誰でもわかる。
私がいくら倒錯的な性癖の持ち主だとしても、そういうことは本来、男女の間で営むものだなんてことはわかっているつもりだし、興味だってある。
そういうわけで、私は迷うことなく頷いた。
初めてあがった彼の部屋で、私たちは他愛もない話を続けた。わかりきっているのに互いの腹積もりをうかがう、滑稽な時間。
そんな目的のために始めたどうでもいい話なんて、すぐに途切れるに決まっている。
決まっているが、途切れてからは早かった。
「しずく」
座ったまま、後ろからお腹ごと抱え込まれる。私の名前を呼ぶ優しい声は、耳に触れそうなほど近いところで聞こえた。普通なら、抑えきれないほどの多幸感が溢れてくる、そんな場面だと思う。
だけど、私が抱いたのは耐えがたいほどの違和感だった。
――彼の腕が、そして肌が、硬い。男の人の肌は、こんなにも硬いものなのか。
「あ、あの、私――」
彼は私が「いい」と言うまで服に手をかけることさえしなかった。あまりに裏切りにくい優しさを、私の感覚は拒もうとする。
「……怖い?」
焦れている様子もない。とにかく脱がそう、なんて彼は考えもしない。ただただ、優しい。無慈悲なほどに優しい。
それでも、その肌はあまりに硬すぎた。
「ごめんなさい!」
彼の腕を振りほどくようにして、私は部屋を飛び出した。
そして、直感した。
――あの肌には……違う、男の人の肌には私は溶けられない。
彼自身には何の不満もなかった。ただ、肌が――男性の肌が――溶けて混ざりあうには硬すぎただけだ。
「肌を重ねる」。そんな風にさえ表現されるセックスという行為。溶けあえない肌に抱かれるなんて、とうてい考えられないことだった。
「――だから、私と?」
「……うん」
ベッドの上で洗いざらい話した。白くて、柔らかい肌。混ざりあって、ドロドロになれるような相手。
彼女は、私を軽蔑したりなんかしなかった。
「嬉しいよ」
話を続けながらも、彼女の細い指は私の身体のいたるところで、遊ぶように跳ねまわる。まるで、鳥の羽根で撫でられているようだった。
「んっ……」
くすぐったくて、息が漏れる。
「液体、かあ」
彼女は楽しげに言い、悪戯っぽく笑った。そして、おもむろに傍らのペットボトルをつかみ、中身のミルクティーを口に含む。
「んふふー」
私はこれから何をされるのか想像して、胸を高鳴らせた。
口を閉じたまま笑い声を漏らし、私の唇を奪う。
柔らかい唇が重なり、甘い紅茶が私の口内を喉まで犯した。
甘くて、茶葉の香りがして――……ミルクティーは、最高に淫らだった。
こくこくと私の喉が動き、淡いブラウンの液体が胃へと流れていく。この紅茶はやがて身体に吸収される。私は紅茶に、紅茶は私になるのだ。
――意識した途端、身体が燃えるように熱くなった。
ああ、滲みる。浸透していく。
合わさった二人の唇の端から、こぼれたミルクティーが雫となって流れ落ち、私の頬に跡を残す。
私の身体が、ぬかるんでいく。
お腹の奥、次に股の間から始まって、ゆっくりと、太もも…………味わうように、お尻――焦らしながら、腰……とろけるようにふくらはぎ、やがて背中、さらには肩、そして腕、足、手、指先、首筋から脳天まで。ぜんぶ。ぜんぶがぬかるんでいく。
そして、彼女も一緒に溶けていく。絡みあった甘い舌先から順に、一緒になっていく。
――私が液体となって溶け込めるのは、柔らかな女の子の肌と重なりあえたときだけだ。
わかってくれる人なんて、いないと思っていた。
だから、私のことをわかってくれるこの柔らかい肌と、どこまでも、どこまでも。
混じり気なく、澄んでサラサラになってしまうまで溶けあってしまいたいと思う。
------------------------------------------------------------------------------------
お題が「変態×GL」だったので、ちょっぴりエッチにしてみました(むしろ、せざるを得なかった)。
液体性愛という変態性欲の投影として、男性と肌を重ねられなくなったヒロインは、GLに解決策を求めた、という感じのお話でした。
お楽しみいただけたのであれば嬉しいです。
現在連載を持っておりませんため、僭越ながら完結作の宣伝をさせていただきます。
「永遠の如月」(長編・全59話・完結)http://neetsha.com/inside/main.php?id=4633
とても長いので暇で暇でどうしようもなくなったときにでもお読みいただけると幸いです。
また、文芸新都の短編企画のうち「珠玉のショートショート七選(と玉石混交のショートショート集)」「一枚絵文章化企画」にも、それぞれ「ノートの中の彼女」「姉弟ゲーム」、「ウソツキ・タロット」で参加させていただいております(企画物につきアドレスは割愛)。
興味があればご一読下さると嬉しいです。
「私を溶かして」をお読みいただき、ありがとうございました。
/池戸葉若
帝都の片隅、永田町に佇む官舎の偉容さえも届かない、洋灯(ランプ)の暗がりのような通りに小料理店『輪島』はございます。暖簾のすきまから甘橙(オレンジ)色の光が漏れており、ほんのりと食欲をそそる香りが通りに網を張っております。さればそこから感じる温かみは、特に昨今のような寒風すさまじい冬の夜なんかは、抗いようのない安らぎを与えてくれましょう。ふらりふらりと足が伸びてしまうのです。
そうして硝子(ガラス)の戸を引きますと、厨房のところに割烹着を着た女性がおりまして、「いらっしゃいませえ」と向けられる笑顔には、どんなに凝り固まった胸も解きほぐされてしまうのでございます。客の方々から「妙(たえ)さん」「妙さん」「今日もきれいだね」と言われれば、彼女は照れたようにくすりと俯きまして、その表情もまた愛嬌あふれる仕草なのでございました。
さて、この割烹にはおかしな客が一人おります。いえいえ、おかしなと言ったらどんなお叱りを受けるか想像もつきませんが、とにかく一風変わった御方なのです。
彼がはじめて『輪島』にお見えになったのは、確か昨年の秋の晩のことでございました。会社員の方がお帰りになり、店内が静けさに包まれた遅い時分です。妙さんが少し疲れて座ろうかとしたら、がらがらと戸が開きましたので、彼女は佇まいを直しました。
入ってこられましたのは、はじめてお目にかかる男の人でした。帝都は黒い雲に覆われているのでしょう、彼の肩は濡れ、その背後に覗いた土瀝青(アスファルト)も街灯の光がてらてらと滑らせておりました。
妙さんははっと緊張いたしました――彼の外套が軍服で、目深に被った帽子が軍帽であることに気付いたのです。また同時に、近頃になって囁かれます憲兵の悪い噂も思い出していました。「……いらっしゃいませ。はじめまして、妙と申します」
すると、彼は妙さんのこわばりを感じとったのか、「私は別にどうこうしようときたわけではありません。ただここから漂う匂いに惹かれただけです。夏の虫のようなものですから、どうか肩の力を抜いてください」と軍帽を外しながら、おもむろに言いました。
ひどく身を削られたような足取りで、彼は厨房の前の席に腰を下ろしました。妙さんが何になさるのかと問いましたら、彼は「鰤の照り焼きはありますでしょうか」と彼女に目を向けました。そして彼女が頷きますと、静かに微笑んだのでした。
彼は小田育二(おだいくじ)様といいました。陸軍の将校様でした。
小田様は、常連と呼ぶには足繁く通うわけではなく、顔を忘れてしまうくらい遠のくわけでもありませんでした。「そういえば、あの人は次はいつきてくれるのだろうか」と思い始めた時に、決まって他の客が消えてしまった後でやってくるのです。
それは――今日も。
「いらっしゃいませ。外は、大変お寒いのでしょうね」白い息を吐きながら入ってこられた小田様に、妙さんは小皿で出汁の味見をしてからゆっくりと話しかけました。
「帝国軍人にとっては、たいしたことではありません」
「でも、熱燗であったまるぐらいのことはよろしいじゃございません?」
「……そう、ですね。いただこうと思います」
相手が軍人ということで、はじめはどうしても気を張ってしまっていた妙さんでしたが、この頃にはもう他の客と同様に、いや、それ以上に親しげに話すようになっておりました。子どものような笑みを浮かべて、冗談を口にすることもあるほどでした。小田様も小田様で、他の軍人なら激憤のままに乱暴してもおかしくないことを言われても、怒るどころか笑っていました。その、鍋から立ち上る湯気をはさんで言葉を交わすお二人の姿は、恋物語(ロマンス)と称しても差し支えない光景だったことでしょう。
「あ、そういえば……小田様は肉桂(シナモン)を知っていますか?」
妙さんがふろふき大根に箸を通しながら、ふと聞きました。
「しなもん? いえ、いいえ、耳にしたことのない言葉です」
「ふふ、軍人さんは訓練ばかりしていて、お勉強をする時間がないんですね」
悪戯っぽく微笑んで、妙さんは小田様の顔を見ます。さすがの小田様もむっとしました。
「私は書も読みますよ。それで、なんなのですか? それは」
「ちょっと待ってくださいね」妙さんは一度奥の座敷に潜っていったかと思うと、すぐに戻ってきました。その手には、胡椒のような山椒のような粉末の詰まった小瓶が収まっています。小田様はそれをじっと見つめました。「それが、しなもんですか? 調味料のような……私はてっきりもっと学術的なものを想像していましたが……」
「女に学を望むのですか、小田様? 元より私は小料理屋ですよ」妙さんは不機嫌半分面白半分といった風に眉をしならせてから、それでも、と続けました。
「少しはあります。知ってますか? 肉桂は世界最古の香辛料だそうですよ?……まあ、珍しいからとこれを下さったお得意さんが教えてくれたんですけどね」
「ははあ、そうなのですか。だとすると、しなもんは最も人類に馴染んだものなのかもしれない……けれど、私をはじめほとんど人がその存在すら知らないでしょう。そう考えると、この日本という国はいかに小さく、世界から離れているのか」
「その小さな島国を大きくしてくれるのが、あなたたち軍人さんや政治家でしょう?」
またも軽口を叩かれ、ちょっと考え込むようにした後、小田様はふっと息を吐きました。
「まったく……あなたがここまで口が達者な方だとは思わなかった」
「私もそう思います」
「え?」
「私もどうしてこんな風に話ができているのか、分かりません」――もうこんな笑顔を誰かに見せることなんてないと思っていたのに、と妙さんは小さく口を動かしました。
「……そういえば、ご主人は?」形式は問いでしたが、小田様はすでに、実を言うと最初に来店した時から感づいておりました。厨房に立っているのは、いつも妙さんだけ。女が一人で商いを営むのは、あまり一般的ではありません。小田様はすぐさま後悔の念に駆られましたが、妙さんは簡単に「亡くなりました」と呟きました。
「でも、ここで一人でいるのは寂しくないです。主人が療養所(サナトリウム)にいる頃から、そうでしたから。その頃にいっぱい泣いて、慣れてしまいましたから。元から二人が入るには手狭だったんですよ、この厨房。だから、今はむしろやりやすいです」
「…………」
小田様の沈黙が、静寂に変わっていきました。くつくつという鍋の煮立つ音だけが、耳朶を透けていきます。しかしそれでも、妙さんは平素と寸分違わずゆったりと菜箸を動かしていました。小田様もその姿をいつものように見つめていました。だから、唇を開く頃合いも、そこから生まれる声も、すべていつもと同じでした。
「妙さん」
「なんですか?」
「鰤の照り焼きをいただきたい」
「くす、ほんとうに好きなんですね。いつもお頼みになります」
「ええ、ええ。美味いから、好きです」
そう言って、二人は少しだけ笑い合いました。
けれどそれから、小田様は顔を見せなくなりました。もうそろそろくるだろうかと予想しても、あのたくましい腕が暖簾を潜ってくることはありませんでした。毎夜、妙さんは暖簾を下ろす時、通りを右と左と見回しましたが、軍靴の音さえしませんでした。
そして、ようやく小田様がお見えになられたのは、前回から一ヶ月以上経った時でした。
霜の下りた硝子戸の向こうから土緑色の軍服が現れた瞬間、妙さんは胸がきゅんと縮んでしまったような、そんな気を覚えました。しかし――彼は、どこか違和感を孕んでおりました。もともと口数は少ないほうだったのですが、さらに減り、注文もせずにちびちびとお猪口を往復させているのです。おいそれと世間話を振っていい雰囲気ではありませんでした。……とはいえ、やはりここにきたからには食べるつもりだったのでしょう、やがて、「鰤の照り焼きを二切れ、いや三切れ出してほしい」と小田様はこぼしました。
「えっ、三切れですか? 今日は、すごい所望されますね」
「ええ……まあ、食べたくて。好きだから、食べたくて」
少々驚きましたが、妙さんは脂の乗った鰤の照り焼きの三切れを盛り、左手で皿を持った右手の袖をそっと引き上げながら小田様の前に置きます。彼は黙々と食べ始めました。丁寧に身をはがし、隅々まで箸を巡らせて、その召し上がり方には堪能という言葉がぴったり当てはまるようでした。そして、軽く手を合わせてから一寸して、小田様は妙さんの顔を真っ直ぐに見上げたのです。「妙さん、今日も美味しかった」
「よかった。うれしいです」
「た――妙さん」
「はい?」
「私は、その……あなたが、いえ、あなたを……私は」
小田様の口からうまく台詞が続きません。まごまごと軍人にあるまじき優柔さです。しかし、すると、それを何回か重ねた後――不意に小田様は、どこか妙さんの知らない場所に着地したかのように表情をうっすらと曇らせて、誰かに名を呼ばれたみたいに席を立ちました。それから軍帽を目深に被り、妙さんを振り返って、瞳だけで笑いかけたのでございます。
「ありがとう」
思えば、彼の口からその言葉を聞くのはこれがはじめてでありました。
小田様が外に出てから、妙さんははっとして、戸に手をかけて通りを望みました。街灯の明かりの間を縫うようにしながら、彼の背中は闇に溶けていってしまいます。その様子を、妙さんは眺め続けておりました。かすかに湿った夜空の匂いがいたしました。
その翌日のことであります。
昭和十一年――二月二十六日。
雪の舞う帝都に、銃声が響いたのでございました。
------------------------------
どうもありがとうございました。
楽しんでいただけたなら幸いです。
【最近の作品】
『ト キ ナ』
http://neetsha.com/inside/main.php?id=6702
すみません、現在の連載作品はありませんので……完結済みかつ全約四十話の長編ですが、どうぞよろしくです。
帝都の片隅、永田町に佇む官舎の偉容さえも届かない、洋灯(ランプ)の暗がりのような通りに小料理店『輪島』はございます。暖簾のすきまから甘橙(オレンジ)色の光が漏れており、ほんのりと食欲をそそる香りが通りに網を張っております。さればそこから感じる温かみは、特に昨今のような寒風すさまじい冬の夜なんかは、抗いようのない安らぎを与えてくれましょう。ふらりふらりと足が伸びてしまうのです。
そうして硝子(ガラス)の戸を引きますと、厨房のところに割烹着を着た女性がおりまして、「いらっしゃいませえ」と向けられる笑顔には、どんなに凝り固まった胸も解きほぐされてしまうのでございます。客の方々から「妙(たえ)さん」「妙さん」「今日もきれいだね」と言われれば、彼女は照れたようにくすりと俯きまして、その表情もまた愛嬌あふれる仕草なのでございました。
さて、この割烹にはおかしな客が一人おります。いえいえ、おかしなと言ったらどんなお叱りを受けるか想像もつきませんが、とにかく一風変わった御方なのです。
彼がはじめて『輪島』にお見えになったのは、確か昨年の秋の晩のことでございました。会社員の方がお帰りになり、店内が静けさに包まれた遅い時分です。妙さんが少し疲れて座ろうかとしたら、がらがらと戸が開きましたので、彼女は佇まいを直しました。
入ってこられましたのは、はじめてお目にかかる男の人でした。帝都は黒い雲に覆われているのでしょう、彼の肩は濡れ、その背後に覗いた土瀝青(アスファルト)も街灯の光がてらてらと滑らせておりました。
妙さんははっと緊張いたしました――彼の外套が軍服で、目深に被った帽子が軍帽であることに気付いたのです。また同時に、近頃になって囁かれます憲兵の悪い噂も思い出していました。「……いらっしゃいませ。はじめまして、妙と申します」
すると、彼は妙さんのこわばりを感じとったのか、「私は別にどうこうしようときたわけではありません。ただここから漂う匂いに惹かれただけです。夏の虫のようなものですから、どうか肩の力を抜いてください」と軍帽を外しながら、おもむろに言いました。
ひどく身を削られたような足取りで、彼は厨房の前の席に腰を下ろしました。妙さんが何になさるのかと問いましたら、彼は「鰤の照り焼きはありますでしょうか」と彼女に目を向けました。そして彼女が頷きますと、静かに微笑んだのでした。
彼は小田育二(おだいくじ)様といいました。陸軍の将校様でした。
小田様は、常連と呼ぶには足繁く通うわけではなく、顔を忘れてしまうくらい遠のくわけでもありませんでした。「そういえば、あの人は次はいつきてくれるのだろうか」と思い始めた時に、決まって他の客が消えてしまった後でやってくるのです。
それは――今日も。
「いらっしゃいませ。外は、大変お寒いのでしょうね」白い息を吐きながら入ってこられた小田様に、妙さんは小皿で出汁の味見をしてからゆっくりと話しかけました。
「帝国軍人にとっては、たいしたことではありません」
「でも、熱燗であったまるぐらいのことはよろしいじゃございません?」
「……そう、ですね。いただこうと思います」
相手が軍人ということで、はじめはどうしても気を張ってしまっていた妙さんでしたが、この頃にはもう他の客と同様に、いや、それ以上に親しげに話すようになっておりました。子どものような笑みを浮かべて、冗談を口にすることもあるほどでした。小田様も小田様で、他の軍人なら激憤のままに乱暴してもおかしくないことを言われても、怒るどころか笑っていました。その、鍋から立ち上る湯気をはさんで言葉を交わすお二人の姿は、恋物語(ロマンス)と称しても差し支えない光景だったことでしょう。
「あ、そういえば……小田様は肉桂(シナモン)を知っていますか?」
妙さんがふろふき大根に箸を通しながら、ふと聞きました。
「しなもん? いえ、いいえ、耳にしたことのない言葉です」
「ふふ、軍人さんは訓練ばかりしていて、お勉強をする時間がないんですね」
悪戯っぽく微笑んで、妙さんは小田様の顔を見ます。さすがの小田様もむっとしました。
「私は書も読みますよ。それで、なんなのですか? それは」
「ちょっと待ってくださいね」妙さんは一度奥の座敷に潜っていったかと思うと、すぐに戻ってきました。その手には、胡椒のような山椒のような粉末の詰まった小瓶が収まっています。小田様はそれをじっと見つめました。「それが、しなもんですか? 調味料のような……私はてっきりもっと学術的なものを想像していましたが……」
「女に学を望むのですか、小田様? 元より私は小料理屋ですよ」妙さんは不機嫌半分面白半分といった風に眉をしならせてから、それでも、と続けました。
「少しはあります。知ってますか? 肉桂は世界最古の香辛料だそうですよ?……まあ、珍しいからとこれを下さったお得意さんが教えてくれたんですけどね」
「ははあ、そうなのですか。だとすると、しなもんは最も人類に馴染んだものなのかもしれない……けれど、私をはじめほとんど人がその存在すら知らないでしょう。そう考えると、この日本という国はいかに小さく、世界から離れているのか」
「その小さな島国を大きくしてくれるのが、あなたたち軍人さんや政治家でしょう?」
またも軽口を叩かれ、ちょっと考え込むようにした後、小田様はふっと息を吐きました。
「まったく……あなたがここまで口が達者な方だとは思わなかった」
「私もそう思います」
「え?」
「私もどうしてこんな風に話ができているのか、分かりません」――もうこんな笑顔を誰かに見せることなんてないと思っていたのに、と妙さんは小さく口を動かしました。
「……そういえば、ご主人は?」形式は問いでしたが、小田様はすでに、実を言うと最初に来店した時から感づいておりました。厨房に立っているのは、いつも妙さんだけ。女が一人で商いを営むのは、あまり一般的ではありません。小田様はすぐさま後悔の念に駆られましたが、妙さんは簡単に「亡くなりました」と呟きました。
「でも、ここで一人でいるのは寂しくないです。主人が療養所(サナトリウム)にいる頃から、そうでしたから。その頃にいっぱい泣いて、慣れてしまいましたから。元から二人が入るには手狭だったんですよ、この厨房。だから、今はむしろやりやすいです」
「…………」
小田様の沈黙が、静寂に変わっていきました。くつくつという鍋の煮立つ音だけが、耳朶を透けていきます。しかしそれでも、妙さんは平素と寸分違わずゆったりと菜箸を動かしていました。小田様もその姿をいつものように見つめていました。だから、唇を開く頃合いも、そこから生まれる声も、すべていつもと同じでした。
「妙さん」
「なんですか?」
「鰤の照り焼きをいただきたい」
「くす、ほんとうに好きなんですね。いつもお頼みになります」
「ええ、ええ。美味いから、好きです」
そう言って、二人は少しだけ笑い合いました。
けれどそれから、小田様は顔を見せなくなりました。もうそろそろくるだろうかと予想しても、あのたくましい腕が暖簾を潜ってくることはありませんでした。毎夜、妙さんは暖簾を下ろす時、通りを右と左と見回しましたが、軍靴の音さえしませんでした。
そして、ようやく小田様がお見えになられたのは、前回から一ヶ月以上経った時でした。
霜の下りた硝子戸の向こうから土緑色の軍服が現れた瞬間、妙さんは胸がきゅんと縮んでしまったような、そんな気を覚えました。しかし――彼は、どこか違和感を孕んでおりました。もともと口数は少ないほうだったのですが、さらに減り、注文もせずにちびちびとお猪口を往復させているのです。おいそれと世間話を振っていい雰囲気ではありませんでした。……とはいえ、やはりここにきたからには食べるつもりだったのでしょう、やがて、「鰤の照り焼きを二切れ、いや三切れ出してほしい」と小田様はこぼしました。
「えっ、三切れですか? 今日は、すごい所望されますね」
「ええ……まあ、食べたくて。好きだから、食べたくて」
少々驚きましたが、妙さんは脂の乗った鰤の照り焼きの三切れを盛り、左手で皿を持った右手の袖をそっと引き上げながら小田様の前に置きます。彼は黙々と食べ始めました。丁寧に身をはがし、隅々まで箸を巡らせて、その召し上がり方には堪能という言葉がぴったり当てはまるようでした。そして、軽く手を合わせてから一寸して、小田様は妙さんの顔を真っ直ぐに見上げたのです。「妙さん、今日も美味しかった」
「よかった。うれしいです」
「た――妙さん」
「はい?」
「私は、その……あなたが、いえ、あなたを……私は」
小田様の口からうまく台詞が続きません。まごまごと軍人にあるまじき優柔さです。しかし、すると、それを何回か重ねた後――不意に小田様は、どこか妙さんの知らない場所に着地したかのように表情をうっすらと曇らせて、誰かに名を呼ばれたみたいに席を立ちました。それから軍帽を目深に被り、妙さんを振り返って、瞳だけで笑いかけたのでございます。
「ありがとう」
思えば、彼の口からその言葉を聞くのはこれがはじめてでありました。
小田様が外に出てから、妙さんははっとして、戸に手をかけて通りを望みました。街灯の明かりの間を縫うようにしながら、彼の背中は闇に溶けていってしまいます。その様子を、妙さんは眺め続けておりました。かすかに湿った夜空の匂いがいたしました。
その翌日のことであります。
昭和十一年――二月二十六日。
雪の舞う帝都に、銃声が響いたのでございました。
------------------------------
どうもありがとうございました。
楽しんでいただけたなら幸いです。
【最近の作品】
『ト キ ナ』
http://neetsha.com/inside/main.php?id=6702
すみません、現在の連載作品はありませんので……完結済みかつ全約四十話の長編ですが、どうぞよろしくです。
ファンタジー+GL+NTR/なんだァこれェ/匿名
ここは聖バルメリックリターナースーパー女学院。略してバルス女学院。
このバルス女学院には昔から語られている伝説があった・・・!
「ねえ、夢宮ちゃん。」
「なんだよてめえぶちのめすぞってんだ」
俺は夢宮アンナ(16)。ぴちぴちの女子学生ってやつよォ。美少女ってことで、盗撮されたりするんだぜェ!!
ちなみにぃ、俺に話しかけたこのブスくそウジ虫女は玉川たま。あざらしのように太っているんだァ。
「ご、ごめん。名前読んだだけでそんなに怒ると思ってなくて」
「うっせえウジ虫がぁ」
こいつは本当に顔がきもちわるいってんだぜェ。アントニオ猪木が死んだ時のような顔だなァ。誰も見たことないだろうけど、俺は見たことあるぜェ。夢でなぁぁぁ。
そう、俺は、実は特殊能力を持っていたんだぜェ。
その特殊能力とはなんと、好きな夢を見ることができるんだァ。
なんの役にもたたないってかァ?その通りなんだなこれガァ!
「で、なんの用事だよ。ブス玉川ァ」
そしたらこんなこと言いやがったんだよボブのやつ。
「こんな噂知ってる?」
俺は間髪言わずにこう言ってやったぜ。
「知らねえよこのアマ、消し飛ばすぞ」
ってなァ。
「まだ何も言ってないよ。その噂というのは、このバルス女学院に、隠されし秘宝があるってことらしいのよ」
俺は自分の耳を疑ったァ。こ、こんな美味しい話が転がっていやがったなんてなァ。
「おい、ブス山。その宝はどこにあるんだ。言わないとお前のお母さんの友達が・・・」
「私の名前は玉川だよ、一文字もあってないんだよ。宝の在りかなんて、私が知るわけないでしょ。あとお母さんの友達に危害が及んでも私になんら影響などないんだよっ」
こんの糞ブスがァ!在りかしらねェなら俺に期待抱かせんなよコラ。
いっけねぇ、ここで態度を悪くしたら、有力な情報を手に入れられないかもしれないぜィ。
「悪かったナァ、ブス川ァ!謝るからもっと情報くれよゥ!」
「そうね、ただし条件があるわ」
なんだこの女ァ!おしとやかじゃねえぜぇぇ。
俺様を見習えってんダぁ!
「仕方ねえ・・・条件とやらを聞こうじゃねえかあ」
俺はこの糞アザラシをまっすぐに見て言ったァ。
「私と、付き合ってほしいの。」
オイオイオイオイオイオイオイ。
「お前ふざけんじゃねーよ。何を言い出すかと思ったらよォ」
「私は本気よ、夢山さん。私前からあなたの事が好きだったのよ」
なんだぁぁぁ?こいつゥゥゥ!俺の事が好きだァ!?どういう趣味してるだァー!しかし、仕方ねェこの条件を飲まなきゃお宝へは近づけねえってこったァ!
「しゃあねェ!俺がぁぁお前と付き合ってやるぜぇぇえ!まさにガールズラブってやつよぉ!」
「やった!」
やってねェヨオオオオオ!
そんなこんなで、俺はこいつと熱いベッドシーンを繰り広げたァ。
「気持ちよかったね、夢宮さん!」
「気持ち悪かったわ、この雌ブタがぁぁぁ」
「いやぁん」
兎にも角にも、俺は情報を手に入れたァァァ!やったぜフォォォ!
「まさかァ!校長の野郎がなァ!宝の在りかを、アリプロを知ってるらしい、ときたもんだァ!」
俺のテンションは最高潮に達していたァ!そして一応アザラシに礼を言おうと後ろを振り向いたんだぁぁ!
するとそこには見たくないィ!そんな情景ガァ、待ち受けていたってんだぁよぉぉ!
「いやぁぁぁ、犯されるぅぅ!助けて夢宮さん!」
「ぐへっへおとなしくしてな、お嬢ちゃん。」
何だァ!?変なおっさんがアザラシをお嬢さんと呼んでいるぞォー!
「ぐっへっへいい体だ!さあ、こっちへ来い!」
「いやああああああああ!けだものおおお!」
けだものはお前だろォ!
とりあえず、俺は校長室へ向かったァ!
「失礼しまぁぁッすゥ!校長先生ィ!」
「OH、よく来たネ。なんの用なの。夢宮サーン」
校長はァ、相変わらずの片言とぉ来たもんよォ!俺は聞いてやったァ!
「学校に伝わるゥゥ!伝説のお宝ってェのの居場所がききてェ!」
校長はァ!言ったァ!
「OH!それならここにあるネ!」
いきなりビンゴォォォォオ!イヤッホォォゥ
「これネ。この学校に伝わるヒホーウ」
「こ、こいつァたまげたァ!!」
校長が差し出したァ、そいつァ、伝説の剣だったァ!!!!!!
「触らしてくれよォ!!」
「ホーイ。」
あろうことかァ!!校長はそいつを投げやがったァ!壁にあたりやがったァ!折れやがったァ!
くっそゥ!ホーリーシット!!!
俺は怒りィに身を任せてェ校長室を飛び出したァ!!そこに待っていたのはァ!
「おらおら気持ちいか!」
犯されているアザラシの姿だったァ!
「ごめんなさい、私、この人の虜になっちゃったの。もう夢宮さんでは満足できないわ・・・」
作者は言ったァ!
「俺、なんでこんなの書いてるんだ」
ここは聖バルメリックリターナースーパー女学院。略してバルス女学院。
このバルス女学院には昔から語られている伝説があった・・・!
「ねえ、夢宮ちゃん。」
「なんだよてめえぶちのめすぞってんだ」
俺は夢宮アンナ(16)。ぴちぴちの女子学生ってやつよォ。美少女ってことで、盗撮されたりするんだぜェ!!
ちなみにぃ、俺に話しかけたこのブスくそウジ虫女は玉川たま。あざらしのように太っているんだァ。
「ご、ごめん。名前読んだだけでそんなに怒ると思ってなくて」
「うっせえウジ虫がぁ」
こいつは本当に顔がきもちわるいってんだぜェ。アントニオ猪木が死んだ時のような顔だなァ。誰も見たことないだろうけど、俺は見たことあるぜェ。夢でなぁぁぁ。
そう、俺は、実は特殊能力を持っていたんだぜェ。
その特殊能力とはなんと、好きな夢を見ることができるんだァ。
なんの役にもたたないってかァ?その通りなんだなこれガァ!
「で、なんの用事だよ。ブス玉川ァ」
そしたらこんなこと言いやがったんだよボブのやつ。
「こんな噂知ってる?」
俺は間髪言わずにこう言ってやったぜ。
「知らねえよこのアマ、消し飛ばすぞ」
ってなァ。
「まだ何も言ってないよ。その噂というのは、このバルス女学院に、隠されし秘宝があるってことらしいのよ」
俺は自分の耳を疑ったァ。こ、こんな美味しい話が転がっていやがったなんてなァ。
「おい、ブス山。その宝はどこにあるんだ。言わないとお前のお母さんの友達が・・・」
「私の名前は玉川だよ、一文字もあってないんだよ。宝の在りかなんて、私が知るわけないでしょ。あとお母さんの友達に危害が及んでも私になんら影響などないんだよっ」
こんの糞ブスがァ!在りかしらねェなら俺に期待抱かせんなよコラ。
いっけねぇ、ここで態度を悪くしたら、有力な情報を手に入れられないかもしれないぜィ。
「悪かったナァ、ブス川ァ!謝るからもっと情報くれよゥ!」
「そうね、ただし条件があるわ」
なんだこの女ァ!おしとやかじゃねえぜぇぇ。
俺様を見習えってんダぁ!
「仕方ねえ・・・条件とやらを聞こうじゃねえかあ」
俺はこの糞アザラシをまっすぐに見て言ったァ。
「私と、付き合ってほしいの。」
オイオイオイオイオイオイオイ。
「お前ふざけんじゃねーよ。何を言い出すかと思ったらよォ」
「私は本気よ、夢山さん。私前からあなたの事が好きだったのよ」
なんだぁぁぁ?こいつゥゥゥ!俺の事が好きだァ!?どういう趣味してるだァー!しかし、仕方ねェこの条件を飲まなきゃお宝へは近づけねえってこったァ!
「しゃあねェ!俺がぁぁお前と付き合ってやるぜぇぇえ!まさにガールズラブってやつよぉ!」
「やった!」
やってねェヨオオオオオ!
そんなこんなで、俺はこいつと熱いベッドシーンを繰り広げたァ。
「気持ちよかったね、夢宮さん!」
「気持ち悪かったわ、この雌ブタがぁぁぁ」
「いやぁん」
兎にも角にも、俺は情報を手に入れたァァァ!やったぜフォォォ!
「まさかァ!校長の野郎がなァ!宝の在りかを、アリプロを知ってるらしい、ときたもんだァ!」
俺のテンションは最高潮に達していたァ!そして一応アザラシに礼を言おうと後ろを振り向いたんだぁぁ!
するとそこには見たくないィ!そんな情景ガァ、待ち受けていたってんだぁよぉぉ!
「いやぁぁぁ、犯されるぅぅ!助けて夢宮さん!」
「ぐへっへおとなしくしてな、お嬢ちゃん。」
何だァ!?変なおっさんがアザラシをお嬢さんと呼んでいるぞォー!
「ぐっへっへいい体だ!さあ、こっちへ来い!」
「いやああああああああ!けだものおおお!」
けだものはお前だろォ!
とりあえず、俺は校長室へ向かったァ!
「失礼しまぁぁッすゥ!校長先生ィ!」
「OH、よく来たネ。なんの用なの。夢宮サーン」
校長はァ、相変わらずの片言とぉ来たもんよォ!俺は聞いてやったァ!
「学校に伝わるゥゥ!伝説のお宝ってェのの居場所がききてェ!」
校長はァ!言ったァ!
「OH!それならここにあるネ!」
いきなりビンゴォォォォオ!イヤッホォォゥ
「これネ。この学校に伝わるヒホーウ」
「こ、こいつァたまげたァ!!」
校長が差し出したァ、そいつァ、伝説の剣だったァ!!!!!!
「触らしてくれよォ!!」
「ホーイ。」
あろうことかァ!!校長はそいつを投げやがったァ!壁にあたりやがったァ!折れやがったァ!
くっそゥ!ホーリーシット!!!
俺は怒りィに身を任せてェ校長室を飛び出したァ!!そこに待っていたのはァ!
「おらおら気持ちいか!」
犯されているアザラシの姿だったァ!
「ごめんなさい、私、この人の虜になっちゃったの。もう夢宮さんでは満足できないわ・・・」
作者は言ったァ!
「俺、なんでこんなの書いてるんだ」
エロ+格闘+変態/私の普段の日常生活/ロリ童貞
クレイのコートで、見知らぬ女性がシングルスプレイを楽しんでいる。暗い茶色の地面に映える、上下揃いのテニスウェアの白。ノースリーブに押さえつけられたふくよかな胸の膨らみが、軽快なフットワークに合わせてふるふると揺れる。ワンテンポ遅れてひるがえるミニスカートの下にのぞいたのは、パステルピンクのアンダースコート。その幾重ものフリルは、着用者のうら若さを示していた。その時、彼女のほうへ萌黄色のボールが緩やかな放物線を描いて飛来。向こうからネットを越えてやって来る球の落下地点を予測して、身体の割に大き目のラケットを振るも、フレームをかすっただけ。鈍い音とともに跳ねたボールが、彼女の目の前に墜落、小さく弾んで転がった。慌てて拾おうとする彼女。地面に向かって左手を伸ばし、ラケットを持つ右腕は上げてバランスを取る。上半身は軽く捻られ、両ひざは伸びたままで、腰から体全体を二つに折り曲げているような体勢になった。この瞬間、私はスイッチを押した。
緑色のフェンスを乗り越え、テニスコートに侵入する。当たり前だが、遮るものがないと見晴らしが良い。私は先刻から観察していた少女のほうへ後方から近づき、それから彼女の前に回り込んでしゃがみ、下からご尊顔を見上げた。肌が綺麗だ。少々頭は弱そうだが、素直そうな、感じの良さそうなお嬢さんだ。高校生くらいの年齢だろうか。十代なのは間違いない。初対面のあいさつとして、彼女のセミロングヘアをかき分けながら、いつものように頬をなでてみると、瑞々しくて張りがある。これが若さの証明か。思わず私は立ち上がり、彼女のバストをぎゅっとつかんだ。かがんだ姿勢の彼女の前側から、肩口を通して両腕を差し入れ、思いっきり鷲づかみにした。ぱさぱさしたポリエステルの生地を通して、スポーツブラのかっちりとした手触りと共に、豊かな肉の、想像以上にカップサイズの大きな巨乳の、ふにふにと自在に変形する感触を、揉み揉みしながら堪能した。
今でもぱっつんぱっつんで苦しそうなのに、これ以上膨らんだら可愛そうだから、一旦やめて、下半身のほうに移動することにした。私は少女の背中に手を置きながら、ぐるりと半周回って彼女の背後に立つ。突き出されたお尻に顔を押し付け、臭いを嗅ぐ。ミニスカートから半分はみ出したアンスコのフリルがくすぐったい。洗剤とお日様と、汗の香りがする。スカートの裾をめくり上げて背面のウエスト部分に挟み込み、ふりふりのアンスコをずり下げて生パンツを拝見。純白。コットン百パーセント。使用済み、いや、使用中。両手を広げて満遍なくヒップを撫で回し、擦り切れそうなほどやわい綿の触感と、はち切れそうなほどぷりっとした尻の素肌を交互に味わった。
もう十分、満足した。あとは挿入して終了しよう。私は自分の作業服を脱ぎ、陰部を露出した。少女の下腹部を包むパンティをひざのあたりまでずらし、肛門の下にある膣の入り口に勃起したペニスをあてがった。私は片手で自身の根元を支え、片手で少女の膣口を広げながら、半ば無理やりねじ込んだ。相手がじっとしているのは楽だが、潤滑液の分泌も止まってしまうのが玉にきず。唾液を投下してなんとか挿入が完了したので、彼女の骨盤付近を持って前後に動かし、性器同士をこすり合わせる。美しき乙女の膣壁と、どす黒い陰茎の側面が、摩擦で熱を帯びる。私は反射的に上体を曲げて彼女に覆いかぶさり、背中から抱き締めた。肌の接触面積をできるだけ広くとるためだったが、それだけでは飽き足らず、私は彼女の豊満な両胸を持ち上げるようにつかんだ。私の中心部の膨張は最高度に達し、互いの粘膜が密着を極める。鋭敏な刺激が間断なく襲い、私の腰は自発的に前後運動、局部は痙攣を続け、一瞬間完全に動きを止めてから、射精した。膣内に放たれる白濁液。激しく脈動していた血管の鼓動が、徐々に周期を減じてゆく。集まっていた血液が、各持ち場へ戻ってゆく。私は、一回のセックスを終えた。少女は、無反応。私の存在など気にも留めず、彼女はただ、下着を脱がされた臀部を衆目に晒しながら、地面に落ちたテニスボールを拾おうとしているだけであった。
私は緑色のフェンスを乗り越え、敷地の外へ出てから、スイッチを押した。再び時間は流れ出す。間もなく、あの少女が転倒した。大抵の子はああなる。一時停止中に、私が乗ったり動かしたりしたせいで、全身の筋肉に疲労が溜まり、自重を支えられなくなるからだ。ネットの向こう側にいる男性が「大丈夫?」と笑いながら近づいて来る。単純にうっかりバランスを崩しただけだとでも思っているのだろう。が、すぐに異変に気付いた。転んだ少女がお尻丸出しだということに。さて、この男は何と言うだろうか。ここが一番の笑いどころなのだ。突然知り合いの女がパンツを脱ぐだなんて、日常生活では滅多に遭遇できない珍事。煮えたぎる性欲を吐き出した後の、一服の清涼剤として、私がいつも楽しみにしている場面である。
「……」
彼は、無言だった。そして再び「大丈夫?」と、今度は静かなトーンで言いながら、周囲を見回した。私は木の陰にさりげなく移動して、コートの中の観察を続けた。男は、倒れ込んだ少女の肩に優しく腕をまわし、彼女の耳元で何か囁く。少女は嫌がっているようなそぶりをしたようだが、力が入らないのだろう、反応が薄い。男は日焼けした筋肉質の腕で彼女を軽々と抱きかかえ、コート脇のベンチに運んで仰向けに寝かせた。そしていきなり、襲い始めた。男が少女の上衣ごとブラをずらすと、ボリューム感のある両の胸がぷるんぷるんと飛び出す。少女は悲鳴を上げて抵抗するが、声も小さければ力も弱く、屈強な男にとっては何の障害にもならない。社会の窓から取り出された男の一物は、露出済みの少女の局部に一直線に突進する。少女は一際大声で泣き喚き、渾身の力を込めて暴れる。
「ゴンッ!」
男はレイプを中断して、自分の後頭部に衝突したテニスラケットを見た。そして後ろを振り返り、瞬間移動してベンチまでやってきた私と目を合わせた。瞬間移動といっても、何も私が魔法を使えるわけではなく、スイッチをONにして時間を止めてからゆっくり歩いて移動し、移動後に何食わぬ顔でまたスイッチをOFFにしただけである。私は落ちたラケットを拾い、大きく振り上げて、反動をつけて男の頭上に一気に振り下ろした。男は状況が飲み込めていないのだろう、防ぐこともせず、もろに衝撃を受けた。男の額に切り傷ができ、暗褐色の血が一筋流れる。
それで目が覚めたのか、男はすっくと立ち上がり、私と対峙した。男は何かぶつぶつ言っているようだが聞き取れない。やおら、男が私に殴りかかってきた。あんな太い腕で殴られたら、脆弱な私はひとたまりもない。しかし、私は全く恐れていない。落ち着いて、ポケットの中のスイッチをONにした。蝋人形のように固まる男の背後にまわって、スイッチをOFF。男のパンチは空振り。敵を見失い、きょろきょろする男が、しばらくして後ろにいる私に気付き、殴りかかってくると、私はまたスイッチをON、移動、そして、OFF。以下、何回かこの繰り返し。退屈なので、途中であの少女のほうへ寄り道して、ぷるぷるの巨乳を揉んでみたりもした。生で触るおっぱいも気持ちいい。乳輪の小さな薄桃色の乳首を舌で舐めて、口で吸い付いてみたりもした。いくら吸い込んでも、乳房を揉みしだいても、母乳が出ることはなかったのが少し寂しかった。それでもまた私のペニスは元気を取り戻してきたので、おっぱいの間に挟んでみることにした。Eカップだろうか、Fカップだろうか。これだけ大きければ、十分に包みこめる。
「ぶっ!」
私はベンチから転げ落ち、地面に横たわっていた。左頬が痛み、口の中から血の臭いがする。あの大男に殴られたようだ。おそらくパイズリ中にでも、ズボンのポケットに入っているスイッチを誤って押してしまったのだろう。己のケアレスミスに腹が立つ。頭に来たので、お遊びはやめにすることにする。私はスイッチをONにした。倒れた私にとどめをさそうとして腕を振り上げた格好で静止する男の目の前に、テニスネットの支柱を山積みにしておく。スイッチOFF。男は金属の筒を素手で殴った。苦痛で顔面を歪めている。スイッチON。見苦しいので、横にしたラケットの縁で男の顔を叩きつける。グリップのほうでは、顔の各パーツを個別に突つく。スイッチOFF。男は自分の顔を両手でおさえて悶絶している。私は再びラケットを振りかざし、執拗に攻撃を重ねた。男にはもはや反撃する余力がないので、スイッチは必要ない。虫のようにうごめく男の手足と胴体を、私は、何度も何度も打ち続けた。
「あ、ありがとうございます……」
少女が乱れた着衣を整えて、潤んだ目で私を見つめている。怯えた表情の中に、精一杯、私への感謝の念を表そうとしている。その真摯な視線からは、彼女の私に対する敬愛の情が、明瞭に感じられた。私としても、自分の存在が他人から好意的に受け止められて、誇らしい気持ちになった。
その一件以来、私たちは知人となり、友人となり、やがて恋人となって、いまでは結婚して三人の子供をもうけ、幸せな家庭を築いている。スイッチを使って商店や銀行から金品を調達しているので、働かずに済み、子供たちと過ごす時間が沢山とれる。育児に積極的に協力する父親は珍しいらしく、妻も近所では鼻が高いようだ。一方、例の強姦魔の男はあの時片目を失明し、警察に被害届けを出したが、証拠がなく相手にされなかったという。最近、逆恨みして復讐しにきたのだけれど、私に撃退され、直後、人里離れた山奥で、誰にも看取られることなくひっそりと、自殺したらしい。これで、家族に危害を加えられる心配がなくなり、一安心というところだ。このことは、私しか知らない。
-------------------------
文芸新都『ちょっとエッチな短編集』http://neetsha.in/3353
クレイのコートで、見知らぬ女性がシングルスプレイを楽しんでいる。暗い茶色の地面に映える、上下揃いのテニスウェアの白。ノースリーブに押さえつけられたふくよかな胸の膨らみが、軽快なフットワークに合わせてふるふると揺れる。ワンテンポ遅れてひるがえるミニスカートの下にのぞいたのは、パステルピンクのアンダースコート。その幾重ものフリルは、着用者のうら若さを示していた。その時、彼女のほうへ萌黄色のボールが緩やかな放物線を描いて飛来。向こうからネットを越えてやって来る球の落下地点を予測して、身体の割に大き目のラケットを振るも、フレームをかすっただけ。鈍い音とともに跳ねたボールが、彼女の目の前に墜落、小さく弾んで転がった。慌てて拾おうとする彼女。地面に向かって左手を伸ばし、ラケットを持つ右腕は上げてバランスを取る。上半身は軽く捻られ、両ひざは伸びたままで、腰から体全体を二つに折り曲げているような体勢になった。この瞬間、私はスイッチを押した。
緑色のフェンスを乗り越え、テニスコートに侵入する。当たり前だが、遮るものがないと見晴らしが良い。私は先刻から観察していた少女のほうへ後方から近づき、それから彼女の前に回り込んでしゃがみ、下からご尊顔を見上げた。肌が綺麗だ。少々頭は弱そうだが、素直そうな、感じの良さそうなお嬢さんだ。高校生くらいの年齢だろうか。十代なのは間違いない。初対面のあいさつとして、彼女のセミロングヘアをかき分けながら、いつものように頬をなでてみると、瑞々しくて張りがある。これが若さの証明か。思わず私は立ち上がり、彼女のバストをぎゅっとつかんだ。かがんだ姿勢の彼女の前側から、肩口を通して両腕を差し入れ、思いっきり鷲づかみにした。ぱさぱさしたポリエステルの生地を通して、スポーツブラのかっちりとした手触りと共に、豊かな肉の、想像以上にカップサイズの大きな巨乳の、ふにふにと自在に変形する感触を、揉み揉みしながら堪能した。
今でもぱっつんぱっつんで苦しそうなのに、これ以上膨らんだら可愛そうだから、一旦やめて、下半身のほうに移動することにした。私は少女の背中に手を置きながら、ぐるりと半周回って彼女の背後に立つ。突き出されたお尻に顔を押し付け、臭いを嗅ぐ。ミニスカートから半分はみ出したアンスコのフリルがくすぐったい。洗剤とお日様と、汗の香りがする。スカートの裾をめくり上げて背面のウエスト部分に挟み込み、ふりふりのアンスコをずり下げて生パンツを拝見。純白。コットン百パーセント。使用済み、いや、使用中。両手を広げて満遍なくヒップを撫で回し、擦り切れそうなほどやわい綿の触感と、はち切れそうなほどぷりっとした尻の素肌を交互に味わった。
もう十分、満足した。あとは挿入して終了しよう。私は自分の作業服を脱ぎ、陰部を露出した。少女の下腹部を包むパンティをひざのあたりまでずらし、肛門の下にある膣の入り口に勃起したペニスをあてがった。私は片手で自身の根元を支え、片手で少女の膣口を広げながら、半ば無理やりねじ込んだ。相手がじっとしているのは楽だが、潤滑液の分泌も止まってしまうのが玉にきず。唾液を投下してなんとか挿入が完了したので、彼女の骨盤付近を持って前後に動かし、性器同士をこすり合わせる。美しき乙女の膣壁と、どす黒い陰茎の側面が、摩擦で熱を帯びる。私は反射的に上体を曲げて彼女に覆いかぶさり、背中から抱き締めた。肌の接触面積をできるだけ広くとるためだったが、それだけでは飽き足らず、私は彼女の豊満な両胸を持ち上げるようにつかんだ。私の中心部の膨張は最高度に達し、互いの粘膜が密着を極める。鋭敏な刺激が間断なく襲い、私の腰は自発的に前後運動、局部は痙攣を続け、一瞬間完全に動きを止めてから、射精した。膣内に放たれる白濁液。激しく脈動していた血管の鼓動が、徐々に周期を減じてゆく。集まっていた血液が、各持ち場へ戻ってゆく。私は、一回のセックスを終えた。少女は、無反応。私の存在など気にも留めず、彼女はただ、下着を脱がされた臀部を衆目に晒しながら、地面に落ちたテニスボールを拾おうとしているだけであった。
私は緑色のフェンスを乗り越え、敷地の外へ出てから、スイッチを押した。再び時間は流れ出す。間もなく、あの少女が転倒した。大抵の子はああなる。一時停止中に、私が乗ったり動かしたりしたせいで、全身の筋肉に疲労が溜まり、自重を支えられなくなるからだ。ネットの向こう側にいる男性が「大丈夫?」と笑いながら近づいて来る。単純にうっかりバランスを崩しただけだとでも思っているのだろう。が、すぐに異変に気付いた。転んだ少女がお尻丸出しだということに。さて、この男は何と言うだろうか。ここが一番の笑いどころなのだ。突然知り合いの女がパンツを脱ぐだなんて、日常生活では滅多に遭遇できない珍事。煮えたぎる性欲を吐き出した後の、一服の清涼剤として、私がいつも楽しみにしている場面である。
「……」
彼は、無言だった。そして再び「大丈夫?」と、今度は静かなトーンで言いながら、周囲を見回した。私は木の陰にさりげなく移動して、コートの中の観察を続けた。男は、倒れ込んだ少女の肩に優しく腕をまわし、彼女の耳元で何か囁く。少女は嫌がっているようなそぶりをしたようだが、力が入らないのだろう、反応が薄い。男は日焼けした筋肉質の腕で彼女を軽々と抱きかかえ、コート脇のベンチに運んで仰向けに寝かせた。そしていきなり、襲い始めた。男が少女の上衣ごとブラをずらすと、ボリューム感のある両の胸がぷるんぷるんと飛び出す。少女は悲鳴を上げて抵抗するが、声も小さければ力も弱く、屈強な男にとっては何の障害にもならない。社会の窓から取り出された男の一物は、露出済みの少女の局部に一直線に突進する。少女は一際大声で泣き喚き、渾身の力を込めて暴れる。
「ゴンッ!」
男はレイプを中断して、自分の後頭部に衝突したテニスラケットを見た。そして後ろを振り返り、瞬間移動してベンチまでやってきた私と目を合わせた。瞬間移動といっても、何も私が魔法を使えるわけではなく、スイッチをONにして時間を止めてからゆっくり歩いて移動し、移動後に何食わぬ顔でまたスイッチをOFFにしただけである。私は落ちたラケットを拾い、大きく振り上げて、反動をつけて男の頭上に一気に振り下ろした。男は状況が飲み込めていないのだろう、防ぐこともせず、もろに衝撃を受けた。男の額に切り傷ができ、暗褐色の血が一筋流れる。
それで目が覚めたのか、男はすっくと立ち上がり、私と対峙した。男は何かぶつぶつ言っているようだが聞き取れない。やおら、男が私に殴りかかってきた。あんな太い腕で殴られたら、脆弱な私はひとたまりもない。しかし、私は全く恐れていない。落ち着いて、ポケットの中のスイッチをONにした。蝋人形のように固まる男の背後にまわって、スイッチをOFF。男のパンチは空振り。敵を見失い、きょろきょろする男が、しばらくして後ろにいる私に気付き、殴りかかってくると、私はまたスイッチをON、移動、そして、OFF。以下、何回かこの繰り返し。退屈なので、途中であの少女のほうへ寄り道して、ぷるぷるの巨乳を揉んでみたりもした。生で触るおっぱいも気持ちいい。乳輪の小さな薄桃色の乳首を舌で舐めて、口で吸い付いてみたりもした。いくら吸い込んでも、乳房を揉みしだいても、母乳が出ることはなかったのが少し寂しかった。それでもまた私のペニスは元気を取り戻してきたので、おっぱいの間に挟んでみることにした。Eカップだろうか、Fカップだろうか。これだけ大きければ、十分に包みこめる。
「ぶっ!」
私はベンチから転げ落ち、地面に横たわっていた。左頬が痛み、口の中から血の臭いがする。あの大男に殴られたようだ。おそらくパイズリ中にでも、ズボンのポケットに入っているスイッチを誤って押してしまったのだろう。己のケアレスミスに腹が立つ。頭に来たので、お遊びはやめにすることにする。私はスイッチをONにした。倒れた私にとどめをさそうとして腕を振り上げた格好で静止する男の目の前に、テニスネットの支柱を山積みにしておく。スイッチOFF。男は金属の筒を素手で殴った。苦痛で顔面を歪めている。スイッチON。見苦しいので、横にしたラケットの縁で男の顔を叩きつける。グリップのほうでは、顔の各パーツを個別に突つく。スイッチOFF。男は自分の顔を両手でおさえて悶絶している。私は再びラケットを振りかざし、執拗に攻撃を重ねた。男にはもはや反撃する余力がないので、スイッチは必要ない。虫のようにうごめく男の手足と胴体を、私は、何度も何度も打ち続けた。
「あ、ありがとうございます……」
少女が乱れた着衣を整えて、潤んだ目で私を見つめている。怯えた表情の中に、精一杯、私への感謝の念を表そうとしている。その真摯な視線からは、彼女の私に対する敬愛の情が、明瞭に感じられた。私としても、自分の存在が他人から好意的に受け止められて、誇らしい気持ちになった。
その一件以来、私たちは知人となり、友人となり、やがて恋人となって、いまでは結婚して三人の子供をもうけ、幸せな家庭を築いている。スイッチを使って商店や銀行から金品を調達しているので、働かずに済み、子供たちと過ごす時間が沢山とれる。育児に積極的に協力する父親は珍しいらしく、妻も近所では鼻が高いようだ。一方、例の強姦魔の男はあの時片目を失明し、警察に被害届けを出したが、証拠がなく相手にされなかったという。最近、逆恨みして復讐しにきたのだけれど、私に撃退され、直後、人里離れた山奥で、誰にも看取られることなくひっそりと、自殺したらしい。これで、家族に危害を加えられる心配がなくなり、一安心というところだ。このことは、私しか知らない。
-------------------------
文芸新都『ちょっとエッチな短編集』http://neetsha.in/3353
エロ×中二病×シナモン/彼女とのくだらない会話/山田一人
「Is this a pen? これはペンですか?」
「No. This is a cinnamon.いいえ、これはシナモンです」
四時限目、退屈な英語の授業。僕はあまりにレベルの低い内容から、授業を聞かずに窓の外を見ていた。この程度のレベルの英語は小学生のときからできた。くだらない。
グラウンドでは三年生がサッカーをしている。体育の授業だろう。本気になってボールを追いかけまわす彼らは実に滑稽だった。何をそんなに頑張る必要がある。くだらない。
グラウンドを見るのにも飽き、再び教室に視線を戻す。そして目立たないように教室を見回した。一番後ろの窓側。教室内を一望するにはもってこいの座席だ。
真面目に黒板を見てノートをとるやつ、友達とお喋りしているやつ、手紙を回しているやつ、落書きをしているやつ、寝ているやつ。どいつもこいつも僕には低レベルに見えた。こんなやつらが僕と同い年だなんて信じられない。一体どんな人生を送ってきたのだろう。
ふん、と思わず鼻を鳴らしてしまう。こんなやつらと同じ扱いを受けているなんて心外だ。
苛々しながら椅子にふんぞり返っていると、隣の席の女子が僕の方をじろじろと見ていた。長い黒髪に白い肌。柔和な笑みを浮かべている。名前は覚えていない。
顔に何かついてるとでもいうのか。僕は自分の顔に触れて確かめてみる。
「ごめんね、顔に何かついてるとかそういうのじゃないんだ」
女子はクスクスと笑いながら言った。
「何なの?」
思わず不快さをあらわにして返事をしてしまう。僕としたことがスマートじゃない。
「いつも退屈そうにきょろきょろしてるからさ。気になっちゃって」
「そりゃあ退屈だよ。授業のレベルが低すぎるんだ」
「へえ。英語得意なんだ」
「小学生の頃は英会話の塾に行っていたからね」
「英語以外の勉強もできるの?」
「まあね、ちょっと予習復習すれば問題ない」
「すごいね。だから周りの人を見下すような態度でいるんだね」
彼女は笑みを崩さずに言った。
僕は見透かされたような気持ちになり不快さが増す。確かに周りの奴らを見下してはいるものの、それを態度に出さないように努めていたから。
「ああ、見下しているよ」
看破されているのなら仕方がない。事実だし素直に認めることにしよう。
「どいつもこいつも、くだらないやつばかりだ。中学生にもなってガキっぽさが抜けやしない」
「でも、みんな少しずつ色気づいてるよ。恋愛に興味を示す人が多くなったり。これってちょっと大人に近づいてるってことじゃないかな」
「所詮はガキの恋愛だよ。くだらない。お遊び程度の付き合いで長続きなんてしやしない」
「確かに、みんな長続きしないかも。私も二カ月以上続いたことないもの」
意外だった。彼女も異性と付き合ったことがあるとは。少し舌足らずな喋り方や垢ぬけない雰囲気がそう思わせているのかもしれない。
「だろう。恋愛にうつつを抜かしてても背伸びしたガキであることに変わりはないよ」
「君は恋愛に興味はないの?」
「ないね。馬鹿ばっかりの同年代に魅力を感じないし、そもそも恋愛にメリットを感じない」
「ふうん」
彼女は僕を小馬鹿にするように言う。少しカチンと来る。
「何か文句でもあるのか?」
「あら、怒らせちゃった? そんなつもりはなかったんだけど――」
彼女は余裕のある表情で弁解する。だが、その途中で教師の声が飛んできた。
「そこ、私語はやめなさい」
少し話に集中しすぎたようだ。とりあえず謝っておくか。
「すみません」
「ごめんなさい」
彼女も僕に続いて謝った。
「じゃあ、罰としてこの英文を訳して。ちょっと難しいわよ」
教師は黒板に書かれた二つの英文を指さした。ちょっと難しい? 馬鹿にしやがって。
「まるでシナモンに愛撫されているようだ、とユキは言った」
「はい、よくできました」
次は彼女か。僕は余裕だったが彼女はどうだろうか。
「女性が発するフェロモンはシナモンの香りによく似ている、とリーは言った」
「はい。二人とも英語得意なのね。だからといって私語はしないように」
そう言って教師は僕たちから視線を外した。
「君も英語得意なんだな」
「まあ、予習復習はちゃんとしているから。そんなことより」
彼女は再び注意されないように声のトーンを落とした。
「君は恋愛ってどんなことするものだと思ってるの?」
「それは中学生の恋愛ってことでいいのかい?」
「ええ」
「なら簡単だ。中身の無いおしゃべりに時間を無駄にするようなデート。手をつないだりキスをしたりするかもしれないけど、やっぱりくだらないよ」
「それだけ?」
「どういうことだ」
僕は思わず訊き返す。すると彼女はさらに声のトーンを落として話し始めた。
「私は小学校六年生の頃に処女を喪失したわ。相手は近所のお兄さん。今はこの学校の三年生」
衝撃的な告白だった。彼女に恋愛経験あるというだけで意外に思ってしまったのだから、驚くのは当たり前だ。
「でもそのお兄さんとはすぐに別れたわ。ちょうど一カ月くらいだったかな。今までで一番長いお付き合い」
「早熟だ」
という言葉しか出てこなかった。彼女は話を続ける。
「それから中学に上がってすぐに別のクラスの男の子と付き合った。セックスもした。だけど二週間も続かなかったかな」
それからさらに彼女は自分の経験した男の話を続けた。僕はただ黙って聞くことしかできなかった。
「私たち、中学生だけどセックスができるの。子供が作れちゃうの。そういう身体に成長してるの」
「早すぎるよ。あくまで背伸びしてるだけだよ。身体に悪いし、妊娠したらどうするんだ」
「避妊くらいちゃんとしてるよ。少なくとも私は」
「だけど、いくらなんでも……」
「最近の中学生はみんな平気でセックスしてるよ。あの子も、あの子だって」
彼女はクラスにいる一部の女子をひっそりと指さした。見るからに遊んでいそうな雰囲気の女子ばかりだ。経験者の中でただ一人、彼女だけが浮いている。どこからどうみても、そういう風には見えなかった。
「だけど、確かに背伸びしてるって言われたらその通りかもしれない」
「ほら――」
「でもね、私には君も背伸びしてるように見えるよ」
彼女は再び柔和な笑みを浮かべて僕の目を見つめた。僕は目をそらすことができない。彼女の瞳の奥に吸い込まれてしまいそうな、そんな錯覚に陥る。
沈黙。見つめ合ったままどれだけの時間が経ったのか。僅か数秒かもしれないし、数分、数十分見つめ合ったままだったかもしれない。
そんな状況を壊すように授業の終わりを告げるチャイムが鳴った。
「はい。キリがいいので今日はここまで」
他の生徒たちはぞろぞろと立ち上がる。僕たちも視線を外し、そっと立ちあがった。
日直の号令で挨拶をすませ、給食の準備に取り掛かる。そう言えば僕と彼女は隣同士、同じ班だ。給食のとき、気まずくならなければいいけど。
机を並べ替え、みんなでくっつけ合う。彼女の机は僕の正面。
並べ終えると、彼女は僕の方に寄って来た。何事かと思っていると、そっと僕に耳打ちする。
「昼休み、体育館の中の倉庫に来て」
不意の誘い少し戸惑う。そんな僕の表情を見て彼女は笑う。
「背伸びするって、悪い事じゃないと思うよ」
そう言って、彼女は友人の女子と共にどこかへ行った。何度見ても、彼女の笑みはあどけなさの残る少女のものだった。
------------------------------------------------------------------------------------
エロ×中二病×シナモンというお題で書かせていただきました。シナモンの絡め方に頭を抱え、逃げるような使い方になってしまいました。
最近、清楚な見た目だけど処女じゃない女性というのが僕の中のマイブームでして、この作品でも似たような女性を書かせていただきました。
シナモンほどではないにしろ、エロというお題は難しいものですね。
読んでいただきありがとうございました。
暇つぶし(文藝・短編集)
http://neetsha.com/inside/main.php?id=6689
ナイト・ワーカー(ニートノベル)
http://neetsha.com/inside/main.php?id=8504
仮面ライダーW(仮題)(ニートノベル・二次創作)
http://neetsha.com/inside/main.php?id=9212
「Is this a pen? これはペンですか?」
「No. This is a cinnamon.いいえ、これはシナモンです」
四時限目、退屈な英語の授業。僕はあまりにレベルの低い内容から、授業を聞かずに窓の外を見ていた。この程度のレベルの英語は小学生のときからできた。くだらない。
グラウンドでは三年生がサッカーをしている。体育の授業だろう。本気になってボールを追いかけまわす彼らは実に滑稽だった。何をそんなに頑張る必要がある。くだらない。
グラウンドを見るのにも飽き、再び教室に視線を戻す。そして目立たないように教室を見回した。一番後ろの窓側。教室内を一望するにはもってこいの座席だ。
真面目に黒板を見てノートをとるやつ、友達とお喋りしているやつ、手紙を回しているやつ、落書きをしているやつ、寝ているやつ。どいつもこいつも僕には低レベルに見えた。こんなやつらが僕と同い年だなんて信じられない。一体どんな人生を送ってきたのだろう。
ふん、と思わず鼻を鳴らしてしまう。こんなやつらと同じ扱いを受けているなんて心外だ。
苛々しながら椅子にふんぞり返っていると、隣の席の女子が僕の方をじろじろと見ていた。長い黒髪に白い肌。柔和な笑みを浮かべている。名前は覚えていない。
顔に何かついてるとでもいうのか。僕は自分の顔に触れて確かめてみる。
「ごめんね、顔に何かついてるとかそういうのじゃないんだ」
女子はクスクスと笑いながら言った。
「何なの?」
思わず不快さをあらわにして返事をしてしまう。僕としたことがスマートじゃない。
「いつも退屈そうにきょろきょろしてるからさ。気になっちゃって」
「そりゃあ退屈だよ。授業のレベルが低すぎるんだ」
「へえ。英語得意なんだ」
「小学生の頃は英会話の塾に行っていたからね」
「英語以外の勉強もできるの?」
「まあね、ちょっと予習復習すれば問題ない」
「すごいね。だから周りの人を見下すような態度でいるんだね」
彼女は笑みを崩さずに言った。
僕は見透かされたような気持ちになり不快さが増す。確かに周りの奴らを見下してはいるものの、それを態度に出さないように努めていたから。
「ああ、見下しているよ」
看破されているのなら仕方がない。事実だし素直に認めることにしよう。
「どいつもこいつも、くだらないやつばかりだ。中学生にもなってガキっぽさが抜けやしない」
「でも、みんな少しずつ色気づいてるよ。恋愛に興味を示す人が多くなったり。これってちょっと大人に近づいてるってことじゃないかな」
「所詮はガキの恋愛だよ。くだらない。お遊び程度の付き合いで長続きなんてしやしない」
「確かに、みんな長続きしないかも。私も二カ月以上続いたことないもの」
意外だった。彼女も異性と付き合ったことがあるとは。少し舌足らずな喋り方や垢ぬけない雰囲気がそう思わせているのかもしれない。
「だろう。恋愛にうつつを抜かしてても背伸びしたガキであることに変わりはないよ」
「君は恋愛に興味はないの?」
「ないね。馬鹿ばっかりの同年代に魅力を感じないし、そもそも恋愛にメリットを感じない」
「ふうん」
彼女は僕を小馬鹿にするように言う。少しカチンと来る。
「何か文句でもあるのか?」
「あら、怒らせちゃった? そんなつもりはなかったんだけど――」
彼女は余裕のある表情で弁解する。だが、その途中で教師の声が飛んできた。
「そこ、私語はやめなさい」
少し話に集中しすぎたようだ。とりあえず謝っておくか。
「すみません」
「ごめんなさい」
彼女も僕に続いて謝った。
「じゃあ、罰としてこの英文を訳して。ちょっと難しいわよ」
教師は黒板に書かれた二つの英文を指さした。ちょっと難しい? 馬鹿にしやがって。
「まるでシナモンに愛撫されているようだ、とユキは言った」
「はい、よくできました」
次は彼女か。僕は余裕だったが彼女はどうだろうか。
「女性が発するフェロモンはシナモンの香りによく似ている、とリーは言った」
「はい。二人とも英語得意なのね。だからといって私語はしないように」
そう言って教師は僕たちから視線を外した。
「君も英語得意なんだな」
「まあ、予習復習はちゃんとしているから。そんなことより」
彼女は再び注意されないように声のトーンを落とした。
「君は恋愛ってどんなことするものだと思ってるの?」
「それは中学生の恋愛ってことでいいのかい?」
「ええ」
「なら簡単だ。中身の無いおしゃべりに時間を無駄にするようなデート。手をつないだりキスをしたりするかもしれないけど、やっぱりくだらないよ」
「それだけ?」
「どういうことだ」
僕は思わず訊き返す。すると彼女はさらに声のトーンを落として話し始めた。
「私は小学校六年生の頃に処女を喪失したわ。相手は近所のお兄さん。今はこの学校の三年生」
衝撃的な告白だった。彼女に恋愛経験あるというだけで意外に思ってしまったのだから、驚くのは当たり前だ。
「でもそのお兄さんとはすぐに別れたわ。ちょうど一カ月くらいだったかな。今までで一番長いお付き合い」
「早熟だ」
という言葉しか出てこなかった。彼女は話を続ける。
「それから中学に上がってすぐに別のクラスの男の子と付き合った。セックスもした。だけど二週間も続かなかったかな」
それからさらに彼女は自分の経験した男の話を続けた。僕はただ黙って聞くことしかできなかった。
「私たち、中学生だけどセックスができるの。子供が作れちゃうの。そういう身体に成長してるの」
「早すぎるよ。あくまで背伸びしてるだけだよ。身体に悪いし、妊娠したらどうするんだ」
「避妊くらいちゃんとしてるよ。少なくとも私は」
「だけど、いくらなんでも……」
「最近の中学生はみんな平気でセックスしてるよ。あの子も、あの子だって」
彼女はクラスにいる一部の女子をひっそりと指さした。見るからに遊んでいそうな雰囲気の女子ばかりだ。経験者の中でただ一人、彼女だけが浮いている。どこからどうみても、そういう風には見えなかった。
「だけど、確かに背伸びしてるって言われたらその通りかもしれない」
「ほら――」
「でもね、私には君も背伸びしてるように見えるよ」
彼女は再び柔和な笑みを浮かべて僕の目を見つめた。僕は目をそらすことができない。彼女の瞳の奥に吸い込まれてしまいそうな、そんな錯覚に陥る。
沈黙。見つめ合ったままどれだけの時間が経ったのか。僅か数秒かもしれないし、数分、数十分見つめ合ったままだったかもしれない。
そんな状況を壊すように授業の終わりを告げるチャイムが鳴った。
「はい。キリがいいので今日はここまで」
他の生徒たちはぞろぞろと立ち上がる。僕たちも視線を外し、そっと立ちあがった。
日直の号令で挨拶をすませ、給食の準備に取り掛かる。そう言えば僕と彼女は隣同士、同じ班だ。給食のとき、気まずくならなければいいけど。
机を並べ替え、みんなでくっつけ合う。彼女の机は僕の正面。
並べ終えると、彼女は僕の方に寄って来た。何事かと思っていると、そっと僕に耳打ちする。
「昼休み、体育館の中の倉庫に来て」
不意の誘い少し戸惑う。そんな僕の表情を見て彼女は笑う。
「背伸びするって、悪い事じゃないと思うよ」
そう言って、彼女は友人の女子と共にどこかへ行った。何度見ても、彼女の笑みはあどけなさの残る少女のものだった。
------------------------------------------------------------------------------------
エロ×中二病×シナモンというお題で書かせていただきました。シナモンの絡め方に頭を抱え、逃げるような使い方になってしまいました。
最近、清楚な見た目だけど処女じゃない女性というのが僕の中のマイブームでして、この作品でも似たような女性を書かせていただきました。
シナモンほどではないにしろ、エロというお題は難しいものですね。
読んでいただきありがとうございました。
暇つぶし(文藝・短編集)
http://neetsha.com/inside/main.php?id=6689
ナイト・ワーカー(ニートノベル)
http://neetsha.com/inside/main.php?id=8504
仮面ライダーW(仮題)(ニートノベル・二次創作)
http://neetsha.com/inside/main.php?id=9212
第一回目くじ 10/12 締切りました。
くじの種類は、
シナモン 変態 バスケットボール NTR BL ふたなり
GL ファンタジー 格闘 歴史 男女恋愛 エロ 中二病
の13種類でした。
第一回目は私を含んだ14人の参加になりました。
ぬるくやったにしては、中々面白くやれた気がします。
第二回は 10/14~11/14〆
お題を変えました。
チャットに くじ と書きこんでくじを引いてください。
http://neetsha.chatx.whocares.jp/
くじの種類は、
シナモン 変態 バスケットボール NTR BL ふたなり
GL ファンタジー 格闘 歴史 男女恋愛 エロ 中二病
の13種類でした。
第一回目は私を含んだ14人の参加になりました。
ぬるくやったにしては、中々面白くやれた気がします。
第二回は 10/14~11/14〆
お題を変えました。
チャットに くじ と書きこんでくじを引いてください。
http://neetsha.chatx.whocares.jp/