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激動開始

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(ヤバイ。ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ。ヤバすぎる)
 三浦 卓也は震えていた。噴き出す汗がニキビを濡らす。卓也は、自分がイケメンでないことを知っていた。それどころか女子から蔑まれている程の不細工だということも。全て客観的に理解していた。
 第一節に限り、ドロップアウトのタイミングは無く即失格者の名前が発表される。つまり、“今”この空間で自分の顔と配られた芸能人の合計レベルが最下位の者は、必ず死ぬ……。
「それでは、今節の失格者の名前を発表致します」
 石井に代わって教室に入ってきたサングラスの男。手に持った紙を見ながら名前を読み上げる。
「今節の失格者は……」
(……終わった)
 卓也は顔を伏せ目を瞑った。死を覚悟した。
「大沢玲子さんです!」
(え……)
 瞬間、教室中の視線が大沢玲子に向けられる。年頃の女性には不憫なその巨漢。丸く肥えた汗だくの顔。
 声にならない驚嘆を漏らす大沢。事態を飲み込んでいるのかいないのか……。
(あ……あのブス。さ、最下位はあいつだったのか……!)
 ホッとした安堵か。まだ恐怖が頬を縛るのか。顔を震わせながら卓也は玲子の顔を見て、そして笑った。
「え? 嘘……え、死……」
 一泊置いてから慌てふためく大沢。そして――。
 鉛の弾丸は大沢の額を貫いて、巨漢は冷えた床に堕ちる。再び響き渡る悲鳴の中で、男は淡々と言葉を発す。
「えー、安心して下さいねー。第二節以降、失格者の処罰は別室にて行いますから。ただ、一人目は皆さんの前でやっておかないと……『もしかしたら、別室に連れていかれるだけで皆生きてるかもしれない』なんて考えられても困りますからね」
 ……そんなことをしなくても、ゲーム前の“見せしめ”で事の深刻性は皆分かってる。もう、冗談交じりの者など一人もいない。
「助かるね~。そうそう、今度からはちゃんと別室でやってくれないと。いちいちこんな感じで騒がれちゃウザったいったらねえ」
「! 六田……!!」
 その男はドカッと足を机に上げ、不敵に笑っている。六田 翔之介(むった しょうのすけ)。
「おい六田!! 大沢がこんな事になったってのにそんな言い方……!!」
 相澤 郁保(あいざわ いくほ)が六田の胸に掴みかかると、六田は両手を挙げて無抵抗の意志を示した。
「あ~? もうそんなこと言ってる場合じゃねえだろ~が。このゲームは本物だ。勝ちゃあ大金が手に入るし負ければ死ぬんだぜ。他人の事なんざ気にしてられねえよ。大沢は……まあ、そんなカッコして生まれてきたのがツイてなかったのさ」
 そう言って、零れる笑みを左手で覆い隠した。
「ちなみに、お前らもさっさとドロップアウトした方が身の為だぜ~。……ハッキリ言って、俺に配られたカードは強いよ」
 顔の前でピラピラとカードをなびかせる六田。そう……何を隠そう、六田は紛れも無いイケメンであった。
「六田……お前……!!」
 相澤の顔がギリギリと怒りに歪む。
「――言っておきますが無論、暴力行為は禁止ですからね」
 組織の男が話に割って入る。
「それではこれより第二節に入ります。まずは面会時間を設けますので、希望なさる方はどうぞ」
 もう学校には相澤達のクラスの生徒と石井、組織の人間しか残っておらず、他の教室は全て開放されている。面会希望の者はきちんと申請した上で、教室を一つ借りられるのだ。面会は一節毎に一人一回まで、また一つの教室に入れるのは二人まで。
 しかし、いきなり始まったゲームの中で面会と言われても戸惑う者がほとんど……。六田など既にゲームを理解している者も、余裕顔で教室に残っている。結局、第二節の面会時間はほとんど有効に使われることなくあっという間に過ぎてしまった。
「あらあら……、勿体ない。皆さん、ちゃんと面会時間は有効に使わないといけませんよ。次節からは是非積極的にご利用下さい」
 生徒達は皆、大した反応も見せずに黙って話を聞くだけだった。
「それでは、ドロップアウト希望の方は挙手をお願いします。ドロップアウトは一節に二名様までですのでご注意下さい」
 途端に手を挙げる者……、ここである異変が起こる。ドロップアウトを望み手を挙げた者、その数……たった三名。
(!!? 三人!!?)
「あん?」
 六田は怪訝そうに眉をしかめた。たしかに、三名という数字は印象として少ない。もっと沢山の希望者が出てもおかしくは無いのだ。
 賞金の魅力ゆえか……はたまた、己の自信過剰がこうさせるのか。進行役の男は、静かに口の端を吊り上げた。
「ええと……、ドロップアウトの希望者は三浦卓也さん、高橋藍さん、千葉秀美さんですね」
(……まあ、当たり前だけど不細工ばっかだな)
 六田はまた手の中で笑みを零した。
 高橋は漫画家志望の文化系女子、千葉も社交的な人間ではない。三人揃って、たしかになるほど納得と言わざるを得ない顔が並んだ。
(まともな顔した奴がドロップアウトしてもおかしくはないんだが……様子見てるのか、それとも少しでも賞金が欲しいって魂胆なのかねえ)
「お……お願い!! ドロップアウトは私に譲って!!?」
 いきなり千葉が声を荒げた。
「わ、私……自分でも可愛くないなんて分かってるし! それに私、カードがめちゃくちゃ弱いの!! ここでドロップアウトできなきゃ確実に死んじゃう!!」
 千葉は涙ながらに訴える。その形相は真剣そのものであり、生き残るために必死であることが伺える。
「そ、それは俺もだ! 顔も良くないしカードも本当に弱いんだよ!! 頼む高橋、出来ればこの節はドロップアウトを譲ってくれ!!!」
 卓也は額に頭をつけて懇願する。それに続いて千葉も頭を下げる。
「え……そ、そんな……! 私も……」
「どうなさいますか? 高橋様。決め方は自由です。高橋様が譲るとおっしゃるならば千葉様と三浦様がドロップアウトできますが」
 高橋は困ったように言葉を詰まらせた。
「お願い……! 高橋ちゃんは私達よりは可愛いじゃない!! カードだって私のカードよりは強いハズよ!?」
「そうだ、高橋……! 俺たちはここでドロップアウトできなきゃやべえんだよ! 頼む……!!」
 何度も床に頭をつける千葉と卓也。
(おいおい、どうでも良いがそんな事やってるとよ……)
 六田はその様子を楽しそうに眺めている。
「……分かりました、今回はドロップアウトを譲ります……!」
「高橋ちゃん!!」
 涙ながらに高橋の手を握る千葉と卓也。それを見て、笑いながら首を左右に振る六田。
「えー……それでは、千葉様と三浦様はここでドロップアウトの手続きをとります。ここまでの賞金獲得額は1円でございます。おめでとうございます」
 もちろん、そんな賞金のことなどどうでも良い。とにかく生きて終われる事に胸を撫で下ろす千葉と三浦。
「そして、今節の失格者ですが……」
 教室の外から紙を手渡される進行役。
「高橋 藍様です」
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