これから共に行動することになった3人は、早速宿で今の状況を確認し、これからの方針を決めることになった。
「ではリンさん、あんなことがあったばっかりで言いづらいとは思うのですが、コトダマの特性とコストを私たちに教えておいてくれませんか?その方が有事の際、カバーしやすいので…」
少々申し訳なさそうに訊ねるフィーを見て、微妙な表情をしながらリンは答えた。
「大丈夫、それが必要なことであることはちゃんとわかってるから」
ジーノとしては、こんなにあっさり了承するリンの無防備さにやや不安を覚えたが、実際必要なことなので口をはさまなかった。
「あたしのコトダマの特性は、自身が放った攻撃の威力を大幅に上げる、というものなの。攻撃の名前を大きな声で叫べば叫ぶほど威力が上がるわ」
だからこそあの時の投げナイフは、普通に投げただけで男の体を貫通するほどの威力をもちえたのである。
「でもそれならなんで投げナイフみたいな使い捨ての武器じゃなく、剣とかを使わないんですか?」
フィーのもっともな質問に、リンはコトダマの特性についてさらに詳しく説明していった。
「あたしのコトダマは攻撃力を無理やり上げることはできても、武器の強度までは上げられないのよ。だから一回コトダマを付与して使った武器はほとんどが壊れちゃうしね」
ジーノは自分の背負っているバスタードソードブレイカ―を一度指差してから、何やら手話でフィーに伝えた。
「ジーノはなんていったの?」
「それならもっと頑丈で壊れにくい武器を何故使わないのか?だそうです」
リンは少し渋い顔をすると、喉を押さえながら答えた。
「あたしのコトダマのコストは体力だから、ただ使うだけで体力を擦り減らすような頑丈で重い武器は使えないのよ」
特性だけを見れば十分強力なコトダマなのだが、コストがコストだけに使い方を間違えれば自身の命も危うい。リンが傭兵としての仕事をする上で、仲間が必須だった理由に二人は納得した。
「さあ、あたしのことはこんなもんでいいでしょ。次はそっちの番よ。所属不明のコトダマ使いを探すなんて言ってたけど結局今どのくらいまで進んでるの?」
痛いところを突かれてフィーとジーノは眼を泳がせた。リンは凄まじく嫌な予感がしたので問いただしてみると、ほとんど進展無し。一応今まで二人は仕事をしながら、所属不明のコトダマ使いが出没したとされる場所を中心に情報集めをしていたが、結局噂以上の情報は得られていない。半年ほど前にディーと知り合いになってからは国の情報を回してもらえるようにはなったものの、それも決定的なものではなかった。二人も今までのやり方では進展しないことはわかってはいたのだが、他にいい方法を思いつかずにいままで各地を回って情報を集めていたのだ。
「よくもまあそんな状態で、あたしに首突っ込む覚悟があるかどうかなんて聞いてきたわね」
言い返すこともできずに、今日仲間になったばかりのリンに二人は並んで説教されていた。
「とりあえず、その所属不明のコトダマ使い達が、国の隠し部隊なのかそうじゃないのかで、探し方も変わってくるでしょーが」
ジーノは怒られてうなだれていた頭を起こすと、手話でフィーニ何かを伝え始めた。
「それはほぼ間違いなくクレスト皇国とキサラギ共和国以外の所属、だそうです」
今までの調べ方がずさんだった割に、ハッキリと答えるジーノにリンは驚きながらも聞き返した。
「なんでそう断言できるの?」
「もしそのどちらかの国の部隊なら国境近くの村なんか襲わずに、直接首都を襲撃しているはず、だそうです」
そう言われて納得するリンだったが、そう考えると新しい疑問が浮上してきた。
「でもそれならどうやって連中は禍紅石を手に入れたのかしら?コトダマの研究が進んでる3つの大国が、血眼になって集めている強力な禍紅石を周りに気付かれずにいくつも集めるのは不可能じゃない?」
新たな疑問に頭を抱える3人だったが、ふと思いついたことをフィーが口にした。
「とゆーかそもそも禍紅石って何なんですか?」
いきなりの質問に二人はあきれてしまった。
「あのねぇ、禍紅石はコトダマ使いの力の源で…」
「そんなことくらい知ってますよぅ。私が言いたいのは禍紅石そのものが何なのかを知りたいんですよぅ」
二人はハッとする。確かに禍紅石が何なのかを二人は知らない。漠然と魔法のような力が宿った石だという認識しかなかった。コトダマ使いであるリンでさえ、禍紅石に対する認識はその程度である。こうなると先ほどの禍紅石を国に見つからずに集めることは不可能という前提も怪しくなってきた。そもそも禍紅石はどこかで発掘されるものなのか、はたまた人工的に生み出せるものなのか、それすら分かっていない。禍紅石の入手方法が限られるものならば、禍紅石の入手ルートから連中の足取りを掴めるかもしれない。
とはいえコトダマ使いの力の源である禍紅石の入手方法など、国家クラスの機密情報である。あまり大っぴらに調べれば、国家反逆罪なんてこともありうるだろう。ディーに頼んで調べてもらうことももちろんできるだろうが、流石にそこまで巻き込むわけにもいかない。そんな風にジーノが考え込んでいる時に、リンが提案を出した。
「あたしの家に行けば多分昔の資料とか残ってると思うから、調べれば何かわかるかも知れないわ」
「いいんですか?」
「ええ、ここまできたらできる限りの協力はするわ」
リンの提案で彼女の家系がコトダマ使いになった頃の情報を探すことになったわけだが、ジーノは凄まじい不安を抱いていた。提案自体は問題ない。ハッキリ言って今から禍紅石の入手方法を調べる方針としては、これ以上はないだろう。問題はリンだ。まだ仲間になって一日も経っていない状態で、命より重いとされるコトダマ使いの家系の情報を提供しようというのだ。あの傭兵たちにリンが騙された理由が何となくわかってしまったジーノは、これからリンの行動や言動に注意することにした。
これから・・・
そんな流れで、これからの方針が決まるころにはすっかり夜になっていた。
「それじゃあ方針も決まったことだし、あたしらは部屋に戻ることにするわ」
「別に部屋をとってあるんですか?」
フィーの妙な言い様にリンは首をかしげた。
「ちょっと待った。あんたらもしかして…」
「今までは私とジーノさんは同じ部屋で寝てましたし」
その言葉を聞くやいなや、けだものでも見るかのような目つきでジーノはリンに睨まれた。ジェスチャーで今まで何もないことをアピールするジーノを睨みながら、リンはフィーを連れて部屋を出ていった。
リンはもう一つの部屋に入って寝巻きに着替えながら、フィーにさっきから気になっていたことを聞いてみた。
「ねぇ、なんであいつは例の所属不明のコトダマ使いにこだわってるの?」
フィーは言うのを少しためらいはしたものの、どちらにせよ隠すことではないと判断したのかジーノのことについて話し始めた。
ジーノは十数年前に家族を皆殺しにされたこと、その集団の中に白くて長い髪のコトダマ使いがいたこと、今まで散々記録を洗ってもどの国のコトダマ使いにもそんな容姿の者はいなかったことを説明した。
「結局のところ復讐ってわけね」
ベットに寝転がって天井を見上げながらリンはフィーに訊ねた。
「でもそれなら、なんであんたは人質を取られても人質ごと切ろうとするような男と一緒に居るの?」
「それはやっぱり私がジーノさんを愛してるからですよぅ」
くねくねしながら答えるフィーにリンはあきれた。その言葉が本気かどうか、リンにはいまいちわからなかったが、ジーノを異常なまでに信用しているのは何となくわかった。
「ま、まあでも、もしあの時あんたごとあの人質を取った糞野郎を切ってたら、いくらこの街の保安騎士副司令でも庇いきれなかったんじゃない?」
「ああ、それなら問題ないですよぅ。ジーノさんがもし私を殺しても罪にはなりませんから」
リンはその言葉の意味をいまいち理解できずに、フィーを凝視した。
「そういえば言ってませんでしたねー。私はジーノさんが所有権を持っている奴隷なんです。だからジーノさんが私を殺しても法律上は問題ないんですよぅ」
この国の法律では奴隷は資産だ。よって他人の奴隷を殺せば罪に問われるが、あくまで器物破損扱いである。そして奴隷の持ち主が奴隷を解放しようが、犯そうが、殺そうが、それが持ち主の”権利”であるため一切罪に問われない。
「私は昔娼館で下働きをしていたんですが、そこでジーノさんが用心棒の仕事の報酬として私をもらいうけたんですよ」
「ねぇ、それって…」
「ええ、多分ジーノさんは喋れない自分のかわりに交渉のできる人間が欲しかっただけだと思います。でも、それでも嬉しかったんですよ。何人もいる人間の中から、私を選んでくれたあの人に、私は恩を返したいんです」
やや涙ぐむのを隠しながら、リンはフィーの肩に手を置いて話した。
「あんたそんなにちっちゃいのに苦労してんのね」
「いえいえ、私はこれでも17ですよ?」
一瞬動きが止まるリンだったが、フィーの肩をポンポンと叩きながら諭すようにに言った。
「ま、まあ背伸びしたいのはわからなくはないけどねぇ。せいぜい14くらいにしといたら?」
12~3歳にしか見えない少女はベットを叩きながら憤慨した。
「自称とかじゃないですぅ!これでも結婚できる歳なんですよぅ!!」
「はいはい」
さっきまでの暗い空気もなくなり、フィーの怒りが静まったあと二人は眠りに就いた。フィーはリンに背中を向けて何かぶつぶつ言っていたが、リンは初めてできた仲間というものを実感して頬を緩ませていた。
「それじゃあ方針も決まったことだし、あたしらは部屋に戻ることにするわ」
「別に部屋をとってあるんですか?」
フィーの妙な言い様にリンは首をかしげた。
「ちょっと待った。あんたらもしかして…」
「今までは私とジーノさんは同じ部屋で寝てましたし」
その言葉を聞くやいなや、けだものでも見るかのような目つきでジーノはリンに睨まれた。ジェスチャーで今まで何もないことをアピールするジーノを睨みながら、リンはフィーを連れて部屋を出ていった。
リンはもう一つの部屋に入って寝巻きに着替えながら、フィーにさっきから気になっていたことを聞いてみた。
「ねぇ、なんであいつは例の所属不明のコトダマ使いにこだわってるの?」
フィーは言うのを少しためらいはしたものの、どちらにせよ隠すことではないと判断したのかジーノのことについて話し始めた。
ジーノは十数年前に家族を皆殺しにされたこと、その集団の中に白くて長い髪のコトダマ使いがいたこと、今まで散々記録を洗ってもどの国のコトダマ使いにもそんな容姿の者はいなかったことを説明した。
「結局のところ復讐ってわけね」
ベットに寝転がって天井を見上げながらリンはフィーに訊ねた。
「でもそれなら、なんであんたは人質を取られても人質ごと切ろうとするような男と一緒に居るの?」
「それはやっぱり私がジーノさんを愛してるからですよぅ」
くねくねしながら答えるフィーにリンはあきれた。その言葉が本気かどうか、リンにはいまいちわからなかったが、ジーノを異常なまでに信用しているのは何となくわかった。
「ま、まあでも、もしあの時あんたごとあの人質を取った糞野郎を切ってたら、いくらこの街の保安騎士副司令でも庇いきれなかったんじゃない?」
「ああ、それなら問題ないですよぅ。ジーノさんがもし私を殺しても罪にはなりませんから」
リンはその言葉の意味をいまいち理解できずに、フィーを凝視した。
「そういえば言ってませんでしたねー。私はジーノさんが所有権を持っている奴隷なんです。だからジーノさんが私を殺しても法律上は問題ないんですよぅ」
この国の法律では奴隷は資産だ。よって他人の奴隷を殺せば罪に問われるが、あくまで器物破損扱いである。そして奴隷の持ち主が奴隷を解放しようが、犯そうが、殺そうが、それが持ち主の”権利”であるため一切罪に問われない。
「私は昔娼館で下働きをしていたんですが、そこでジーノさんが用心棒の仕事の報酬として私をもらいうけたんですよ」
「ねぇ、それって…」
「ええ、多分ジーノさんは喋れない自分のかわりに交渉のできる人間が欲しかっただけだと思います。でも、それでも嬉しかったんですよ。何人もいる人間の中から、私を選んでくれたあの人に、私は恩を返したいんです」
やや涙ぐむのを隠しながら、リンはフィーの肩に手を置いて話した。
「あんたそんなにちっちゃいのに苦労してんのね」
「いえいえ、私はこれでも17ですよ?」
一瞬動きが止まるリンだったが、フィーの肩をポンポンと叩きながら諭すようにに言った。
「ま、まあ背伸びしたいのはわからなくはないけどねぇ。せいぜい14くらいにしといたら?」
12~3歳にしか見えない少女はベットを叩きながら憤慨した。
「自称とかじゃないですぅ!これでも結婚できる歳なんですよぅ!!」
「はいはい」
さっきまでの暗い空気もなくなり、フィーの怒りが静まったあと二人は眠りに就いた。フィーはリンに背中を向けて何かぶつぶつ言っていたが、リンは初めてできた仲間というものを実感して頬を緩ませていた。