『第七節、失格者は柿本和文様です』
第七節では再び不細工組の生徒が失格した。これにより最悪の事態は避けられたが、ドロップアウトの波は既に教室を飲み込んでいた。
『えー、この節でドロップアウトされた岸村真様のカードは“草薙剛”、室川美幸様のカードは“安田美沙子”でした。今後の参考にして下さい』
常節が失格したことにより、中間組の生徒達がドロップアウトに名乗りを上げる。これまでとは違い、自身の容姿もカードもそれなりに強い者が大勢ドロップアウトを希望した。
誰に怒っているわけでもない、行き場のない憤怒に身を震わせる六田。
この状況では、もういくら口八丁煙に巻こうとしてもドロップアウトは止まらない。ゲーム離脱の意志を固める生徒達を傍目に、指をくわえて眺めているしかない。
(また誓約書を書いて金を回すか? ……つっても、できればそれはもうしたくねえ。そもそも、こいつら全員引きとめるには一体いくら必要なんだ……)
六田に同じ考えの大川と栄和。言葉を交わした訳ではなくとも、三人共手詰まりになっていることを理解している。
「ありゃあ……。情けないね~」
困惑する六田の耳元で、五日市が小さな声で囁いた。六田の耳の内側に触れそうなくらいに伸ばした舌が、生温かい空気を穴の中へと運んでゆく。
「ど~にもまだヤリ足りないしさぁ。良い考えがあんのさあ」
六田の反応を待たずに、ふっと息を吹きかけると五日市は後ろを振り返った。
「みんなも分かってると思うけど~。このゲームは、誰がどのカードを持っているのかってのが大事だよねえ」
突如始まった五日市の“演説”に黙って聴き入る生徒達。
「そこでー。自分の持ってるカードを教えてくれた人には、お礼にエッチなことしてあげちゃいまーす」
「!!」
カードの情報を、自らの体で買おうという五日市。
(こいつ……)
表情を歪ませる六田。バカげた提案だと一瞬笑い飛ばしたが、周囲の反応を見てひきつる面。……もちろん、美系組の男子がこんな提案に耳を貸すはずはなかったが、中間組以下の男子達が明らかに鼻の下をのばし頬を緩ませている。
「はーい、とりあえず早い者勝ちで。誰かいなーい?」
右手を挙げ、挙手を促す五日市。
もちろんすぐに動きは無かったが、嫌な静寂の中で誰かが「こんな機会、もう無いかもな」と呟くと、堰を切ったように男子が五日市を取り囲んだ。
「ワーオ、さすがは高校生だぁ」
思春期の性欲を鼻で笑いながら、五日市は一人の男の腕を掴んだ。
「それじゃ、今回は泉田くんの相手してあげよっかな~」
がっしりと泉田の腕を組むと、面会の受付けを済ませて教室の扉に手をかけた。何故泉田が? 泉田だけが? という不満のような疑問が小さく飛び交う。
「残念だけど~、面会は一節に一人までって言われてるじゃん。ヤリたい人はドロップアウトしないで待っててねぇ」
(! あのクソアマ……!!)
六田が五日市の意図を理解する。
これによって五日市はカードの情報を集めると同時に、男子生徒のドロップアウトを防ぐこともできるのだ。しかも、相手に中間組ではなく泉田という不細工を選んだことにも意味がある。ゲームが進めば進むほど、生き残っている不細工は強いカードを持っている可能性が高いからだ。
(だからっつって、あのクソヤリマン女……。どこまでブチ切れてやがる)
この時点で、六田も女生徒相手に同じことをやれば五日市に遅れはとらなかった。しかし、六田はそれが出来ない性分……つまり、不細工と体の交わりを持つなど、六田にとっては絶対に耐え難いことなのだった。
「あれ? あれれ? どうしたのさ六田。六田も同じことやらないの??」
そんな六田の葛藤を知ってか知らずか、その男は六田の頬に手を添えた。
中村 彩乃(なかむら あやの)。女のような名前がまったく恥にならないかなりの美系。女っぽい名前で美系である、ということを誇りにしている。
「六田がやらないなら俺がやっちゃおうかなー。俺、“そーゆーの”我慢できる性質だから」
鋭い眼光で睨みつける六田。
「おいおい怒るなよ。カードの情報、ちゃんとお前らにも教えてやるからさあ」
そう語る目は、「信じてくれ」と必死で訴えるわけでもない。薄ら笑いを浮かべながら、六田をあしらうように中村は言った。