我武者羅なニーシャの攻撃、その一つ一つをジーノは冷静に短剣で捌き、コトダマを打ち消す。
(こんな奴に…)
防がれているのにもかかわらず、ひたすらに攻撃を続けるニーシャにジーノは次第に苛立ち始める。
(こんな只の狂人に…)
「アハハハハハハハァ!」
ニーシャの狂ったような叫び声と共に放たれる大振りな攻撃。それに合わせてジーノはニーシャの懐に入ると、渾身の拳を彼女の顔面に喰らわせた。
(こんなクソ女に俺の家族は…!)
倒れたニーシャの右腕に、地面に刺さっていたバスタードっソードブレイカ―を倒して押しつぶすと、そのままジーノはマウントポジションを取る。
「もっと!もっと私がナニモノか教えて!私に君の全てをぶつけてぇ!!」
ジーノは歯を食いしばって、ガントレットをつけた右手でニーシャの顔面を掴み、持ち上げて地面に叩きつける。
ガンッ ガンッ ガンッ
「げぁ、ぶ」
呻き声を上げるニーシャにジーノは口を歪めて、答えた。
「ああ、ちゃんとぶつけてやる」
憎悪も 殺意も
後悔も 憐れみも
――全て
大きく息を吸う。
感情の奔流がジーノの中でのた打ち回る。
ジーノの中にある全ての感情を持って、一筋の涙を流しながら、彼はワーストワードを放った。
「掻き消えろォ!クソ女ァ!!」
ニーシャに流れ込むジーノの感情、ジーノの思い、ジーノの魂。その全てがニーシャという人間たりえる”何か”を押し流す。
「あ、あ、あぁああああああー!!」
悲痛な叫び。
それは恐怖からか。
それとも、ようやく記憶を失うことから解放されたニーシャが発した歓喜の声か。
しかし、もはや只の動かぬ肉となったそれに聞く術はない。
「チクショウが…」
吐き捨てるように呟くジーノ。
彼の戦いが、一つ終わった。
そして再び神話は語られる
対峙するフラッグと炎のコトダマ使い。ゆっくりと間合いを詰めるフラッグを見て、コトダマ使いは何かを諦めた様な表情を見せると、大きく息を吸った。
それに反応して、再びムーンライトソードを構えるフラッグ。
しかし、この時フラッグがするべき行動は足を止めてコトダマを防ぐことではなかった。間合いを詰め、すばやくコトダマ使いを仕留めるべきだったのだ。
息を吸い終えたコトダマ使いは、一瞬目を閉じて覚悟を決めると、そのままワーストワードを放った。
「何もかも燃え尽きろォ!!」
辺りを埋め尽くす炎、炎、炎。
フラッグはムーンライトソードのおかげで耐えてはいるが、前包囲を焼き尽くすコトダマを消し去るほどの力は、ムーンライトソードには無い。
その炎は無論ジーノにも迫る。
しかし、ニーシャとの戦いでワーストワードを使用したジーノは、コストの支払いで棒立ちのままだった。
迫りくる炎がジーノに到達し、飲み込もうとしたその時、見えない壁のようなものが炎を遮った。
虚ろな目でジーノは眼の前のそれを見る。
人、そこにはたった一人の人間がいた。
ジーノの頭に何故か過るラドルフの影。
ジーノは目を見張った。口を開き言葉を紡ごうとするが、上手く話せない。
手を伸ばす。それ自体に意味はない。
ただ、そうしなければならないような衝動に駆られて、ジーノはゆっくり手を伸ばす。
その手を掴む人影。ジーノの体がビックっと震えた。
「お前はまだ死なせない」
フラッグは激しく輝くムーンライトソードを構えて前へ進む。消しきれない炎がフラッグの頬を焦がす。
目は霞み、激しい吐き気がフラッグを襲った。
それでも一歩、また一歩進むフラッグ。
――何が大切かを分かっているのに――
歯を食いしばる。
脳裏に映る少女の姿。
自分が不甲斐なかったばかりに、命を失った憐れな少女。
――何でそれをしないの?――
「やればいいんだろうが!チクショォおおおお!!」
全力で踏み込んで繰り出されるフラッグの突き。それはコトダマ使いの喉を切り裂き、禍紅石を抉り出す。それでも尚、炎を発する禍紅石をフラッグは踏み砕く。
フラッグはそのまま力なく地面に倒れ、残った力でムーンライトソードを鞘に納めると、そのまま動かなくなった。
炎の嵐は去り、視界が明けた戦場をエネは見つめる。
クレスト・ミラージュの連合もキサラギも被害は甚大で、このまま戦闘を続けられるようには見えない。
ホッと胸をなで下ろそうとしたエネの目に、思いもよらない人物が映った。
その姿は見紛うことはない。数十年前の記憶とはいえ、あの男の姿は脳裏に焼き付いている。圧倒的な強さ、圧倒的な存在感、戦場の全てを支配すると言っても過言ではない最強の傭兵。人々は恐れ、その男をこう呼んだ――
「…闘神、アレス?」
それに反応して、再びムーンライトソードを構えるフラッグ。
しかし、この時フラッグがするべき行動は足を止めてコトダマを防ぐことではなかった。間合いを詰め、すばやくコトダマ使いを仕留めるべきだったのだ。
息を吸い終えたコトダマ使いは、一瞬目を閉じて覚悟を決めると、そのままワーストワードを放った。
「何もかも燃え尽きろォ!!」
辺りを埋め尽くす炎、炎、炎。
フラッグはムーンライトソードのおかげで耐えてはいるが、前包囲を焼き尽くすコトダマを消し去るほどの力は、ムーンライトソードには無い。
その炎は無論ジーノにも迫る。
しかし、ニーシャとの戦いでワーストワードを使用したジーノは、コストの支払いで棒立ちのままだった。
迫りくる炎がジーノに到達し、飲み込もうとしたその時、見えない壁のようなものが炎を遮った。
虚ろな目でジーノは眼の前のそれを見る。
人、そこにはたった一人の人間がいた。
ジーノの頭に何故か過るラドルフの影。
ジーノは目を見張った。口を開き言葉を紡ごうとするが、上手く話せない。
手を伸ばす。それ自体に意味はない。
ただ、そうしなければならないような衝動に駆られて、ジーノはゆっくり手を伸ばす。
その手を掴む人影。ジーノの体がビックっと震えた。
「お前はまだ死なせない」
フラッグは激しく輝くムーンライトソードを構えて前へ進む。消しきれない炎がフラッグの頬を焦がす。
目は霞み、激しい吐き気がフラッグを襲った。
それでも一歩、また一歩進むフラッグ。
――何が大切かを分かっているのに――
歯を食いしばる。
脳裏に映る少女の姿。
自分が不甲斐なかったばかりに、命を失った憐れな少女。
――何でそれをしないの?――
「やればいいんだろうが!チクショォおおおお!!」
全力で踏み込んで繰り出されるフラッグの突き。それはコトダマ使いの喉を切り裂き、禍紅石を抉り出す。それでも尚、炎を発する禍紅石をフラッグは踏み砕く。
フラッグはそのまま力なく地面に倒れ、残った力でムーンライトソードを鞘に納めると、そのまま動かなくなった。
炎の嵐は去り、視界が明けた戦場をエネは見つめる。
クレスト・ミラージュの連合もキサラギも被害は甚大で、このまま戦闘を続けられるようには見えない。
ホッと胸をなで下ろそうとしたエネの目に、思いもよらない人物が映った。
その姿は見紛うことはない。数十年前の記憶とはいえ、あの男の姿は脳裏に焼き付いている。圧倒的な強さ、圧倒的な存在感、戦場の全てを支配すると言っても過言ではない最強の傭兵。人々は恐れ、その男をこう呼んだ――
「…闘神、アレス?」